境君枝「コロナ禍から見えてきた、様々な制度上の問題点(2021年度第4回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」

札幌市公契約条例の制定を求める会(以下、求める会。代表:伊藤誠一弁護士)では、2012年の会発足以来、公契約条例の制定を求める活動を続けている。具体的には、学習会や集会の開催、札幌市との意見交換会、議員候補者への公開質問及び会派要請などである。

2020年のコロナ下にあっても、オンラインを活用して学習交流会を開催してきた。そして今年度(2021年度)においても、オンラインでの連続学習交流会を開催している。本稿は、以下の第4回目の学習会の記録である。

第4回学習会、2021年6月28日(月)18時より、オンラインにて

・境君枝さん(自治労さっぽろ公共サービス労働組合書記長)「コロナ禍から見えてきた、様々な制度上の問題点」

 

この記録は、求める会事務局で作成し、要約した内容は講師にご確認をいただいた。但し、それでも残っているかもしれぬ誤りは、事務局の責任である。

なお、境さんの報告に先立って、児童会館で働く労働者を対象に過去に行った調査結果の要点が報告された。下記の論文を参照されたい。

川村雅則「指定管理者制度が導入された施設における雇用・労働実態(2011,12年調査)」

 

 

 

報告の概要

自治労さっぽろ公共サービス労働組合の境と申します。

今までは6支部で構成されてきた公共サービス労動組合(以下、公サ労)は、会計年度任用職員制度の導入によって、札幌市の非常勤職員が札幌市役所職員組合の一支部に今年度から再編されたため、5支部850名強の組織となりました。

本日は、指定管理者制度が導入された札幌市内の児童会館・ミニ児童会館を取り上げ、コロナ禍から見えてきた指定管理者制度や子ども・子育て支援新制度(放課後児童健全育成事業)の様々な問題点について報告をします。

 

児童会館・ミニ児童会館での行政サービスの拡充

札幌市内の児童会館・ミニ児童会館は2006年4月に導入された「指定管理者制度」のもと、公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会が管理・運営を行っています。

価格優先という競争原理が反映された中で継続して管理者となるため、そして、市民サービスの内容を維持するため、厳しい労働環境を余儀なくされています。また、原則5年と指定期間が限られていることなど、制度そのものの問題点も多くあります。

そのような中で、財団が積み上げてきた「市民サービスのノウハウ」がコスト論に基づく価格優先になっていかないよう、公サ労は、安定した雇用と公正な労働環境の確保を札幌市へ求めています。特に児童会館では、指定管理者制度の仕様に基づきまして、就学前の乳幼児を対象とした「子育てサロン」、それから、学童期の留守家庭児童を対象とした「児童クラブ〔法律上の名称は、放課後児童健全育成事業〕」、中高生を対象とした「中高生の夜間利用」など様々な事業が展開されています。それに加えて、児童クラブの対象学年が小学校6年生まで拡大され、さらに、クラブの時間延長で朝は8:00から夜は19:00までと児童会館の業務はここ数年で大きく変化しています。

 

注:公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会「児童会館」

 

 

一方での人手不足の状態

現在、児童会館の職員定数は、指定管理者制度の仕様上、館長1名・指導員2名の基準となっています。しかし、上で説明した業務の他に、札幌市は放課後子ども総合プランに基づき、児童クラブ員だけではなく、「自由来館」児童の受け入れを行っているために、3名体制に限界が生じています。

また、児童クラブの配置基準──これは児童クラブ員40名に対して2名の指導員を配置する、そのうち1名は補助員で可能とする、という条件を満たすため、臨時職員やパートスタッフを雇用して運営を行っていますが、処遇があまりにも低いため、人員不足は解消されていないのが現状であります。

 

注:厚生労働省「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」

(職員)

第十条 放課後児童健全育成事業者は、放課後児童健全育成事業所ごとに、放課後児童支援員を置かなければならない。

2 放課後児童支援員の数は、支援の単位ごとに二人以上とする。ただし、その一人を除き、補助員(放課後児童支援員が行う支援について放課後児童支援員を補助する者をいう。第五項において同じ。)をもってこれに代えることができる。

 

 

