川村雅則「官製ワーキングプア問題と、労働組合・労働研究に求められること──北海道の経験から」

2021年12月16日、静岡県労働研究所(所長:中澤秀一・静岡県立短期大学部准教授)が主催するオンライン研究会で報告をしました。本稿は、ウェブサイトでの配信を念頭において、当日に使ったパワーポイント資料を報告原稿に組み込み、なおかつ、当日の報告内容に大幅な加筆修正をしてまとめたものです。タイトルも加筆しました。どうぞお読みください。なお、誤字脱字や内容上の誤りなどをみつけましたらその都度訂正をしていきます。大きな訂正を行いましたら注記します。(2022年3月5日記)/静岡とのご縁ができたこと、そして、報告の機会をいただいたことに感謝致します。

 

PDF版のダウンロードはこちらから(所報第42号・2022年6月発行)。 

 

静岡県労働研究所ウェブサイト

 

目次

Ⅰ.自己紹介、研究紹介など

 

自己紹介

みなさん初めまして、よろしくお願いします。静岡には、このような労働研究所があるのですね。羨ましく思いながらウェブサイトを拝見しました。

本日は、ざっくばらんに、研究と実践の交流をしたくお邪魔しました。話題提供ぐらいの受け止めでお願いしたいと思います。

本日は、官製ワーキングプア問題の実態を報告しながら、労働組合や労働研究に求められることを考えていきます。労働組合だけでなく「労働研究」に求められることにもふれます。

調査・研究は何も研究者だけの専売特許ではありません。労働組合ができる調査・研究あるいは労働組合にしかできない調査・研究もあろうかと思います。

サブタイトルは、「北海道の経験から」です。もっとも、北海道は広大ですから、実際には私がフィールドとしている札幌での仕事が中心となります。

 

私の「仕事場」のご紹介

本日の報告に関わる私の「仕事場」には、例えば、NPO法人建設政策研究所や、公益社団北海道地方自治研究所に設けていただいた非正規公務労働問題研究会があります。

そこでの仕事はさらに、札幌市で公契約条例の制定を目指す民間団体、その名もずばり、「札幌市公契約条例の制定を求める会。以下、求める会(代表:伊藤誠一・弁護士)」に持ち込んでおります。2012年に、当時の札幌市長が、公契約条例の制定を市議会に提案するのを民間の立場で応援しようと発足させた団体です。条例案は翌13年に市議会で否決されていますが、活動は継続しておりまして、かれこれ10年になります。

 

札幌市公契約条例の制定を求める会の構成

反貧困ネット北海道/特定非営利活動法人建設政策研究所/日本労働弁護団北海道ブロック/非正規労働者の権利実現全国会議・札幌集会実行委員会/連合北海道札幌地区連合会/全建総連北海道建設労働組合連合会/全建総連札幌建設労働組合/札幌地区労働組合総連合

 

団体の構成を見ていただければ分かるとおり、地域レベルでの連合と全労連の共同が実現しているほか、労働弁護団や研究者で構成されています。後でご紹介しますが、この団体では、色々な調査・研究活動を行ったり学習会や集会を開催してきました。代表の伊藤弁護士がまとめた下記の論文のほか、「なくそう!官製ワーキングプア北海道集会の記録」をご参照ください。

 

 

なお、この北海道集会は、東京から始まり、その後、大阪でも開催されるに至った「なくそう!官製ワーキングプア集会」を北海道でも始めたものです。2016年から始めて2019年の3回まで開催しました。2020年はコロナで中断を余儀なくされましたが、オンラインの連続学習会など新たなスタイルで学習は継続しています。

もし静岡でも、こうした集会が開催できたら、そして、全国各都道府県に広げられたら、なくそう!官製ワーキングプアの機運をさらに広められるのではないでしょうか。この取り組みについては、NPO法人官製ワーキングプア研究会(東京)のほか、NPO法人働き方ASU-NET(大阪)などをご覧ください。

 

調査・研究活動に取り組む際の基本的な姿勢

報告に入る前に、労働問題の調査・研究や広く社会運動に取り組む際の基本的な姿勢のようなものを述べておきます。本日の報告全体を貫いている考えだと思ってください。私自身は研究者ですから、調査・研究活動の大事さを強調しています。

第一に、具体的に調べること、何が問題かを明らかにすることがとても重要だと思います。

きちんと調べることなくして良い政策や良い運動はできないと思う。政策立案や運動展開のベースに調べるということが位置づけられるべきではないでしょうか。

第二に、何はともあれ取り組むことがやはり大事ではないでしょうか。

もちろん無計画はよくないですけれども、とはいえ、私たちの公約条例の制定運動もそうですが、取り組みの紆余曲折の中で、運動や視野が広がるという面もあると思います。議論ばかりで終わっていないだろうか、と自戒を込めて提起したいと思います。

三つ目は、可視化、見える化することです。

今、一体何が問題になっているのか、我々は一体何に取り組んでいるか、を見えるようにしていくことが大事だと思います。インターネットでヒットしないことは存在しない、というのはやや誇張した表現ながらも、そういう時代であることの自覚は必要です。よい仕事をしていたらそれでよい、知られなくたって構わない、というある種の孤高の精神は、御法度です。

最後に、つながることです。

調べること・取り組むこと・可視化することといった活動自身が、それぞれの意義と目的を持ちながら、つながるという問題意識をもって進めることで、より大きな効果を生むのではないでしょうか。調査など諸活動に取り組むことで当事者や関係者とつながり、そのことで現状をさらに深く知ることができる。知った情報を発信することでさらに多くの方々とつながっていける──そのような相乗効果の実現を目指して仕事に取り組んでいます。

では報告に入っていきます。

なお、第一に、本日の報告の骨子は、『住民と自治』という雑誌に先日書いた原稿(「公務非正規運動の前進のための労働者調査活動」『住民と自治』通巻第704号(2021年12月号))に重なります。ご参照ください。

第二に、本日の講演で使う調査・研究データは、北海道労働情報ナビというウェブサイトにも掲載をしています。こちらは、地元の労働組合関係者と始めた情報発信・交流活動で静岡県労働研究所所長の中澤秀一さんにも、最低賃金の論文をご投稿いただいております。ぜひ当サイトを訪問していただければ幸いです。

 

 

 

Ⅱ.非正規公務員問題

 

公共サービス従事者はどこにいるのか──提供主体からみた分類

本日の話のテーマは、官製ワーキングプア問題です。最初に非正規公務員問題を取り上げて、次に公共民間労働問題を取り上げます。それぞれの問題群において、調査・研究で具体的に何ができるかを意識しながらお話をします。

 

図表2-1 公共サービスの提供主体から見た分類

注1:網掛けは、公契約条例が対象とする分野。
注2:業務委託と指定管理者の違いは、管理業務の取り扱いの差異。業務委託では管理業務は委託できず(指定管理者制度が入る前は、公共的団体に限って契約で委託することはできた)、あくまでも委託請負の関係。したがって、担当部署に所属する職員が委託会社の社員に、業務の指示をすると、偽装請負=職業安定法違反。
注3:指定管理者には管理業務も委ねることができる。いうなれば指定管理者は自治体と同じ身分で、「公の施設」を管理運営する。したがって、一定の行政処分(=公の施設の利用許可等を行えるため、自治体と指定管理者の関係は、契約ではなく、行政処分により決定される。
出所:上林陽治「非正規公務員問題-研究と運動の到達点と課題」『北海道自治研究』第548号(2014年9月号)より。

 

図表2-1は、公益財団法人地方自治総合研究所の研究員である上林陽治さんがまとめられた「公共サービスの提供主体から見た分類」です。ご承知のように、上林さんは、非正規公務員問題の第一人者であり、『非正規公務員』という書籍が日本評論社から3冊出されており、いずれも必読です。

さて、公共サービスの担い手は誰なのかと言ったときに、直営の部分の担い手は分かりやすい。もっとも、そのうち非正規公務員の存在はまだまだ知られていません。「公務員にも非正規の人がいるんですか?」という声を授業で学生から聞くと、強くそう思います。もっともっと情報発信をしていく必要があります。この直営に加えて、指定管理者、民間委託、建設工事、物品調達──公共サービスの担い手がこのように分類されています。

加えて、最近私が関心を持っているのは、自治体から補助金が入る事業です。具体的には例えば、完全な民間(民設民営)の学童保育です。今回のコロナ禍でも、彼ら学童保育の指導員たちは、公共サービスの担い手として、放課後の子どもたちの成長や生活を支えていました。

公契約条例というと、「公契約」の領域、なおかつ、建設労組が運動を牽引しているという事情もあって、建設工事だけに目が向きがちです。あるいは、民間委託や指定管理で止まってしまいがちだけれども、視野を広げて、物品調達や補助金事業で働いている人たちも、公共サービスの担い手として位置づける必要があると考えます。後で申します通り、公共サービス基本法の条例版が必要だと言えるかもしれません。公契約運動の中でそのように考えるに至りました。詳しくは、後ほどふれます。

では非正規公務員問題から取り上げていきましょう。内容に入る前にまずは、非正規公務員の規模についてみていきます。

 

正規公務員削減と非正規公務員増

非正規公務員が拡大してきた背景には、正規の公務員が減らされてきた、あるいは、公共という部門がリストラされてきた歴史があります。ある原稿で次のように整理しました。

 

