労働相談

よしね室長の労働相談!最前線⑬ 職場でのトラブルには労使対等原則の活用を

札幌ローカルユニオン「結」の吉根です。

新年度が始まりました。

長い職業生活の始まり、という方も多いのではないでしょうか。

職場でのトラブルに対応する力もぜひ身に付けてくださいね。

今日も、そんな力を身に付けるのに役立つお話しです。

 

 

 

 

労働契約は書面で締結を

結の組合員Aさんが、求人誌で仕事を決めました。

B社での4か月間の期間雇用アルバイトで、仕事の内容は、漁港から水産加工場までの運輸業務です。同誌による労働条件は、基本給35万円で、残業代は別途支給、労働時間は8:00~17:00、休日は日曜日と記載されていました。B社は、Aさんの採用面談時に書面による労働条件明示を行わず、労働契約書の締結も求めず、労働条件通知書などの交付も行いませんでした。

労基法、労契法は、使用者に労働条件の明示義務を課し、特に労働契約の期間(期間の定めの有無、定めがある場合はその期間)、就業の場所・従事する業務の内容、労働時間に関する事項(始業・終業時刻、時間外労働の有無、休憩、休日、休暇など)、賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切・支払の時期に関する事項、退職に関する事項(解雇の事由を含む)については、書面を交付して明示することを義務づけています。

 

労働基準法

(労働条件の明示)

第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

③ 〔略〕

 

労働契約法

(労働契約の内容の理解の促進)

第四条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。

2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

 

さて、仕事を始めたAさん。最初の月の給与が出ましたが、給与明細には、勤務時間が181時間と記載されて、支給された金額は27万1500円でした。35万円と言われていたのに、、、これはおかしい。

しかも、勤務時間は181時間ですから、Aさんは残業をしていることになり、その分も給与が支給されなければおかしいです。そこで計算をしてみました。

まず、今回支給された27万1500円を181時間で除すと、時給は1500円ということになります。

しかし、求人誌で示されていたのは、35万円という金額です。この場合の時給を計算すると、35万円÷173.8時間(法定労働時間)=2014円です。

B社は、Aさんに求人誌の労働条件しか明示していません。

したがって賃金は、上記のとおり、基本給(通常の労働の賃金)が35万円で、173.8時間(法定労働時間)で除した2,014円が時間単価となります。

加えて、Aさんは181時間働いているのですから7.2時間(181-173.8)分の時間外労働が支給されなければなりません。

つまり、基本給35万円に、時間外手当18,126円(2014円×7.2時間×割増1.25倍)を足し合わせた36万8126円をB社はAさんに支払う義務がある、となるわけです。

 

Aさんは現在、結とメールで協議をしながら不払いの是正をB社に対して要求しています。

ちなみに、採用面接時に労働契約書の締結や労働条件通知書の交付をきちんと行う使用者は残念ながら多くありません。しかも、労働者がこれを要求した場合、うるさいやつだと思われて採用を忌避されてしまうのが実態です。

労働法に書かれたことが守られていくような社会にしていかなければなりませんんね。

 

労働条件の不利益変更にご用心

労働条件の不利益変更問題は何度か扱ってきました。

昨年(2022年11月)、労働条件の不利益変更と思われる相談が2件入りました。どちらの事件でも、相談者は、組合に加入し団体交渉を通じての解決を目指しています。

1件目は、福祉施設で生活支援員として正社員の雇用契約を締結したAさん(女性)。3か月の試用期間を終了する前に、試用期間終了後はアルバイト勤務になっていただくと通告された事案です。Aさんは、会社による一方的な労働条件変更通知などの行為によって「適応障害」となってしまい、10月の後半から勤務が出来なくなってしまいました。

Aさんを正社員としない理由について社長は、Aさんが生活支援員としての仕事をサボタージュしていること、仕事の適格性が無いことをあげています。

しかし、この施設では8月に施設を開所してから利用者がおらず、生活支援員としての業務自体がありませんでした。

そこで結では、Aさんに組合に加入してもらい、労働条件不利益変更について団体交渉を申入れ、さっそく、会社側(社長と代理人弁護士)と組合(Aさんと私)とで団体交渉を行うことに。

すると、、、

団交の冒頭で、会社による不適切な行為について代理人から謝罪がありました。

そして、試用期間後も正社員及び生活支援員として雇用継続する、と申し出があったのです。

さらには、欠勤した10月分の賃金と、診断書で11月まで休養を要すとされた期間の賃金は、補償すると回答が出されました。

どうでしょうか。

適格性がなくアルバイトでの継続雇用とされていたのが、労働組合による交渉でこうも状況を変えることができるのです。

※          ※          ※

2件目は、スポーツクラブにインストラクターとして勤務するBさん(男性)が、2021年の3月に毎月の賃金を5万円削減されたという事案です。

この会社は、Bさんが勤務していたスポーツクラブを19年に吸収合併した後、経営悪化を理由に賃金制度の変更を21年に提案してきました。その際Bさんに対しては、他の同等の職務者に比べても賃金が高すぎるから均等を図るために減給する、と通告してきたのです。

