佐々木潤「安全配慮義務違反とは何か」

2021年3月に行われた「新卒看護師の過労死裁判を支援する会総会」で、弁護団の佐々木 潤 弁護士が「安全配慮義務違反とは何か、綾さんの職場の実態」をテーマに講演しました。その内容の一部を掲載します。文章は、認定NPO法人 働く人びとのいのちと健康をまもる北海道センター事務局がまとめたものです。/「NPO法人いのちと健康まもる道センターにゅーす」第437号(2021年5月1日号)からの転載です。

 

佐々木 潤 弁護士

 

職場の安全を守る法律として労働安全衛生法があります。この法律に違反すると罰則が課せられることもあるため、強制力は非常に強いものです。

安全配慮義務とは、労働契約に基づき職場の安全を守るためのものです。労働安全衛生法は国が作った法律ですが、安全配慮義務は、綾さんの事例に照らせば、綾さんとKKR側とが結んだ労働契約の内容から出てくるものです。労働契約に基づき安全な職場で働いてもらう、そのような労働環境を作り上げる責任は、労働の場を提供している使用者(KKR)にあります。安全配慮義務の具体的な内容は労働契約の内容によって異なりますが、KKRは看護師の業務に関する安全配慮義務を負うことになります。

仮にKKRが労働安全衛生法を遵守していた場合でも、安全配慮義務はあくまで労働契約に基づくものであり、労働安全衛生法の射程範囲よりも広いものであることから、労働安全衛生法の遵守をもって安全配慮義務違反はないというのは通りません。

安全配慮義務というのは、長年、裁判で争われてきましたが、最高裁判所は2000年3月24日に、電通事件の判決で、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことのないように注意する義務を負う」と示しました。今現在、この判決が定着して、労働契約法第五条にも明文化されるようになっていますが、この判決が大きなターニングポイントとなりました。

安全配慮義務の中身としては、①適正労働条件措置義務、②健康管理義務、③適正労働配置義務、④看護・治療義務があると言われています。

そして、使用者は、これら4つの安全配慮義務を尽くすため、その当然の前提として、労働者が従事している業務の実情や健康状態等を常に把握することが求められます。何故なら、これらの把握がきちんとなされていないと、労働者に対する上記①から④の各安全配慮義務に基づく適時の有効な対策を取ることができないからです。

使用者による労働者における業務の実情把握や健康状態の把握は1度だけ行えば良いとか1年に1回行えば良いというようなものではなく、労働者が勤務をしている間は、何度でも繰り返し、途切れることなく行わなければならないものです。

過労死の原因である過重労働を防止するために、使用者は労働者に過重労働をさせてはいけません。過重労働には、「量」(労働時間・業務量)だけでなく「質」(労働の内容)が含まれます。

これは、綾さんの裁判でも争いになっています。「量」の点では100時間/月前後の時間外労働の存在が、また、「質」の点では「新人」「看護職(医療職)」として不可欠な「シャードーワーク」の存在等が綾さんを追い込んだと考えます。KKRでは、綾さんに関する業務の実情や健康状態の把握を欠いていたものであり、そのため、安全配慮義務に違反していたことを、裁判において訴え続けています。

 

 

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