コロナ下での児童クラブ

感染拡大で、全国の小中高校で臨時休校が始まり、札幌市内の小中学校も、2月28日から3月6日までを臨時休校とし、放課後児童クラブも閉館の判断をしました。その後、国からの要請を受けて、札幌市も臨時休校を3月13日まで延長し、放課後児童クラブについては3月7日から全館受け入れを決定しました。

札幌市子ども未来局から保護者に向けに「感染拡大防止の観点から可能な限り在宅での保育をお願いし、やむを得ない場合のみ利用」というような説明が行われ、また国からの要請も踏まえて、受け入れには一定の理解をしました。

ただ、開設にあたっては、児童会館もミニ児童会館も「3密」に該当し、感染リスクが高いことから、特にミニ児童館においては、学校の施設を利用するなどのことを、子ども未来局から学校へ要請を行いました。また、職員の感染等に関する休暇等の取り扱い等についても、組合員の不利益にならないよう、特別休暇等の措置を強く求め、現在は札幌市の職員と同様の取り扱いとなっています。

また臨時休校中は、児童クラブは朝から開館した為、組合員の負担軽減策として、他課からの職員の応援要請を理事者側に対して求めて、4月20日以降は必要な職場へのフォロー体制が敷かれました。

このような経過がありましたが、出口の見えない状況で働く組合員の体力面や精神的ダメージは相当なものだと認識しています。利用のない場合には土曜日は休館にすることや、クラブ員の利用がなくなった場合には延長の19時を待たずに閉館可能とするなど、子ども未来局と協議して、実現してきました。緊急事態宣言からまん延防止措置に変更されましたが、現在〔2021年6月の報告時点〕も、児童クラブの受け入れのみに限定しています。館内でも児童や職員から感染者が出ておりまして、現場では消毒作業や休館対応の保護者への連絡等、日々気の抜けない状況が続いています。

 

コロナ下で浮かび上がった制度上の諸問題

・コロナ下における労働負担増

感染拡大防止のため、学校が長期にわたり臨時休校となり、朝から夜までの児童受け入れが常態化し、しかも、「3密」状態の中で、職員自身や家族が感染するリスクを背負いながら、超勤を伴う長時間労働が行われ、心身共に疲弊している様子が相次いで報告されています。

全国的にも放課後児童クラブでは支援員のなり手がおらず、もともと慢性的な人員不足に悩まされてきました。

子ども・子育て支援新制度による運営基準が示されていますが、その基準がぜい弱であるため、必要とするすべての家庭を受け入れきれておらず、社会の受け皿の機能を十分に果たせていないのではないかと感じています。こうした中で、次の感染拡大の波が押し寄せてきた際に、職員が心身ともに耐えられるのか、また必要な職員数を揃えられずに開設不能な施設がでてくるのではないか、という不安があります。

・従事者へのPCRの検査体制の不十分さ

国の明確な基準がないため、従事者のPCRの検査体制が不十分な状況にあります。特に現在では変異株等が拡大し、感染拡大の改善がなかなか見られない状況にあります。札幌市に対しては、現場で働く者への定期的なPCR検査を行うための予算の確保やワクチンの優先的な接種を求めてきました。この点については、雇用形態の区別なく優先的な接種が行えるという回答を受けています。

・指導員の処遇改善という課題

放課後児童クラブでは、昨今報道されている保育士の処遇よりもさらに劣悪な処遇が問題となっており、安心・安全な保育を提供していくためにも早急に改善していかなければなりません。とりわけ、指導員の高齢化が課題で、2020年に自治労が行った学童保育アンケート調査によれば、年収200万円未満の指導員が全体の60%を占めます。若い人が指導員になりにくい原因です。

学童保育が全国的に注目されている今こそが、国の基準や予算をはじめとした色々なことを改善していくチャンスです。今回、子ども子育て支援新制度でようやく国から基準が示されました。しかし、従事する者の員数の基準以外は「参酌基準」であり、唯一従うべき基準であった職員の部分についても、人が集まらないという理由から、全国知事会や市長会からの要望で、2020年4月の改定で、解釈によっては無資格者が1人でも保育可能となってしまいました。基準の改悪と言わざるを得ません。

・狭隘な施設面積

また、参酌基準となった施設の基準についても、児童一人当たりの専用面積1.65平方メートルというのは、これは保育園の基準をそのまま当て込んだものであり、体格の大きい学童期には当てはまる基準ではありません。

