宇夫佳代子「学童保育指導員の働き方と労働の実態(2021年度第3回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」

札幌市公契約条例の制定を求める会(以下、求める会。代表:伊藤誠一弁護士)では、2012年の会発足以来、公契約条例の制定を求める活動を続けている。具体的には、学習会や集会の開催、札幌市との意見交換会、議員候補者への公開質問及び会派要請などである。

2020年のコロナ下にあっても、オンラインを活用して学習交流会を開催してきた。そして今年度(2021年度)においても、オンラインでの連続学習交流会を開催している。本稿は、以下の第3回目の学習会の記録である。

第3回学習会、2021年5月27日(木)18時より、オンラインにて
・林亜紀子さん(札幌市学童保育連絡協議会事務局次長)「民間共同学童保育と自治体の役割」
・宇夫佳代子さん(建交労組合員)「学童保育指導員の働き方と労働の実態」

この記録は、求める会事務局で作成し、要約した内容は講師にご確認をいただいた。但し、それでも残っているかもしれぬ誤りは、事務局の責任である。

なお、当日の報告の順番と変えてまずは宇夫さんの報告内容から紹介する。

 

 

自己紹介

西区にある民間の学童保育所で働いている宇夫です。30数年、学童の仕事をしています。本日は、どうぞよろしくお願いします。

 

学童保育指導員の仕事と働き方の概略

学童保育は、保護者が共働きなどで放課後留守家庭になる小学生児童が通所する施設です。働く保護者の就労を支援し、子どもの成長発達を保障する育成支援の場です。家庭に代わる場であって、子ども達は毎日、学校から帰ってくると、ただいまというふうに帰ってきて、施設で待つ指導員は、お帰りと迎えます。

大雑把に言えば、年間300日位開設しておりまして、休みは、祝日と日曜日と年末年始休暇位です。

放課後の時間数だけで考えると、子ども達が過ごすのは1日5,6時間ですが、長期休みも含めると、学校にいる時間よりも長い時間を学童保育で子ども達は過ごしていることになります。

指導員の普段の一日の仕事の流れと働き方については、勤務時間は、平日が12時~19時半、学校が休みの日は8時から19時半まで開いています。各クラブによって開所や閉所の時刻は若干異なりますが、学童はおおよそこの位は開いています。

子ども達が帰ってくるまでの間は、職員会議を行い、お便りを含む事務作業、電話対応、おやつの調理など迎え入れの準備をします。14時半頃に1年生、2年生の子ども達が下校してきます。こちらからお迎えに行く学校の子どもも、1,2人います。

子ども達が学校の宿題をしている間に、連絡帳のチェック・出欠確認をして、その後は、遊びの時間に入っていきます。晴れていれば公園で遊んだり、雨の日には施設内で遊んだり様々です。

現在私の職場には、24名の1年生~6年生が通所しています。低学年が多いので、集団での遊びが始まるときには、盛り上げ役的に指導員が一緒に入って遊びます。

子ども達の校区はとても広い上に、山が近いものですから、危険が非常に多いです。夜になると1人で歩いて帰る、というのは絶対無理な地域なので、お迎えが殆どです。保護者のお迎えを待ちながら、電話対応、各所の掃除、日誌の記入を終えて、19時半に退勤します。残務があるときには勤務時間の前か後に残業をします。

 

緊急事態宣言下の学童保育

コロナで学校が休校になりました。

時間差で登校する期間も途中から出ていましたが、2020年の3月から6月中旬までの約4か月の間、シフト勤務を組んで朝から働いていました。職場(施設)に小学生児童が朝からいるため、お便りの作成や職員会議などは当然出来ませんでした。ノート上で打ち合わせをしたり、子ども達の食後の1時間休憩の間にお便りを書いたり、それでも間に合わないときには自宅に持ち帰って対応していました。

開設時間の前後は消毒作業を徹底しました。通常の清掃、お洗濯なども必要ですから早めに出勤して、遅めに退勤するというのは、どのクラブでも同じだったと思います。トランプ1枚の果てまで消毒をしましたし、今でもしています。子ども達にも、朝、登所の際には検温チェックを行って、服を消毒して、連絡帳を出して手洗いうがいを徹底。座る位置がわかるように長いテーブルにシールを貼って、普段よりも間隔をあけて座ってもらって、宿題をし、お弁当を食べてもらいました。