もともと日本は、世間に流布されているイメージとは異なり、人口当たりの公務員数は非常に少ない国です(内閣官房調べ)。

にもかかわらず、国からの地方行政改革で「自治体職員の定員の適正化」が繰り返し求められてきました。

総務省「地方公共団体定員管理調査」によれば、正職員数は一九九四年の約三二八・二万人をピークに五五万人が減少し、二〇一八年には約二七三・七万人となっています。

二〇〇四年一二月二四日に閣議決定された「今後の行政改革の方針」をふまえて小泉内閣期に発出された「地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針(二〇〇五年三月二九日)」を起点とする二〇〇五~二〇一〇年の集中改革プランでは、じつに約二三万人もの職員が減っています。

〔略〕

ところで自治体の仕事は公務員だけでおこなわれているわけではありません。建設工事(公共工事)や委託業務、公の施設の管理運営(指定管理者)など、民間事業者・労働者が不可欠です。行政改革の推進は、自治体業務のアウトソーシングを促し、かつ、過度な価格競争入札を通じて、この公共民間部門での働く貧困層をつくりだすことにもなりました。

行政サービスのコスト削減は、働く者の賃金・労働条件の切り下げを不可避としますが、「最少の経費で最大の効果」をうたう地方自治法がそのことを等閑視する結果となりました。

官製市場の民間開放を企図する動きや、NPM(New Public Managemnt)理論に基づく行政経営手法が改革(行政改革、官製市場改革)に拍車をかけました。

出所:川村雅則「地方自治体における官製ワーキングプア問題と、労働組合に期待される取り組み」『POSSE』第44号(2020年3月号)より。

 

このことに関連して二枚の図表をつけておきます。

一枚目は、正規公務員が減らされ非正規公務員が拡大してきたことを示すもの、もう一枚は、日本の公務員数の少なさを、「人口千人当たりの公的部門における職員数の国際比較(未定稿)」で示したものです。

図表2-2 地方公共団体における正職員数及び非正規職員数の推移

注1:各年4月1日現在。
注2:非正規職員は、臨時・非常勤職員。任用期間が6か月以上、かつ1週間当たりの勤務時間が19時間25分(常勤職員の半分)以上の職員が対象(色の薄い棒)。2020年度調査では短期間・短時間勤務者も別枠でカウントされている(色の濃い棒)。

出所:総務省「2020年地方公共団体定員管理調査結果の概要」及び各年度の「地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査」より作成(川村雅則「地方自治体における公共サービスの提供に従事する非正規労働者のおかれた現状」『生活経済政策』第296号(2021年9月号)からの転載)。

 

図表2-3 人口千人当たりの公的部門における職員数の国際比較(未定稿)

出所:内閣府サイトより。

 

なお、前田健太郎(2014)『市民を雇わない国家──日本が公務員の少ない国へと至った道』東京大学出版会では、日本が公務員が少ない国であるという事実と、その背景がつぶさにまとめられています。ご参照ください。

 

地元の非正規公務員の任用状況を明らかにする──総務省による調査データの活用

 

全国の状況に加えて地元の非正規公務員の任用状況を明らかにする作業が必要です。その際に、新たな非正規公務員制度である会計年度任用職員制度(以下、新制度とも言う)導入にあたり総務省が行った下記の調査データを有効に活用すべきです。

総務省「会計年度任用職員制度等に関する調査結果(施行状況の概要等)」(2020年12月21日発表)

 

この調査では、総務省が各自治体等に対して、どの位の人数の会計年度任用職員を採用しているのか、とか、任用(採用)はどうしているのか/どうする予定か、とか、賃金はいくらか、とかが尋ねられ、その結果が集約されています。これを使えば、地元の非正規公務員の任用状況が分かります。

総務省ではこれまでにも何度かこうした調査を行っておりまして、その都度私は、この調査データを開示請求して、北海道及び道内市町村のデータ(以下、北海道データ)を入手し、その集計を行い、原稿をまとめてきました。

なお、政令市である札幌市以外の178市町村のデータは北海道で集約されていますので、開示請求先は北海道です。他県でも同じだと思われます。

川村雅則「道内の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員の任用実態──総務省2020年調査の集計結果に基づき」『北海道自治研究』第626号(2021年3月号)

 

図表2-4 北海道内各自治体における非正規職員数と正職員数

単位:人、%

非正規職員 正職員 非正規職員割合
2012年 2016年 2020年 2012年 2016年 2020年 2012年 2016年 2020年
数値A 数値B 数値A 数値B
自治体群 25,579 28,552 29,536 46,503 138,033 136,004 135,674 15.6 17.4 17.9 25.5
北海道 1,560 1,595 1,782 6,316 73,956 71,900 63,051 2.1 2.2 2.7 9.1
札幌市 2,153 2,332 3,260 4,361 14,273 14,425 22,631 13.1 13.9 12.6 16.2
市群 12,207 14,091 12,913 18,622 29,376 29,363 29,506 29.4 32.4 30.4 38.7
町村群 9,659 10,534 11,581 17,204 20,428 20,316 20,486 32.1 34.1 36.1 45.6

注:非正規職員は、任用期間が6か月以上又は6か月以上となることが明らかであり、かつ1週間当たりの勤務時間が 19 時間 25 分以上の職員。但し、図表1の注釈に記載のとおり、2020年調査では、短期間、短時間勤務者の人数も調べられている。数値(B)がそれである。

出所:総務省による非正規職員調査(2012年、2016年、2020年)と、総務省「地方公共団体定員管理調査」より作成(川村雅則「道内の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員の任用実態──総務省2020年調査の集計結果に基づき」『北海道自治研究』第626号(2021年3月号)より転載)。

 

図表2-5 自治体ごとの非正規公務員割合

単位:人、%

非正規職員割合(数値A) 非正規職員割合(数値B)
180 100.0 180 100.0
10%未満 3 1.7 1 0.6
10%台 9 5.0 4 2.2
20%台 41 22.8 16 8.9
30%台 84 46.7 44 24.4
40%台 33 18.3 71 39.4
50%台 9 5.0 35 19.4
60%以上 1 0.6 9 5.0
平均値(%) 34.0 42.6
標準偏差(%) 9.6 10.8

注:数値A、Bは図表2-4に同じ。
出所:図表2-4に同じ。

 

図表2-4では、非正規公務員はどの位の人数、割合で存在するのか。北海道・札幌市・市群・町村群で分けて集計をしています。

当然のことながら、それぞれの自治体ごとにデータは把握されているわけですから、自治体ごとにデータを提示することもできます。県内の自治体ごとの非正規公務員の人数や任用状況について比較作業も行えるわけです。

短期間・短時間勤務者も含めると、各自治体の非正規公務員の割合は40%台が多い(図表2-5の数値B)。50%を超える自治体が、およそ4分の1の割合です。短期間・短時間勤務者を除いたとしても平均で34%、3人に1人は非正規公務員という自治体が多いことになります(同、数値A)。

さて、それでは非正規公務員問題の内容に入っていきましょう。

 

非正規雇用の何が問題か

非正規公務員の話に入る前に、非正規雇用の何が問題か、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現するための当面の課題を整理してみました。

第一に、雇用の不安定さです。仕事に期限はないのになぜ有期で雇うのか、有期雇用の濫用問題です。

第二に、賃金問題です。ただ低いだけではなく、経験年数が考慮されなかったり、正規雇用者と同じ仕事をしているのに低いなど、決定基準をめぐる問題があります。低く不公正な賃金と整理します。

第三は、「排除」と整理しました。非正規雇用者は権利行使や労働条件決定、あるいは、職場の情報やメンバーシップ性など様々な場面や物事から排除されていると思います。残念ながら、労働組合からも加入資格が与えられず、労働組合の代表性や職場の民主主義が問われているケースは少なくないと思います。

以上の3点に非正規雇用の問題をさしあたり整理してみました。

どんな政策や運動が必要かという逆の観点からみれば、第一の点では、雇用の安定化。とくにこれは、労働契約第18条を根拠とした無期雇用転換運動です。第二の点では、全国一律制の最賃1500円運動と、パートタイム・有期雇用労働法を活かした均等待遇運動。そして第三は、まずは、ずばり労働組合に組織することです。

 

新たな非正規公務員制度(会計年度任用職員制度)の概略

では、これらを、2020年度から新たに導入された会計年度任用職員制度にあてはめた場合にはどうなるでしょうか。

その前に、一連の法改定(地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律)に対する、総務省の建前上の趣旨を先にみておきます。

 

地方公務員の臨時・非常勤職員は、総数が平成28年4月現在で約64万人と増加しており、また、教育、子育て等様々な分野で活用されていることから、現状において地方行政の重要な担い手となっています。このような中、臨時・非常勤職員の適正な任用・勤務条件を確保することが求められており、今般の改正を行うものです。

地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)の内容は、一般職の会計年度任用職員制度を創設し、任用、服務規律等の整備を図るとともに、特別職非常勤職員及び臨時的任用職員の任用要件の厳格化を行い、会計年度任用職員制度への必要な移行を図るものです。併せて、会計年度任用職員については、期末手当の支給を可能とするものです。

〔略〕

従来は、制度が不明確であり、各地方公共団体によって任用・勤務条件等に関する取扱いが区々でありましたが、今般の改正によって統一的な取扱いを定め、今後の制度的な基盤を構築することにより、各地方公共団体における臨時・非常勤職員制度の適切な運用を確保しようとするものです。

出所:総務省「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)」2018年10月より。

 

これほどまでに拡大した行政サービスの重要な担い手である非正規公務員の任用の適正化が求められているのだ、うんぬん。そして、話題になりました期末手当の支給を可能にするのだ、うんぬん、といったことが述べられています。

