水野谷武志「東日本大震災による被災三県の小地域別人口増減率地図」

 

 

1.はじめに

 

東日本大震災から10年が経った。世界最大級のマグニチュード9の東北地方太平洋沖地震によって,死者15,899人(警察庁,2020年12月10日現在),行方不明者2,527人(同左),震災関連死3,767人(復興庁,2020年9月30日現在),合わせると2万2千人あまりの尊い命が失われた。大地震の直後には,国際原子力事象評価尺度(INES)において最も深刻なレベル7となった東京電力福島第一原子力発電所事故によって大量の放射性物質が放出され,多くの人々が避難を余儀なくされた。この巨大複合災害による避難者数は発災当時,復興庁の発表によれば,最大で47万人にも達した。

あれから10年が経過し,復興庁「復興の現状と課題」(2021年1月発行)によれば,避難者は4.2万になり,高台移転による宅地造成や災害復興住宅については2020年12月に全てが完成し,被災三県の「製造品出荷額等は震災前の水準まで概ね回復」し,福島県の「避難指示解除区域では,帰還に向けた生活環境の整備を推進」,そして「帰還困難区域における『特定復興再生拠点区域』の整備を推進」と記されている。政府の復興計画も「第1期復興・創生期間」(2016年4月~2021年3月,事業費8兆円)を終え,事業規模を縮小した「第2期復興・創生期間」(2021年4月~2026年3月,事業費見込み1.6兆円)へと移行しようとしているが,復興に向けた課題は山積している。

例えば,高台移転先に人がなかなか戻らないケースがあることや,災害公営住宅での孤独死問題があり,主要産業である水産業の低迷が続き,福島第一原子力発電所では,廃炉作業が難航する中で,大量の汚染水や除染土壌の処理問題がある。福島第一原子力発電所周辺地域で除染作業が行われたものの,帰還困難区域は福島県の7市町村(富岡町,大熊町,双葉町,浪江町,葛尾村,飯舘村,南相馬市)にまたがり,その面積は計3万3,600ヘクタール(うち,わずか8%だけは特定復興再生拠点区域として2022~23年の避難解除を目指して除染作業などが進められているが,その他の92%のエリアの方針は示されていない。見通しが全く立っていないという意味で「白地地区」と呼ばれる。「白地地区」の厳しい現実を取材した本として例えば,三浦英之(2020)『白い土地:ルポ福島「帰還困難区域」とその周辺』集英社,がある)にも及び,多くの人々が元の地域に帰ることはおろか,入ることさえ制限され続けている。復興庁発表の避難者数の9割近くが福島県民だが,「避難者」の統一基準がないために,復興庁発表の数値は避難者の実態を過小評価している可能性が高い(例えば,2021年1月31日河北新報「福島の避難者集計に3万人以上の差 県と市町村,手法ばらばら」)。10年経って国や県の支援が打ち切られた自主避難者が「避難者」には多く含まれている。さらに,2021年2月13日に福島県沖を震源とするマグニチュード7.3の地震,翌月の3月20日に宮城県沖を震源とするマグニチュード6.9の地震は,東北地方太平洋沖地震の余震とみられ,10年前のことを人々に思い起こさせるとともに,廃炉作業が完了していない東京電力福島第一原子力発電所がこれからもずっと大地震や津波を受ける可能性と隣り合わせの危うい状況にあることを改めて私たちに突きつけた。

筆者はこれまで,東日本大震災に思いを寄せるために,部会報3月号にささやかな記事を寄稿してきた(「東日本大震災の避難者統計再考―福島県及び飯舘村」No.39,「東日本大震災による避難者統計」No.36,「東日本大震災による避難者統計再考」No.33,「東日本大震災の死者・震災関連死・行方不明者・避難者の統計地図」No.30)。これまで主に避難者統計に注目してきたが,本稿では,この10年で被災三県の人口がどう変化したのかを記録しておきたいと思った。県あるいは市町村レベルでの人口数の推移については既に関係各所でまとめられ発表されているが,国勢調査の小地域レベルで被災前の2010年と被災後の2015年を比較し,さらにそれを統計地図にまとめてみたい。単純で基礎的な統計地図ではあるが,筆者の知る限りそのような地図は作成されていないので,作成する意義はあると考えた。昨年(2020年)に国勢調査が実施され,数年後に小地域統計が公表されるので,10年間(2010→15→20年)の人口変化については別稿でまとめてみたい。

 

2.作成方法

 

2010年と2015年の国勢調査小地域統計を利用して,5年間の人口増減率がわかるように,①小地域エリア毎に2010年の人口数で色塗りした地図,②小地域エリア毎に2015年の人口数で色塗りした地図,③小地域エリア毎に2010→15年の人口増減率で色塗りした地図を作成し,この3種類の地図を並べて表示させるのが有効と考えた。市町村ごとに1枚の地図にまとめることもできるが,枚数が多くなってしまうし,何よりも,読者の閲覧したい地域や縮尺の地図にならないのが難点である。また,小地域統計はかなり細かい地域の増減率がわかるので,県や市町村レベルの地図だけを表示するのではその良さが損なわれてしまう。そこで,作成した地図をウェブ上に公開し,それを閲覧者に自由に表示してもらい,場所と縮尺などを操作して閲覧してもらう方法をとりたい。ウェブによる地図作成には,Esri社によるウェブアプリの1つであるDashboardsを使った。上記①~③を被災三県について作成するにあたり,人口増減率の原因を知るための参考情報として,①~③には東日本大震災による津波浸水域をピンク色で,③については応急仮設住宅を緑丸印,復興公営住宅を緑星印で加えた。さらに福島県については,経済産業省が発表している避難指示区域(2015年9月時点)の地図を加えた。以上の要領で作成したDashboardsの地図を以下のURLで公開したのでアクセスしていただきたい:

