林亜紀子「民間共同学童保育と自治体の役割(2021年度第3回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」

札幌市公契約条例の制定を求める会(以下、求める会。代表:伊藤誠一弁護士)では、2012年の会発足以来、公契約条例の制定を求める活動を続けている。具体的には、学習会や集会の開催、札幌市との意見交換会、議員候補者への公開質問及び会派要請などである。

2020年のコロナ下にあっても、オンラインを活用して学習交流会を開催してきた。そして今年度(2021年度)においても、オンラインでの連続学習交流会を開催している。本稿は、以下の第3回目の学習会の記録である。

第3回学習会、2021年5月27日(木)18時より、オンラインにて
・林亜紀子さん(札幌市学童保育連絡協議会事務局次長)「民間共同学童保育と自治体の役割」
・宇夫佳代子さん(建交労組合員)「学童保育指導員の働き方と労働の実態」

 

この記録は、求める会事務局で作成し、要約した内容は講師にご確認をいただいた。但し、それでも残っているかもしれぬ誤りは、事務局の責任である。

なお、宇夫さんの報告内容はすでに紹介している。あわせて参照されたい。

宇夫佳代子「学童保育指導員の働き方と労働の実態(2021年度第3回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」

 

 

 

 

■公契約条例と民間学童保育

札幌市学童保育連絡協議会の林です。どうぞよろしくお願いします。

皆さん達が制定を目指している公契約条例と、補助金で運営されている私達民間の共同学童保育とをどうつなげて考えるか思案しましたが、自治体がどういった意図をもって補助金を出しているのか、という点がポイントになると思いました。

私達も、行政に対して色々な要求をする中で、そもそも公共とは何なのかと考えてきました。民間学童保育は「民間」であることが強調されがちです。民間なのだから民間でやってください、と突き放されてきた時代も長かったです。でもだからといって、住居や施設が耐震基準を満たせていないときに、子どもたちの安全に対して、札幌市は本当に責任がないのでしょうか。民間は民間で、と突き放されることに対して、もやもやを抱えてきました。

 

■学童保育の運営主体

図表1 全国における学童保育の運営主体の構成比(2020年)

出所:全国学童保育連絡協議会発行「学童保育情報」から林作成。

 

図表2 全国における学童保育の運営主体の変遷(2011~2020年)

出所:図表1に同じ。

 

全国的なデータをみると、学童保育の運営主体で「公営」は3割ほどまだ残っています。ほかは、社会福祉協議会への委託や、地域運営委員会という、私達の民間児童育成会と同じく、地域の何らかの責任を持てる団体に行政が補助金を出すという形です。父母会・保護者会は補助金が出ているケースもあれば出ていないケースもあります。

過去10年間の推移をみると、公設公営も社協も横ばいで、増えたのはNPO、民間企業、幼稚園を運営している学校法人などのその他法人です。結局、全体としては公営や社協が割合としてはだいぶ減ったことになります。学童保育自体はこの10年間で、19,823施設から33,671施設(2020年)と6割増しになっています。でも増えたのは公設公営ではありません。公営の減少は、結果的に公的責任の後退と言えると思います。

 

■自治体の責務と学童保育の公共性

 

図表3 自治体の責務にみる学童保育の公共性

*児童福祉法上:

・「事業実施に必要な措置に努める」…第21条の9
・「利用の促進に努める」…第21条の10
・「条例で基準を定める」…第34条の8②
・「供給を効率的かつ計画的に増大」…第56条の7

*子ども・子育て支援法上:

・「市町村子ども・子育て支援事業計画」を定める

出所:林作成。

 

学童保育の公共性を考えるにあたり、自治体の責務を整理してみました。

1997年に児童福祉法の第6条に初めて法制化されたもので、学童保育とは一言で言えば、小学生が、保護者が労働等──この「等」には病気療養であったり、学生・勉強中だったりということも含まれます──保護者が昼間家庭に居ない者に授業の終了後に──授業がない日、夏休みなども含まれます──適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図る事業と文言化されました。

自治体が何をすべきかについては、児童福祉法の第21条に「事業実施に必要な措置に努める」とうたわれ、児童の健全な育成に資するため、その区域内において着実に実施されるよう必要な措置の実施に努めなければならないとなりました。

 

第二十一条の十 市町村は、児童の健全な育成に資するため、地域の実情に応じた放課後児童健全育成事業を行うとともに、当該市町村以外の放課後児童健全育成事業を行う者との連携を図る等により、第六条の三第二項に規定する児童の放課後児童健全育成事業の利用の促進に努めなければならない。