しかし、新制度の実際はどうだったでしょうか。

第一に、雇用安定にむしろ逆行する制度になりました。民間分野で不十分ながら進む雇用安定政策、労働契約法第18条に基づく無期雇用転換制度と比べるとその問題性が理解されます。

第二に、これまた民間分野で不十分ながら進みつつある均等待遇制度に比べても問題が大きい。民間では、2012年の労働契約法改定により不合理な労働条件が禁止された。あるいは、その改定労働契約法20条とパートタイム労働法とが統合されたパートタイム・有期雇用労働法が2020年度から施行されている。基本給や退職金では不当な判決が最高裁で出されているものの、諸手当の支給などでは一定の成果が得られています。日本的な職務評価を許すものであったり、有為人材確保論が幅をきかせているなど、制度にも運用にも問題はあります。しかしながら、会計年度任用職員制度では、勤務時間数がフルタイム勤務より1分でも短ければ異なる処遇体系に位置づけられることが法で認められるなど、民間分野ではみられない制度上の壁が設けられました。

しかも第三に、これは新制度導入以前からのことですが、労働条件の決定過程への参画ということを考えたときに、そもそも非正規公務員の場合には、労働基本権が制約されているという問題があります。民間ならば活用できる労働委員会など救済機関もない。酷い状況に置かれながら、問題解決を図るための手を縛られています。

私はそもそも、民間の労働問題からスタートしていますので、非正規公務員の調査・研究活動を始めた際に、非正規公務員の世界というのは本当に踏んだり蹴ったりなのだなと、ある種の新鮮な驚きを感じました。

では第一と第二の制度問題を、民間分野と比較しながら、もう少し詳しくみていきましょう。まず第一の点からで、今回の制度設計は、雇用安定に逆行するものと言わざるを得ない。

 

雇用安定に逆行する制度設計

図表2-6 民間非正規と公務非正規の雇用(任用)制度設計の違い

注:公務におけるaの墨塗箇所は、条件付採用期間(試用期間)。bの点線は勤務実績に基づく能力実証が認められた箇所。cの実線は、公募制による能力実証が必要とされる箇所。
出所:筆者作成。(川村雅則「労働界における官民共闘で、雇用安定と賃金底上げ・不合理な格差是正の実現を」『労働総研クォータリー』第116号(2020年春号)より転載。上段の「2013年施行」は「2013年度施行」に訂正)

 

図表の上段にまとめたとおり、民間では、ご存知のように、通算で5年を有期雇用で働いたら、本人が申し出れば、無期雇用に転換することができます。これはそもそも有期雇用の濫用、すなわち、本来、仕事に期限がないのに繰り返し有期で雇い続けているということ自体がおかしかったわけで、2012年の労働契約法の改定によって、第18条に無期雇用転換制度が新設されました。

 

(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)

第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。〔略〕

 

入り口での規制がないことや、出口規制とはいえ、5年も待たなければいけないことなど、課題は多いですけれども、こうした制度が新設されたこと自体が前進ではあります。

けれども会計年度任用職員制度のほうは、図表の下段に描いたとおり、雇用更新という概念ではなく、再度の任用・新たな職に就くと整理され、毎回、条件付き採用期間、民間でいう試用期間が設けられています。無期雇用転換制度は、ありません。永遠に有期のままです。

しかも総務省の助言によれば、任用にあたっては客観的な能力実証が必要とされる、勤務実績に基づく能力実証で再度任用してよいのは、国の場合、原則2回までである、つまり、3年経ったら公募制を導入している、といったことが助言されています。要するに、3年ごとに公募制を導入しなさい、と助言しているわけです。マニュアルから該当部分を抜き出します。

 

会計年度任用職員はその任期を1会計年度内としています(新地方公務員法第22条の2第1項及び第2項)ので、会計年度任用の職は1会計年度ごとにその職の必要性が吟味される「新たに設置された職」と位置付けられるべきものです。

会計年度任用の職に就いていた者が、任期の終了後、再度、同一の職務内容の職に任用されることはあり得るものですが、「同じ職の任期が延長された」あるいは「同一の職に再度任用された」という意味ではなく、あくまで新たな職に改めて任用されたものと整理されるべきものであり、当該職員に対してもその旨説明が必要です。

会計年度任用職員の採用に当たっては、任期ごとに客観的な能力実証を行うことが必要である。

その際、選考においては公募を行うことが法律上必須ではないが、できる限り広く募集を行うことが望ましい。例えば、国の期間業務職員については、平等取扱いの原則及び成績主義を踏まえ、公募によらず従前の勤務実績に基づく能力の実証により再度の任用を行うことができるのは原則2回までとしている。その際の能力実証の方法については、面接及び従前の勤務実績に基づき適切に行う必要があるとされている。

会計年度任用職員を含む全ての一般職の職員について条件付採用を適用することとした上で、会計年度任用職員の条件付採用期間について、常勤職員が6月のところ、1月とする特例を設けています(新地方公務員法第22条の2第7項)。

なお、再度の任用の場合においても、新たな職に改めて任用されるものと整理すべきものであることから、条件付採用期間を省略することはできません。

出所:いずれも総務省「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)」2018年10月より。

 

これは、民間に比べて本当にひどい。

ところが、雇用更新とは異なる「再度の任用」という概念や、毎年の「条件付き採用期間」のもつ問題性が報道関係者にもなかなかうまく伝わらずに、民間と同様の不安定雇用と理解されて記事が書かれることがあります。そうではない、民間の非正規とは違い、制度的にも逆行しているのだ、とこの問題性を正確に知らせていかなければならないと思います。

ちなみに、総務省2020調査に基づく北海道データによれば、北海道では、180自治体のうち、「毎回公募を行い再度任用する」と回答したのが半分の90自治体に及びます。つまり半数の自治体では、3年に1度は公募という総務省の助言を上回る制度が設計されたことになります。

 

同一部3年ルールという札幌市の特異なルール

さらに、それぞれの自治体の独自ルールもあるようで、例えば私の住む札幌市を例にあげます。行政機構は、局とか部に分かれていますが、札幌市では、同一の部での再度の任用は、原則として3年が限度となっており、3年を超えて働きたいのであれば、別の部に応募をしなければなりません。あるいは、同じ部で働きたいなら1年の空白をおかなければなりません。内規では次のように定められています。

 

(再度の任用)

第6条 部長は、会計年度任用職員の任用期間の満了後、引き続き当該会計年度任用職員を任用する必要があり、かつ、当該会計年度任用職員の勤務成績が良好な場合は、再度の任用をすることができる。

2 前項に基づく同一部での再度の任用は、当初任用日から三年に達する日の属する年度の末日を限度とする。ただし、人材の確保が困難であるとして設置要綱に特別の定めがある職についてはこの限りではない。

3 前項の規定により任用の限度に達した者は、その後一年間同一部で任用できないものとする。

出所:札幌市「札幌市会計年度任用職員の任用に関する要綱」より。

 

当事者の雇用や生活の保障という観点からはもちろんですが、仕事の継続性、行政サービスの質保証という点からも問題ではないでしょうか。

ジェネラリスト型に該当する正規の公務員は、数年おきに異動があります。それに対してジョブ型である非正規公務員には基本的に異動はありません。ずっと同じ仕事に従事します。ですから本来は、非正規公務員には、ジョブ型的に、一つの仕事に従事することを前提とした働き方や処遇を整備していけばよいと思うのですが、札幌市ではそれを認めなかったとなります。

ただし、要綱にも書いているとおり、「人材の確保が困難であるとして設置要綱に特別の定めがある職についてはこの限りではない。」と例外も設けています。今、例外にあたる職(職種)がどういうものかの照会をしているところです。

〔その後、入手したデータを以下に整理しました。ご参照ください。

川村雅則「札幌市会計年度任用職員制度における「同一部3年ルール」の例外について」 〕

 

住民の暮らしを守るエッセンシャルワーカーとしての非正規公務員がこのような雇われ方をしているという事実を広く知らせていくことが課題です。

なお、報道によれば、新制度下で会計年度任用職員の雇い止めが頻発しているようです。背景には、こうした制度上の問題があるのではないでしょうか。

新制度は2020年度に始まりました。もし総務省の助言通りに運用しようとする自治体が多数ならば、2022年度末に公募制が実施され、雇い止めなどのトラブルが起きる可能性が高い。2022年度末から逆算して取り組みを強めていきましょう。

 

民間で進まぬ無期転換制度

ところで、話は横道にそれますが、雇用安定の制度、すなわち無期転換制度が民間ではできたけれども、実際の転換は進んでいないのではないか。私が働く大学業界では、5年雇い止めが当たり前になっている印象を受けています。卑近な例ですが、北海道内の国立大学法人の非正規労働者の就業規則をインターネット上で調べてみました。いずれも、原則として5年で終了となっています。

 

(労働契約の期間及び更新)

第6条労働契約の期間は,原則として1年以内とする。ただし,一定期間内に完了することが予定されているプロジェクト研究等の業務に従事する場合にあっては,業務内容を勘案のうえ,5年以内の範囲で各人ごとに労働契約の期間を定めるものとする。

2大学は,労働契約の更新を求めることがある。ただし,労働契約の期間は,大学が特に必要と認める場合を除き,当初の採用日から起算して5年を超えることはしない。

出所:国立大学法人北海道大学契約職員就業規則

 

上は、雇い止め騒動で以前に私が関わった北海道大学(以下、北大)の事例です。

北大は私の母校で、私を研究者として育ててくれた場所です。北大では、SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))を掲げた教育、研究プログラムが実践されているようです(北海道大学×SDGs)。ところがその北大で、非正規職員は5年で機械的な雇い止めがされている。「SDGsウォッシュ」の典型例と指摘せざるを得ないのではないでしょうか。自分を育ててくれた母校をこうして批判しなければならないのが本当に残念です。

