横山浩之「『労働者性』って、どうやって判断されるの?」

 

~「労働者性」って、どうやって判断されるの?~

横山浩之

 

こんにちは!

労働弁護団北海道ブロックです!

今回は、「労働者性」がどのように判断されるのかについて、解説します。

「人が働いてお金を貰う」と言っても、それが労働契約な場合もあれば、業務委託契約など労働契約以外の場合もあります。

しかし、労働契約に該当するのか否かは、例えば、労災保険や雇用保険の有無、有給休暇や残業代の有無といった、労働者さんにとって重要な権利・利益に関わってくるものですので、その線引きはとても重要です。

今回は、どのような場合に労働者性が認められるのかについて、その判断基準を簡単に説明したいと思います。

 

【労働基準法・労働契約法上の労働者性の判断枠組み】

労働契約法(以下「労契法」と略記します。)第2条1項において「この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。」と定められ、「使用されて労働」「賃金を支払われる」という2つの要素は、同法第2条1項及び同法第6条の規定にも用いられていることから、労基法上の労働者性は、この2つの要素を満たすか否かで判断されることが予定されていると言われています。

労働基準法(以下「労基法」と略記します。)上の労働者性も、基本的に同一と考えられていますが、労基法第9条において「事業…に使用される」と定義されていることから、労契法上の労働者概念に「事業で使用される」という点が加重要件と考えられていると言われています。

労働者性の判断については、1985年12月19日付け労働基準研究会報告書「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(以下「報告書」といいます。)において、 使用従属性を判断する要素として、

 

1 使用者の指揮監督下で労働しているか否か (指揮監督関係)

2 労務対償性のある報酬を受け取る者に該当するか否か (労務対償性)

 

という判断枠組みを立てています。

この「指揮監督関係」と「労務対償性」を基礎づける具体的な事情については、 前掲報告書では、

 

① 仕事の依頼への諾否の事由(仕事の依頼や指示を断ることができるかどうか)

② 業務遂行上の指揮監督(業務を行うにあたって会社の指揮監督に従って働く関係が認められるか)

③ 時間的・場所的拘束性(仕事をするにあたって時間や場所の制限や指定があるか)

④ 代替性(自分に与えられた仕事を他の人に任せることが許されるかどうか)

⑤ 報酬の算定・支払方法(貰っている対価の計算方法や支払方法)

 

を主要な判断要素とし、

 

⑥ 機械・器具の負担、報酬の額等に現れた事業者性(仕事に使う機械や道具などを会社と労働者どちらが用意しているか、など)

⑦ 専属性(他のところで働くことが許容されているかどうか)

⑧ その他(服務規律の適用や福利厚生の程度など)

 

などが補足的な判断要素として位置付けられています。

現時点で、使用従属性の要件の判断に関する一般的な規範を示した最高裁判例はなく、個々の裁判例が集積されている状況です。 多くの裁判例では、「指揮監督関係」と「労務対償性」を基準として①ないし⑧の要素を中心に労働者性を検討する判断枠組みを前提に、当該事案ごとの具体的な事情を総合考慮した判断がなされていますが、①ないし④が指揮監督関係を基礎づける事情として、⑤が労務対償性を基礎づける事情として位置付けられるのが一般的だと思われます(⑥ないし⑧は補足的に考慮されることが一般的です。) 。

労働者性が争われる類型としては、経営者に近い者(取締役、執行役員など)、個人事業主に近い者、専門的・裁量的な業務従事者(芸能関係者やスポーツ選手など)、外勤・在宅労働従事者、 教育訓練的な労働に従事している者、 自由度の高い状態で働いている者(ボランティアなど)、法律上特別に位置付けられている者(公務員や障害者就労支援など)などがあります。

 

【「指揮監督関係」と「労務対償性」の具体的な判断】

1 「指揮監督関係」について

基本的に①ないし④の事情から判断されることが多く、①ないし③が認められることは指揮監督関係を基礎づける方向の事情として(逆に①ないし③が認められない又はその程度が希薄な場合には指揮監督関係を否定する事情として)、④が認められないことは指揮監督関係を肯定する事情として(逆に④が認められることは指揮監督関係を肯定する事情として)、それぞれ評価されることが一般的です。

もっとも、①ないし④の事情は要件ではなく、各事情の位置づけや重み付けはケースバイケースであり、実務上は、具体的な事情の下で総合的に考慮して判断されています。

教育訓練的な労働に従事しているものについては、労基法は第7章において、技能の習得を目的として養成されている者を労働者に位置付けていることから、教育訓練目的であることが労働者性を否定することにはならないと考えられます。

また、教育訓練目的であっても、使用者の正規業務に従事する側面を有している場合には、労働者性が肯定される場合があります。

その他、学生のインターンシップ等であっても、使用者の生産活動に従事したことによって生じる利益・効果が使用者に帰属し、かつ使用従属関係が認められる場合には労働者に該当することを定める解釈例規があります。

 

2 「労務対償性」について

この点については、前記のとおり「⑤ 報酬の算定・支払方法 」により判断されますが、より具体的には、

⑤-1 :額、計算方法及び支払形態

⑤-2 :給与所得としての源泉徴収の有無、雇用保険、厚生年金、健康保険の保険料徴収の有無

の2つの観点から判断されることが多いです。

まず、⑤-1 について、報酬が時間給を基礎として計算されるなど、労働時間に比例して賃金額が計算される仕組みを取っていると評価できる場合には、労務対償性を高める事情として評価されるのが一般的です。

ここでいう労働時間との比例性という点は、必ずしも「時給●円」として定められている必要はなく、労働時間が長くなるほど賃金額が増加し、逆に欠勤や早退した場合には一定の控除がなされるなど、月給制などの形式的な定め方にかかわらず、労働時間の増減と賃金額の増減が比例的な関係に立つと評価出来れば比例性が肯定されやすいです。

次に、⑤-2 について、これらの事情も労務対償性を判断する事情として指摘されることが多いですが、源泉徴収、雇用保険、厚生年金、健康保険の保険料徴収の有無は使用者において操作しやすい事情であることから、あくまで補足的な要素として位置付けるべきものと考えられます。私見としては、これらの事情がある場合には労務対償性を基礎づける事情の一つとして評価すべきであるが、これらの事情がないことの一事をもって労務対償性を否定する事情に位置付けるべきではないと考えています。

 

労働者性の判断基準について、イメージが掴めたでしょうか。

実際には、ケースバイケースの判断が不可欠になりますので、何かお困りのことがありましたら、労働弁護団北海道ブロックにご相談ください。

 

以上

 

 

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