吉根清三「うつ病で苦しむ労働者の支援について」

パワハラでうつ病となり、「労災」の対象となる労働者が増えています。しかし、会社の対応との軋轢などで困難が伴います。支援者、労働組合に何が求められているでしょうか。支援を通じて感じていることを報告します。/認定NPO法人 働く人びとのいのちと健康をまもる北海道センター発行「NPO法人いのちと健康まもる道センターにゅーす」第437号(2021年5月1日号)からの転載です。

 

 

生命保険会社の営業職員の事例を通して

 

大手生命保険会社の営業職員Aさんは、札幌支店責任者Ⅹ氏から退職強要されうつ病になりました。現在、労災認定を受け休業補償を受給し、会社に損害賠償請求をしています。

Aさんは、2014年11月に入社し、札幌支店では先輩にも恵まれ2018年頃まで仕事も順調でした。AさんのチームリーダーのDさんは、部下の面倒見もよく営業成績も良かったのですが、支店責任者と労働時間及び労働環境について意見が違い、対立していました。2019年にDさんが一身上の都合で退職してから、X氏は、Dさんと同じチームだったAさんやBさんに嫌がらせを始めました。例えば、テレアポで契約見込みが薄い顧客資料しか渡さない、顧客廻りでどんなに遅い時間に帰社しても報告書の記載を命じる、売上減少を責めたてる等です。

AさんとBさんは精神的に追い詰められて、Bさんは売り上げが減少し、辛くて退職してしまいました。

会社は、次に契約額が一定額を割り込んだら解雇するとした就業規則の条項をAさんに示し「解雇なら経歴に傷がつく、自主退職した方が良い」と期限を切って(2019年10月末日)退職願いを提出するよう通知しました。Aさんは「結」に相談・加入し、「自主退職はしない」と会社に通告すると、会社は嫌がるAさんをハローワークにつれて行き、そこで退職届に署名・押印を求めるなど異常な行動に出ました。「結」は、会社による異常な退職強要に抗議し、団体交渉を求めましたが会社は引き延ばしをしました。

この頃、打合せ時のAさんの表情や対話の様子に違和感を強く感じた私は、心療内科受診を勧めました。診断は「うつ病」でした。「結」は、団体交渉で退職強要を止めるように追求しましたが、会社の嫌がらせ(退職手続きに関する書面を送りつける)は止まらず、11月に入ると、一方的に自主退職の意向を確認したとして、退職手続きの書類を送り付けてきました。

私たちは、この時点でAさんのうつ病が重く、団体交渉への参加による精神的負荷を避けることとし、健康保険の「傷病手当金」を受給しながら労災請求及び損害賠償請求に切り替えることを提案しました。Aさんは、2020年2月に労災申請を行い、同年9月30日に認定され、現在、会社を相手に損害賠償請求を行っています。

 

労働者の使い捨ては許さない

 

企業は、役に立たないと判断した労働者を使い捨てにします。労働者が自主退職するように無能と決め付け、必要の無い人間として扱うことによって労働者の心に癒やせない程の深い傷を付けて職場から放り出すのです。「結」の組合員で、同様のケースで会社に踏みとどまっている労働者は数える程しかいません。

大手の木材・建材販売会社に勤務するSさんは、上司のパワハラでうつ病となり、一年間の休職を経て職場復帰したものの、執拗な退職勧奨を受け病状がさらに悪化し、初めて労働組合「結」に相談・加入し、退職勧奨を止めさせました。しかし病状が本来の業務に復帰出来ない状態にまで悪化したため、現在は、事務職補助員として「冷遇」されています。Sさんは、会社のハラスメントでメンタル不全となったのだから労働災害と認定して欲しいと、労災請求の準備を進めています。Sさんのようにパワハラに抗して企業に踏みとどまれる労働者は本当に僅かです。

札幌地区労連に寄せられる相談は、コロナ禍の影響を受け雇用契約解除に絡んでのパワハラ問題が増え続けています。多くの場合、パワハラを受けて「適応障害」や「うつ病」など心に深い傷を負っても、録音や録画など証拠がないため、労災請求に進めません。やむなく、生活のため、僅かな解決金で退職を余儀なくされています。

労災補償に相当と思われる事案でも、労災認定に高い壁があるため、不支給の場合のショックを考えると申請をためらう状況です。

労働者がパワハラで傷ついた時の対処方法やメンタル不全の労働者の救済について労働者にアドバイスする力を持つことが労働組合は求められています。そして、業務上被災した労働者の救済を目的とした「労災補償」制度となるよう、いの健センターと連携を強めて行きたいと思います。

 

 

 

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