 

21条の10では「利用の促進に努める」となりました。努める、なので「努力義務」ではありますが。

「条例で基準を定める」というのが第34条の8の②にうたわれました。「市町村は、放課後児童健全育成事業の設備及び運営について、条例で基準を定めなければなりません。この場合において、その基準は、児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な水準を確保するものでなければならない。」と条例で基準を定めることが市町村に課されました。これは2015年のことです。

 

第五十六条の七 市町村は、必要に応じ、公有財産(地方自治法第二百三十八条第一項に規定する公有財産をいう。次項において同じ。)の貸付けその他の必要な措置を積極的に講ずることにより、社会福祉法人その他の多様な事業者の能力を活用した保育所の設置又は運営を促進し、保育の利用に係る供給を効率的かつ計画的に増大させるものとする。

② 市町村は、必要に応じ、公有財産の貸付けその他の必要な措置を積極的に講ずることにより、社会福祉法人その他の多様な事業者の能力を活用した放課後児童健全育成事業の実施を促進し、放課後児童健全育成事業に係る供給を効率的かつ計画的に増大させるものとする。

③ 国及び都道府県は、前二項の市町村の措置に関し、必要な支援を行うものとする。

 

第56条の7に「放課後児童健全育成事業に係る供給を効率的かつ計画的に増大させるものとする」と書かれ、市町村は、子ども・子育て支援事業計画を定めることが子ども・子育て支援法上、義務づけられました。

市町村の責務として条例で基準を定める。例えば、わが市ではかくかくしかじかの理由で放課後児童健全育成事業、学童保育を行う、ということを定めることになります。事業計画にはニーズ調査も含まれておりますので、地域におけるニーズを踏まえた上で、では、どの位の量をどのようなスピードで供給していくか、計画的な供給量を示すことになります。

以上のことを、市町村事業として公設公営・直営で行うという市町村もあれば、委託して公設民営で行う市町村もあり、他方で、民設民営に補助を出すという市町村もあります。ただいずれの場合でも、全ては市町村の計画の中に含まれています。そう考えると、とかく「民間」が強調されたり「民間は民間で」と言われるけれども、公共性の中に私達民間学童保育も位置づけられている、と言えるのではないでしょうか。

 

■公共サービスと非公共サービスの境目は

 

図表4 国の「放課後児童健全育成事業実施要綱」にみる公共サービスと非公共公共サービス

2017年まで 現在
(1)法第6条の3第2項に基づき実施する放課後児童健全育成事業と目的を異にするスポーツクラブや塾など、その他公共性に欠ける事業を実施するものについては、本事業の対象とならない。 (1)法第6条の3第2項に基づき実施する放課後児童健全育成事業と目的を異にする公共性に欠ける事業を実施するものについては、本事業の対象とならない。なお、放課後児童健全育成事業に付加する事業として、スポーツクラブや塾など、その他特別な活動内容を実施することは、差し支えない。

出所:「実施要綱」別添1の10留意事項より林作成。

 

国が策定している「放課後児童健全育成事業実施要綱」(以下、実施要項)に次のような文言があって、公共サービスと非公共サービスを区別する際のたよりにしてきました。「実施要綱」には、学童保育の補助金を支出する考えの根拠が示されています。

2017年までは、「放課後児童健全育成事業と目的を異にするスポーツクラブや塾など、その他公共性に欠ける事業を実施するものについては本事業の対象とならない。」とされてきました。ですから、スポーツクラブや塾などは公共性に欠け、逆に、放課後児童健全育成事業、学童保育は公共性を持っているものだと認識していました。

ところがその後の改定で──いつの間にか変わっていたのですが──「なお、放課後児童健全育成事業に付加する事業として、スポーツクラブや塾など、その他特別な活動内容を実施することは、差し支えない。」という尚書きが加わりました。あれ?と思いました。

もちろん、付加された特別な活動についてはお金は出さない、ということなので、スポーツクラブや塾は補助金の対象ではないということは読み取れますが、事業の目的、公共と非公共の境目を曖昧にし企業参入へ道を広げる意図がなければこのように変える必要はないのでは、と私は感じています。子ども・子育て支援新制度そのものもそうですが、福祉事業の分野がどんどん市場化されています。法制度の改定が福祉分野の市場化を促進していく仕組み作りになっている、と感じています。こうしたマイナーチェンジにもそのことが反映されています。

 

■札幌市の学童保育の概況

 

