川村雅則「地方自治体における非正規公務員・公共民間労働問題」

働くもののいのちと健康を守る全国センターが発行する『季刊働くもののいのちと健康』第87号(2021年5月25日号)に掲載された原稿を転載します。エッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちを、あなた自身が暮らすマチで「発見」することから始めましょう。お読みください。

 

 

1.はじめに

新型コロナウイルス(以下、コロナ)禍で注目されたエッセンシャルワーカーの非正規問題という本号の特集の中で本稿に与えられた課題は、地方自治体における非正規公務員と、自治体発注の建設工事・委託業務・指定管理など公共民間労働者に関する制度問題の報告である。両者は、自治体が提供する公共サービスに従事する労働者とくくることも可能だろう。

両者をセットで取り上げるのは、自治体は、住民への公共サービスの提供に、公務員のほか、多くの民間事業者・労働者を必要とする。自治体の非正規公務員はいまや全国で100万人を超える。この問題への取り組みは当然不可欠だが、もう一つの安上がり手法であるアウトソーシングを誘発するおそれが高い。その際に用いられる競争入札制度は、労働条件の悪化を招くだろう。しかもそれが「最少経費最大効果」規定で正当化されている。両問題にはセットで取り組むこと、とくに公共サービスの産業化が強力に進められる状況下では公契約条例の制定を提起したい。

補足すると、第一に、エッセンシャルワーカーという言葉で想定する職種の範囲は人によって様々だろう。本稿でも、仕事のもつ社会的有用性にもかかわらず低い労働条件で働かされているという点にフォーカスした言葉として使っている。

第二に、民間非正規の現状や法制度も視野に入れる。新たに導入された非正規公務員制度には欠陥が多く、せめて民間非正規の制度設計が必要であり、その実現には公務と民間(以下、官民)の労組の連携が必要である。

最後に、本稿では、各種の取り組みを進める上での基礎となる情報の収集・整理作業を提起している。詳細は、参考文献にあげた拙稿を参照されたい。

 

2.拡大する非正規公務員と、その把握という課題

表1 自治体における非正規公務員の規模

 

任用の適正化を掲げ新たな非正規公務員制度(会計年度任用職員制度)が導入された。総務省の最新の調べによれば、短期間・短時間勤務者を含む非正規公務員数はおよそ112万6千人で、そのうち会計年度任用職員は約90万1千人である(表1)。短期間・短時間勤務者を除いても62万2千人に及ぶ会計年度任用職員の約9割はパートタイム型で、性別は4分の3が女性である。「その他」を除く主な職種は「一般事務職員」18.3万人、「技能労務職員」6.2万人、「保育所保育士」5.8万人、「教員・講師」3.9万人、「給食調理員」3.5万人と続く。

我々の課題は、こうした公務の非正規化を自らの暮らすマチのよりリアルな実態として把握することだ。川村(2021)にまとめたが、総務省調査データを活用すればその基礎的作業は可能だ。

表2 団体別にみた非正規職員と正職員の人数及び非正規職員割合

 

表3 「自治体群」の非正規職員割合

 

例えば、北海道及び道内市町村(以下、道市町村。合計で180団体)では、「一部事務組合等」を除く数値でみると(表2)、2016年には、「自治体群」全体で2万8552人であった非正規職員は、2020年には、2万9536人にまで増加した。短期間・短時間勤務者を含む全員でみると、非正規職員数はじつに合計46,503人である。またその割合は、25.5%と4人に1人の割合である。「市群」や「町村群」では38.7%、45.6%に及ぶ(短期間・短時間勤務者を除いても、30.4%、36.1%)。

なお、1団体の平均非正規割合は42.6%で、非正規が50%以上の団体が44件。短期間・短時間勤務者を除いて計算してもそれぞれ34.0%、10件であった(表3)。

 

3.非正規労働者の不安定な雇用

1)会計年度任用職員制度導入による有期雇用の厳格化

さて、期末手当の支給が可能になるという喧伝に反して、この新たな非正規公務員制度は多くの問題をはらむ。

第一に、民間で「制度」の整備が進む雇用の安定(労働契約法第18条に基づく無期雇用転換)に対して、(労使対等の雇用関係ではなく、任命権者が優位とされる公法上の任用関係であるという前提問題は割愛するにしても)新たな職に就くという解釈で毎年度の条件付採用期間(試用期間)が設けられ、かつ、一定期間ごとに公募制が採用されるなど、有期雇用が厳格化された。総務省は、国の非正規公務員にならって、3年に1度の公募制の導入を助言・指導したが、より短い期間で公募制を導入した自治体も少なくなかった。道市町村では、半数(91団体)が、再度任用にあたり毎回公募を行うと総務省調査に回答していた。こうした任用の「適正化」で安心して働くことが果たしてできるだろうか。

