川村雅則「労働界の官民共闘で非正規雇用問題の改善を」

筆者も会員になっているNPO法人官製ワーキングプア研究会のReport第33号(2021年1月号)への寄稿です。拙稿との「重複がある」と文中に書きましたが、拙稿を「要約した」がより正確です。労働界への提起(要約版)としてご利用ください。

 

PDF版のダウンロードはこちらから。

http://www.econ.hokkai-s-u.ac.jp/~masanori/20210129_kawamuramasanori

 

この間、非正規雇用をめぐる問題の解決にあたって労働界における官民共闘を提起してきました。官と民のそれぞれの制度政策の動向や両者の間の差異を意識してのことです。2020年度に入り、新たな非正規公務員制度である会計年度任用職員制度が始まりました。また民間では、正規と非正規の賃金格差に関する司法判断が蓄積されてきました。本稿は、2020年10月の賃金格差をめぐる5つの最高裁判決をうけて行われた企画にオンラインで参加した際の発言内容(問題提起)をまとめたものです。参考文献にあげた川村(2020a)(2020b)との重複があることをお断りしておきます[1]

 

有期雇用の濫用をなくす──民間部門で進む制度

非正規雇問題の主な一つが有期雇用の濫用です。仕事に期限がないのになぜ半年や一年といった有期で雇い、更新を繰り返すのか、という問題です。終わりの明らかなプロジェクト事業や季節的な仕事であれば、有期で人を雇うことに合理的な説明がつくわけですが、わが国では、雇用のジャストインタイムが追求され、有期雇用が蔓延してきました。そうした状況を是正するために、2012年の労働契約法改定で第18条が設けられました(後述の図1も参照)。

 

(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)

同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間(「通算契約期間」)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。〔一部、略〕

 

有期雇用から無期雇用への転換です。

初期の頃には、無期雇用転換は、正規雇用化と誤解されることがありましたが、そうではありません。無期雇用転換は賃金面での改善を自動的にもたらすものではありません。しかし、有期雇用が無期雇用に転換することは、働く者の発言を支え、発言力を増すためにも不可欠の条件です。

 

無期雇用転換はどこまで進んだか

さて、法律の定め通りに推移していけば、多くの有期雇用労働者は、2018年4月から無期雇用転換権が発生し、19年4月から無期雇用に転換しているはずです。

ところが、政府統計をみる限り、期待したほどには非正規雇用者中の無期雇用者が増えておりません。総務省「労働力調査(2019年平均値)」によれば、非正規雇用者2165万人のうち、無期雇用者は616万人、有期雇用者は1194万人、そして、雇用契約期間の定めがあるか分からないという者が325万人です。調査内容・項目に変更が生じているので、過去にさかのぼっての推移をみることはできませんが、いずれにせよ、非正規雇用者中の無期雇用者は現時点で3割に満たないという状況です。

背景には、5年超を前にした雇い止めが行われていることや、無期雇用転換を実現するための申し出ができない労働者が多数いることなどが考えられます。

前者の脱法行為は、大学職場でも珍しくありません。卑近な例で申し上げますと、北海道大学があげられます。北海道大学では、非正規雇用者の5年雇い止めがルール化されています[2]同大学の契約職員の就業規則から一部を抜粋します[3]

 

(労働契約の期間及び更新)

第6条 労働契約の期間は、原則として1年以内とする。〔略〕

2 大学は、労働契約の更新を求めることがある。ただし、労働契約の期間は、大学が特に必要と認める場合を除き、当初の採用日から起算して5年を超えることはしない。

 

いわゆるキャリア教育の展開が大学設置基準には定められています。また、少なからぬ大学は現在、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)の推進を掲げていますが、北海道大学もその一つです。そういった組織で労働者の機械的な雇い止めが遂行されているとは、悪い冗談としか言いようがありません。

後者も同じく「労働力調査(2019年平均値)」で確認すると、有期雇用者(正規雇用者中の有期雇用者を含む)1421万人のうち593万人、つまり、41.7%が、在職期間を5年以上と回答しています。

以上をまとめると、民間部門では、雇用安定に向けた制度が整備され、取り組みも一定程度前進したものの、思ったほどには雇用安定が実現されていない、といったところでしょうか。有期雇用の濫用にあまりに慣れすぎた結果、その不合理性に労使ともに鈍感になっていないでしょうか。

 

雇用安定で逆行する会計年度任用職員制度

図1 民間非正規と公務非正規の制度設計の違い──雇用にみる官民格差

注:公務におけるaの墨塗箇所は、条件付採用期間(試用期間)。b の点線は勤務実績に基づく能力実証が認められた箇所。cの実線は、公募制による能力実証が必要とされる箇所。

出所:川村(2020b)より。

 