図表5 札幌市の学童保育の概況

札幌市の放課後児童健全育成事業
2020.4
か所数
(2020.4)
登録児童数
(2018)
登録児童数
(2019)
登録児童数
(2020)
児童会館児童クラブ 公設 107 10,388 12,084 12,525
ミニ児童会館児童クラブ 公設 92 7,099 7,936 8,722
民間児童育成会 民設 46 1,305 1,359 1,374
届出のあった放課後児童健全育成事業所 民設 4 不明 209 170
合計 249か所 21,615人 22,791人

出所:札幌市資料より林作成。

 

札幌市の学童保育に話を移します。

札幌市における放課後児童健全育成事業は、公設と民設と両方あります。「公設」は、札幌市が公財)さっぽろ青少年女性活動協会に管理運営を委託している児童会館やミニ児童会館の中に設置されている「児童クラブ」と称する放課後児童健全育成事業です。2020年4月の数字で、併せて199か所になります。

補助金が出ている「民設」は、民間児童育成会と呼ばれ、46か所あります。それ以外(補助金の対象外)が4か所ですから、施設数で言えば公設対民設はおおよそ4対1くらいの割合ですが、通っている児童数でみると、9割は公設に通っている計算になります。その主たる理由は、公設が無料であるということです。公設の「児童クラブ」方式は、創設時から「一般来館の児童と分け隔てなく受け入れ」る方針のため、無料なのです。

なお、私達「札幌市学童保育連絡協議会」は、学童保育の普及と発展を願う保護者や指導員など関係者が集まり、連絡を密にして、学童保育の内容の充実や制度化を求める運動体組織です。現在は民間児童育成会のうちの35か所が加盟しており、公設の児童クラブの関係者の方は個人会員の1名のみです。

 

■札幌市における事業の推移

 

図表6 札幌市の学童保育(放課後児童クラブ)数の推移

出所:図表5に同じ。

 

札幌市における事業の推移をみると、最初の頃は、文科省管轄で留守家庭児童会というもの──表中で「学校方式」と表記──が無料で提供されることに始まりました。それは、働く親の子どもが学校にそのまま残って、場所だけ借りているというような状況でした。その中で、それとは別に民設の共同学童保育が、保護者たちの手による自主運営という形で始まっていきました。そして、学童保育の必要性がさらに高まる中で、自分の地域に共同学童保育を作る運動、留守家庭児童会を増やす運動、補助金を要求する運動などが発展していきました。その中で、札幌市が公設公営の事業として別に始めたのが今の児童クラブです。当時活用が乏しかった児童会館の活用方法として、一般来館児童の遊び場としての性質も保持したまま留守家庭児童を受け入れる形を採用したのです。

これによって、登録だけしたら留守家庭の子も預かることができる、児童クラブ方式が打ち出されていきます。一般来館と分け隔てありませんので料金は無料です。前市長の公約ということもあって、全小学校区にそういった無料の放課後の子どもの預り場が作られていきます。単館への設置が済むと、ミニ児童会館という、小学校の中の空き教室を使った児童会館にも同様の預り場が併せて設置されていきました。もともと学校内で子どもを預かっていた「留守家庭児童会(学校方式)」が漸次「ミニ児童会館児童クラブ」へと解消されていきました。

 

■民間共同学童保育の特徴と、民間共同学童保育が支持される理由

 

保護者負担無料の預り場という政策がとられる一方、共同学童保育の場合には、利用者である保護者がお金を拠出して、補助金を受け取るための複雑な資料作りもして、会計も担い、指導員も雇用する、そのために社会保険事務所とやり取りもする、といったことの全てを保護者が行います。しかも保育料は、月平均で1万5千円くらいかかります。経済的負担も作業的負担も大変なものです。

それでもなおこれだけの施設数が生き残ってきたのです。ある行政担当者が、民間児童育成会担当に出戻ってきたときに、「まだこんなに残っているのか」と臆面もなく述べておられました。行政の思惑としては、無料で通える施設を全小学校区に作ったら民間の共同学童保育は必要なくなる、と考えていたのかもしれません。しかし保護者のニーズや子どもたちのニーズは、そうではなかったのです。

学童保育というのは、小学校区内に──つまり、子どもが歩いて通える範囲に、必要な量があることがまず大切です。必要な量というのは、詰め込みではなく、適切な物理的な面積があること。現在では「児童一人当たり1.65㎡」という基準があります。それを護った上でさらに待機児童もいないことも必要です。