福島県:https://arcg.is/mTbXO

宮城県:https://arcg.is/15SqK8

岩手県:https://arcg.is/1vi9fK0

なお,使用したデータの出所については,各地図の画面下にある「データ出所」にまとめた。また,Esri社は「地図で見る東日本大震災からの復旧状況 – 岩手県宮古市・釜石市,宮城県気仙沼市・石巻市,福島県新地町・いわき市」と題したウェブによる地図(衛星画像)を2021年3月に公開したので,付言しておく。

 

図1 福島県のDashboardsのトップページ画面

 

3.Dashboardsの操作方法

 

Dashboardsの地図を閲覧できるブラウザーは,Chrome,Firefox,Safari,Microsoft Edgeで,動作を確実するために最新バージョンのブラウザーを使っていただきたい。3つの地図(国勢調査小地域人口2010年,国勢調査小地域人口2015年,国勢調査小地域人口増減率2010→15年)は連動しているので,1つの地図で縮尺を変えたり,表示場所を変えると,残りの2つも連動して動くので,3枚の地図を同じ場所で比較できる。操作ボタンについて以下で簡単に説明するので参考にされたい。

 

 ホームボタン:地図が初期画面の縮尺表示に戻る

 

 凡例表示:表示されているデータの種類と表示方法(階級区分と対応する色など)

 

 レイヤー切り替え:表示されているデータを表示・非表示する

 

 背景地図切り替え:衛星画像や地形図などに切り替える

 

 地図検索:任意の地域名(市町村名あるいは地区名)を入力するとそのエリアに地図を移動・拡大表示することができる。

 地図拡大・縮小

 

また,地図上の小地域エリアをクリックするとそのエリアの人口数(人口増減率),住宅のポイントをクリックするとその詳細情報がポップアップで表示される。

 

4.Dashboardsから読み取れること

 

福島県では,県全体を表示してみると,2015年時点の帰還困難区域に対応するエリアの色が一色になっている,つまり人口が2015年には0人,人口減少率が100%になっていることが確認できる。そして帰還困難区域を取り囲むように仮設住宅や復興公営住宅が立地している。宮城県や岩手県でも県全体を表示してみると,津波浸水域を避けた沿岸部に仮設住宅や復興公営住宅が集中して立地していることがわかる。

県全体レベルではなく,地図を拡大して小さなエリアをみると,人口増減率の状況は様々であり,その小さなエリアごとの様々な事情が反映した結果となっている。例えば,2021年2月16日『北海道新聞』「防潮堤 マチの命運左右」によると,宮城県石巻市雄勝町中心部(図2の赤丸内に雄勝湾がありその入り江付近が中心部)では,高さ約10メートルの防潮堤が建設され,高台移転が進められたが,工事の長期化も一因となって高台の復興公営住宅への入居は思うように進んでいない。Dashboardsで当該地区の小地域「地域名:石巻市雄勝」の人口増減率をみると-88%(濃い青色)である。一方で,女川町中心部(図2の赤丸内に女川湾がありその入り江付近が中心部)では,防潮堤を作らずに,中心部のかさ上げを選択し,女川湾を見渡せる商店街(シーパルピア女川)を整備したことによって付近の復興公営住宅で人口が増えている。Dashboardsで商店街と復興公営住宅を含む小地域「地域名:女川町女川浜字大原」の人口増減率をみると+44%(赤色)である。

 

図2 宮城県の女川町と石巻市雄勝町をふくむエリア

 

 

5.さいごに

 

東日本大震災10年を特集するテレビ番組及び新聞・雑誌記事のいくつかをみて,困難な状況の中で苦労を重ねて,現状を打開する様々な取り組みが被災三県でも多く存在することを知った。その具体的な取り組みがあった地域の様子を知る上でDashboardsが役に立つ部分もある。このような前進がある一方で,特に東京電力福島第一原子力発電所周辺の福島県沿岸地域,より具体的には帰還困難区域における人口ゼロの厳しい現実をDashboardsで改めて確認した。10年経っても除染の計画すら立たない帰還困難区域に住んでいた多くの人々の怒りと無念と心労は察するに余りある。そして,2011年3月11日に発せられた原子力緊急事態宣言が現在も解除されていないことからもわかるように,東京電力福島第一原子力発電所の溶解核燃料(デブリ)はいまだに全貌が確認できないまま大量の注水によって「冷温停止状態」を辛うじて保っている状況が続いていることに加えて,デブリの取り出しを含む非常に難しい廃炉作業,放射能汚染地域の除染作業などが長く長く続くという現実もある。この厳しい現実に少しでも向き合うために,東京電力福島第一原子力発電所事故による影響を把握する基礎資料として,人口をふくむ基本的な社会統計指標の動向を今後も追跡していきたい。

 

※本稿の初出:水野谷武志(2021.3)「東日本大震災による被災三県の小地域別人口増減率地図」『経済統計学会・労働統計研究部会報』No.42

 

 

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