今、東北大や理化学研究所の労働組合の皆さんが、使用者によるこの無期転換逃れとたたかっています。

 

非正規公務員の雇用安定の取り組みと合わせて、制度は実現したが脱法が広がる民間非正規における雇用安定も追求していかなければならないのではないでしょうか。民間の非正規労働者がこのような状況にありながら、非正規公務員の雇用(任用)安定だけが進むとは思えません。雇用安定化の実現に向けた官民労組の共闘です。

まず民間から言えば、契約の更新上限条項が盛り込まれて5年で終了となっている雇用契約・就業規則を可視化するということです。そして、そのような雇用契約・就業規則を撤廃させた後には、無期雇用転換を申し出ることのできる期間の短縮化や、合理的な理由のない有期雇用の規制という「入口規制」に歩を進めることが必要です。

次に、会計年度任用職員については、公募制が行われるまでの期間の延長です。3年ごとの公募実施の延長、いや、先ほど述べたとおり、1年で公募を実施する自治体も増えてきているようですから、場合によってはそれよりも短く設定されている公募の期間を延長し、さらには公募制の廃止を迫りましょう。そして公募制の廃止が実現しても、会計年度ごとの任用制度はなくなるわけではありませんから、その廃止、あるいは、民間と同じような無期転換制度の導入を迫ることが必要です。

もっとも、今の日本の現状を考えると、そもそも、有期雇用の濫用がこれだけ広がっている事実を、もっと知らせていかなければなりません。

 

民間の均等待遇の考えからかけ離れた賃金制度

雇用から賃金制度に話を移します。

図表2-7 総務省「会計年度任用職員に対する給付の考え方」

出所:総務省「会計年度任用職制度について」より。

 

先ほど申し上げたとおり、会計年度任用職員制度では、フルタイムかパートタイムかによって、異なる処遇体系が適用されます。そのフルタイムとパートタイムの違いとは、フルタイム勤務より勤務時間数が1分でも短ければパートタイムに位置づけられます。民間非正規では、1分でも違えば異なる処遇体系に位置付けてよいなどとはなっていませんから、その点も非正規公務員制度は民間以下だと思うわけです。

今回、期末手当に関しては、払ってもよいということになりました。払ってもよいですから、払わなければならないというわけではありませんし、また、期末手当の支払いの分だけ基本給が削減されたなどの事態が報じられています。

その他の手当支給についても、民間では、手当の性格などに基づきながら一つ一つ支給の必要性(不支給の不合理性)が検証されているのに対して、会計年度任用職員には、そのような発想自体がありません。

均等待遇の話を先にしましたが、次に、水準も問題です。

 

資料 時給・最賃と、月収・年収

  • 最賃889円、月15.5万円、年185.4万円(北海道2021改定)
  • 1000円では、月17.4万円、年208.6万円
  • 1250円では、月21.7万円、年260.7万円
  • 1500円では、月26.7万円、年312.9万円
  • ※365日÷7日×40時間÷12か月=月173.8時間、年2085.7時間
  • ※税・社会保険料など考慮せず

 

最賃1500円運動を念頭において、時給と年収の関係を整理しました。勤務時間数は、祝日を考慮しない厳しい計算式によります。この時間数だと、時給1500円でようやく年収300万円です。

さて、会計年度任用職員の時給や年収はいくらか。総務省2020調査に基づく北海道データで整理したのがこちらの図表です。事務補助職員を中心に一部事務組合が含まれている点に留意してください。

 

図表2-8 職種別にみた、会計年度任用職員の1時間当たり換算額

単位:件、%

事務補助職員 看護師 保健師 保育所保育士 給食調理員 清掃作業員 教員・講師(義務教育) 教員・講師(義務教育以外) 図書館職員 消費生活相談員 放課後児童支援員
215 100.0 125 100.0 100 100.0 132 100.0 141 100.0 101 100.0 149 100.0 41 100.0 124 100.0 29 100.0 102 100.0
899円以下 60 27.9 1 0.8 3 2.3 21 14.9 26 25.7 2 1.3 28 22.6 8 7.8
900円台 82 38.1 1 0.8 24 18.2 52 36.9 42 41.6 11 7.4 2 4.9 42 33.9 4 13.8 25 24.5
1000円台 27 12.6 4 3.2 2 2.0 40 30.3 30 21.3 17 16.8 11 7.4 2 4.9 18 14.5 4 13.8 30 29.4
1000~1299円 38 17.7 33 26.4 24 24.0 50 37.9 32 22.7 8 7.9 29 19.5 18 43.9 25 20.2 10 34.5 28 27.5
1300円以上 8 3.7 86 68.8 74 74.0 15 11.4 6 4.3 8 7.9 96 64.4 19 46.3 11 8.9 11 37.9 11 10.8
(再掲)1000円未満   66.0 1.6   0.0 20.5   51.8   67.3   8.7 4.9   56.5   13.8 32.4
平均値(円) 997 1,537 1,471 1,112 1,029 1,007 1,575 1,436 1,045 1,338 1,092
中央値(円) 940 1,391 1,368 1,088 993 938 1,429 1,286 972 1,228 1,055
標準偏差(円) 135 837 332 140 137 188 480 455 235 497 162
最小値(円) 835 868 1,019 791 840 862 835 939 835 951 849
最大値(円) 1,835 10,000 2,758 1,529 1,585 1,948 2,884 2,884 2,982 3,600 1,723

出所:川村雅則「道内の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員の任用実態──総務省2020年調査の集計結果に基づき」『北海道自治研究』第626号(2021年3月号)より転載。

 

例えば、事務補助職員の1時間あたりの給料で言うと平均で1,000円を割っています。自治体等の3割は、事務補助職員を899円以下で雇っていることが示されています。あるいは、人手の不足している保育所の保育士は、時給は平均で1,112円。給食調理員は5割の自治体等で1,000円未満という状況であります。

最賃1500円運動は、全ての人が最賃1500円を実現したその先には、職種別の上乗せが大きな目標だと思いますが、まだまだそのような状況にはなっていません。非正規公務員に最賃1500円運動が待たれています。

 

アンケート調査からみえてくる非正規公務員の雇用不安と低賃金

ここまで総務省2020調査データも使いながら話を進めてきました。示したのは、集計結果のごく一部に過ぎません。全国各地で、このような基礎作業が進むことを願っています。

その上でやはり、非正規公務員当事者へのアプローチを実現する調査(聞き取り、アンケート)が必要です。会計年度任用職員制度が導入された今こそ、それが必要です。残念ながら、私はまだ、聞き取りを数例しか行い得ていません。過去に行ったアンケート調査結果の一部を紹介します。

2012年度から2016年度にかけて、4つの地方都市で、各地の自治体労組(自治労)の皆さんのご協力の下で労働者調査を行いました。ここで紹介するのはアンケート調査結果の一部ですが、聞き取りや資料収集も行っています。

 

図表2-9 現在の職場での雇い止めなどへの不安と働き続ける希望

単位:%

a.雇い止めや再就職に対する不安 b.就業継続希望
 

有効回答

非常に不安がある 不安がある あまり不安はない まったく不安はない  

有効回答

希望する とくに希望しない わからない
旭川市 512人 35.9 43.0 19.3 1.8 509人 66.4 7.1 26.5
釧路市 473人 35.9 39.1 19.2 5.7 477人 60.0 11.1 28.9
帯広市 258人 41.9 37.2 17.8 3.1 258人 65.9 8.1 26.0
北見市 377人 28.9 42.4 24.4 4.2 375人 63.2 7.2 29.6

注1:四捨五入の関係で計100%にはならない箇所もある。
注2:北見市以外は非常勤職員に勤続上限が設けられている。
出所:2013~2016年度にかけて道内4市で筆者が行った非正規公務員アンケート調査結果より(川村雅則「問われる公務職場の〝当たり前〟──非正規公務員の任用をめぐる問題」『まなぶ』第741号(2018年9月号)より転載)。

 

「非常に不安がある」「不安がある」を合わせると8割弱の方々が不安を抱えて働いている状況でした。そして、処遇はよいわけではないけれども、働き続けることを「希望する」という方が多数でした。

私自身は研究者ですから、できることは限られていますが、もし労働組合が調査の主体であれば、調査と組織化を同時に行うような、そういうアプローチが可能だし必要ではないでしょうか。労働組合による調査は、組織化を視野に入れて組み立てられる必要があると思います。

 

図表2-10 年収及び主な収入源が「本人収入」の割合

単位:%

a.年収(調査前年の年収) b.主な収入源
 

有効回答

~100万円未満 ~150万円未満 ~200万円未満 ~250万円未満 250万円以上 (再掲)  

有効回答

「本人収入」
150万円未満 200万円未満
旭川市 354人 32.5 43.3 22.5 1.4 0.3 75.7 98.3 520人 29.4
釧路市 348人 26.1 31.9 27.3 11.8 2.9 58.0 85.3 479人 36.3
帯広市 202人 19.8 24.8 15.3 35.6 4.5 44.6 59.9 259人 34.7
北見市 310人 40.3 28.7 14.2 16.1 0.6 69.0 83.2 376人 23.9

出所:図表2-9に同じ。

 

図表2-10は、収入をまとめたものです。150万円未満とか200万円未満の人の割合が高い。とはいえ、2割強から3人に1人前後は、「本人収入」を主な収入源と回答しています。

