労働相談

よしね室長の労働相談!最前線⑦ 非正規差別を許さない

札幌ローカルユニオン「結」の吉根です。

パートタイム・有期雇用労働法という法律が2020年4月から施行されているのを皆さんはご存じですか? 中小企業での施行もこの(2021年)4月から始まります。「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差」を禁止する法律です。

この法律の詳しい内容の紹介は省きますが、今、非正規雇用者の低すぎる賃金が社会問題になっていることは皆さんもご存じでしょう。この問題の是正は労働組合の主要な課題の一つであって、2020年10月に出された、5つの非正規賃金格差訴訟での最高裁判決(ご存じですか?)にも、労働組合は当事者として関わっています。

私たち「結」の取り組みを紹介します。

 

休職期間にも格差!

 

2014年、運輸会社で働くNさんから休職期間満了による退職問題で相談がありました。Nさんは、6か月の期間雇用の契約社員で5年勤続・10回の契約更新をしていましたが、私病による休職期間の満了で退職扱いにされたということでした。

Nさんによれば、正社員に比べると契約社員の労働条件は格段に低いのに、労働時間などの働き方や仕事内容・仕事量に関することは、正社員と全く同じとのことでした。

しかも就業規則では、契約社員についての休職期間は1か月間であるところを、正社員の場合は、勤続年数によって1年から2年の間となっていました。契約社員は、病気やけがで休むことのできる期間が正社員に比べて短く、今回の退職も、彼がもしも正社員であれば、退職に至らずには済んだのです。

冒頭で紹介した「パートタイム・有期雇用労働法」の前身である労働契約法は、第20条で、「期間の定めがあることによる不合理な労働条件」を禁じています〔現在は、パートタイム・有期雇用労働法に統合〕。

 

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

第二十条  有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

Nさんには組合に加入してもらった上で私たちは、この法律も根拠にして組合側は、「労働契約法第20条に抵触すると考える」と会社に対して団体交渉を申入れました。退職の撤回を勝ち取ることはできませんでしたが、3か月相当の解決金で和解を勝ち取ることができました。Nさんが泣き寝入りをすることなく次の職探しに向かうことができてよかったと思います。

 

要件を満たしても社会保険に加入させず

 

 

組合員のTさんは、リサイクル事業を行う会社に勤務しています。2005年の入社で、雇用形態はアルバイトという扱いです。

Tさんの業務は、中古で引き取った機器の洗浄、清浄作業が主ですが、現業部門の中で唯一の女性労働者です。会社は、Tさんをアルバイト扱いしていますが(アルバイトという呼称を使っていますが)、彼女は常用雇用で、労働時間は、土曜を除き9:00~17:30、休憩が1時間、実働7時間半です。

この労働時間からもわかるとおり、Tさんは、フルタイム労働者と同じ社会保険(健康保険、厚生年金)への加入要件を満たしています。にもかかわらず、社会保険への加入を会社から拒否され続けていました。これは、明確な法律違反です。しかしながら会社は、Tさんからの申し出も、労働基準監督署からの臨検指導も、無視続けてきたのです。

2013年、弁護士からの紹介でTさんは「結」に加入し、その年の団体交渉で、ようやくTさんの社会保険への加入手続きを実現しました。これが労働組合の力です。

しかし、Tさんに対する差別は、社会保険だけではありませんでした。Tさん(非正規労働者)をサポート札幌という退職金制度に加入させない、正社員には支払っている各種手当て(住宅手当5000円、皆勤手当5000円、給食手当3000円)をつけない、そして、賃金は時給制で800円〔当時〕という低さでした。

時間外労働がほとんど無いためTさんの賃金は月13,14万円程度にしかなりません。同じ職場の年下の男性社員(時間外労働20時間程度)でも、20万円が支給されています。組合は、サポート札幌への加入は2015年に実現させましたが、賃金差別の是正については、団体交渉で繰り返し要求をしても、会社は、経営状態を理由に頑なに拒否をしています。さらに「Tの業務は軽作業だから、手当は付ける必要はない」と主張をしています。

会社では、正社員(男性)が大型の機器の買い取り、般出入や修理、Tさんが小型の機器の洗浄と製品化の業務を行っています。油や焦げ付きで汚れきった中古の機器を、金属のへらやワイヤブラシでこそいで、販売商品にするためにピカピカに磨きあげるTさんの業務は重労働です。実態を無視し、Tさんの業務を軽作業だとして、賃金・処遇を差別することは許されません。

組合・Tさんは、2018年、格差是正を求めて未払賃金等請求訴訟を起こしました。

 

格差(非正規雇用者の賃金・処遇の低さ)は合理的か?

 

2018年6月、正規雇用者と非正規雇用者の格差是正を求める2つの訴訟に対して、最高裁は判決を出しました。ここでは省略しますが、長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件で調べてみてください。

そして、冒頭に述べたとおり、2020年10月に最高裁は、同じく非正規雇用者の格差是正に関する5つの訴訟に対して判決を出しました。日本郵便事件(3件)、大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件と呼ばれています。

大阪医科薬科大学事件では、元アルバイト女性が、フルタイムで同じ内容の仕事をしているのにボーナスが出ないのはおかしい(法が禁止する不合理な格差である)として訴えていたのですが、大阪高裁の6割支給判決を覆し「ボーナス不支給は不合理と認められない」という判決を出しました。また、メトロコマース事件では、非正規雇用者には退職金が不支給であるのはおかしいと当事者が訴え、東京高裁では一定額の退職金支給が認められていたのが、最高裁では覆されるという結果になってしまいました。

それに対して日本郵便事件では、各種の手当・休暇(扶養手当、年末年始勤務手当、夏期冬期休暇、祝日休、病気休暇)の付与が認められました。非正規雇用者に対する賃金・処遇の格差が当然であるかのごとく蔓延している社会にあっては、快挙といってよいでしょう。私たち「結」もこの成果に続きたいと思います。

 

いかがでしょうか。

皆さんに考えていただきたいのは、非正規雇用者に対する賃金・処遇の格差は、どのような条件であれば、あるいは、どのような内容であれば、容認されるのか/されないのかということです。

私たち「結」の組合員であるTさんに対する会社の賃金・処遇の格差は、合理的な格差なのか、そうでないのか、そして、合理的と言える/言えないのであれば、その理由はいかなるものか。大事な問題ですからぜひ考えてみてください。

組合は、非正規雇用者への差別、そして、女性労働者に対する差別を許さない取り組みを強化していきます。

 

皆さんも職場でトラブルにあったときには、労働組合にご相談を。

札幌ローカルユニオン「結」 は皆さんの力になります。

 

以上、札幌ローカルユニオン「結」機関紙「よしね室長の労働相談!最前線」no.3、no.28、no.40、no.66より。

 

 

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