次に、留守家庭児童にとって必要な内容の保育が受けられること。遊びや生活の場の保障です。

保育の質についても、子ども集団の適正規模や指導員の配置基準が大変重要です。今は、常時必ず有資格者を含む2人以上という基準の遵守が求められています。

そして、運営指針に沿った育成支援の内容です。どういった支援を具体的に行っていくかはそこここで特色がありますが、放課後児童健全育成事業としての本質が違っては困ります。

以上のような条件が、公平公正な利用負担で用意されること。そういうものを公共として用意してほしいというのが市民全体の願いなのではないでしょうか。学童保育の現状を考えると、公共が用意すべきものは一体何だったのかとあらためて思います。

 

■高額の補助金投入と公共性

 

図表7 「児童育成委員会」の構成にみる公共性

第6条2…(略)…児童育成関係者とは次の各号に掲げるものをいう。

(1)民間児童育成会の所在地区の単位町内会において、児童関係を担当する役職者

(2)民生委員児童委員又は主任児童委員

(3)青少年育成委員

(4)小学校を代表するPTA役員の内、会長や副会長及び会計や監査の職にある者

(5)小学校区の小学校校長、又は校長から委任を受けた当該小学校の教頭又は教員

(6)地域子ども会役員又は地域の体育指導員

(7)公的な資格(国家試験による資格など)を有して、児童の健全育成を主務又は従たる業務としている地域に居住する市民

(8)教育機関又は教育機関に準ずる組織において、児童の健全育成に関して調査研究や推進活動、指導・相談・講師等を業務としている地域に居住する市民

出所:札幌市児童健全育成事業実施要綱より。

 

横道にそれますが、民間の児童育成会の公共性を考える上で一つ話題を提供します。

46か所の民間児童育成会というのは実質上、地域の児童育成関係者を含む「児童育成委員会」が運営するという形が採用されていますが、実質は、保護者会が実務を行っています。予算決算や事業計画等への「承認」を育成委員会から受けるという形で運営されています。では、育成委員会はなぜ設置される必要があるかというと、助成金の受け皿として単なる保護者会、父母会にはお金は渡せないということです。補助金という公金の受け皿として育成委員会というものが必要だということなのです。ですから、育成委員会というのは、そうそうたる肩書きをもった方や地域の名士の方が必ず含まれていなければなりません。そのことで地域に必要とされている体裁が担保されます。

こうした点一つを取ってみても、民間児童育成会は公共性をもった組織と言えるのではないかと思っています。ちなみに、交付される補助金は1か所あたり、児童40人規模でおよそ年間1千万円程度になります。もちろんそこから利潤等を出すわけではなく、その年度に当該児童福祉事業を行う費用として使いきることが前提で渡されるのです。

こうした公的資金である補助金の交付対象となって、公的な責任を持った公共サービスの担い手として、民間共同学童保育も、地域の社会資源の1つであると思って事業に取り組んでいます。

 

■公的責任が不十分な形で始まった学童保育

 

第六条の三 ② この法律で、放課後児童健全育成事業とは、小学校に就学している児童であつて、その保護者が労働等により昼間家庭にいないものに、授業の終了後に児童厚生施設等の施設を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図る事業をいう。

第七条 この法律で、児童福祉施設とは、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター、児童心理治療施設、児童自立支援施設及び児童家庭支援センターとする。

 

学童保育は、児童福祉法第6条の「事業」に位置付けられているのですけれども、第7条の「施設」へ、保育園並みの意義・役割を認めて下さい、とずっと──それこそ、苦節何十年と訴え続けてきました。

もともと児童福祉法の理念は全ての児童を対象にしています。しかし具体的な給付は、保護者のない児童や、保護者に監護させることが不適切な児童を対象とする施設を中心とした設計でした。ちなみにこの知識は、つい2か月ほど前に、静岡大学の石原剛志先生の講義を全国学童保育連絡協議会の学習会で聞いた受け売りです。

第7条の「施設」は、保護者のいない児童のためのものという位置づけがなされてきました。それには憲法25条と同様に、健康にして文化的な最低限度の生活を児童に保障するに必要な最低限度の基準があるということが第6条の「事業」との大きな違いなのだそうです。その後、児童福祉の対象が、保護者のいない児童から保護者のいる児童にもどんどん拡大してきました。その中でも保育所というのは、戦後すぐに草の根運動で実績があったものなので、保護者のいる児童の福祉として例外的に施設として加わりました。

