竹信航介「雇い止めと無期転換について」 

無期転換逃れ阻止プロジェクト(略称、ムキプロ)が3月7日に開催した「非正規/働き続けたいシンポジウム」の報告第5弾です。トップバッターでご報告をいただいた日本労働弁護団北海道ブロックの団員でもある弁護士の竹信航介さんに、当日のレジュメに加筆していただいたもの(4月6日改稿)をお送りいただきました。

以下の報告とあわせてお読みください。

パタゴニアユニオン「パタゴニア日本支社に非正規スタッフへの無期転換逃れ撤回を求めます」

東海大学教職員組合「無期転換逃れに対する非常勤講師組合のたたかいと、懸念される文科省の動向」

くしろ児童厚生員ユニオン「釧路市の学童保育にみる会計年度任用職員制度と労働組合の取り組み」

川村雅則「3つの雇い止め・無期転換逃れ問題の整理と、雇用安定社会の実現に向けて」

 

 

 

1.民法の原則

 私的自治の原則、民法の原則からすれば、雇用契約(民法623条)で賃金と労務を引き換える契約の内容は当事者で自由に決められる。もっとも、労働者保護のため、契約内容には労働基準法などで制限がかかっている。

 期間の定めのある雇用契約(有期契約)を締結することも当事者の自由。(ただし、労働基準法14条で、原則として3年を超える期間について締結してはならないとされている。これは、あまり長い間労働者を契約に拘束することは労働者の職業選択の自由を奪うという考えによる。)

 その場合、定められた期間が終われば、契約は終了する。

 しかし、有期契約の労働者の生活は不安定になる。そこで、最初は判例で、次に立法で、有期契約労働者を保護する法制度ができていった。

 

2.労働契約法による修正〜雇止め法理(労働契約法19条)

 形式上期間の定めがあっても、実質的には更新されると期待するのが当然といえるような場合→有期契約の期間が終わっても、契約の更新を使用者に強制できる。(かなりラフな説明)

 例えば、採用されるときに「有期契約になってるけど、形だけだから。みんなずっと働いてもらってるから。」といった説明をされたとか、同じ仕事をしている人はみんな更新を繰り返して10年や20年働いているとか、更新の手続も毎回ごく形式的なもので「当然更新するよね」といった雰囲気に満ちているとか、そういった事情が積み重なると、上記の「更新されると期待するのが当然といえるような場合」と認められやすくなってくる。

 

3.無期転換権(労働契約法18条)

 有期契約の更新を繰り返して通算5年を超えると、労働者の求めによって、期間の定めのない雇用契約(無期契約)の締結を使用者に強制できる。

 

4.無期転換ルールの例外(その1):①高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者及び②定年後引き続き雇用される有期雇用労働者に対する特例について高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者の特例

 ① 5年を超える一定の期間内に完了する業務に従事する場合などの要件を満たすと、5年を超えても、そのプロジェクトに従事している期間は、無期転換権が発生しない。

 ② 定年に達した後に引き続き同じ雇用主に雇用されている間は、無期転換権が発生しない。

 

5.無期転換ルールの例外(その2):大学等及び研究開発法人等の研究者、教員等に対する特例について

 大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については、無期転換申込権発生までの期間(原則)5年を10年とする特例。

 その他にも例外あり。

 

6.無期転換逃れについて

 更新を繰り返して5年を超える前に、更新しないこと(雇止め)をしてしまうことを、無期転換逃れと呼ぶことがある。

 例えば、1か月毎に更新を繰り返して、4年11か月経ったところで「更新しません」と言って契約を終了させると、無期転換権は発生しないから、使用者は無期転換の負担を免れることができる。

 このような無期転換逃れは、使用者による無期転換ルールの脱法行為ということもできる(特に、4年11か月で雇止めして、6か月間を空けて、また雇用する、というようなやり方をしていた場合などは露骨である。なお、なぜ6か月かというと、6か月間が空くと無期転換に向けた期間のカウントがリセットされるからである。この6か月をクーリング期間と呼ぶこともある。)。労働者側としては、このような脱法行為は法の趣旨に反する権利濫用であって、雇止めを無効にして無期転換を認めるべきである、と主張したくなる。このような主張が裁判所で認められる可能性も皆無ではない。

 しかし、使用者側からすれば、「5年で無期転換権が発生するということは、逆に言えば使用者側は5年経つまでは無期転換に応じなくてもいいという立場が法によって認められているということでもある」と主張したくなるであろう。このような見方も法の読み方として一概に誤りともいえないので、無期転換を希望する労働者としては5年経つまでは安心できない。

 「雇止め法理」(労働契約法19条)は、この無期転換逃れをさせないためにも使える。更新が期待できる状況であれば、たとえ5年経つ前に雇止めをされても、更新を使用者に強制して雇止めを無効化でき、そうやって更新の繰り返しを強制して5年を超えれば、無期転換権が発生する。

 しかし、使用者はしばしば、無期転換逃れのために、最初の契約のときから更新期間や更新回数の上限を契約などで定めておくことがある。「5年を超えては更新しない」といった条項が契約書に入っているような場合である。このような場合、労働者が5年を超えての雇止め法理の適用を求めても、使用者は「最初の契約のときから契約書には『5年を超えては更新しない』と書いてあったのだから、例えば4年まではともかく、5年を超えて更新されないことは最初からわかっていたはずである。つまり、更新が期待できる状況ではなかった」と主張して、雇止めを正当化しやすくなってしまう。

 

7.公務員は?

 非正規公務員を含めた公務員の勤務関係は公法上の任用関係にあり、 公務員の任用は行政処分としての任命権者の任用行為によってなされるものである(つまり、雇用契約ではない)から、 任命権者の任用行為がないにもかかわらず、解雇権濫用法理を類推するなどして、再任用を擬制する余地はない、とされる。

 →有期公務員については、法律上雇止め類似の再任用拒否に対する歯止めがない。

 

 

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