もっとひどいのが会計年度任用職員制度です。同制度の導入で、臨時・非常勤職員が法律上位置付けられたことや期末手当の支給など賃金制度の改善があったことは事実です。ただ、雇用安定という点に着目すれば、有期雇用の濫用が法定化されたことは否めません(図1)。

同制度では、民間でいう雇用更新とは異なり、新たな職に就くという解釈の下で再度の任用が認められました。しかし、新たな職に就くのだからと毎年、いわゆる試用期間が設けられ、しかも再度任用にあたって必要な、客観的な能力実証の手法として、一定期間ごとに公募制を経ることが必要とされました。具体的なその期間は、国の非正規公務員制度にならって3年です。総務省による事務処理マニュアルから抜粋します[4]

 

○会計年度任用職員の採用に当たっては、任期ごとに客観的な能力実証を行うことが必要である。

○その際、選考においては公募を行うことが法律上必須ではないが、できる限り広く募集を行うことが望ましい。例えば、国の期間業務職員については、平等取扱いの原則及び成績主義を踏まえ、公募によらず従前の勤務実績に基づく能力の実証により再度の任用を行うことができるのは原則2回までとしている。その際の能力実証の方法については、面接及び従前の勤務実績に基づき適切に行う必要があるとされている。

 

不十分ながらも雇用安定の道が切り開かれた民間部門に対して、公務部門では、無期雇用転換などなく、3年という一定の年数で労働者は公募制に挑戦しなければなりません。労働組合が頑張ったところでも、3年を延長させたのが実績だと伺っています。パワハラ公募[5]とも言われるこうした制度が「国」から「地方」へ広がりました。

そもそも公務員は、労使対等の雇用関係ではなく、任命権者の意思が優先される公法上の任用関係にあるという、労働者に不利な法解釈の下にありながらその一方で、問題を自ら解決する手を縛られている(労働基本権を制約されている)状況にあります。民間ではおよそあり得ない──これはあえて皮肉を込めた言い方ですが、同じ非正規でも、公務員では、民間労働者にはおよそありえない制度設計の下で働いていることになります。

 

各地で非正規雇用問題解決のための官民共同の取り組みを

非正規雇用問題の改善にあたり、今このとき(2020年度)というのは大事なときです。

第一に、無期雇用転換が本格始動した18,19年から数年を経て、雇用安定を拡大するのか、脱法行為を定着させてしまうかの岐路にあります。

関連して言えば、改定労契法第18条の施行後8年を経過した時点、つまり2021年度以降に、「必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と法の附則事項に定められています。その時期は間近です。

第二に、労契法第20条とパートタイム労働法を前身とするパートタイム・有期雇用労働法が施行されました。仕事を軸にした賃金決定、その前提となる職務評価の考え方を根付かせていきましょう。

そして第三に、2020年度から始まった会計年度任用職員制度は、繰り返すとおり、民間ではあり得ない設計になっています。その不条理を浮き彫りにしましょう。

雇用面では、さしあたり、最初の公募制が起動される、あとおよそ2年後を見据えた取り組みが必要ではないでしょうか。また紙幅の都合で省略しますが、賃金面でも民間の非正規制度を追いかけましょう[6]

官の不条理を浮き彫りにするためにも、民間で進む制度設計の趣旨を完全に実現することが必要になります。

コロナを奇貨に、人びとがオンラインでつながることは日常となりました。情報を交流し合い、すぐれた取り組みに学びながら、取り組みを全国各地で進めていきましょう。

 

 

(参考文献)

川村雅則(2020a)「地方自治体における官製ワーキングプア問題と、労働組合に期待される取り組み」『POSSE』第44号(2020年3月号)

川村雅則(2020b)「労働界における官民共闘で、雇用安定と賃金底上げ・不合理な格差是正の実現を──非正規雇用をめぐる2020年の労働組合の課題」『労働総研クォータリー』第116号(2020年5月号)

 

 

[1] 拙文は、筆者の研究室のウェブサイトで閲覧可。

[2] 詳細は、北海道大学教職員組合のウェブサイトを参照。

[3] 国立大学法人北海道大学契約職員就業規則。インターネット上で閲覧可。

[4] 総務省「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアルの改訂について(通知)」2018年10月18日の問6-2への回答。

[5] 国公労連『非正規公務員を差別しないで! 国の非常勤職員の手記』2019年9月発行

[6] 楽観視はしていませんが、民間では、同一労働同一賃金の機運が高まっており、少なくとも、正規か非正規かという雇用形態の違いや労働時間数の違いから賃金をストレートに導くことへの批判的認識は蓄積されてきていると思います。フルタイムかパートタイムかで異なる処遇体系が容認された会計年度任用職員制度は、この点でも問題ではないでしょうか。

 

(関連記事)

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