ここでは図表2枚だけを示しましたが、回収された調査票には、たくさんの要求や課題が回答されていました。繰り返しになりますが、総務省の助言通りに3年に1度の公募が行われるのであれば、その時期は2022年度末です。逆算して、労働者の声を広く把握し、組織化につなげる調査活動が待たれているのではないでしょうか。

 

 

 

Ⅲ.公共民間労働をめぐる問題

 

次は、公共民間労働をめぐる問題です。民営化や民間委託(以下、民間化)の勢いが収まることはないでしょうから、この分野にも労働条件適正化の網を張っておかなければなければなりません。価格を抑制するための入札制度があいだに挟まることで労働条件の引き下げ圧力が高まるほか、仕事を落札できぬことで雇用断絶の問題が発生するリスクの高い領域だからです。

 

札幌「求める会」と旭川「研究会」での公契約運動の概略

公共民間の領域で働く人たちの労働条件の適正化を目的に、公契約を適正化する条例、すなわち公契約条例の制定を求めて私たちは運動をしています。公契約条例が必要な現状・背景(悪循環)と公契約条例が目指す状況(好循環)をまとめた連合のパンフレットをご覧ください。

 

図表3-1 公契約領域で起きている悪循環と公契約条例の制定で期待される好循環

出所:連合「(パンフレット)公契約条例で地域の活性化」2016年2月発行より。

 

私たちの取り組みの経緯をざっとお話ししますと、当時の札幌市長が札幌市議会に対して公契約条例案を提案するのに呼応して、冒頭で述べた「求める会」を発足させました。残念ながら条例案は議会で翌13年に否決をされましたが、しかしながら、札幌で始めた取り組みを他都市にも広げるべく、2014年からは旭川も拠点として取り組みを始めました。団体名は、旭川ワーキングプア研究会(代表:小林史人・弁護士。2021年からは旭川公契約条例研究会に名称変更)で、札幌での取り組みと同様に、労働組合、弁護士、研究者らで団体は構成されています。2016年12月に旭川市で、理念型と分類される公契約条例が制定されました。

札幌ではまず条例を制定すること、旭川では、理念型条例を賃金保障型の条例にすることが私たちの現時点での目標です。理念型条例を過小に評価する見方もありますが、理念型であっても、条例ができれば、理念の実現を自治体に迫ることができます。全国で制定が目指されるべきではないでしょうか。

なお、第一に、札幌での条例案否決の経緯などは、ナカからの視点で整理されたふじわら広昭氏(札幌市市議会議員)による論文が必読です。第二に、旭川での経験は、私が幾つかをまとめていますのでご参照ください。第三に、公契約条例の第一人者であり、『公契約条例がひらく地域のしごと・くらし』というタイトルで本も書かれている永山利和氏・日本大学元教授の論考もぜひご活用ください。

 

 

 

札幌市における公共調達の規模と、行財政改革

図表3-2 札幌市の公共調達の規模(発注件数及び発注金額、2017年度)

  • 工事の請負 1558件、1023億50百万円
  • 業務委託(建設関連業務を除く) 2498件、499億8百万円
  • 建設関連業務 780件、38億40百万円
  • 物品の購入等 2027件、67億58百万円
  • 札幌市の指定管理者の収入(2017年度) 収入合計267億30百万円、うち指定管理費229億51百万円

注:備考情報は省略。

出所:拙稿「公契約条例に関する調査・研究(Ⅲ)札幌市の取り組み・資料の整理」『北海学園大学経済論集』第67巻第2号(2019年9月号)の図表3-1~図表3-4参照。

 

札幌市における2017年度の公共調達の概算金額です。1900億円にも達しようとするお金が公共調達に使われています。工事の場合は建設資材の金額が大きいことを考慮しなければなりませんが、業務委託や指定管理は人件費が中心です。これだけのお金を使ってよい雇用、よい仕事づくりを進めていこうというのが大きな目標です。

自治体には、自らが任用している非正規公務員や自らが発注している仕事で働く民間労働者の労働条件の適正化することが可能なわけです。その責任を果たさせるためにも、まずは、可能な限りの情報を整理する必要があると思います。ただ、情報がそれなりに整理されている非正規公務員と異なり、公共民間労働の情報はあまり保有されていないと思います。むしろ自治体は、雇用や労働条件の削減を伴う行財政改革をこの分野で進めています。

 

資料 地方自治体で進む行財政改革

出所:スリムな市役所へ──札幌市の行財政改革』20109月発行

 

これは、公契約条例の制定が札幌市議会に提案されるより少し前に札幌市が作成していたパンフレットの一部です。

公契約条例案が提案される一方で、「スリムな市役所へ」を掲げた行財政改革が進められ、右端の真ん中に記載のとおり、指定管理を導入して4年間で66億円を節減できたことが成果として掲げられていました。この矛盾を当時指摘しました。もちろん、この節減の中身には、評価できる内容もあるかもしれないですが、やはり人件費の抑制・削減効果が大きい。

一般的には市民は、「行財政改革を進めます」、「スリムな市役所を目指します」などと言われると弱い。民間で働く労働者が圧倒的に多いわけですから、民間化という手法を採用することにも市民の抵抗はさほどないのではないでしょうか。そういう意味では、民間化で何が起きているかということをしっかり調べて、それを可視化していくことが必要になると思います。

当時、札幌市の指定管理施設(児童会館)で働く労働者を対象に私たちが行った調査結果の一部をご紹介します。

 

A協会の職員数は、無期雇用の常勤職員として、「主任指導員」が152人、「指導員」が385人です。加えて、有期雇用の職員として、「フレックススタッフ(週19時間以下のパートタイム労働者)」304人、「臨時職員」139人、「サポートスタッフ」22人が働いています。

「指導員」の勤務には週33時間勤務とフルタイム(週38時間45分)勤務とがあります。人数的には前者が多いですが、事業拡充にともない後者を増やしているとのことです。

児童会館における一般的な職員配置は、館長職である「主任指導員」が1人、「指導員」が2人のほか、利用者数が増える午後から夜にかけて、「フレックススタッフ」が2人配置されます。館長は1館に1人の配置なので、アキが生じない限り、「指導員」の昇格はありません。

「指導員」の年収は、200万円未満が22.7%で、250万円未満まで範囲を広げると全体の3分の2(68.0%)がそこにおさまります。一方で、家計の主たる支持者・主な収入源を尋ねたところ、「あなた自身の収入」をあげた者は、54.0%と半数を超えます。

暮らしの状況DI(「大変ゆとりがある」「ややゆとりがある」の合計から、「大変苦しい」「やや苦しい」の合計を差し引いた値)では、▲63.8でした。暮らしの厳しさが示されています。

出所:いずれも「指定管理者制度が導入された施設における雇用・労働(2011,12年調査)」より。

 

このときの調査結果は、「市の仕事で貧困、悲痛/指定管理者の低賃金、制度見直しの声も」というタイトルで地元紙で報じられました(『北海道新聞』朝刊2012年9月日付)。

指定管理には公募制と非公募制がありますが、事業者の選定にあたり、価格が重視される点は一緒です。非公募制であるからといって運営が楽なわけではない。

ところで、指定管理者調査の良いところは、公共施設の住所は分かっていますし、施設の多くがアクセスのよい場所にあるので、アプローチがしやすい点です。郵送のアンケート調査でも、訪問による聞き取り調査でも、行いやすい。事業者も施設長さんたちも、自治体から指定管理料を抑制されているという思いもあるので、一般的な企業調査よりも協力を得られるという感触があります。全国には7万件を超える施設があるわけですから、ぜひ各地でも挑戦してみて欲しいと思います。

総務省「公の施設の指定管理者制度の導入状況等に関する調査結果」2019年5月17日

 

 

労働組合等の取り組みにみる公共民間労働問題

さて、非正規公務員と異なり、公共民間の労働問題については全体像の把握が難しく、様々なデータを組み合わせながら理解する必要があります。建設工事(公共工事)は後で取り上げますので、それ以外のデータをご紹介します。

 

ALT、学童保育指導員──求める会主催の連続オンライン学習会の記録

まず新しいデータからご紹介しますと、「求める会」では、オンラインで連続学習会を2021年度には開催しています。第2回から第4回においては、外国語を母国語とする講師であるALT(Assistant Language Teacher)、民設民営の学童保育で働く指導員、指定管理が導入された児童会館で働く指導員の現状などをご報告していただきました。

 

 

三苫文靖さん(札幌地域労組書記長)によるALTの報告を少しご紹介しましょう。

報告によれば、ALTにはJETALTとNON-JETALTがあり、前者は文科省、後者は各自治体の教育委員会が所管です。自治体によっては直営、すなわち非正規公務員というかたちで事業が運営されていますが、札幌市の場合には、民間委託(派遣会社への委託)になっています。

NON-JETALTの賃金は、極めて低く、学校の授業が少なくなる3月および4月は労働日の減によって、月収は6万円~8万円ほどになるとのことです。年収で2百何十万です。しかも札幌市の仕様書により、社会保険に加入できるのは88名中、わずか18名のみとのこと。

国際化を掲げて、日本でも、公立学校でネイティブの先生方を迎えるようになっていますけれども、彼らが非常に低い労働条件で働かされていることを多くの市民は知らないのではないでしょうか。労働組合による貴重な報告ですので、ぜひご覧ください。

 

ごみ収集、庁舎清掃労働者の実態

次は、コロナ禍でエッセンシャルワーカーとして「発見」されたごみ収集の労働者です。当時、ごみ収集車に乗せてもらうという体験もしました。10年ほど前というちょっと古いデータですけれども、労働条件は今も変わらないということを先日、当該労組の方からお話をお聞きしましたので、当時書いた原稿の一部をご紹介します。

