札幌ローカルユニオン「結」の吉根です。
働いていると、想像もしないような、いろいろな問題に直面するものです。自分では一生懸命働いていたつもりが、じつは詐欺の片棒を担がされていたなんてこともあるのです。
北海道の名産である「かに」を売りつける電話がけのアルバイトを経験したことがある、という学生さんからの話を聞いて、この事件のことを思い出しましたので、ご紹介します。
押し買いの片棒を担がされていた!
「セーター1枚でも買い取ります」と不要品の販売を電話で呼びかけるパート労働者──そこには何の問題も感じられません。実際、本人たちも、不要になったものを引き取って役立てる仕事だと思って、「古物を買い取ります」と一生懸命電話かけをしていました。
ところが彼女たちが働いていたこの会社、じつは、訪問購入を電話で受け入れたら、そこに派遣されるのは欺しのプロ社員。家に上がり込んで、「貴金属はないですか?」、「もっと良いものはないですか?」と強引に消費者から「押し買い」を行っていたのでした。
この(株)R社(本社博多市)が2014年11月に、特定商取引法違反で経済産業省(消費者庁)から摘発をされました。摘発内容は、①氏名等不明示(特商取引法58条の5:訪問購入に関して消費者に電話で古い洋服など何でも買い取るなどと告げて置きながら、突然貴金属買取の勧誘をするなど、勧誘に当たって物品の種類を明らかにしなかった)、②不招致勧誘(同法58条の6第1項:古着買取で訪問を受けたのに、勧誘を要請していない貴金属の買取勧誘を行った。)違反でした。R社は典型的な「押買い業者」だったのです。
(訪問購入における氏名等の明示)
第五十八条の五 購入業者は、訪問購入をしようとするときは、その勧誘に先立つて、その相手方に対し、購入業者の氏名又は名称、売買契約の締結について勧誘をする目的である旨及び当該勧誘に係る物品の種類を明らかにしなければならない。(勧誘の要請をしていない者に対する勧誘の禁止等)
第五十八条の六 購入業者は、訪問購入に係る売買契約の締結についての勧誘の要請をしていない者に対し、営業所等以外の場所において、当該売買契約の締結について勧誘をし、又は勧誘を受ける意思の有無を確認してはならない。
問題はここからです。経済産業省による摘発などが新聞記事で報じられたことで経営が立ちゆかなくなったR社は、札幌支店を閉鎖し、電話で買取勧誘(テレアポ)をしていたパート労働者約30人を解雇しました。
何も知らされていなかった彼女たちは突然の支店閉鎖・解雇に驚くわけですが、
そのうち16人が結に加入し、未払い賃金(解雇予告手当など)の支払いを求めて会社と交渉を行い、140万円の解決金支払で合意をしました。
ところが今度は、解決金の4分の1(35万円)を支払った後にR社は連絡を絶ってしまったのです。
不当労働行為制度を活用する!
そこで結では、何ら理由を示さぬまま団体交渉に応じないという、労働組合法上の不当労働行為であるととらえ、訴訟も視野に入れて、労働委員会に対して救済申立を行いました。
(不当労働行為)
第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 〔略〕
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。〔以下、略〕
2014年12月、北海道労働委員会の呼び出しも無視したR社が参加せぬまま、ちょっとおかしなかたちで審問が行われました。
年が明けて2015年5月、北海道労働委員会はR社に対して、不当労働行為の救済命令を発しました。R社は、未払い金の一部を支払った後、代表者が姿を消して組合との連絡を一切絶ってしまいました。その上、会社代表者を住所不定の男性に変え(法人登記)、結が労働委員会に救済申し立てをした後には、会社を事実上解散してしまいました。
結は、行方をくらませた社長が札幌で別会社を立ち上げたことを知り、何度も面会を求めましたが何時も留守で会うことが出来ませんでした。
結局、リマック不当労働行為救済事件は被申立人が不在のまま調査・審問が行われ、申立(平成27年3月17日)一年を経てから2年を経て、平成28年3月25日つけで、救済命令の交付を受けました。
命令書主文は、「 被申立人は、申立人との間で締結した申立人組合員の未払い賃金問題等についての平成26年12月12日付け和解合意書の未履行部分を速やかに履行しなければならない。2 被申立人は、平成26年12月12日付け和解合意書の未履行部分につき、申立人が平成27年1月29日付け、同年2月9日付け及び同年3月2日付けで申し入れた団体交渉を拒否してはならず、これに速やかに応じなければならない。3 ポストノーテイス。」と明確な命令を下しました。
会社に不都合が生じたら、代表者が行方をくらまし、事業場を閉鎖して一切の連絡を絶つという確信犯的ブラック企業による賃金未払いが後を絶ちません。
結がこのようなブラック企業を相手にして闘ったのは、2件目でした。
救済命令がR社に送達されない場合は、北海道の広報に掲載がされて送達されたものとみなされますが、送達されてなお命令に従わない場合は、北海道労働委員会が札幌地方裁判所に告訴をすることになります。
会社が夜逃げ同然の状態で、実態の無い相手との苦しい闘いでしたが、労働組合として、不当労働行為制度を活用し、最後まであきらめることはありませんでした。このような悪質企業に対しては実質的制裁が行われる施策が必要であると感じました。そうしなければ、逃げ得になってしまいます。
いかがでしょうか。
皆さんも職場でトラブルにあったときには、労働組合にご相談を。
札幌ローカルユニオン「結」 は皆さんの力になります。
以上、札幌ローカルユニオン「結」機関紙「よしね室長の労働相談!最前線」no.2、no.11、no.15より。
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