単身生活保護受給者のご遺体放置事件に関する声明
「命に軽重は無い」と言われますが、人の死の尊厳を損なうような事件が公務の現場で発生しました。
東京都江戸川区が「生活保護受給者が死亡したのに2か月以上遺体をそのままにしていたとして、20代の担当ケースワーカーに停職の懲戒処分をした」と発表したことから、ご遺体放置という異常な事態が明らかになりました。
報道によると、「1月10日に60代男性が自宅で倒れているのを介護ヘルパーが発見。男性を担当するケースワーカーに連絡したが、葬祭業者への連絡などを怠った。3月27日に福祉用具のレンタル業者が、男性宅を訪問した際に遺体が放置されているのを見て警察に通報した」「担当ケースワーカーは、仕事が立て込んで後回しにした結果、上司に言い出せなくなったと話している」という経過で、6月30日まで同区は公表していませんでした。
一般的には、亡くなられると、医師による死亡確認と死亡診断書の作成が行われ、死亡から7日以内に、死亡診断書をもとに死亡届が提出されます。
お葬式を執り行う人や供養する人がいない無縁仏も増えていますが、そのような場合でも、ご遺体が長くそのままにされることはありません。今回は、亡くなったことに気づいた人がおり、公務としてご本人に関わっていた人がいたのに、2カ月半にもわたってご遺体が放置されており、人の尊厳を深く傷つける事態でした。私たちは強い怒りを感じるとともに生活保護行政の現状を憂慮します。
なぜこういう事態が起こったのでしょうか。直接取材したり、調査したわけではなく、推測に及ぶ部分もありますが、私たちの考えを表明します。
担当のケースワーカー(現業員)、直接指導する査察指導員、福祉事務所長の責任は大きいですが、以下のとおり、江戸川区の福祉行政に問題があったと指摘せざるをえません。
1)まず、高い専門性や熟練が不可欠な生活保護行政の第一線の現場に、新規採用職員を充てていたこと自体、区の生保行政の基本的姿勢の問題です。もし、人事政策として新規採用職員を充てるとしたら、直接サポートする経験者職員とダブル配置などの対応が必要と考えます。
2)次に、制度的に設置されるケースワーカー及び査察指導員数が適正な配置だったかです。「仕事が多忙だったので」との担当者の言葉が如実に事実を示しています。
3)区は7月14日、「学識経験者を交えた第三者検証委員会の設置など、再発防止策」を発表しました。区によると、「人権意識向上のため、全ケースワーカーに研修を実施する。生活保護受給者の死亡報告を受けた際、葬祭業者への連絡などの手順を明確化するほか、死亡連絡票を作成して情報共有を図る」とし、7月中の検証委設置を目指すとのことですが、対処療法的であり、なおかつ遅きに失した対応です。
かつて「生活保護なめんな」ジャンパーの着用で問題になった小田原市が、社会福祉士やケースワーカーを増員、ケースワーカー1人あたりの担当世帯を10程度減少させるなど、生活保護行政の全面的な見直しを図り、大きな成果を得たように、江戸川区でも「反省」をさらに超えた、抜本的な生活保護行政を確立することを切に要望します。
因みに韓国ソウル市では、2014年に起こった生活困窮母子世帯心中事件を契機に、市政を全面的に転換し、2015年から4年間で、支援側が役所内で待つのでなく、現場に出向いて支えが必要な人々を見つけ出し対応する「出かけていく福祉」政策を全面的に実施していますが、このような根本的な改善が必要です。
出産から死まで、孤立・孤独に直面しつつある日本社会を抜本的に変える取り組みをめざして、この声明を発します。
2023年7月18日
理事長 白石 孝
連絡先:kanpoor@bokuto.info
電話:090-2302-4908
NPO法人官製ワーキングプア研究会の投稿記事はこちらから。
(関連情報)
石戸諭記者(ノンフィクションライター)「「生活保護なめんな」ジャンパー問題から1年半、小田原市が進めた生保改革」『Yahooニュース』2018/7/17(火) 7:00
白石孝さん(NPO法人官製ワーキングプア研究会理事長)「(オピニオン)市民民主主義にチャレンジする韓国の社会運動に学ぶ」『法学館憲法研究所』2019.05.06