 

市ヒアリングによれば、直営は全員が正規雇用だという。それに対して委託分野では、全員を正規雇用で雇うことはできず、常時・直接雇用している非正規雇用(全体の3~5割)のほかに、「人材紹介」を使っているという。委託料水準の問題に加えて、曜日によるごみの量の変動が、その背景にある(以上、事業者ヒアリング)。

〔労働者アンケート調査によれば〕まず非正規の収入の低さに驚く。全体の6割が、毎月の手取りが15万未満で、年収(税込み)が200万未満だ。「他にアルバイトをしなければ生活できない!」との声に納得である。しかも日給月給制ないし時給制なので収入は不安定だ。「運転する日としない日では日給が違い、月の給与が定まらないので生活が不安定。」

一時金や諸手当があるとはいえ、正規雇用でも収入は低いことは強調しておかなければなるまい(全体の3分の2、つまり7%が350万円未満だ)。

しかも、両者ともに、その多くは、自らの収入が主たる収入源なのだ。

「給料が安くて、生活がぎりぎり。預貯金ができない。」「ゴミ屋に対しては見下してる風潮が感じられる。」「これから結婚を考えているのですが、15万そこそこの月給。」「何年たっても昇給もなければ、賞与も、冬季手当もない。」「会社の決まりで、作業員は何年たっても正社員になれない。」「ボランティアではないので、生きていけるくらいの賃金は欲しい。」

出所:拙稿「清掃労働者の実態調査から──民間委託分野における官民格差を直視し、官民が一体となった労働運動を」『月刊労働組合』の第563号(2011年10月号)より。

 

そして、庁舎で働く清掃労働者です。これは、労働組合の方が当事者を組織し、かつ、業界の調査・研究もされてまとめられた論文の一部です。

 

私が皆さんに知ってもらいたい第一は、働いてもうこの3月で12年になりますけれど、ずっと最低賃金です。もちろんボーナスや諸手当はありません。一応、作業責任者という立場です。区役所の担当者は1年で変わりますし、会社自体も入札で1年ごとに変わるため、どちらからも、「これはどうなっているの?これは?」などと聞かれ、その全てに対応せざるを得ません。会社の機材管理なども対応します。

仕事の時間も、8時間のフルタイムで、3時間パートの人とは異なります。ただそういう仕事を任されていますが、手当てなどいっさいいただくことはありません。

有給休暇は、会社によって全然違います。最初に入った会社では、有休なんて無いと言われました。2社目は、あるけれども使わないでいただきたい、と言われました。そんなこんなで5年ぐらいは取れずにいた。けんかにでもなって翌年に更新、採用されなかったら困りますので。

ただこの有給休暇については、たとえ何年勤めていても、4月に会社が変わると、私たちの勤続はゼロからやり直しになりますので、10月までは取得できないのです。

毎日ではありませんが、昼休みでも急ぎの仕事の電話がかかってくればすぐ対応しています。1日中拘束され、いつでも仕事をしなければならないのですから、時給を払ってほしいです。区役所の担当者は、組合に「会社が考えること」といっていますが、責任逃れではないでしょうか。

「仕様書」とは、市の管理委託業務において図面だけでは表現できない、業務の内容やその手順、材料の品質などを文章や数値で示したもの。「図書」(文書)で業務受託者に指示される。この具体的な「要求水準」が、働く人たちの業務内容を規定することになる。なお、企業にとっては常に「請け負け」の要素が働いている。

労働条件は「契約期間」「仕事の体制」「労働時間・休憩」について「仕様書」から見ている。「賃金」については、①最低賃金、②保全業務単価のうちの清掃員賃金、③市のこの間の「入札・契約改革」、④道ビルメン協会の対応からポイントを見ている。

出所:いずれも、佐藤陵一「区役所の清掃業務──建交労組合員の働き方が物語ること」より。

 

調査最低賃金に張り付くような賃金、有給休暇の取得もできない状況などがリアルに当事者によって語られているほか、調査・研究のポイント、着眼点が労働組合によって詳細にまとめられており、貴重なデータです。

以上のように、一口に民間委託と言いますが、以上のように、今あげただけでもALT、ごみ収集、庁舎清掃と様々です。労働組合の皆さんであれば、公契約運動の母体を地域に作って、組織化と調査活動を結びつけた取り組みが実施できるのではないでしょうか。

 

公契約条例か公共サービス基本条例か

公契約運動に携わってきて最近思うのは、公契約領域に限定された条例で十分なのか──といっても、公契約条例が制定されれば、かなりの範囲がカバーされ、直営の非正規公務員にもよい影響が及ぶことは述べておきたいと思います──、それとも、直営の領域から補助金が投入された事業領域までをカバーできる、要するに公共サービスの担い手全体が包括されるような条例が必要ではないのか、という点です。

後者のイメージは、民主党政権のときに作られた公共サービス基本法の条例版です。公契約条例もまだ制定できていないのに背伸びしていると思われるかもしれませんが、公契約条例が、公契約領域だけに限定される条例であるのに対して、本来は、公共サービス従事者全体を網羅できたほうがスジも通るし分かりやすいと思うのです。

 

資料 公共サービス基本法

(目的)第一条 この法律は、公共サービスが国民生活の基盤となるものであることにかんがみ、公共サービスに関し、基本理念を定め、及び国等の責務を明らかにするとともに、公共サービスに関する施策の基本となる事項を定めることにより、公共サービスに関する施策を推進し、もって国民が安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)第二条 この法律において「公共サービス」とは、次に掲げる行為であって、国民が日常生活及び社会生活を円滑に営むために必要な基本的な需要を満たすものをいう。

一 国〔略〕又は地方公共団体〔略〕の事務又は事業であって、特定の者に対して行われる金銭その他の物の給付又は役務の提供

二 前号に掲げるもののほか、国又は地方公共団体が行う規制、監督、助成、広報、公共施設の整備その他の公共の利益の増進に資する行為

(基本理念)第三条 公共サービスの実施並びに公共サービスに関する施策の策定及び実施(以下「公共サービスの実施等」という。)は、次に掲げる事項が公共サービスに関する国民の権利であることが尊重され、国民が健全な生活環境の中で日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるようにすることを基本として、行われなければならない。

〔一~五、略〕

(公共サービスの実施に従事する者の労働環境の整備)第十一条 国及び地方公共団体は、安全かつ良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

 

これは公共サービス基本法の重要部分の抜粋です。

理念型の法律ではありますけれども、この条例版を制定することができたら、非正規公務員など全ての従事者まで含まれるのではないでしょうか。そういう条例がどこかの自治体で制定されていないのかを以前に労働組合関係者に尋ねてみたことがあるのですが、制定はされていないが、どこかの地方議会で提案がされたことがあるはずだ、とのことでした。もし何かご存じの方がおられたら教えていただきたいと思います。

 

民間(民設民営)学童保育

補助金が投入された事業の一つとして、民設民営の学童保育を取り上げます。

コロナで学校が休校になりました。

時間差で登校する期間も途中から出ていましたが、2020年の3月から6月中旬までの約4か月の間、シフト勤務を組んで朝から働いていました。職場(施設)に小学生児童が朝からいるため、お便りの作成や職員会議などは当然出来ませんでした。ノート上で打ち合わせをしたり、子ども達の食後の1時間休憩の間にお便りを書いたり、それでも間に合わないときには自宅に持ち帰って対応していました。

開設時間の前後は消毒作業を徹底しました。通常の清掃、お洗濯なども必要ですから早めに出勤して、遅めに退勤するというのは、どのクラブでも同じだったと思います。トランプ1枚の果てまで消毒をしましたし、今でもしています。子ども達にも、朝、登所の際には検温チェックを行って、服を消毒して、連絡帳を出して手洗いうがいを徹底。座る位置がわかるように長いテーブルにシールを貼って、普段よりも間隔をあけて座ってもらって、宿題をし、お弁当を食べてもらいました。

とくに私が強調したいのは、一つは、管理者が常駐しないということと人手がないことです。

人手不足はコロナ以前からですが、管理者が常駐しないことは、これほどに大変なのかということを凄く実感しました。『共同学童保育』ですから、指導員も共に運営を担うので、指導員が保育中に、保育と並行して色々調整せざるを得ないのです。

コロナ下では、職員体制の維持が非常に大変です。感染・濃厚接触の情報が日々入ってくるため、とにかくもう、いつも職員募集をしている状態のクラブもあります。開設時間中は、放課後児童支援員の有資格者を含めた職員が2名以上いなければ助成金の対象になりませんので、コロナに感染してシフトに穴をあけないように、休みの日も自宅で過ごし、そして、万が一のときには出勤する心づもりが必要です。

出所:いずれも、宇夫佳代子「学童保育指導員の働き方と労働の実態」(2021年5月27日)より。

 

以上は、先にご紹介した、学童指導員の宇夫佳代子さん(建交労組合員)の報告の一部です。

コロナで学校が休校になったけれども、逆に学童保育は朝から開けてくださいということで、子どもたちの受け入れをしてきたわけです。

札幌の場合には、放課後の子どもの受け入れ人数で言えば、指定管理が導入された児童会館が圧倒的に大きい。民間の学童保育と比べると9対1ぐらいの割合にはなります。札幌市の資料に基づき林亜紀子さんがまとめた資料によれば、指定管理者が導入された児童会館児童クラブは市内で107か所で12,525人の児童が登録であるのに対して、民間児童育成会(民設民営の学童保育)では、46か所で1,374人の児童が登録という差があります。