逆に、保護者のいる児童を対象とする福祉事業の拡大・多様化には、6条に項目をどんどんと新設することで対応されてきました。その中の1つが放課後児童健全育成事業だったのです。こちらには国としての最低基準がないものですから、児童育成の公的責任は不十分にしか行われてこなかったという歴史的な経緯があります。

 

■「子どもの権利」として捉えるべき学童保育

 

図表8 子どもの権利としての学童保育

・子どもと保護者の生存権:憲法24条・生存権、人間の尊厳に相応しい生活を営む権利

・子どもの権利全般:児童福祉法第1条「生活を保障される」「愛され、保護される」「心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られること」

・子どもの権利条約第18条3項:「締約国は、働く親を持つ子どもが、受ける資格のある保育サービスおよび保育施設から利益を得る権利を有することを確保するためにあらゆる適当な措置をとる」

出所:林作成。

 

そのような歴史的な経緯を踏まえた上で、いま私たちには、学童保育を子どもの権利保障という点から考える視点が重要です。

まず生存権という観点から、子どもと保護者の生存権を保障していくことがあげられます。保護者の生存権というのは、子どもを適切に監護することによってその保護者が働けるという意味で生存権が保障されます。

それから、その子どもの権利全般の保障です。児童福祉法第1条に書かれていること。それから、子どもの権利条約に書かれていることです。働く親を持つ子どもが受ける資格のある保育サービス、保育施設から得る権利を有することを確保するために、あらゆる適当な手段を取るというようなことが、子どもの権利としても求めていくことが出来るのではないでしょうか。

 

■児童福祉法改正の前進面と後退面

 

図表9 児童福祉法改正前後にみる児童福祉の理念と児童育成の責任

改正前 2016年の改正後
児童福祉の理念 第1条 すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。

②すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。

第1条 全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。
児童育成の責任 第2条 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。 第2条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。

②児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。

③国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。

出所:林作成。

 

2016年の児童福祉法改正によって、「児童の権利に関する条約」や「最善の利益」という文言が児童福祉の理念や児童育成の責任に位置づけられました。一部の児童福祉関係者はそれを大変高く評価しました。これでようやく子どもの権利も日本の児童福祉法に位置付けられることになったと。

ただ、その裏で問題点もあります。解釈の仕方にもよりますが、第2条に注目をしてください。ここには、児童育成の責任がどこにあるのか、国や地方公共団体という「公」と児童の保護者との間でどう配分されるのか、ということが書かれています。

改正前は、「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。」とされていました。国や自治体の責任と保護者の責任は同等だったのです。ですけれども、今回の改正で、建前がつらつらと書かれた後に、「児童の保護者は〔略〕第一義的責任を負う。」となり、その後ろに「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、〔略〕責任を負う。」となりました。

これは、人によって受け止め方が色々なのですが、福祉の全体状況をみると、やはり公的責任の後退であって、市場化の流れに沿った改定が裏でじわりじわりと進められているのではないか、さらには、子育ての責任を家庭へと押しとどめる旧態依然の家族観の表われを強く意識させられる改正と感じています。

 

■小学生の留守番問題にみる子どもの権利保障

 

最後に、小学生の留守番について、静岡大学の石原先生のお話の中で心に残ったことをお伝えします。

日本では子どもの留守番は「当たり前」に語られています。子どもの放課後生活の自助原則が日本文化の中に浸透しており、保護者の選択や責任の問題に矮小化されてしまうと石原先生は言われます。一方米国では、子どもを一人で留守番させることは放置であり虐待であり、保護者の監督責任が問われる事態と受け止められます。

留守番というのが本当に子どもにとって成長発達を保障していくものなのか。留守番が出来るようになったから「うちの子は自立した」と言えるのか。やはりこれは、子どもに究極の自助を強いているのではないかととらえ直す必要があります。

コロナ禍で子どもにとって「密」になる集団生活を避ける手段として、留守番があらためて市民権を持って語られるような状況にありますが、個々の家庭の留守番に子どもの放課後生活を矮小化し子どもから放課後の集団生活を取り上げることは、子どもの権利の保障にとってどうなのか。子どもの権利保障を法的に、公がどう責任をもって実施していくのかということも、問い続け、追及し続けなければならないのではないでしょうか。

 

話があちこちに広がって大変申し訳ありません。

以上で私の問題提起を終わりとさせていただきます。ありがとうございました。

 

 

質疑応答

 