北海道の一斉休校の際の初めの一週間、開所をしていたのは、札幌市内でも確か10もなかったように記憶しています。

ブラックアウトの下でも施設を開所

ちょっと脱線しますが、災害と学童保育について考える際、2018年の、胆振東部の地震によるブラックアウトが起きたときの経験をお話ししておきます。

その際に、私の職場の子ども達が通う小学校は、4日間ほど休校しました。でも私の職場は、災害時の特別保育という規約が設けられていたために閉めませんでした。地震が発生した夜中の3時ぐらいに代表の保護者さんに連絡をしました。朝の5時位にようやくつながって、打ち合わせをして、災害時特別保育の発令をしてよいかどうかを確認した後、地下鉄も動いていませんでしたから、自転車で職場まで40分位の時間をかけて行きまして、8時に開所しました。

そして、やっぱり子ども達は来ました。私の職場に子どもをあずけているのは、公務員や教職の方が多いため、開所しなければ、子どもも親も困ってしまうのです。4日間ほど休校になったこのときも、10人位の子ども達と、毎日を過ごしました。

 

コロナと学童保育

話しを戻します。コロナ下では、従来の取り組みからの転換を余儀なくされました。

子ども達は、学校の行事がことごとく中止か延期になっていました。子ども達のその「がっかり感」を埋めるべく、コロナ下でも、どこまでだったらできるかを子ども達と考えながら日々を過ごしました。

例えば、本来は学校の運動会だったのが中止になった際には、施設内でミニ運動会を行ったり、保護者にも助けられながら、本格的なおやつ作りを行ったり。あるいは、以前から交流があった地域のコミュニティカフェとなど、地域との交流の発展を模索などしてきました。

コロナだから子ども達のやり取りをより丁寧に行ってきました。例えば、消毒がその典型としてあげられますが、大事なのは、理由を伝えてやるべきことは徹底してやるということです。子ども達も、指導員以上に頑張ってくれました。高学年の子どもの力が非常に大きかったです。

感染予防のために、おやつ作りあまり手はかけられぬ状況になりました。クラブによっては、半年近く袋菓子だったところもありますが、わがクラブでは、洗う/蒸す/握るだけで食べられるものを提供するなどの工夫をしました。

休校中の外保育は、目的別で、公園を渡り歩きました。平時であれば最寄りの、1分もかからないで着く公園を使っているところを、やはり地域の目も気にせざるを得ませんので、あちこちの──全部で7か所位の公園を使いました。ちょっと語弊があるかもしれませんが、「ジプシー保育」という感じです。

 

保護者への情報発信の強化

子ども達が元気で過ごしている様子を保護者に伝えることにも力を注ぎました。

特に1年生の親は、信頼関係を築く以前に、突如朝から子どもを預けなければならない状態になったわけですから、非常に心配だったと思います。子どもがのびのびと楽しく過ごしている様子を見せて保護者に元気になってもらおうと、とにかくお便りを毎週書き、父母会の中に設置してあったグループラインを活用しました。文字ばかりだと楽しくないので、写真付きのお便りも多くしました。おかげで教材費もかさみました。父母会自体がなかなか開催できない中でも、子どもの様子がよく分かってとても安心した、という声が多く寄せられまして、指導員としては励みになりました。

 

エッセンシャルワークの実情

コロナ下で、自分たちの仕事が社会の役に立っていることを強く実感できました。私達の仕事はエッセンシャルワークなのだと。一方で、仕事の厳しさを今まで以上に感じたのも事実です。

とくに私が強調したいのは、一つは、管理者が常駐しないということと人手がないことです。

人手不足はコロナ以前からですが、管理者が常駐しないことは、これほどに大変なのかということを凄く実感しました。『共同学童保育』ですから、指導員も共に運営を担うので、指導員が保育中に、保育と並行して色々調整せざるを得ないのです。

例えば、クラブの代表でもある父母会長との協議では、コロナ感染予防に関して様々に話し合いを行い、それを指導員の中で共有すると同時に、父母会にも伝える必要があります。加えて、コロナ禍の臨時助成金の申請では現場を預かる者が動いたほうが早いということで、通所自粛した分の保育料の返還や消毒等の衛生用品・器具購入、臨時に働くことになる人件費等の申請作業、その他子ども支援の申請なども、全て指導員がやることになりました。

