官製ワーキングプア研究会「「地方自治法」改正による国の指示制度創設に反対する声明」

 

2024年3月15日

「地方自治法」改正による

国の指示制度創設に反対する声明

 

NPO法人 官製ワーキングプア研究会

 

 

岸田内閣は3月1日、地方自治法一部改正案について閣議決定し、国会に提出しました。

この改正案は、「新型コロナの集団感染により県をまたいだ患者の移送が必要となったものの、国の権限に関する法律の規定がなかったため、自治体との調整に時間がかかったことなどを踏まえ」て提案されています。

本改正法案では、「DⅩの進展を踏まえた対応」「地域の多様な主体の連携及び協働の推進」「大規模災害、感染症の蔓延、その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例」と三つの点が提案されています。

それぞれ問題点を含む改正案ですが、特に「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例」は、日本国憲法で創設された地方自治制度を破壊するものになっています。

 

大日本帝国憲法下、国家統治の大権は天皇にあり、地方行政組織は内務省が統括し、一元的な国の行政に服するもので、知事や市長も国の任命制で上意下達の官僚機構の出先機関でした。日本国憲法で新たに「地方自治制度」が誕生し、92条は、地方公共団体の組織・運営は「地方自治の本旨」に基づき行うと定めました。自立した地方自治体と住民の政治参加の権利が保障されたのです。

さらに、第1次地方分権改革(2000年)において、それまで地方を国の下部組織として国の事務を行わせるという「機関委任事務」制度を廃止し、国に地方公共団体に対する包括的指揮監督権を認める制度が廃止されました。国と地方公共団体は「対等協力」の関係とされ、地方自治体の「条例制定権」「自治事務にかかる法律の条文解釈権は一義的に自治体にある」とされました。

現行地方自治法では、国が地方自治体へ指示を行える場面は限定されています。自主性を尊重すべき本来の自治事務については、個別法で根拠規定を設けない限り指示はできないこととされ、法定受託事務の場合は、地方の処理が違法である場合に限り、国が指示できることとされています。ところが本改正法案では、「特例」であり「必要最小限度の範囲で」「閣議決定」により行うとしつつも、一般的な国の指示権を創設しようとしています。

これはまさに、非常時には地方自治など無視して国が対応すべきだというものであり、地方自治の根幹を破壊するものです。これでは、「国と地方自治体は対等」といった原則が壊されてしまいます。

「大規模な災害、感染症の蔓延、その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれのある場合」「生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実現を確保するため特に必要があると認めるとき」に指示ができるとされていますが、要件はきわめてあいまいで、大臣の恣意的判断が入ることが危惧されます。

さらに、このような指示を創設する立法事実は認められません。そもそも、国が地方に指示しなければならない、といったケースというのは、国の方針に地方が反対して対応が進展しないという場合です。大規模災害や感染症の場合というのは、対立は想定されず、地方に余力ない場合などは地方が国に援助を求めれば解決します。仮に改正すべき点があるとしても、感染症や災害時の困難は個別法によって対応可能であり、地方自治法の基本原則を壊してまで一般的な指示権を創設する必要はありません。この改正では、自治体が望んでもいないのに国が指示するという場合が想定されていることが問題なのです。具体的には、戦争的有事や原発事故などにおける避難や対応の場面であり、このような場面で国の地方への指示の権限を創設するというのは、まさに「有事立法」そのものです。

2023年度施行の個人情報保護法に対応した地方自治体条例が改正されました。これは個人情報保護委員会のガイドラインに従うとされましたが、ガイドラインを「技術的助言」とし、なおかつ強要するなど、地方自治への国からの圧力がありました。さらに、2025年度までに地方自治体20業務を標準準拠システムヘ移行するという「地方公共団体情報システムの標準化に関する法」でも同様に、国の権限強化が加速度的に進められています。

 

以上、今回の改正法案は、地方自治の基本原則を破壊し、地方自治体の自治権を大きく後退させることに直結した改悪案であり、私たちは強く反対します。

 

 

 

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