三苫文靖「ALTの現場で何が起きているか(2021年度第2回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」

札幌市公契約条例の制定を求める会(以下、求める会。代表:伊藤誠一弁護士)では、2012年の会発足以来、公契約条例の制定を求める活動を続けている。具体的には、学習会や集会の開催、札幌市との意見交換会、議員候補者への公開質問及び会派要請などである。

2020年のコロナ下にあっても、オンラインを活用して学習交流会を開催してきた。そして今年度(2021年度)においても、オンラインでの連続学習交流会を開催している。本稿は、以下の第2回目の学習会の記録である。

第2回学習会、2021年4月16日(金)18時より、オンラインにて
三苫文靖さん(札幌地域労組書記長)「ALTの現場、清掃・ごみ収集の現場で何が起きているか」

この記録は、求める会事務局で作成し、要約した内容は講師にご確認をいただいた。但し、それでも残っているかもしれぬ誤りは、事務局の責任である。また、学習交流会当日には、委託清掃・ごみ収集の現場報告もいただいたが、この記録からは割愛し、機会をあらためて報告したい。

 

札幌地域労組ウェブサイトより。

 

 

ALTとは

 

札幌地域労組書記長の三苫です。どうぞよろしくお願いします。

本日は、ALTが直面している問題について報告をします。

ALTとは、Assistant Language Teacherの略です。公立の小学校、中学校、高校で日本人教師と一緒に、英語を教えたり、異文化交流を担当している教員です。2020年度から、小学校5年生から英語が正式な教科となり、ALTは広く活用されています。

 

参考:文部科学省「文部科学省が一般的に考える外国語指導助手(ALT)とのティーム・ティーチングにおけるALTの役割」

 

2種類のALT

ALTは2種類に分かれます。1つは文科省が所管しているJETALT(JETの正式名称)で、JETプログラムにより招致されたALTです。

もう一つが、今私たち労働組合が扱っているNON-JETALTです。JET以外は全てNON-JETになります。NON-JETは各地の教育委員会が所管しています。NON-JETALTは公式な制度として認められておらず、扱いは教育委員会によって異なります。つまり、統一的な雇用ルールが設けられていません。文科省も、ALTを活用するかどうかも含めて各教育委員会にゆだねている状況にあります。今日の報告は、とくに断りが無い限りALTとはNONJETを指します。

 

札幌市におけるALT

図 札幌市におけるALT業務受発注の構図

出所:三苫氏作成。

 

札幌市では、インタラックという民間会社にALTの業務が委託されています。プロポーザル方式という、事業者側からの企画・提案内容によって受託者が決まります。

配置する教員数や授業の時間数などは札幌市が策定する仕様書によって決まります。予算も決まっています。つまり、ALTの労働条件とは、札幌市からの発注条件に規定されていると労働組合ではとらえています。形式的にはインタラックが雇用者ですから、ALTが彼らによって募集・採用され、各小中学校へ派遣されています。一般的には労働者と使用者との間で、この場合で言えばALTとインタラックとの間で労働条件が決められますが、民間委託の場合には、発注者である自治体(札幌市)が、労働条件に与える影響力が大きい。ここをしっかりおさえることが大事です。

なお、現在は派遣労働という扱いですが、札幌市のALTは、かつては業務委託でした。しかし必要な人員を集めることができずにう業務に混乱を生じさせたり、学校関係者がALTに指示を出すことが偽装請負にあたるという問題が指摘されて、現在のようになりました。

 

均等待遇に逆行する賃金問題

 

表 JETALTとNON-JETALTの労働条件等の比較

JETALT NON-JETALT
契約の年数の上限は5年間 契約年数に上限はなし*
年収は336万円からで毎年昇給 年収は230万円前後で昇給はほぼなし**
教員資格は必要なし 教員資格は必要なし
文部科学省による管理 民間企業による管理
様々な学校に配属される 小・中学校限定で配属される
社会保険加入 ほとんどが社会保険に加入させてもらえない***
32名が札幌で働いている 88名が札幌で働いている