Bさんは「納得が出来ない。同意はしない。」と口頭で通知しますが、まともな話し合いもなく、会社は、21年3月から月例賃金を約5万円減給しました。そしてさらに、22年3月にも、約4万円を減給しました。Bさんによれば、「納得しない。同意しない。」と口頭で言ったけれど、一方的に減給される状況であって、とてもそれ以上を追求出来る雰囲気でなかったとのことです。

結では、Bさんに組合に加入してもらい労働条件の不利益変更を議題に団体交渉を申し入れました。会社側は、今回の労働条件変更についてBさんの同意を疎明する契約書など客観的証拠を持っていません。ただやっかいなのは、Bさんの側も、不同意を証明する客観的な証拠がないことです。

読者の皆さんに伝えたいのは、職場で何かトラブルにあったときに客観的な証拠を残しておくことの重要性です。それから、早い段階で組合に相談をしてくださることの重要性です。そうすれば的確な助言や支援ができますから。

さてBさんの事件。客観的な証拠がないから、不利益変更がずいぶん前のことだから、といってあきらめる必要はありません。こうして団体交渉の場を設定することで、会社側の主張が明らかになります。まずは団体交渉で会社側の主張を聞きたいと思います。

組合としては、Bさんの生活を守るため全力で交渉にあたります。

 

 

 

労使対等原則の活用を

いろいろ見てきたとおり、労働条件の不当な不利益変更、退職勧奨、ハラスメント行為、雇止め・解雇通告などなど、労使間のトラブルは絶えることがありません。

これらのトラブルは多くの場合、企業が利益を最優先するあまり、労働関係法などルールが軽視・無視されることで引き起こされています。

労働条件の不利益変更やハラスメントなど理不尽な扱いを受けた場合、私はそんなことは許さない!と一人ででもたたかうことができる労働者も中にはいるかもしれませんが、多くは、抗議すれば職場に居づらくなるからと、理不尽にも耐え忍んで嵐が過ぎ去るのを待つことになるのではないでしょうか(でも、嵐はなかなか過ぎず、心身を壊してしまうことになるのですが、、、)。

相談者からの希望にもよりますが、理不尽な扱いを受けたときに私がおすすめするのは、労働組合という選択肢です。私たちは、労使対等の原則に基づく使用者とのやりとりでトラブルを解決します。

その際、「あんたは何故そんなこと(攻撃)するのか」、「何故そんなこと(暴言など)言うのか」と客観的な記録が残すようにしますから、「どうして自分がこんな目に」「自分に何の落ち度があったんだ」という苦しみから相談者は早期に解放されます。

そもそも労基法も労契法も、労使対等の原則を謳っていますから、使用者は、労働者からの正当な申し入れに対しては誠実に対応する義務があります。

例えば、最近の相談事例を三つほどあげます。

  1. 昨年の暮れ、上司から受けたハラスメントでメンタル不全になったとの相談を専門学校の職員から受けました。
  2. 保育園で送迎バス運転をしている契約社員から、雇止め通告されたとの相談を受けました。
  3. 一方的に煽り運転を行ったと上司に決め付けられ始末書提出を強要されてメンタル不全になったとの相談を、トラック運転者から受けました。

 

さて、こうした相談は、労働組合によってどう解決されたでしょうか。

  1. 専門学校職員からの相談ケースでは、学校法人理事長宛に安全配慮を求める上申書を提出したことでピタリとハラスメントが止まり、職場環境改善の方向に向かっています。
  2. 保育園の契約社員の相談ケースでは、雇止めには同意しない旨を法人に対して伝え、雇止め理由証明書の交付を請求して回答を待っています。
  3. トラック運転者からの相談ケースでは、メンタル不全になった詳細な経緯をまとめ、安全配慮を求める上申書を代表者宛てに提出するようアドバイスしました。

労働者が理不尽な扱いに対し是正を求め安全配慮を求めるのは、労使対等原則から当然のことです。これだけで問題が解決することも少なくありません。また、申入や上申(書面やLINE・メール)は、事案が紛争に発展したときに、使用者の不法行為を立証する重要な証拠になります。そしてなによりも、使用者が何を考えているのかその真意を確認することで、問題解決へ向けて優位に戦略を立てることが出来るのです。

 

私たちは、相談者には労働組合に加入してもらい問題解決を一緒に図ることをキホン・原則としていますが、中には、労働組合になど加入したら余計にひどい目にあわされるのでは、と会社に対して恐怖心をもっている方もおられます。そのような場合は、私たちは、ご本人の意思を尊重して、労働組合に加入せずともできる様々な手法を助言することも可能です。

繰り返しになりますが、大事なのは、早め早めに相談をしてくださることです。

問題解決の道を一緒にさぐっていきましょう。

札幌ローカルユニオン「結」 は皆さんの力になります。

 

 

以上、札幌ローカルユニオン「結」機関紙「よしね室長の労働相談!最前線」no.89、90、93より。

 

 

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