東海大学教職員組合「無期転換逃れに対する非常勤講師組合のたたかいと、懸念される文科省の動向」

無期転換逃れ阻止プロジェクト(略称、ムキプロ)が3月7日に開催した「非正規/働き続けたいシンポジウム」の報告第2弾です。

東海大学教職員組合からの報告を、ムキプロ事務局の責任で取りまとめました。

パタゴニアユニオン「パタゴニア日本支社に非正規スタッフへの無期転換逃れ撤回を求めます」とあわせてお読みください。

 

 

無期転換逃れに対する非常勤講師組合のたたかいと、懸念される文科省の動向

 

 東海大学教職員組合 執行委員長 佐々木信吾 

 

 

どうぞよろしくお願いします。

まずは、1月17日の東海大学教職員組合のストライキの際には現地の皆さんには大変お世話になりました。

自分は教員なものですから、マイクを持った瞬間に90分話すように自動的に設定されてしまうのですが、今日は手短にいきたいと思います。

 

資料 東海大雇い止め問題の概要

(1)そもそもどのような問題か。

札幌・東京・神奈川・静岡・熊本にキャンパスのある大学。70年間組合がなく、非常勤講師も他大学の倍以上のコマを依頼されて生活してきたが、イノベ法・任期法を理由に5年での無期転換を認めず10年にした。制度的に10年雇い止めの規定は有していないが、理由なく多数の講師に雇止め通告をメールで出した。20年以上の勤務者も多数。具体的な理由は書かれていない。組合員の9割以上が雇い止め対象。

(2)組合を結成し、タイプにより三陣に分かれて東京地裁に提訴。

3月6日、8日に口頭弁論期日。一方、団交・スト権確立のプロセスを経て12月5・9日に静岡、1月17日に札幌でストを実施。原告12名のうち1名の雇い止め撤回を勝ち得た。ここから組合拡大したいが、大半の組合員が現職でなくなる可能性大であり、非常に厳しい戦いとなる。

出所:当日配布資料より。

 

まず現在までの状況を簡単に説明します。東海大は70年もの間、組合がない職場で、使用者のやりたい放題でした。

一つの特徴は、非常勤講師の持ちコマ数は、通常でしたら5コマとか6コマなんですけど、10コマ、15コマと非常に多くのコマを担当して東海大に依存して働く人が多かったことです。

そのような中で、イノベ法と任期法という、本来であればグー・チョキ・パーみたいに相容れない別々のものを同時に使い、しかも事後的に、つまり、遡及的に使って、無期転換を認めずにきました。そして、10年特例を適用したはずなのに、この春に10年に達する人たちの中で、彼らが勝手に選別した人を、理由も告げずにメール1本で雇い止め通告をしてきた──以上が東海大で起きた事件の概略です。

団体交渉を行っていても、相手方は弁護士さん3人が出てきているのですが、職員には一切話をさせずに、もうなんというか、門前払いというかせせら笑うような感じであったのが、静岡で2回、札幌で1回のストライキを実施してから明らかに態度が変わりました。

もちろん相手はプロの弁護士ですから、ごめんなさいとはさすがには言いませんが、完全に目の色が違うんですよ。大変でしたがストライキを打ってよかったと思いました。

衆議院会館での院内集会で発表したとおり、静岡の1名だけなんですけれども、雇い止めが撤回されました。どういう目的かはわかりませんけど、まず1名、支部長の雇い止めを大学側が撤回してきました。これはもう本当に、団結の力を示すことができたからだと思います。

大学に逆らっても絶対に勝てない、どうせ勝てないからやめようと、うちの組合員さんたちは周囲から言われ続けてきたんですけども、そんなことはないっていうことを立証できました。本当に皆さんのおかげだと感謝しています。

その一方、三陣にわかれて裁判をやっているのですが、ちょうど昨日、第2回の口頭弁論がありまして、大学側の主張も出てきました。40数ページあって、証拠は500数十枚あるんですけど、正直言って全部薄っぺらで、うちの組合員がいかに素晴らしい研究者たちであるかを主張しているんです。つまり、彼らは研究者だから、イノベ法、任期法を適用できるんだと。