*離職率が非常に高く、ほとんどのNON-JETALTが1,2年で退職する。
**長期で勤続しているALTから、入社以降給与がほとんど変化なしという報告をうけている。
***88人のALTのうち18人しか社会保険に加入していない。
出所:三苫氏作成。

 

JETALTとNON-JETALTは、仕事内容には違いはありませんが、賃金には大きな違いがあります。最初にこのことを強調しておきたいと思います。

JETALTは初年度から年収で336万円が保障され、社会保険にも加入ができます。それに対してNONJETは年収が230万円前後で、多くは社会保険に加入ができません。現時点で88人のALTが札幌市では働いていますが、そのうち社会保険に加入しているのは18人のみです。

JETALTは5年で終了となりますが、その間は昇給が設けられています。それに対してNONJETは、更新さえされれば、という条件付ですが、何年でも働くことは可能です。しかし、昇給制度はありません。結果、離職率が非常に高く1,2年でやめるALTが多いと聞いています。

 

NON-JETALT制度の3つの問題点

極端な低賃金

組合でとくに問題視している3つの問題のうち一つ目は、ALTの低賃金です。背景や特徴を3点ほど説明します。

 

資料 平成31・32年度 札幌市立中学校外国語指導助手派遣業務における審査項目及び配点
出所:札幌市作成資料。

 

第一に、先ほど、プロポーザル方式での入札と説明しましたが、ALTの待遇に関する点が評価の対象になっていないことがその背景にあります。ALTの派遣事業にだけしかフォーカスされていません。

待遇に関わる項目がゼロではありませんが──例えば、「ALTの勤務・労務管理体制や労働問題への対応が適切であるか」、「ALTの生活面、メンタルヘルス等へのサポート体制やALTからの苦情対応の体制が整っているか」などの項目はありますが、仮にこれらの点数が低くても、最悪ゼロでも、落札ができてしまうような代物です。

第二に、契約は12か月ですが、賃金は11か月分しか保障されません。3月と4月の賃金は月に5~8万円程度にまで下がって、事実上の失職状態になってしまいます。

札幌市の仕様書では、この期間は仕事がないという記載になっていることによります。結果、ALTたちはこの期間は、家族に食糧を送ってもらうなどして糊口をしのいでいます。

家賃を支払うのが大変、病院にも行けない、暖房費が捻出できず重ね着をして耐えている、などの声が組合員からも聞かれます。インタラックで行っているインタラックローンという貸付を利用する者もいます。

かつては夏休み、冬休みの期間も、著しく賃金が下がっていましたが、それは是正されました。しかし、春休みに関しては、大きく下がったままであります。

第三に、先に説明しましたが、社会保険未加入という問題です。彼らALTの労働時間数は週29時間50分に設定されています。お気づきになった方もおられるかもしれませんが、この時間数は、社会保険の加入要件をギリギリで満たさない時間数です。18人分だけは社会保険料の予算が積算されており、優秀なALTが選抜されて社会保険が適用されていると説明されています。

なお、2022年10月から段階的に社会保険の加入が義務化されることになっています(注)。そのことでALTも社会保険に加入できることになると思われます。

ところが、国で定めたこのことが、あたかも札幌市が独自で行った待遇改善であるかのような市の答弁が札幌市議会で行われていて、正直、あきれてしまいました。

 

(注)詳しくは、厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」を参照。

 

 

不安定な雇用

問題の二つ目は、1年という有期雇用から生じる不安定雇用という問題です。

この点については2017年度から、札幌市と受託会社との間で複数年での契約となったのですが、会社とALTの間の契約は、1年のままです。会社との団体交渉においても、複数年契約になったとしても1年での契約しか締結しないことが言明されています。