とはいえ、民間学童保育もなくてはならなかった存在であることには間違いありません。

公契約条例が制定された場合、指定管理は条例の対象になりますが、後者は対象にはなりません。しかし公共サービスの担い手という点では、両者は全く同じです。賃金の低さなど、労働条件の改善の必要性も共通しています。

 

自治体誘致事業と自治体の責任

もう一つ取り上げます。コールセンターでのコロナ感染、クラスターの発生という事態をうけて考えたことです。

札幌市は、コールセンターの誘致に力を入れています。そのコールセンターで密状態が発生して、コロナ感染が拡大、クラスターが発生しました。補助金を出してコールセンターを誘致している自治体に、この問題に責任はないと言えるだろうか。公共性の有無を、自治体のお金が投入されているという点で判断すれば、自治体も何らかの対応が必要だと言えるのではないでしょうか。

この件はその後、青年労働者で組織されたさっぽろ青年ユニオンの皆さんが、コールセンターの環境改善を札幌市に要望していました。公契約運動と通底する取り組みではないかと思いました。

 

新型コロナウイルスの感染リスクが高い密閉、密集、密接の「3密」状態で働くコールセンター従業員の職場環境改善を求め、個人加盟の労働組合「さっぽろ青年ユニオン」(札幌)は4日、札幌市に要望書を提出した。市内のコールセンターで4月にクラスター(感染者集団)が発生し、同ユニオンには従業員から感染の不安を訴える声が多く寄せられている。

岩崎唯委員長らが、コールセンターでの感染対策徹底や、新型コロナウイルスの感染が疑われる症状で休んだ社員への休業手当支給を事業者に指導するよう求めた。

同ユニオンによるとコールセンターの従業員から、「自分の職場も3密状態で不安」「ロッカーや休憩室が共用で感染が心配」などの相談が声が寄せられている。

市によると2019年末現在、市内のコールセンターで働く人は約4万3千人。岩崎委員長は「コールセンター誘致は市の政策で進められてきた。市には職場環境の改善も行ってほしい」と訴えた。(袖山香織)

出所:「コールセンターの環境改善訴えさっぽろ青年ユニオンが札幌市に要望書」『北海道新聞』2020/06/04 21:15

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/427592 (リンク切れ)

 

私自身は地方自治の専門家ではありませんので、補助金が投じられた事業における自治体の責任というものがどう整理されるか存じ上げませんが──この分野でときおり問題になるのは補助金支出の不当性でしょうか──深めてみたい論点です。いずれにせよ、実践的に考えると、さしあたり、補助金が投じられた事業までを視野に入れた取り組みが必要なのではないでしょうか。

 

 

 

Ⅳ.問題の解決に向けて

官民に共通する非正規問題への対応

ここまでお話ししてきた事実もふまえながら、Ⅱでも整理した、公務非正規と民間非正規に共通する問題への対応を三つに整理します。

課題の第一は、合理的理由なき有期雇用を無くしていくことです。

労働契約法第18条による無期雇用転換の制度ができている民間がこの点では先行しています。有期雇用が厳格化された会計年度任用職員制度の雇用保障や、公共民間での落札失敗時の雇用継続保障の制度化が必要です。

第二に、低く不公正な賃金問題への対応です。

最賃の底上げは官民共通です。そして、職務評価に基づく均等待遇の実現です。なかなか難しい作業ではありますけれども、研究者らの協力の下、自治労はそのような取り組みをすでに実現されています(遠藤公嗣編著(2013)『同一価値労働同一賃金をめざす職務評価──官製ワーキングプアの解消』旬報社)。

民間化の動きはこれからも弱まることはないでしょう。仕事の中身は変わっていないのに、直営から民間になると事業費が大きく下がる。それを可能にしているのが人件費・賃金の削減です。野放図な民間化を食い止めるためにも、職務評価に基づく賃金決定というこの課題に取り組む必要がある。

なお、非正規公務員は女性が7割、8割であることを考えると、性差別の是正、ジェンダー平等の視点を貫く必要があると思います。ディーセントワーク実現の課題でも掲げられていることです。

第三に、権利行使の実現や労働条件決定への参加保障です。

この点は、制度的な対応もそうですが、労働組合に組織されることが何よりも重要です。

ただ、会計年度任用職員の組織状況を、自治労調査(全日本自治団体労働組合(2021)『2020年度自治体会計年度任用職員の賃金・労働条件制度調査結果(最終報告)』2021年1月発行)の結果でみると、状況はなかなか厳しいようです。すなわち、加盟単組のうち、会計年度任用職員を「組織化の対象としている」のは、39.4%にとどまり、団体区分別にみると、都道府県や県都・政令市では7割台ですが、一般市では52.3%、町村では19.6%にとどまります。また、組織化実績(会計年度任用職員の自治労組合員比率)についても、「0%」の回答単組は72.5%です。都道府県や県都・政令市では3割台ですが、一般市では60.6%、町村では92.1%と高いです。克服が急がれます。

非正規公務員(公務員)では、労働基本権の獲得という大きな課題もあります。

この点に関わって、救済機関である人事委員会、公平委員会の活用を最後にあげます。関係者の方々が研究を始めようと仰っていることで、私自身は不勉強です。非正規公務員を守るのに人事委員会、公平委員会がどう活用できるのか、勉強したいと思います。

〔年が明けた2022年1月28日(金)に、なくそう!官製ワーキングプア大阪集会実行委員会主催で「人事委員会・公平委員会に関する学習会」が開催された。そのレポートを待たれたい。〕

 

自治体(使用者・発注者)を変える

以上の様々な課題を実現するためにも、自治体を変える必要があると思います。

自治体は、国からの公共サービスの産業化圧力の下、行財政改革の進捗を競わされています。自治体をそのような場に変質させてしまうのか、それとも、自治体を、住民はもちろんのこと公共サービス従事者を守る「砦」にしていくのかの岐路にあるのではないでしょうか(国の動きは、内閣府「公共サービスイノベーション・ウェブサイト」などを参照)。

公契約条例の制定運動を例にお話しします。

この運動に取り組んでいて思うのは、究極的には、自治体の基本姿勢を変えることだということです。というのも、直営の公務員(非正規含む)の状態に使用者である自治体が責任をもたなければならぬのと同じように、公共サービスの担い手である民間事業者・労働者の状態に発注者である自治体が責任をもたなくてよいのでしょうか。

例えば、先ほど紹介したALTの問題で、雇用・賃金の問題や教育の質などの項目について、労働組合側が札幌市に対して団体交渉を申し入れ・照会をかけても、「本市は、応じるべき立場には当たらないため、回答はいたしかねます。」との回答に終始してしまっている。

あるいは、公契約条例はおろか内規でさえ策定する予定はないという自治体が多い。労働組合などで構成される「公契約条例を社会に広げることをめざすワーキングチーム」による、道内の全市(35市)を対象にした、入札・契約に関する現状と課題を把握するためのアンケート調査(2018年)結果によれば、公契約の適正化に関するルールの整備に対しては消極的な自治体が多く、「条例制定、内規策定、いずれの予定もない」が最多の21市です。

先にみたとおり、確かに自治体は、国から強い圧力を受けている面はあります。しかし、公契約条例を制定した自治体がそうであるように──野田市の条例前文が象徴的ですが──問題解決のために自らも率先して取り組む姿勢を示して欲しい。残念ながら多くの自治体では、そのような姿勢に欠けているのではないでしょうか。

このことに関わって、NPO法人官製ワーキングプア研究会理事長の白石孝さんがソウル市の取り組みを精力的にご紹介されています。

白石孝編著(2018)『ソウルの市民民主主義』コモンズ

自治体は、非正規公務員にとっては使用者、雇い主でありますし、公共民間労働者に対しては発注者です。使用者としての顔と発注者としての顔を持っている。やろうと思えばできることは多いわけです。ソウル市は様々な取り組み、政策を展開されていて非常に参考になります。ソウル市の取り組みをまとめた上林陽治さんの論文(「市民の人権を守る地方自治体の労働政策-韓国・ソウル市の取り組み」『北海道自治研究』第584号(2017年9月号))も必読です。

 

公契約運動における調査活動

賃金調査と議会要請

自治体の姿勢を変える、といっても、その糸口として私が提起できるのは、繰り返しになりますが、調査・研究活動です。

出所:NPO法人建設政策研究所北海道センター『公契約条例を全道にひろめよう――公契約条例のつくりかた(2017年版)』2017年1月発行より。

 

この写真は、旭川市の公契約条例制定を後押しした我々の調査活動の風景です。公共工事現場で現場監督から話を聞いたり、休み時間などちょっとした休憩時間を使って、賃金調査を行っています。「研究会」のメンバーである建設の労働組合(建交労)のノウハウを発揮していただきました。

このときの調査結果は、拙稿「旭川における公共工事現場調査結果最終報告」『建設政策』第169号(2016年9月号)にコンパクトにまとめており、詳細は省きますが、およそ100人から得られた回答のうち、公共工事設計労務単価との比較ができた事例でみると、どの事例でも賃金は設計労務単価を下回っていました。そして全体でみると、設計労務単価比で7割程度にとどまりました。設計労務単価を使って予定価格を積算するのに、実際の支払いは平均で7割ということです。

それはおかしいのではないか。そのようなことをレポートにまとめて、公契約条例の制定を求めて、議会に要請をしました。

 

出所:NPO法人建設政策研究所北海道センター『公契約条例を全道にひろめよう――公契約条例のつくりかた(2017年版)』2017年1月発行より。

 