特に札幌市では、定員を設けずに受け入れを行っているため、一人当たりの面積が不足し、体育館にマットをひいて面積に組み込むなど、子どもの観点に立った対応とは思えない状況もあります。またコロナ禍で3密を避けるために、おやつのときには、児童を何班かに分けて、外に行く班、中で活動する班に分けて保育を行ったという報告もありました。

 

注:厚生労働省「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」

(設備の基準)

第九条 放課後児童健全育成事業所には、遊び及び生活の場としての機能並びに静養するための機能を備えた区画(以下この条において「専用区画」という。)を設けるほか、支援の提供に必要な設備及び備品等を備えなければならない。

2 専用区画の面積は、児童一人につきおおむね一・六五平方メートル以上でなければならない。

〔以下、略〕

 

人材確保には支援員の社会的評価と職業的地位の向上が必要です。人件費の積算根拠や施設基準など、学童の基準自体を引き上げて行くことが必要です。質の高いサービスを提供したくても、そこに働く職員が不足していれば、結果サービスの低下に繋がってしまいます。札幌市にも、施設基準や職員定数の改善を今後も求めていきたいと思います。

 

労働負担の増加、事業休講に伴う経営難と指導員の困窮──札幌市内の体育施設(指定管理)で起きたこと

札幌市では、体育館やプールなど体育施設も、指定管理者制度の下で、一般財団法人札幌市スポーツ協会が管理・運営をしています。

緊急事態宣言下では、施設は休館となり、施設利用者への利用料金の返還に加えて、換気や消毒、室内の二酸化濃度の測定など、安全強化の取り組みがより一層と必要となり、業務が少しずつ増えてきています。

また、協会が自主的に行っている「自主事業」においては、施設が休館するたびに受講生や指導者への連絡が必要となり、メール・電話を駆使して連絡をしています。返金が伴う休校の場合には、休校連絡に加えて、振り込みや窓口での現金の返金などの手間がかかり、現場の職員は疲弊しています。

そして、この休講となった事業を再開する場合にも大きな労力を伴います。一度離れた受講者を呼び戻すのは容易ではなく、呼び戻し、新規開拓を同時進行で行う必要があり、自主事業の損失分は単年度に留まるものではないと予測されます。10年来通っている受講者が戻ってこないケースも多々ありまして、将来の収入が失われているような状況にあります。

自主事業の指導者の中には、個人事業主として協会から指導を委託している方も多く、そのため、休講となった際には、補償も無く、国の支援を仰ぐしかない状況です。結果として、あえなく廃業・転職に追い込まれる指導者もおり、自主事業の存続が困難になるケースもあります。

コロナで施設の運営が不安定な状況となり、特に管理施設を活かした講習会などの自主事業については、札幌市の要請により施設が休館となったにも関わらず、補填を受けることが難しい状況となっています。また、感染症による利用者離れが各施設でみられるなど、自主事業でも安定した収入が見込めない状況にあります。

このような状況を受けて、理事者側では、人件費の見直しを模索していますが、組合としては安易な人員削減や給与、手当の削減には断固反対をしています。今年度の削減はかろうじて免れましたけれども、将来的な見直しについては不透明な状況です。

 

自主事業をめぐる問題

指定管理者制度で自主事業が評価対象となっていることに大きな問題があります。

本来、安全、平等な施設管理運営がベースにあって、そこをクリアした上での加点要素と言うのであれば理解ができるのですが、実際には、自主事業が評価項目とされています。つまり「やらなければいけない自主事業」という矛盾した状態になっているのです。

自主事業のために人員・物資を確保する必要があるその一方で、休業になると、「自主事業はあくまで団体の自主性によるもの」とされて、補償の対象外となっています。評価の対象になっているにも関わらず、補償する責任は負わないという、札幌市のダブルスタンダードとも言える状況に疑問を感じています。

その上に現状では、単年度での自主事業で稼ぎが大きいと、指定管理費が減額されることに繋がる、という悩ましい問題もあります。

安心・平等な施設運営を効率的に行い、それによって生まれた時間を有効に活用する自主事業によって、市民に豊かなスポーツ活動を提供する──これが指定管理者制度の本来の姿ではないでしょうか。加点評価のみとし、もしも提案書の評価項目とするのであれば、自主事業扱いではなく事業の実施そのものを指定管理の募集要項に盛り込むべきではないか、と考えております。