加えて、ALTなど外国人労働者の場合、解雇されたり雇い止めになると、ビザの更新ができずに帰国を余儀なくされることがあります。ですからこの点では、日本の労働者以上に、会社に対してモノを言えなくなる構図があります。

 

教育の質の劣化

問題の三つ目は、教育の質の劣化です。

端的に言えば、生徒に教える立場にある教員がまともに生活をしていけない状況で果たしてまともな授業ができるのか、という問題です。札幌市では、仕様書は非常に事細かに決めて指示を出してくるのですが、財源的な保障がないという状況です。

英会話のプライベートレッスン、翻訳の仕事など、多くのALTは、ALTの仕事以外でアルバイトをして生計を立てています。会社では、表向きは兼業を認めていませんが、ALTが兼業をしていても口は出さないという対応です。休息を本来は取るべき時間に副業を行っているような状況では、教育の質も下がらざるを得ないのではないか。組合ではそのことを危惧しています。

加えて言えば、会社には、休職制度などがありません。ですから、ALTがケガや病気で仕事が出来なくなると、それで終わりです。

離職率も高く、1年で8割ほどが辞めたという年もあります。また、配置転換も頻繁に行われています。

結局、離職者が多いためパズルのように組み替えが行われるのです。その上に、派遣の3年ルールに縛られるため、どんなに長くても3年で配置転換となってしまいます(注)。制度上は、派遣先である札幌市で直接雇用される、期限のない無期雇用に派遣元でなる、などの道がありますが、およそ選択されることはありません。

 

(注)厚生労働省「派遣で働く皆さまへ」を参照。

 

一点補足すると、ALTに札幌市が投じる予算は、全国におけるその他の自治体・教育委員会でのALT予算に比べて、最も低いそうです。この事実は、団交の中で会社側が説明をしてきたことです。インタラックでは、全国500位の自治体でALT事業を行っているそうなのですが、札幌市が、予算が最も少ない自治体であると団交で回答をしてきました。だから改善の余地がないのだというのが会社側の主張です。

 

 

発注者である札幌市・教育委員会の姿勢が問われている

図 文部科学省・教育委員会・委託(された)会社インタラックの無責任体制

出所:三苫氏作成。

 

 

 

私は、ALT問題に取り組んで3年ほどになります。

ほかの労働組合との共同で、文科省との直接交渉にも参加したことがあります。しかし、文科省からは、うちの所管ではなく、教育委員会が決めることです、と回答され、会社との団体交渉では、教育委員会からの仕様書・指示に私たちは従っているだけであって、教育委員会が予算をつけてくれるならいくらでも賃金を改善する、と回答されています。

他方で、教育委員会に交渉の申し入れをしたところ、委託先の労働者のことはあずかり知らぬ、と回答されています。

具体的には以下の6項目について、要請をし、札幌市・教育委員会に回答を求めています。

1.札幌市においてのNON-JETALTの役割と位置付けについて
2.低賃金問題、官製ワーキングプアについて
3.社会保険加入について
4.直接雇用について
5.教育の質について
6.NON-JETALTの労働契約および企画審査時の労働条件に関する配点について

 

しかしながら、札幌市からの回答はわずかに以下の文章です。

令和3年(2021年)2月18日に提出された要請書に関しては、株式会社インタラック北日本が対応すべきものであり、本市は、応じるべき立場には当たらないため、回答はいたしかねます。

 

ALTの労働条件の事実上の決定者ともいえる札幌市・教育委員会がこのように非常に消極的な姿勢なのです。

発注者である札幌市・教育委員会の主体的な関わりこそが問題解決には不可欠であり、そのためにも、公契約条例(注)が必要です。

 

(注)公契約条例については、連合による公契約条例のパンフレット(「公契約条例をつくろう/公契約条例で地域の活性化」2016年2月発行)を参照。

 

ALTの労働条件改善のため、札幌地域労組は引き続き頑張っていきますので、ご支援をどうぞよろしくお願い致します。

ご清聴をありがとうございました。

 

 

 

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