認定NPO法人働く人びとのいのちと健康をまもる北海道センターが発行する『ニュース』第424号(2020年4月1日号)に掲載された、福地保馬氏(北海道大学名誉教授、働くもののいのちと健康を守る全国センター理事長)による連載原稿「再び考える「労働者の疲労・過労と健康」1」を転載いたします。
労働と疲労
「労働」は、労働負担という、ある意味での「苦痛」が伴う行為です。労働負担に打ち勝つ努力をしつつ、ひとびとは労働をやり遂げていきます。この労働負担に伴う苦痛の一つが「疲労」です。
「疲労」は、①そのまま仕事を続けていけばへばってしまう、へばりの前段階、②休息の欲求をもたらす、③休息すれば回復可能、という意味を持つ生理現象です。だから、一定の労働をしたあと、「休む」ことによって疲労状態は回復し、心身はリフレッシュされます。休むためには、睡眠、食事、家族団らん、趣味・娯楽、交際、自主活動・・・等々、仕事から解放された自由な時間を過ごすことが必要です。
このようなことを通じて、人は、労働の苦痛は克服され、労働生活が、人間性を発達させ、健康を増進する効果を発揮することになります。その積み重ねが、労働者の生涯にわたる健康状態を決めることにもなります。
最近の労働者の健康状況の特徴
最近の働き方(働かされ方)の変貌が労働者の苦痛や健康状態に変化を与えていることが推察されます。そこでまず、今回は、厚生労働省の二つの統計報告を考える素材に紹介したいと思います。
図1を見てください。これは、「過労死等」による労災認定状況の推移を示しています。過労によって脳・心臓疾患または精神障害を発症し(死亡を含む)、労災補償を申請(請求)した件数、および、そのうち、認定を受け、労災補償を支給されることになった事案の件数です。
脳・心臓疾患は21世紀初頭から増加し、ここ10数年「高止まり」状態が続いています。一方、精神障害は、1983年から96年に至る14年間で労災申請(請求)件数も100に達せず(年平均6.6件)、認定(支給決定)数に至っては平均して2年で3件というありさまでしたが、21世紀初頭から「右肩上がり」で増加し、脳・心疾患を追い越し、最近は、申請は年1800件を超え、支給決定が年900件に迫っています。
もう一つ統計を紹介します。図2は、「個別労働紛争解決制度」の一環として、都道府県労働局などで開かれている「総合労働相談」のうち「民事上の個別労働紛争」(労働条件などに関する労働者と事業主との間の紛争)に関する主な相談内容と件数の推移です。
「いじめ・嫌がらせ」についての相談が、約10年前から、それまでトップであった「解雇」を抜き、さらに年々トップを維持しつつ増加し続け、2018年には、延べ合計件数の25.6%になる82,797件の達しています。
北海道でも、2018年度の民事上の個別労働相談件数は、延べ相談件数の合計10,366件のうち、「いじめ嫌がらせ」が4分の1以上の2,398件(28.0%)を締め占め、8年連続最多記録を作った状況です。
次回からは、このような労働者の労働者の苦痛や健康状態に変化が、どのような働き方の変化の影響されて起こっているのかを考えてみましょう。
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