小学校、中学校であれば、校長・教頭・総務の管理者が行うようなことを保育と並行して指導員が請け負うという厳しさを感じました。助成金が出ていたことから、開所を確認する札幌市からのFAX調査もあり、これにも対応しなければなりませんでした。

人手不足の学童の現場

札幌の多くの民間児童育成会の職員構成は、1名~3名の正規職員と、常勤のパート職員のほかに、不定期に入ってもらうアルバイト職員数名が、日々の保育にあたっていると思われます。

私の職場では、正規職員が2名、常勤のパート指導員が1名、この3人で毎日を回しているほか、不定期に──例えば正規職員が休みを取りたいというときに入ってもらうアルバイトが5人働いています。アルバイトには、元保護者もいれば大学生もいます。

正規職員の勤務時間は、週約41時間、月で約164時間。常勤のパート職員の勤務時間は、週20時間、月80時間です。アルバイトは、子どもが帰ってくる時間帯の1日3,4時間位に入ってもらう感じです。

1日開所するときには、指導員は9時間勤務で、私の職場では、8時~17時までの勤務と、10時半から19時半までの勤務を組み合わせていました。必ず複数が配置されていなければなりませんから、8時~12時まで、17時から19時半までにアルバイト職員に入ってもらいます。職員の配置は、綱渡り状態です。

残業はコロナ以前もコロナ下でも、あまり差はありませんでした。コロナ以前は、月平均で29時間だったのが、コロナ下でも、多くて34時間でした。もっと残業が多いクラブもあるかもしれませんが、私の職場では、終日保育は増えた代わりに、コロナ以前に行われていた父母会の会議や、関係する諸団体の会議の開催が減ったことによります。その点でいうと、保護者との信頼関係を築く場が無くなったことや、スキルを上げるための学びの場が少なくなったことの影響は気になるところです。

 

職員体制の維持の困難と、職員配置基準の規制緩和

コロナ下では、職員体制の維持が非常に大変です。感染・濃厚接触の情報が日々入ってくるため、とにかくもう、いつも職員募集をしている状態のクラブもあります。開設時間中は、放課後児童支援員の有資格者を含めた職員が2名以上いなければ助成金の対象になりませんので、コロナに感染してシフトに穴をあけないように、休みの日も自宅で過ごし、そして、万が一のときには出勤する心づもりが必要です。

かつては、熱を出しても休むことが出来ずに寝ながら保育をしたなどと先輩保育士が指導員研修で話していたのを聞いたことがありますが、体制を確保するということは、自治体内に、数えるくらいしか学童保育がないような地域にとっては非常にハードルが高いことなのです。そのために、少なくない自治体から反対の意見が出されて、2019年の地方分権一括法によって、職員配置に関する基準が、全国一律で「従うべき基準」から、「参酌する基準」へと、要するに、規制緩和が容認されてしまいました。保育の質にかかわる重要なことがこうして簡単に決まってしまうことに正直、落胆しました。エッセンシャルワーカーと言われながらも、現状でも、一人保育に逆行することも十分に起こりうると危惧しています。

余談になりますが、指導員は不足していないか、と指導員の派遣会社からしょっちゅう連絡がきます。保育に入る人がコロコロと変わると生活自体に落ち着きが無くなってしまうし、保護者とも信頼関係を結べませんから、人手はたしかに欲しいけれども、お断りをしている状況です。

 

心意気産業のしわよせはどこに

「児童福祉施設に入所している者の保護に従事する職員は、健全な心身を有し、豊かな人間性と倫理観を備え、児童福祉事業に熱意のある者であつて、できる限り児童福祉事業の理論及び実際について訓練を受けた者でなければならない」──これは、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和二十三年厚生省令第六十三号)の第7条で定められた、児童福祉施設における職員の一般的要件です。

もっと平易な言葉ではありましたが、私が就職するときの募集要件もまさにこれでして、明るくて健康な人という条件でした。

私は、平成元(1989)年にこの仕事に就きました。当時の初任給は95,000円です。初年度の総支給額は127万で、手取りは62万円でした。30数年前のことです。

福祉業界の底上げのために、処遇改善が数年前に行われて収入は増えました。平成30(2018)年に自分の俸給の号級がMAX、つまり頭打ちになりまして、総支給額が464万、手取りが320万です。語弊はありますが、長く低賃金で仕事をしてきましたから、慣れてしまうと、これだけでも懐が暖かくなって、とても安心感があります。

