福地保馬「コロナ禍と保健・医療の崩壊」

日本科学者会議北海道支部ニュース第423号(2021年5月1日発行)の「科学談話室」からの転載です。

 

 

新型コロナウイルス(COVID-19) の感染が、全世界に拡がっています。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の発表(4/6)によれば、世界でこれまで約1億3000万人の人々が感染し、約286万人が亡くなっており、ともに毎日のように増え続けています。

日本全国の感染者数は約49万人、死亡者が9千人超(4/6、NHK)になっており、関東、関西などをはじめ、全国に感染が拡がっています。しかし、日本の状況を世界各国と比較すると、感染者数は、アメリカは日本の63倍弱、ブラジル・インドが25倍強、フランス・ロシアが10倍弱という途方もない数で、徐々に差は縮まってきているとはいえ、日本における感染者数は、他国に比べ格段に少なくなっています。世界の国々の中で人口数では11位の日本が、感染者数では39位となっています。

日本が感染者数がこのように少ないように「見える」のは、検査体制が十分ではなく、真の感染実態が把握できていないからと考えられます。その要因の一つが保健行政の脆弱化です。91,92年には全国で 852カ所あった保健所が、歴代自民党政権のもとで、結核患者の減少、行政改革などを口実にどんどん減らされて行き、O-157が全国流行した96年には845カ所、保健所法が改正され「地域保健法」として施行(橋本内閣)された翌年の97年には、一挙に706カ所に、SARSが世界的に流行した2003年には、576カ所に、新型インフルエンザが流行の09年には510カ所に、そして、2020年には469カ所までに減少しました。

また、数の減少だけでなく、福祉分野等との組織統合により、名称も変えられ、「保健所」という事業所名が住民の目に触れにくくなってきている地域が多くなっています。この間さらに、職員総数も約3万4千人から約2万8千人に、なかでも医師数は4割以上の減で、一人の医師が複数の保健所の所長を兼ねることが110保健所にのぼっています(2018年)。このような検査体制の弱体化と、政府の検査抑制策もあって、感染者の発見が後手後手に回っており、本来必要な疫学的な「感染率」も推定できない状況になっています。

医療も同様に、病床を大幅に削減する「地域医療構想」や医療供給体制の「効率化」、地域の保健医療の「切り捨て」の道を歩まされ、2019年には厚労省は全国の424の公立・公的病院の統廃合対象の病院名を発表するまでに至っています。感染病床についても、96年に9716床あったものが、2018年には、1882床と大幅に削減されています。

 

 

このような中で、保健所職員をはじめとした公務員、医療労働者などが感染リスクが高い職場で長時間重労働を強いられており、また、感染が疑われる国民に適切な検査や十分な治療ができなかったり、感染の強さや拡がりを科学的に把握するために十分な数と適切な対象の感染状況がつかめない「保健崩壊」・「医療崩壊」といえる事態を招いてしまっています。

加えて、数種の変異株が出現し、日本も含めて、世界各国で脅威を増してきている状況では、今後も、感染状況の正確な把握、感染・拡大予防策、医療対策が適切の行われるとは、とてもいえないと思います。

新型コロナウイルス禍は、「新自由主義経済」の支配するこの時代に起こり、その中で、感染の発生・拡大、医療崩壊、経済危機を世界中で引き起こしたといえます。そのような過程で、規制なき企業活動とともに、エネルギー消費が厖大化し地球の温暖化を招き、各地が乱開発され環境破壊を起こしました。まわりの生態環境とともに生きていたウイルスなども生存環境の大きな変化によって、人間社会に出てきて、次々に大きな感染を引き起こしているのです。

日本は、公営事業の民営化、労働法制の緩和、所得税の累進制の緩和、法人税や社会保障の企業負担の縮小、医療・介護・年金などの社会保障の削減などの歴代自民党政権の政策により、「強い者勝ち」の競争原理を強め、格差を拡大する社会が形成されてきました。他の国々でも、新自由主義経済社会がコロナ禍に大きな影を落としていますが、日本では、判明している感染者数や、死亡者数からは到底推測できないほどの大きな負の影響をもたらしていると考えられます。

 

感染拡大は、しばらく続くと思われます。「自粛」によって、厳しい我慢を強いられ、日本国憲法の下で大切に護られてきたいろいろな権利や自由を一時的にしろ失ったということを私たちは自覚しなければなりません。さらに、自公政権は、コロナ対策に便乗して、憲法を改正し「非常事態宣言」発動などによって、国民の権利を思うままに制限できるようにすることを意図していると考えられます。コロナ禍の最中であっても、コロナ後の社会あっても、私たちは、日本を戦争への道を進ませようとするあらゆる策動を阻止し、憲法の示す国民の人権と権利の確保、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進の実現の主体として、みんなで力を合わせていくことが重要です。 私たちは、コロナ禍が終息しても、従来と同じ社会に戻すべきではないし、さまざまな課題を可視化したコロナ禍を機会に、新自由主義社会を見直す行動の必要に迫られています。

 

 

(注)この原稿は、働くもののいのちと健康をまもる全国センター・季刊誌2020年夏季号掲載の拙文「コロナ禍から見える課題」をもとに若干の手を入れたものです。

 

(福地保馬の記事)

福地保馬「再び考える「労働者の疲労・過労と健康」1」

福地保馬「再び考える「労働者の疲労・過労と健康」2/過労死の社会的要因」

 

 

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