 

まとめ

制度上の様々な問題がコロナ下でみえてきました。

まず児童クラブについては、保育の質の改善と拡充に必要な予算措置や、国が定める基準の検証と改善が必要です。加えて、指定管理者制度については指定期間の延長や、低価格入札による公共サービスの劣化とそこに従事する労働者の賃金労働条件の悪化を解消することが課題です。さらに、コロナの影響による財政悪化を理由にした指定管理費の削減を札幌市にさせない取り組みも必要となります。

公サ労では札幌市に対して、良好な公共サービスの確立に向けた要求書を、年に一度提出しています。

今年度も7月1日に提出し、公契約条例の制定はもとより、公共サービス基本法の理念を踏まえたルールの確立を求めました。また指定管理者制度については、期間の延長や実績を考慮した自動更新規定等の特例措置を設けることなどが必要だと考えています。

 

資料 公サ労による札幌市への要求(2021年7月1日)

 

2021良好な公共サービスの確立に向けた要求書

 

日頃から、札幌市の公共サービスに従事する労働者の賃金・労働条件の改善にご尽力されている貴職に敬意を表します。

私たちは、公共サービスの充実を通して市民生活の向上をはかる立場から、これらに携わる者の労働条件や生活の確保が大変重要であると考えています。

日常的に市民の誰もが受けることができる行政サービスは、その多くを公契約(指定管理者制度を含む)で受託した、札幌市の外郭団体等により提供されており、札幌市の関連予算の確保や積算・入札・契約の方法が「サービスの質」を左右することになります。

ついては、公共サービス基本法の理念の実現に向け、「公正・公平なサービスの提供」と、同法第11条に定められる、公共サービスに従事する者の「雇用の安定」「同一価値労働・同一賃金」「安全・安心な職場の確保」「生活の安定」を求め、下記のとおり統一要求と各支部・部会の独自課題について要求いたしますので、誠意ある回答をお願いいたします。

 

1.公共サービスに従事する者の適正な労働環境整備、労働条件確保について

⑴ 公正労働基準の遵守を義務付ける「札幌市公契約条例」の早期成立に向け努力すること。また、条例の成否に関わらず公共サービス基本法の理念を踏まえたルールを確立し、労働環境の改善をはかること。

⑵ 指定管理者制度について、廃止を関係機関へ働きかけること。また、廃止とならない場合は、次のとおりとすること。

ア 原則として、指定管理者施設を新たに設置しないこと。また新たに指定管理者施設とする場合には非公募とすること。

イ すでに指定管理施設とされている施設について改めて制度の趣旨を踏まえ、指定管理者制度適用の適否について検証すること。

ウ 事業の安定や公共サービスの維持向上のため、施設の特性に応じて、非公募や長期間の指定も可能とし、10年以上を標準とすること。また、これまでの指定管理者の事業実績を考慮し、自動更新規定等の特例措置を設けること。

エ 指定管理者制度を単なる経費削減の手段としないこと。 また、人件費については市職員給料表を基本に定めるとともに、経験・資格要素を反映すること。さらに、人件費上昇分や資材等の加算、各種増税による運営費用の負担増については、契約期間中に関わらず指定管理料を増加すること。

オ 事業者の選定から協定締結に向けては、「運用ガイドライン」の趣旨に基づき、サービス提供に必要とする人員配置及び従事する者の適正な労働環境と労働条件を厳格に求め、適正な管理運営を確保すること。

カ 指定管理者の変更に伴う職員の雇用については、雇用継続が行われるよう十分配慮すること。

⑶ 労務提供型の契約において、事業費の積算・事業者選定・入札契約のあり方について次のことに留意すること。

ア 積算について

① 労務等に係る経費は「人件費」として明確化すること。

② 人件費については、市職員給与表を基本として標準的に定めるとともに、経験・資格要素を加味すること。

イ 事業者選定・入札について

札幌市がその目的をもって設立した団体が受託している事業については、団体の設立経緯を踏まえて随意契約とすること。なお、随意契約とならない場合は次のとおりとすること。