これに対して我々側の主張はこうです。イノベ法、任期法を適用するには対象が研究職でなくてはならない。それは、うちの組合員が勝ち取った専修大の東京高裁の判決や、羽衣国際大の方が得られた大阪高裁の判決でも明らかです。研究職じゃなければ適用しては駄目だと明言しているんです。研究職として扱ってもいない、研究者名簿にも載せていない。科研費の申請の便宜さえ図ってもらえない。そういった状況にあるわけですから、イノベ法、任期法が適用できるわけがない。

従って、5年で無期転換はできているはずで、今回の雇い止めは無効である、と主張しています。相手方である大学は、他の大学が失敗した主張をただ繰り返しているだけで、ねらいはひたすら時間稼ぎだけだと感じています。

ただ一方で、実は私どもの組合員の、9割がこの春に雇い止めになることは残念ながら確定的な状況なんです。そうした中で団結を緩めたりすると、組合がガタガタになってしまい、あぁやっぱりたたかっても負けるんだって多くの人に思われてしまうので、ここから先、専任の先生たちも含めて──もう何人か専任の先生たちも組合に入ってくれていますが、もっと大勢の教員が集う組合にして、勝利を目指してたたかっていきたいと思います。

 

 

※        ※        ※

ここから、もう少し、問題の背景に踏み込んでいきたいと思います。

今、私どもは東京のほうで、大体年間で100件くらいの団体交渉を行っているんですけれども、タイプは大きく三つにわかれます。

一つは上智大学とか共立女子みたいな、5年上限を全員に付けるところ。

次が、東海大学とか東京造形大学、東京都市大学みたいな、10年特例をつけるところ。この10年特例の大学の中には、慶應、早稲田、法政、中央っていう大手も含まれているので、規模も大きく、問題はかなり深刻な状況です。大体8割の大学は、5年での無期転換を認めてるんですけども、残り2割くらいが任期法やイノベ法を使って、10年特例を使っています。ただ、そこから雇い止めにまで踏み込んでくるのは、東海大学とか造形大学のような一部なので、ここはしっかり叩いていかなければならないと思っています。

三つ目ですが、これが結構手強くて、本日裁判をやってきたところですが、無期転換後の労働条件を、労働者側に不利益に変更する大学です。無期転換した後に労働条件を変えると就業規則に書いておいて、それで正当性を持たしている。ただ、これについては、労働契約法の無期転換の趣旨からすると、無期転換後に労働条件を、労働者側に不利益に、自由に変えることができるという仕組みはさすがにおかしいだろうという裁判所の見解は示されていると思います。

 

資料 この問題の背景は何か

(1)構造的問題

  1. 非正規に依存しすぎる体質:フリーハンドを維持したいから無期転換を嫌う。
  2. 大学が過度に経営主導になっている。
  3. 国立大の補助金の削減
  4. 北大や理研、後述の基幹教員問題を見ると、科学技術立国たる道を本気で捨てようとしているのではないかとの危機を覚える。

(2)「10年特例&10年上限」の背景にあるものは何か?

無期転換直前の雇い止めが無くならない背景には、昨年10月に文科省省令で施行された新制度(令和7年までは移行期間)の問題があるのではないか。その新制度で重要なのは以下の2点である。

(ⅰ)従来は別々に機能していた教員組織と職員組織を協働させ、教育研究実施組織なる組織を作る。

(ⅱ)従来、1つの学部、大学のみで勤められるとされていた「専任教員」を「基幹教員(専従)」と「基幹教員(兼務可能、非常勤OK)」に分け、後者は25%まで認める。なお、後者は必要基幹教員数に算入できることとするが、主要授業科目8単位以上を担当する必要があるので、授業中心の業務となる可能性が高い。

 従来は専任教員が100%⇒今後は、基幹教員(専従)75%、基幹教員(兼務・非常勤)25%?