川村:ありがとうございました。

コロナであらためて感じたのは、子どもの放課後を守る人たちがいなければ、親も仕事に行けないわけですよね。その担い手の重要性は、公設公営であろうが公設民営であろうが民設民営であろうが同じではないでしょうか。

もちろん、それぞれの提供するサービスの内容や質というものは異なります。先ほどの資料を計算したところ、児童会館の場合には、1施設あたり100人位の人数になります。民間児童育成会の場合には大体1施設30人位でしょうか。そういう意味で、提供するサービス内容や質などは異なります。ただ、公的性格を持った事業として運営され、よい意味での規制、不十分ながらも適正な基準が設けられている。自由放任ではありません。

一つ研究上の課題だと思ったのは、公共性概念でしょうか。

もちろん、今日のお話を聞いて、民間学童保育も公共性を持った仕事であるということは共感されたと思います。そして、公共性が後退しているという面も語られました。いつの間にか、責任主体であった国や自治体が後ろに退いて、営利化の入り込む余地が拡大しているのでしょうか。公共性というからには責任主体の存在、施設の基準や職員の配置基準、そしてそれらに規定された提供されるサービスの内容が問われなければなりませんし、それから、公共性といったときには無償性というのか、なるべく廉価に皆が利用出来なければならないでしょうから、そのためには財源保障も必要でしょう。

そういったいくつかの観点から公共性というのは問われてくるのだろうとは思うのですけれども、どうもそれらが、一面では前進しているけれども、一面では、後退している印象も受けました。

まとまりのないコメントで恐縮ですが、いかがでしょうか。

林 :子ども子育て支援法による市町村条例化で補助金も大幅に増加し、良かった、前進だ、と受け止めているその一方で、裏で進んでいることをみると、やはりこの新制度というのは、学童保育を市場化していく上での下地作りという側面が見えてきます。

現在、いろんな公設事業への企業参入がどんどんと行われ、学童保育も例外ではなく一般企業が受託や指定管理を受けて参入しています。そういうところでは、学童保育事業で利益を出すことになります。私達が補助金でカツカツで運営しているような事業で利益を出す。そのために、スケール・メリットが追求されたり、指導員の専門性の蓄積を無視してベテラン指導員を解雇し安い労働力に変えていくことが行われています。それで不利益を誰が被るかといえば、保護者と子どもたちであるわけです。

冒頭で先生から紹介された守口市の学童保育の事件はまさにそれでした。

年度変わりで非常にバタバタしているときに、さらにそこにコロナがあったにも関わらず、容赦なく雇い止めをされて、未経験の指導員に入れ替えが行われました。良質な公共サービスを受けるべき子どもと保護者たちが、不安のさなかに慣れ親しんだ信頼のおける指導員から有無を言わさず引き離されさらに不安に陥れられるという、最大の不利益を被ることになりました。

川村:先ほどの図表をあらためてみると、民間企業の参入が増えていますね。確かに、一面では制度が改善され、基準も強化されているように見えつつも、実はそれが企業参入や事業で儲けをあげる下地作りになってしまっているのではないかということですね。全般的な福祉の市場化が批判されてきましたが、それが学童の現場にも起きているという問題提起ですね。

ところで、指導員の適正な労働条件の確保という観点からすると、補助金の内訳、とりわけ人件費部分は明示されているのでしょうか。

林 :明示はされていませんが、補助金として入る運営費はほぼ人件費として使わざるを得ない状況です。補助基準は、基本となる運営費と、開所日数加算や長時間開所加算、障がい児受け入れ加算などの加算で構成され、指導員の雇用、基本給と超過勤務への手当やバイト指導員の雇用などに充てられます。もっとも、支給額の低さが問題なのです。

川村:なるほど。そもそも保育料を徴収した上で学童をまわしているということは、自治体から支給される補助金だけでは十分ではない。それは言い換えれば、積算の基準が適正ではないということになる──そのような整理でよろしいでしょうか。

林 :はい。「半額受益者負担」という考え方のもと、積算された費用の半額で、補助基準が構成されています。

川村:公契約条例ゆえ、「公契約」の適用対象に目が向きがちでしたが、公共サービスのあり方全体、公共サービスの担い手全体を視野に入れる必要性が示されたかと思います。本日は、貴重な話をありがとうございました。

 

 

 

(連続学習会の記録)

三苫文靖「ALTの現場で何が起きているか(2021年度第2回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」

宇夫佳代子「学童保育指導員の働き方と労働の実態(2021年度第3回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」

境君枝「コロナ禍から見えてきた、様々な制度上の問題点(2021年度第4回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」

 

 

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