① 事業者選定にあたっては「総合的な評価方式」を取り入れ、経営や雇用の安定を重視すること。また、選定は地元団体優先とすること。

② 労働環境の悪化を防止するため、すべての入札に「最低制限価格制度」を導入・適用すること。

ウ 契約について

① 入札等の結果、事業者が変更になった場合、これまで当該事業に従事してきた者の雇用継続をはかり、労働条件の改悪・引き下げとならないよう対応を行うこと。

2.札幌市の施策を補完・代行する目的で設立した出資団体で働く者の雇用の継続や処遇改善が図れるよう、団体設置者として責務をはたし、必要な予算措置を行うこと。

また、雇用の継続や労働環境・条件の維持改善に向け、引き続き札幌市として積極的に関与すること。

3.札幌市からの委託費・補助金が収入財源の多くを占める団体に対しては、当該団体が雇用確保や処遇改善を図れるよう、必要な予算措置を行うこと。また、介護保険事業など国の制度に基づく事業については、報酬や給付基準などの改善を国に要望すること。

4.防災体制の強化・充実に向けて、政策的な判断は札幌市が責任を持ち、引き続き各団体と協議を行い、マニュアル等の周知徹底を図ること。

5. 新型コロナウイルス感染症の影響による札幌市の財政状況を理由に、公共サービス労働者の賃金・労働条件の切り下げや指定管理費の削減が行われることのないよう、必要な予算措置を行うこと。また、指定管理費にコロナ感染予防対策に必要な衛生用品等の購入予算を盛り込むこと。

 

以   上

 

 

質疑応答

川村:貴重なご報告をありがとうございました。さっそくご質問ですが、児童会館につきましては、我々が10年ほど前に調査したときに比べると、職員の配置基準や施設の面積基準などは改善が図られたという理解でよろしいでしょうか。

境 :児童クラブの部分については、子ども子育て支援新制度の中で、児童40人に対して2人の職員など、国から基準が示されましたので、改善はされています。ただ先ほど述べたとおり、雇用は正規雇用に限定されているわけではありません。

また、児童クラブだけではなくて、「自由来館」という地域の子どもの自由な来館を児童会館では受け入れています。そこの部分に対する職員定数というものが全く明らかにされておりません。私たちは館長1名・指導員2名という3名体制が基本となっておりますけれども、色々な業務をしていく上では人手は足りない、不足しているというのが現状です。

川村:児童クラブの職員配置基準は国が定めているけれども、雇用形態は正規とは限らない。自由来館分まで含めると児童会館における職員配置の基準が明確にされていない──こういう整理でよろしいでしょうか。職員の配置に関するルールを国基準で改善していくという作業を全国的に取り組んでいかなければなりませんね。

境 :そうです。また賃金面は、冒頭の調査結果で紹介されたとおり、札幌市の非常勤職員(6時間勤務)の賃金が積算の根拠になっています。指定管理者である活動協会では色々な取り組みをしており、今はフルタイムで働く職員が結構増えてきているのですけれども、フルタイムであっても、非常勤職員の賃金を基準としているものですから、年収で300万円位にしかなりません。なので、やはり若い子たちは将来を見据えて、5年位のスパンで離職しています。入れ替りが非常に激しいです。

川村:5年位ですか。

境 :はい。仕事を覚えたあたりで辞めていかざるを得ない状況です。次の年の入職者でリカバーはするのですが、また同じくらいの職員が辞めていきます。そういうことの繰り返しなのです。だから現場としては、継続性が無いというか、指導員のノウハウが継続できないという問題を常に抱えています。

川村:10年前にも色々とお話を聞かせていただいたり現場を見せていただきましたけれども、平時から問題を抱えていたところにコロナの襲来を受けたわけですね。開館時間の延長はさらなる負担になったようですが。

境 :職員の配置が特にミニ児童会館で大変でした。札幌では、児童会館にはフルタイム職員が入っていますけれど、ミニ児童会館は6時間指導員が中心なのです。なので、今回のような朝から夜までの開館となると、6時間でシフトを組むのは非常に厳しかったです。1人が倒れるともうアウトです。ですから、ブロック内で感染があって、例えば職員が休まなければならないという場合も、ブロック内での応援でなんとか繋ぎ止めたという、文字通り綱渡りのような状況でした。