この写真は、上段が旭川市議会への要請、下段は札幌市議会への要請です。

ちなみに教科書的には、議会に要望を訴える型として請願と陳情の違いなどが説明されるところですが、当時はあまりそのあたりは気にせずに、まずは、事実を届ける、思いを届ける、ことが大事だと思い、取り組んでいたと記憶しています。

札幌市では、条例案は最終的に否決されましたけれども、当時10万人署名なども実施しました。ただ、いま振り返って思うに、当時は期間が短かったという事情があったものの、もっともっと現場の声を集めなければならなかったなと反省をしているところです。

 

自治体自身による労働者の賃金調査

理念型条例とはいえ、公契約条例が制定された旭川市では、その後、事業者ルートではありますが、市発注の工事現場で働く労働者の賃金調査が開始されました。

 

資料 旭川市による市発注工事での労働者賃金等の実態調査結果

205社、対象労働者数888人の集計。

今回調査した実態賃金の全体水準を計るため、公共工事設計労務単価(国が実施する公共事業労務費調査を基に定めたもの)と比較した。

今回調査した対象労働者全体の加重平均賃金は13,717円/日であり、北海道の公共工事設計労務単価が設定されている職種の内、今回提出のあった27職種の設計労務単価の加重平均額19,109円/日の約7割となっている。

また、27職種中、特殊作業員72%、普通作業員77%、電工92%、運転手(特殊)84%等、10職種で平均賃金が公共工事設計労務単価の7割以上となっている。

出所:旭川市「労働者賃金等の実態調査(工事)について」の「過去の労働者賃金等の実態調査」のうち「令和2年度」の結果を参照。

 

上記のとおり、2年目の実績で言えば、205社から集めた888人のデータが分析されています。また、公共工事設計労務単価と比較すると平均で7割程度しか払われていない状況が明らかにされました。自治体自身の手によってこうしたことが明らかにされる意義は大きいと考えます。

お金も人手もない私たちができる調査活動は限られています。とはいえ、効果的な調査をすることによって、自治体が自らの責任において適切な調査を行うよう迫っていくことができるのではないでしょうか。賃金保障型の条例までの道のりはなお遠いですが、これからも、旭川市にしっかり働きかけていきたいと思います。

なお、公契約条例制定後の旭川市の経験や方針などは、川村雅則「旭川市における公契約条例の経験(1)聞き取り調査等に基づき」『建設政策』第199号(2021年9月号)をご参照ください。

ところで、こうした旭川市に対して札幌市では、公契約条例の制定を掲げておきながら取り組みが遅れていたのではないでしょうか。本来は、条例の制定を掲げた際には、公契約現場の実態把握が済んでいなければ順序がおかしいと指摘されても致し方ないでしょう。

ただその札幌市でも、公契約条例を議会に諮った前後あたりから、限定的ではありますが、労働者の賃金調査が始まっています。

例えば、市の民間委託業務のうち建物清掃業務、建物警備業務、建物設備運転・監視等業務従事者という三つの業務に限定ですけれども、賃金調査が実施されています。あるいは、それよりも前からだと記憶していますが、市の指定管理制度下における職員の雇用や賃金が調べられています。

詳細は、「公契約条例に関する調査・研究(Ⅲ)札幌市の取り組み・資料の整理」『北海学園大学経済論集』第67巻第2号(2019年9月号)をの「5.公契約の現場における実際の支払い賃金」をご覧いただきたいのですが、前者では、人件費の積算時に使われている建築保全業務労務単価に比べると、支払賃金は低いことが明らかになっています。また後者では、働いている職員の3分の2が非正規雇用者であることや、賃金水準が、正規職員でも1500円に満たない(賞与や諸手当を除くいわゆる基本給を基礎に算出)ことなどが示されています。

そして、2020年度からは工事現場での賃金調査も開始されました(札幌市「札幌市工事請負契約に係る労働者賃金実態調査について」)。

こうした動きをさらに後押ししていく必要があります。

 

現場調査の前にできる調査もある

現場調査はとても大事ですけれど、現場調査だけが調査ではない、ことも申し上げておきたい。例えば、賃金については、実際の支払い賃金を現場で調べたいところですが、その前に、予定価格・人件費の積算時に、賃金算出根拠で何が使われているのかを明らかにする、という作業などもできますし、これはとても大事な作業です。

公共工事では、国で作成した公共工事設計労務単価が使われているわけですが、民間委託や指定管理ではどうなっているのか。当該事業で働く労働者の職種ごとに、何かが決定基準として使われているわけで、その何かを明らかにする作業が大事なのです。

私は当初、賃金算出根拠の一覧表のようなものでも自治体には整備されているのかと思っていたのですが、どうも基本は、当該事業を所管している課ごとにそれらの情報をお持ちのようです。

 

図表3-4 各指定管理導入施設における、職種・職位別にみた適用単価及び賃金算出根拠

施設名 職種・職位 適用単価(単位:円) 算出根拠
算出単位 金額
施設A 常勤専任職員(相談支援事業) 年額 3,511,000 2015年度市非常勤職員賃金基準
虐待対応員(相談支援事業) 年額 3,026,000 2015年度市非常勤職員賃金基準
地域支援員(相談支援事業) 年額 3,511,000 2015年度市非常勤職員賃金基準
施設B 保健師・看護師 月額 208,000 2017年度市臨時的任用職員基準(看護師)
2017年度市臨時的任用職員基準(保健師・助産師)
栄養士 月額 176,000 2017年度市臨時的任用職員基準(栄養士)
事務職 月額 151,000 2017年度市臨時的任用職員基準(事務職)
施設C 指導員 年額 3,151,000 2016年度実績を基に処遇改善分(2%増)を計上し、算出
補助員 年額 1,952,000 2017年度市臨時的任用職員基準(保育士)
障がい児対応担当 年額 1,952,000 2017年度市臨時的任用職員基準(保育士)
パート 時給額 875 2017年度市臨時的任用職員基準(事務員)

出所:川村雅則「自治体発注業務における賃金算出根拠を調べる(Ⅶ)」『建設政策』第182号(2018年11月号)より。

 

上の図表は、指定管理が導入された施設で働く労働者の賃金が、どのような算出根拠で、かつ、実際にいくらで積算されていたのかを、情報開示(情報提供)の手続きで得られた情報に基づきまとめたものです。

この図表に示したとおり、調べた範囲では、非正規公務員の賃金が使われているケースが多かった。となると、公共民間労働者に実際に支払われる賃金が低くなるのは、当たり前ではないでしょうか。算出根拠に使われている非正規公務員の賃金が低いのですから。

この点で言えば、非正規公務員の賃金と公共民間労働者の賃金は一蓮托生であると言えます。ですから運動の側も、非正規公務員だけ扱っているのでも、公共民間・公契約条例だけ扱っているのでも、不十分であり、公共サービスの担い手全体を視野に入れた取り組みが必要だと思います。

 

取り組みを始めよう

取り組みを始めましょう。会計年度任用職員制度が始まって2年が経とうとしている今は、官民の非正規問題への取り組みを始める・強化するのにふさわしい時期です。

民間では、労働契約法18条の見直しが厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会」の下で審議されています。見直しを前進させるためにも、無期転換が回避されている事実を明らかにしなければなりません。公務、すなわち会計年度任用職員制度では、繰り返しになりますが、2022年度末に雇用トラブルが頻発するおそれがあります。

均等待遇では、民間では実績が少しずつ蓄積されてきています。その実績に基づき会計年度任用職員制度の問題点を指摘しましょう。

2023年の統一地方選挙で選挙が行われる自治体は、そこから逆算して、会計年度任用職員制度の見直しを迫るなり、公契約条例の制定を迫るなり、公共サービス担い手全体を視野に入れた取り組みを始めるときではないでしょうか。

札幌の「求める会」は、公契約条例が制定されるまで解散ができないルールになっています。運動を始めてかれこれ10年経ってさすがにしんどいとはいえ、自治体を変える大事業に取り組んでいるのだと発憤し、なおかつ、統一地方選挙という明確なゴールを設定して頑張っているところです。

東京や大阪を中心に、なくそう!官製ワーキングプア運動が盛んです。当事者団体である「公務非正規女性全国ネットワーク(通称:はむねっと)」も2021年に立ち上がりました。そして静岡には、皆さんたち静岡県労働研究所があります。地域ごとにそれぞれ運動や研究を展開しながら、全国ネットワークを作っていけたら、などと思います。そのためには、少なくとも県単位で情報発信の基地をもつ必要があるのではないでしょうか。

夢物語に終わらせず、一つ一つの作業を具体的に始めていきましょう。

ご静聴をありがとうございました。

 

 

 

 

(主な参考文献)

川村雅則「地方自治体における官製ワーキングプア問題と、労働組合に期待される取り組み」『POSSE』第44号(2020年3月号)

川村雅則「労働界における官民共闘で、雇用安定と賃金底上げ・不合理な格差是正の実現を──非正規雇用をめぐる2020年の労働組合の課題」『労働総研クォータリー』第116号(2020年5月号)

川村雅則「道内の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員の任用実態──総務省2020年調査の集計結果に基づき」『北海道自治研究』第626号(2021年3月号)

川村雅則「地方自治体における公共サービスの提供に従事する非正規労働者のおかれた現状」『生活経済政策』第296号(2021年9月号)

川村雅則「憲法の示す価値から、自治体で働く非正規公務員のことを考えてみました。」『まなぶ』第781号(2021年10月号)

川村雅則「札幌市の会計年度任用職員制度──札幌市からの聞き取りと資料に基づき」『北海道自治研究』第634号(2021年11月号)

 

 

 

 

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