2)進まぬ民間での無期雇用転換

もっとも、ではその民間において無期転換(雇用安定)の取り組みは進んでいるだろうか。総務省「労働力調査」によれば、2018年から2020年の間で、非正規雇用者2000万人強に対して無期雇用者(「無期の契約」)と回答したのは600万人前後、27,28%台を推移している。有期雇用者(正規雇用者を含む)のうち、5年以上の勤続者が600万人近く存在する(2020年平均値で582万人、有期雇用者全体に占める割合は42.2%である)ことから考えても、無期転換の動きが止まったのではないかという印象をもつ。

卑近な例で言えば、インターネット上で公開されている北海道内の7つの国立大学における非正規(有期)雇用者の就業規則を調べてみたところ、いずれも、雇用更新は5年を超えることはない、とうたわれていた(学長や大学が認める場合はその限りではない、という例外規定が設けられていたが、原則と例外が逆転していると言えよう)。無期転換制度の新設を機に、逆に、5年雇い止めが非正規の現場に導入・拡大されているのではないか。

 

4.非正規労働者の賃金実態と、賃金に関する課題

1)会計年度任用職員における低く不公正な賃金制度

賃金はどうか。会計年度任用職員制度では、フルタイム労働者に比べて勤務時間が1分でも短ければ、支給されるのは、給与ではなく報酬と費用弁償で、かつ、支給できる手当は期末手当のみ、という処遇体系が導入された。パートタイム・有期雇用労働法が導入され、不十分ながらも均等待遇「制度」の整備が進む民間との乖離がここでもみられる。

 

表4 職種別にみた、会計年度任用職員の1時間あたりの換算額(1000円未満、中央値)

 

しかも賃金水準が低い。道市町村の会計年度任用職員の1時間あたり換算額(中央値)を主な職種別にみると、ケア職では、看護師1391円、保健師1368円、保育所保育士1088円、放課後児童支援員1055円で、人数規模が最大の事務補助職員では940円にとどまる(表4)。各地で取り組まれている最低生計費調査は、どこで暮らしても時間あたり1500円程度の最賃が必要だと示唆するが、教員・講師(1429円)でもそれに達しない。

2)公共民間の領域での賃金問題

公共民間の領域でも同じ課題がある。川村(2019)から札幌市のデータを使って述べると、第一に、400件を超える指定管理導入施設で働く職員3770人のうち2465人、つまり3分の2弱は非正規雇用である。また賞与や諸手当を除くいわゆる基本給を基礎に算出した彼らの賃金水準(平均値)は、正規雇用者で1465円、非正規雇用者で967円である。

第二に、委託業務のうち建物清掃業務、建物警備業務、建物設備運転・監視等業務従事者それぞれの実績賃金は、865円(総合評価落札方式を除く)、876円、1126円である。賃金の積算で使われている建築保全業務労務単価1050円、1188円、1650円に比べると大きな差がある。

第三に、建設工事については、理念型条例が2016年12月に制定された旭川市の経験・データが参考になる(同市のウェブサイトを参照)。事業者ルートであるとはいえ、同市発注の工事で働く労働者の大規模な賃金調査がすでに2回(2019・2020年度)行われており、これらの調査では、公共工事設計労務単価に比べて平均で7割程度の賃金支給にとどまることが明らかにされている。

3)賃金を明らかにするという課題

ここで強調したいのは、非正規公務員と公共民間労働者の両領域ともに、賃金を明らかにするという課題の重要性である。具体的には、賃金の水準はもちろんのこと、賃金の決め方、とくに公共民間の仕事では何が積算時に使われているのかを明らかにすることである。賃金が低いのは、そもそも決め方・算出根拠に問題があるかもしれないのだ。民間では、格差の説明義務が使用者に課されたこと(パートタイム・有期雇用労働法)も活用できるだろう。

なお、公共民間のうち業務委託や指定管理の領域では、国が設定する単価(公共工事設計労務単価、建築保全業務労務単価)のほか、非正規公務員の賃金が、予定価格(人件費部分)の算出根拠に使われていることが多いように思う。例えば、非正規公務員の保育士の賃金を、委託業務・指定管理で働く学童保育指導員の賃金算出根拠に使う、といった具合に。これでは賃金水準が低くなるのも当然だ。非正規公務員と公共民間労働者という二つの領域の問題にセットで取り組む必要性がここでも確認されよう。

関連して強調したいのは、我々が実施できるのは限られた調査だが、それを梃子にして、責任をもって賃金調査を行うよう発注者である自治体に働きかけることの重要性だ。理念型条例が制定された旭川市での経験がそれであり、そうした取り組み・調査結果によって自治体自身の認識も変化していくと考える。

また、建設業の働き方改革の推進、発注者の責務などを掲げたいわゆる担い手三法の第二次改定など、国の政策動向なども追い風として活かすべきだ。

 