出所:当日配布資料より。

 

以上が東海大学のことや他大学の非常勤講師の全般的な状況なんですけれども、実は、東海大学の主張と非常に符合する動きが、昨年10月初めの文科省の制度改革で出てきています。

それは何かというと、基幹教員制度です。

この制度を一言で言うと、従来は一つの大学・一つの学部に属する人が100%でなくちゃいけなかったんですけれども、これから先、経過措置を経て、令和7(2025)年からは、よその大学・学部との兼務を認める教員を25%までは設けてもよいとなりました。おそらく後者の教員の業務は、授業にほぼ専念したものになるかと思います。

これで東海大学など各大学が何をやり始めたかというと、センターを作ってそこに先生を集めて、そのセンターから先生たちを派遣していくという形式です。これで何が問題になるかっていうと、例えば専任教員が100人と100人という2つの学部または2つの大学があったとします。専任教員100人ずつのところが、専任は75人ずつにして、25人の教員を2つの学部・大学で共有する。あるいは、3つ4つの学部・大学で共有してもいい。こういう状況がいま生まれています。

そうすると大学にとっては、10%も20%も教員数を減らすことができるという仕組みです。そして共有された教員は、授業だけやって、およそ研究などはできずに酷使されることが予想されます。

そして、教員数の削減から明らかなとおり、決定的な副作用が予想されます。それは、従来は専任教員が100、100だったのが75、75+兼務25ですから、全体で175で良くなってしまう。そうすると結局、大学のポストが減るんです。ポストが減るときに古い人は温存されますから、どうしても新しい人が入れなくなります。授業だけ行う専任に置き換えられていきますから、非常勤講師も不要になる。ポスドクの若手や非常勤講師にとっては、もう大学に居場所がなくなる。

非常勤講師や有期の専任教員を極端に切る大学があったら、これを構想している可能性がかなり高いです。

そして、もう一つの問題は、文科省が盛んに言ってることなのですが、大学教員の待遇などは、大学の裁量に任せるっていうんです。

そうなると、一方では、悲惨な労働条件の設定も可能ですが、他方では、破格の待遇の設定も可能になるんです。そして、破格の待遇を受けるのはどんな人たちかっていうと、内部留保をたくさん持っている企業の役員とか文科省をはじめとする天下りですよね。大学がそういった人たちの天国になる可能性もあります。

現在、理研の問題でも言われていることですが、こうなると、結局、日本の研究力はさらに大きく引き下げられることになるでしょう。そもそも若手が研究職を目指してくれなくなるわけですし。

以上を踏まえて最後に申し上げたいのは、ここで労働者を組織化しないといけないと思うんですね。そして組織化するときには、従来であれば、これは非常勤講師の問題だとか、これは専任教員の問題だとか別々に扱う風潮がありましたが、今回の制度改定は、専任とか非常勤の「境界線」をある意味で溶かすことになるわけですから、「境界線」を越えた連帯が必要じゃないかということです。

以上の問題意識を提起しまして、私の話を終えたいと思います。ご静聴をありがとうございます。

 

 

 

資料 2月13日の衆議院院内集会で議員各位に要請したこと 

文科省は乱暴な10年雇い止めをしないよう「依頼」を出したが、この基幹教員問題の存在を大学が強く意識している限り実効性は薄くなり、多くの大学が有期の教育労働者の無期転換を嫌う背景になっているのではないか。また、無期転換させても、「無期転換後の労働条件の低減」で勝負してくる大学も明らかに増えている印象がある。

そこで、現場からは議員の方々には以下のお願いをしたい。

  1. 2月7日の「乱暴な雇い止めをするな」という文科省依頼を単なるパフォーマンスとしないよう、文科省には個別の大学にしっかり調査を入れるよう指導して頂きたい。
  2. あまりに悪質な大学や研究機関については国会で名前を挙げて追及して頂くことはできないか。
  3. 無期転換後の労働条件の低下をカリキュラム変更権のもと自由にやろうとしている大学が増えている。それもまた、労働契約法の趣旨に反することとして文科省を通じて指導して頂くことはできないか。
  4. 基幹教員問題については、省令でやるにはあまりに影響が大きいのではないか。国会でしっかり議論して頂きたい。
  5. 兼務型基幹教員の労働条件が悲惨なものにならないよう、労務管理や社会保障のルールを明確化するよう国会で求めて頂きたい。
  6. 若手のポストが枯渇しない方策を担保するとともに、兼務型基幹教員が天下り等の温床にならない工夫を施して頂きたい。
  7. もし基幹教員の労働時間の合算をするなら、従来からの非常勤講師の労働時間も合算させ、私学共済等の加入資格取得に道を開いて頂きたい(現在は各大学でバラバラに勤務するので20時間を優に超えても共済に加入できていない。非常勤講師の悲願のひとつ)

 

 

 

(参考資料)

首都圏大学非常勤講師組合

東海大学教職員組合

 

 

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