竹信航介「労働者のための労働法トラブルの解決方法」

日本労働弁護団北海道ブロック団員である竹信航介弁護士による投稿です。どうぞお読みください。

 

 

 労働契約は多くの人にとってもっとも身近な法律関係の一つですが、それだけにトラブルが生じることも少なくありません。労働者側でいえば、給料(残業代含む)を払ってくれない、解雇された、ハラスメントを受けた、労働災害に遭った、などなど……。

 こういったトラブルに遭遇したとき、「誰かなんとかしてくれないかな」といって放っておいても、改善することは期待できません。自分で解決に向けて動くことが必要です。それは自分のためでもありますが、他の声を上げにくい労働者のためにもなることです。

 

 そうはいっても、どうしていいかわからない、という人が多いと思います。

 私が弁護士だからというのも半分くらいはありますが、そういうときはまず(労働者側の労働問題に詳しい)弁護士に相談しましょう。相談料は初回無料の弁護士もいれば、30分5500円(消費税込)という弁護士もいますが、上記のようなトラブルは人生に大きな影響があるかもしれないので、少なくとも相談料はケチるべきではありません。(収入・資産が基準以下の人は、「法テラス」という国の設立した組織に相談料を援助してもらうことができることもあります。これも関心があれば相談する弁護士に聞いてみてください。)

 弁護士に相談すると、そのトラブルは法的に解決できるのか、解決できるとして弁護士に依頼するのがいいのか、弁護士に依頼しないで自分で動くとしてどういう方法がいいのか、などといったことについて情報を得られます。

 弁護士に相談したからといって、依頼しなければいけないということはありません。依頼を勧められても、どれくらいお金や時間がかかるかを質問して、依頼したほうが得かどうか自分でよく考えて、はっきり依頼するかどうかを弁護士に伝えましょう。他の弁護士にも相談してみる(セカンドオピニオン)という手もあります。

 

 弁護士に依頼しないでトラブルを解決する場合、まず考えられるのは、直接使用者に交渉してみることです。これからも働き続けるのであれば、こういう形で使用者と交渉できる関係を作っていくのも有益なことです。

 しかし、使用者が聞く耳を持たないとか、こわくて交渉を申し入れられないとか、そういう場合もあります。そういうときに、憲法や法律が予定している方法は、労働組合を通した団体交渉であると私は考えています。自分の勤め先に労働組合がなくても、労働組合は企業別である必要はないのですから、一人でも加入できる外部の労働組合に入って団体交渉を申し入れることも考えられます。使用者が正当な理由なく団体交渉を拒むことは許されません。労働組合を通した団体交渉は、法律を守らせるためにも使えますが、法律の定める水準よりも労働条件を向上させることを求めるためにも使えます。これは裁判などにはできない、労働組合ならではのパワーといえます。

 

 使用者との交渉は、間に第三者を入れて行うこともできます。労働局や労働委員会の個別労働紛争に関するあっせん手続や、裁判所で行う民事調停は、間に労働法に詳しい第三者を入れて、その助言を得ながら、相手と顔を合わせないで交渉を試みることができます。間に労働法に詳しい第三者が入っているので、不公平な解決が押し付けられる心配も少ないです。費用も安いので、弁護士に依頼するには請求金額が安いという場合にも役に立ちます。

 

 相手が話し合いに応じない場合には、裁判を起こして強制的に請求を実現させるほかありません。メニューとしては労働審判と民事訴訟がありますが、いずれも的確に主張立証ができないと裁判所にトラブルの実情をわかってもらえないので、弁護士をつけて進めたほうがよい手続です。

 労働審判は、比較的早く解決する可能性が高いかわりに、解決のためにある程度譲歩する必要があることが多い手続です。民事訴訟は、一番厳密な手続で、時間がかかりますが最後まで行けば法的に貫徹された結論が出ます。

 使用者が請求に任意に応じなかったとしても、民事訴訟で判決が確定するなどすれば、民事執行という裁判所を通した手続を使って、使用者の財産を差し押さえるなどして請求金額を強制的に回収することが可能です。(使用者が倒産した場合など、差し押さえる財産がないと回収できないことがあります。)

 また、民事訴訟で時間をかけていては実際に権利が実現できないので急ぐ必要があるという場合には、民事保全という手続を使うこともあります。

 このあたりは、弁護士をつけないで進めるのは困難だと思うので、相談・依頼する弁護士によく相談してください。

 

 このほかに、使用者が労働基準法に違反している場合に、労働基準監督署に指導を求めることもできます。この方法で迅速に未払い賃金(残業代)が支払われた例もあるようです。

 また、労働災害に遭ったときには、労働基準監督署に労災保険からの給付(治療費や休業補償など)を求めることができることがあります。労災保険給付を受けてケガや病気を治して、使用者に過失があればその後で使用者に損害賠償(慰謝料など)を求めることも考えられます。

 

 以上、労働関係のトラブルに遭ったときにどんな解決方法があるかについてざっと述べてきました。いろいろあって迷うかと思いますので、私はやはりまず弁護士に相談して問題を整理することをおすすめしたいです。弁護士は決して怖くないので、気軽に相談してください。

 

 

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