本日の報告にあたり、給料明細を1年目から全部調べてみました。処遇改善の助成金が出たときから収入が大きく上がっていました。月で4万位の増額です。それまでは毎年の昇給が1千円だったり2千円だったりと、額はその年々で異なりました。多い年で5千円ぐらいでした。

民間学童保育現場の特殊な労使関係

登録人数で助成金が上下するという制度設計上、長いキャリアの中では、職員体制を変更しないために、基本給を4万下げざるを得ないことがありました。子どもが若干増えても賃金は据え置かれたこともありました。運営が厳しくなると減給が行われるため、心身ともに非常にきつかったです。

本日は、指導員の仕事のつらさも率直に話すよう言われているので率直に申し上げますが、減給に象徴される労働条件の不利益変更が簡単に行われてしまうのが、民間の学童保育所の現実です。今はそうではないと思いますが・・・。

指導員と保護者での共同運営なのだから立場は同じである、と説明されますが、人数は圧倒的に違います。指導員は1名か2名であるのに対して、保護者は10名以上おります。また、指導員も保護者も、理性と感情がぶつかり合い、下手をしたら仲たがいをして、子どもが退所するようなこともあります。大人の都合でそういった不幸な状況になってしまうことも、残念ながら聞きます。

民間学童保育所の父母会とは不思議な存在に思われるかもしれません。父母会というのは、保護者にとっては、保育や運営に対する意見表明の場です。そして指導員にとっては、働く者としてそれらにこたえるための要求を意見表明する場です。だからこそ、お互いに思いやりを持ちながら運営されるべきでありますが、教科書通りにはいかず、色々と大変な現状も聞きます。一身上の都合で残念ながらお辞めになる指導員の先生もおります。一方で、自分の職場がこんな職場だったらいいなと、自分の職場よりも良いルールを設けるよう意見してくださる保護者の方もおります。いずれにせよ、運営は簡単ではありません。

 

 

現場の支えとならない制度の不備

1つのクラブを運営していく上で、今の助成制度はまだまだ発展途上です。

運営費、家賃、交通費など助成金は全て、子どもの人数でカウントされて助成されるため、実態に全く合っていません。実態に合わないから、保護者も資金繰りに奔走せざるを得ません。コロナ以前は、父母会主催で年に複数回、バザーを開くなどしていたクラブもありましたが、コロナで全くそういうことも出来ませんので、赤字を抱えたクラブは大変です。保育料の値上げが提案されたり、反対に、保育料を下げて児童の確保を優先したり。民間のクラブはとにかく経営が困難です。先人の心意気で福祉も学童保育も発展してきたとはいえ、子どもや職員にしわ寄せがいってしまう構図はなお残っています。

民間にとっての規範となるべき公務労働がじわじわと安上がりになってきている点も気になります。待機の解消で受け入れ児童の規模をどんどんと拡大してきた結果、コロナ下では一転して、自粛を要請せざるを得ない、というのは、ちぐはぐな話だと思います。

コロナという大変なときこそ、労働条件や制度のもろさがあらわになると実感しました。指導員や保護者側ではなくて、制度や仕組みに問題があるとあらためて強く思います。

 

だからこそ札幌市学童保育連絡協議会のように、指導員も保護者も集える場所が必要だと思います。現場の声を聞き取る、そして、声を上げるということが自然に出来るのが父母会であって欲しいし、共に頑張りたいと思います。

 

 

 

 

(関連記事)

林亜紀子「コロナで学童保育の現場 指導員の仕事・働きはどうなった(2020年度反貧困ネット北海道オンライン連続学習会)」

林亜紀子「コロナ禍下で、子どもの権利を守り抜く──学校一斉休校、保育自粛要請で揺れた 学童保育の現場」

(連続学習会の記録)

三苫文靖「ALTの現場で何が起きているか(2021年度第2回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」

 

 

 

 

Print Friendly, PDF & Email
>北海道労働情報NAVI

北海道労働情報NAVI

労働情報発信・交流を進めるプラットフォームづくりを始めました。

CTR IMG