川村:職員の皆さんのPCR検査や感染予防対策はどうなっていたのですか。

境 :PCRは陽性が出た場合などは保健所の指示に従って行いますけれども、例えば、活動協会自身で定期的に行うなどのことは、予算的には無理な状況でした。

川村:では特段の予防措置や対策はとられていなかったのですね。

境 :そうですね。本当に、指導員の個人レベルでの頑張りに依存した状況だったと思います。

 

※    ※    ※

 

川村:体育施設の話を聞かせてください。

コロナで仕事を失った個人事業主、インストラクターのことが新聞で報道されていました。体育施設に特徴的な課題だと思うのですけれども、彼らには何も補償は無かったということですね。

境 :そうですね。自主事業という位置付けなものですから。

指定館が休館になって利用料が減額した点については札幌市からその分が補填されましたけれども、自主事業に関しては、全く何もありませんでした。ですから、インストラクターの方々にスポーツ協会が何か補償するということは出来ませんでした。私たち組合としても、なんとかならないものかと協会のほうには掛け合ったのですけれども、財源的な余裕が無いから、ということで残念ながら通りませんでした。

この自主事業をめぐる問題についてはあらためて矛盾を感じました。というのは、このスポーツ協会は半分が指定管理、半分が自主事業で運営しているような状況なのです。ですから、この収入が無くなるというのは相当なダメージでした。

川村:売上収入のウエイトで自主事業収入が半分も占めるのですね。

境 :おおよそ半々だと支部からは聞いています。そして、自主事業が増えると指定管理料がその分削減されるという矛盾があります。儲けているのだから指定管理料を減らしてもいいでしょうというわけです。おかしな話だと私は思います。

川村:頑張って収入を増やしたらその分だけプラスαになるなら頑張りがいもありますけれども、頑張ったらその分を減額するというのは、モチベーションが下がりますね。

境 :指定管理費用は指定管理費用できちんと積算をして、その余力というか、自主で出来る部分は協会自体の財源として使えるような制度になっていかなければ、自主事業を頑張ってやることでバカを見るようなことがあってはならないと私も思います。

川村:なるほど。

ところで今日は、第3回目の講師である林亜紀子さん(札幌市学童保育連絡協議会事務局次長)が参加されています。感想などをお願いできますか。

 

※    ※    ※

 

林 :境さんの本日のお話を伺って、ちょっと驚きました。そして、この間、3密の中で奮闘されていた点など共感することもとても多いです。午前中からの開所を急に求められて心身共に疲労したというのは、本当に、共感以外の何物でもありません。

職員配置の件で、児童クラブの部分は放課後児童健全育成事業の条例に従って行われているけれども、自由来館への職員配置が明らかになっていないというのは、本当にびっくりしました。児童会館、ミニ児童会館の中では、児童クラブに関わることだけではなく色々なことが本来行われているにも関わらず、すべて児童クラブと兼用で行うようにという状況になっていることにすごくびっくりしました。

夜間の中高生利用の部分についても、午前中の子育てサロンなどについても、児童クラブの守備範囲である時間帯以上の職員配置が必ず必要になってくると思うのですけれども、その辺のところは、そういった計算がちゃんとなされて人件費が協会におりているのでしょうか。協会への指定管理費の計算において、職員配置や職員の報酬はどのような計算がなされているのでしょうか。特に指導員の処遇改善については、国の方では、処遇改善等事業ですとかキャリアアップ事業ですとかが実施されていて、民間の方にはそれなりに、それがあたっています。申請すればもらえる状況が作られているのですけれども、指定管理者の場合には、どの程度の申請が出来て、現場の指導員さんにそれが行き渡っているのかという点は、すごく聞いてみたいです。

川村:第3回学習会における林さんたちの話ですと、純粋な民間のほうには、制度の変更で指導員の処遇改善にそれなりにお金が投入されているようなお話だったと記憶しています。境さんたち指定管理者制度の場合にはどのような感じなのでしょうか。

境 :財団のほうには、指定管理費用として一括で札幌市からお金が支給されています。ですから、これが人件費です、という明確に区分された形でお金がおりてくるわけではないのです。一括でおりてきたお金が活動協会の中で運用されていることになります。

さきほどお話しのあったキャリアアップの処遇改善というのも、札幌市への要求に盛り込んだところ、札幌市としても申請はして、活動協会に渡しています、と回答するのです。ただ、全体の中に含まれているので、それをどう使っていくかということは協会にゆだねられているのです。

