林亜紀子「コロナ禍下で、子どもの権利を守り抜く──学校一斉休校、保育自粛要請で揺れた 学童保育の現場」

新型コロナウイルスは、社会を維持する上で不可欠でありながらこれまで適切に評価をされてこなかった仕事の存在を浮き彫りにしました。学童保育もその一つではないでしょうか。札幌市学童保育連絡協議会事務局次長である林亜紀子さんが『日本の学童ほいく』2020年9月号に投稿された、コロナ禍下における学童保育の現場レポート(加筆修正版)を転載します。(川村雅則)

 

 

2020年、北海道では2月下旬から「新型コロナウイルス感染症拡大防止」の大きな流れに、急激にあらゆる集会や会議がストップしていきました。さらに学校休校による学童保育の長期にわたる一日保育が始まり、ブロックや代表者会議などで相談や情報交換する機会もないまま各クラブがそれぞれでさまざまなことを判断しながらその場その場を乗り越えてきました。

札幌市学童保育連絡協議会では緊急にファックスでアンケートを回して集めた声をもとに市へ3月9日と4月21日に緊急申し入れを行いました。マスクや消毒液が足りない・買えないこととともに、学童保育について、「三密」を避けられない現場であること、行政から要請のあった「利用自粛」は保護者や子どもに負担がかかること、指導員が感染リスクと闘いながら保育していることを伝え、理解を求めました。

申入れの提出は、その後の行政からのマスクや消毒液の支給、学童保育が密集を避けるために学校等施設を借りることなどにつながりました。また、保護者が求められた「利用自粛」がしやすいように雇用者に向けて子ども未来局長名での通知を出してもらうことができました。

小学生が「学校に行く」以外に日常をどこでどのように暮らしているのかについて、日本人がいかに無関心だったか、今回のコロナ禍で改めて浮き彫りになったのではないでしょうか。学校という制度が休止されたら子どもは家に居ればいいかといえば決してそうではなく、保護者が働いている場合はその就労と子どもの生活との両立は学童保育がなければ成り立たないこと、学校がない日には働く親の子どもは学童保育を基盤に生活しているのだということに世の中がようやく気付いた、と感じました。

子どもには、コロナウイルス感染から守られ安全に生存する権利は当然ながら、それと同じくらい大切に保障されるべき子どもとしての権利が、教育を受ける権利、遊ぶ権利、ぼーっとする権利、仲間と育ちあう権利など多岐にわたり存在します。普段、これらの権利を学校生活と学童保育、それぞれで保障し合っていると思いますが、今回のように一斉に学校が休止して学童保育指導員たちは、目の前の子どもたちに対して必死で、ときに学校の分まで担ってきたのではなかったか、と私は感じています。

新1年生は入学したてでまだ小学生の自覚もないまま休校になり、本来学校生活のなかで徐々に体得する生活リズムを調えるために学童保育の生活の中に「時間割」を一部取り入れたり、「自分の名前を書く」といった最低限の学習スキルを学童保育の生活の中で保障しようと努める学童保育がありました。

「留守番ができる学年」と見做されて「クラブでの三密を避ける」ために学童保育に通うことも自粛していた高学年の子どもたちに向けて、「公園集合・公園解散保育」と銘打って、仲間と交流し心を解放する機会を保障した学童保育がありました。「自粛」の空気におされて自宅に籠る子どもに向けて、指導員は電話をかけたり受けたり、学童保育のお便りや支援のおべんとうなどを届けがてら様子を確かめたりしました。

通所してきている子どもたちは通常よりもゆったりしたスペースで指導員の目配りも行き届く中で生活できて子どもたちが本当に仲良くなったなどの面がある一方で、通所を自粛している子ども・家庭への気配り・目配りもまた、指導員が積極的に講じてきました。

それらの実践について、継続して子どもたちを見守ってきている指導員ならではの専門性を感じました。この非常時に顕れた学童保育での実践のなかに、ウィズコロナ、ポストコロナの社会の在り方を考えていくヒントがたくさんあるに違いないと勝手に思っています。

そう問うてみたところ、ある指導員が「学童がこの間、ある意味、社会・政治の情報や常識に抗ってでも子どもの生活にとって、育ちにとって停滞させてはいけない環境づくりを徹底してきたことは大きな意味があると思う。もちろんその場しのぎではなく、アナーキーになるのではなく、社会や地域・文化を尊重し、折り合いをつけながら、それでも『子どもにとって重要なことは』を絶対優先にしながら、指導員は、マニュアルも自信もない中で、頑張ってきたと思う」と話してくれました。そして「学校が始まってから、後れを取り戻すためのスピードは、間違いなく個性や感性、特にゆっくりな子や違う感性を持った子は厄介者になったり切り捨てられたりするのではないか」との示唆をくれました。

格差の顕在化・拡大化がよりいっそう進行し社会の不安定化を促しています。そんな中で、誰もがかかる可能性のある感染症とともに暮らす中で、「誰もが置いてきぼりにされない社会」を考えていくことになると思っています。そこに、学童保育のこの数か月間の現場での実践は、とても大きな意味のある示唆をもたらす蓄積になるはずだと思っています。

 

(関連記事)

林亜紀子「放課後児童支援員(学童保育指導員)の雇用と労働」

 

(参考)

全国学童保育連絡協議会

 

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