5.まとめに代えて

この間の地方行政改革──より広くは新自由主義政策の帰結が、非正規公務員の拡大であり、ケア労働者の低労働条件であったとするならば、目指すべきはその転換である。ケアとその担い手を軽視することで、公務の非正規化や社会保障費の抑制は可能になった。職員配置基準や提供されるケアの質は低位に抑制され、当該労働者の自己犠牲的な努力に依存する体質が作られてきた。その状況の改善は、ジェンダー格差や性別役割分業の解消に貢献しうるだろう。ケアを男女ともに担うことができる社会の構築が必要である。

1)非正規問題(不安定雇用、低く不公正な賃金)の改善

非正規問題の課題の第一は雇用安定である。民間では、労契法に基づく無期転換運動が、公務では、無期転換制度の創設を念頭におきながら、さしあたり、合理的な理由なき雇い止めを更新時(再度の任用時)において阻止し、公募制の期間延長ないし撤廃を実現することが課題となるだろう。2021年は、労契法第18条見直しの時期にあたる(附則によれば「その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」)。見直しが前進するかどうかは、労組の取り組みにかかっている。

課題の第二は賃金である。賃金の全体の底上げと、均等待遇の実現である。非正規公務員は、パートタイム・有期雇用労働法の適用外であるとはいえ、官民ともに、職務評価作業に基づく均等待遇がリアルな課題として強く意識される状況にあるのではないか。

また2020年10月の最高裁判決では、非正規労働者への賞与や退職金の不支給を容認する判決がくだされたが、そもそも、賞与支給制度が適用されている非正規雇用者は35.6%(正規雇用者では86.8%)、退職金制度は13.4%(同77.7%)という現状にある(厚生労働省「令和元(2019)年 就業形態の多様化に関する総合実態調査」)。不合理な賃金格差の洗い出しを各職場で進めよう。

なお、職種別賃金の観点から言えば、以上でみてきた非正規公務員や公共民間労働者の賃金の低さに、民間労組も無関心ではいられないだろう。

2)労働者の発言力の強化、公共民間領域の独自課題

数多くの課題を進める上でも、働くもののエンパワーメントが不可欠である。それは労働組合の結成、集団的労使関係の構築によって可能となる。その際に留意すべきは、公共民間の領域では、発注条件を通して、実質的な労働条件決定者にあたる自治体との交渉のチャンネルが存在しないことで、労働条件決定、労使関係の空洞化とも言うべき事態が生じていることだ。この独自課題の克服が求められる。

もっとも、残念なことに、非正規公務員や公共民間労働者を組織する労組(自治体労組)は少ない。また、理念型の条例を含めても、公契約条例が制定に至ったのは全国で50超にとどまる。ディーセントワークを掲げる自治体、自治体労組が必要だ。

ところで、公共民間の領域では、補助金が投入されている事業も視野に入れる必要がある。コロナ禍で注目を集めた民間学童保育や、誘致が進むコールセンター事業が例えばそれだ。「公契約」に固執するのは適当ではない。

また、賃金だけでなく安全衛生の規整・規制も重要だ。国や自治体が発注する仕事でも過労死が発生しており、コロナ禍では感染の危機が放置されている。

なお、本稿でみてきた課題の解決には、議員・議会の姿勢が鋭く問われよう。逆を言えば、議会内に理解者を増やすことが我々の課題であることを強調したい。

3)関連情報の収集・発信と交流

当事者のエンパワーメントの観点からも、関連情報の収集・発信や交流を広げていこう。本稿テーマで言えば、NPO法人官製ワーキングプア研究会の研究と実践が参考になる。公務非正規女性全国ネットワークなど、非正規公務員当事者による取り組みも始まった。筆者らも関係者と試行的に、実践を始めるところだ(http://roudou-navi.org/)。

現状を明らかにするという作業は、当事者へのアプローチ、関係団体との共同、そして自らの認識を変える契機になると思う。全国的な取り組みを始めよう。

 

 

(参考文献)

 

川村雅則(2019)「公契約条例に関する調査・研究(Ⅲ)」『北海学園大学経済論集』第67巻第2号(2019年9月号)

川村雅則(2020)「労働界における官民共闘で、雇用安定と賃金底上げ・不合理な格差是正の実現を──非正規雇用をめぐる2020年の労働組合の課題」『労働総研クォータリー』第116号(2020年5月号)

川村雅則(2021)「道内の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員の任用実態」『北海道自治研究』第626号(2021年3月号)

上林陽治(2021)『非正規公務員のリアル──欺瞞の会計年度任用職員制度』日本評論社

竹信三恵子、戒能民江、瀬山紀子編著(2020)『官製ワーキングプアの女性たち──あなたを支える人たちのリアル』岩波書店

 

 

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