この間、フルタイムの職員を増やしていこうということで、6時間の指導員を毎年、20人近くずつ、フルタイムに転換してきました。ある程度の一定の数に達したので今年で終わりにはなってしまったのですけれども、彼らの処遇はある程度改善されてきました。でも、6時間の指導員というのは、元々の処遇が札幌市の非常勤職員のそれであり、昇給も年間1千円というのは本当に、何十年来変わっていないのです。ですから札幌市には、人件費をきちんと明確にしなさい、積算根拠をきちんと出しなさい、ということは毎年要求しています。

川村:フルタイム指導員の賃金の算出根拠には何が使われているのですか。

境 :6時間の指導員の賃金をフルタイム化しただけです。

川村:では非常勤職員の時間あたり賃金ですね。

境 :そうです。ただ、昇給の幅は6時間の指導員よりも大きいです。1千円ではなくて年間で今は2,800円にまで引き上げました。その他に、この事業が直営から財団へ移行したときに退職金制度なども出来ましたので、そのような点での改善はされてきているのですけれども、生活を保障する給料にはなかなかなっていないのが現状です。

林 :フルタイムへの転換が年に20人ほど行われてきたのが今年で終わってしまったのですね。伺っていた印象としては、札幌市は、処遇改善の費用を国から受け取りました。そしてそれを、丸ごと協会には渡しています。でも、そういったフルタイム転換のようなことにお金が使われてしまって、もともといた指導員さんたちのベースアップというか賃金の底上げにはなかなか繋がっていない──そんな印象を持ちました。

境 :そのような感じです。

林 :それですと、指導員のやりがいに依存した状況、いわばやりがい搾取の状況は全然変わっていないのでは、という思いがあります。

私たちが札幌市に話を伺った際、指定管理者に全てを渡しているとか、処遇改善など費目ごとに渡しているわけではなく指定管理料として一括して渡している、と言われてきたのですが、まさにそういうことだったのですね。

境 :そうですね。ところで、5年の勤務者には5万円など、キャリアアップ加算は個人につくものですよね。

林 :そうですね。月々5万円などの計算になります。ただ、事業者が取りまとめて申請を行います。

川村:であれば、指定管理者制度の下でも、協会がとりまとめて申請をして、お金は協会に入っていることになりますかね。指定管理者制度の場合、いろいろ分からないことも多いので、私達ももう少し調べてみたいと思います。

ただ、いずれにせよ、今のお話を公契約条例の話に引き寄せて考えれば、賃金への支出については、目的・使途を明確にして使われるべきでないかということではないでしょうか。

10年ほど前に児童会館にお邪魔した際に印象的だったのは、子どもの数も非常に多く、夜間利用まで含めて見学させていただきましたが、働き方が結構きついというイメージです。そういう平時の問題状況がコロナで露わになったという感じでしょうか。

体育事業における自主事業の扱いなど、指定管理者制度が始まってかなり経つ今、あらためて検討しなければならないことが多いですね。指定管理は何期目になるのでしょうか。

境 :4期目、4巡目です。

川村:当初は、期間が4年だったのが5年になりましたよね。

境 :そうです。4期目から5年になりました。

川村:この5年というのは、無期雇用転換を視野にいれた雇用安定の措置なのでしょうか。

境 :そうですね。私たち公サ労としても毎年、要求書の中に、期間の延長を入れていました。全国的には5年がだいたい平均みたいなのですね。それで札幌市も1年間を延ばしてくれたということですね。

川村:雇用安定の面からも期間を一定の長さに設定することや、繰り返しになりますけれども、働いている人の賃金の決定基準を適切なものにして、算出された人件費については、使途通りに使っていくということが課題ではないかと思います。公契約条例を求める私たちとまさに問題意識が重なることです。

今日はお忙しいところ貴重なお話をありがとうございました。

 

 

 

(連続学習会の記録)

三苫文靖「ALTの現場で何が起きているか(2021年度第2回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」

宇夫佳代子「学童保育指導員の働き方と労働の実態(2021年度第3回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」

 

(関連記事)

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林亜紀子「コロナで学童保育の現場 指導員の仕事・働きはどうなった(2020年度反貧困ネット北海道オンライン連続学習会)」

 

 

 

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