川村雅則「労働組合と若者が出会うために」

労働大学出版センター発行『働くものの月刊学習誌 まなぶ』2021年4月号(特集:わたしが労働組合でがんばる理由)に掲載された拙文です。

 

 

労働組合に入ろうと、若手や新入社員・職員に呼びかけても反応はよくない。今日の労働条件は、労働組合がみんなの力で勝ち取ってきた成果なのに、そのことが理解されていない──労働組合なくして豊かな職業人生はあり得ないと思っているイチ労働研究者としては至極残念な事態です。ただ一方で、調査・研究の中で労働組合に感じている疑問などもあります。今回は、そんなことを書いてみます。

 

労組を必要とする人はだれか

入社1年目の私のゼミの卒業生が、仕事のきつさや支援の欠如などを理由に仕事を辞めることになりました。職場に労働組合はありません。このままでは心が壊れるおそれが高く、限界でした。卒業生の働き方一つとっても組合の必要性を強く感じます。それは、組合のない企業で働く労働者だけではありません。たとえば、私の研究する公務職場もそうです。

ご存じのように、国や自治体には多くの非正規公務員が働いています。地方自治体では、新しい非正規公務員制度(会計年度任用職員制度)が2020年度から始まりました。民間の非正規雇用制度と比べても、雇用安定の面でも均等待遇の面でも、大きな欠陥をはらむこの制度下で働く労働者は、総務省の最新調査によれば、じつに90万人に及びます。彼らには、職場に存在する労働組合から手が差し伸べられているでしょうか。いまなお多くは、門戸が開かれてさえいないのが実態ではないでしょうか。自分のことだけしか考えていない! と若者を嘆く組合関係者もまた、自分(正規労働者)のことだけしか考えず、肩を並べて働く非正規労働者や発注先・取引先の労働者を考えることのない、視野の狭い労働者になってはいないでしょうか。

 

労働組合は組合員を守ることができているか

長時間労働の問題に労働組合が取り組めていない、という話もよく聞かれます。働き方改革によって時間外労働の上限規制が導入される前、名だたる大手企業がいわゆる過労死ラインを超える水準で締結した36協定の内容が新聞で報じられました。「あの有名な企業で!?」と驚く学生たちに、協定なのだから使用者だけで決められるものではなく、もう一方の締結当事者が労働組合であることへの理解を促すと、教科書に学ぶ労働組合との乖離に、輪をかけて驚いていました。過労死・労災認定の裁判を支えていたのは社外・地域の労働組合だった、という話しも決して珍しくないことでしょう。こうなってくると、労働組合は本当に役立っているのか、という話しです。

もちろん、以上は極端な事例かもしれません。労働組合が勝ち取ってきた実績がそこかしこに見られるのは疑いようのない事実です。しかしながら、労働協約の適用範囲が限定されているがゆえに、労働組合が勝ち取った成果や組合の存在意義は、社会に見えづらいのも事実です。横断的な労働市場の規制こそが労働組合の課題であると考えるならば、個別の労使間で勝ち取った成果も、一時的、限定的なものにとどまらざるを得ないのではないでしょうか。

誤解のないよう言えば、それだから意味がない、と言っているのではありません。つねに、企業内組合を越える発想をもたなければ、勝ち取った成果は、あまねく労働者の権利ではなく特権にみられるような事態に陥りかねません。

 

若者に、みんなで何かを変えた経験はあるのか

いや、だからこそ状況を変えるために労働組合に結集を呼びかけているのではないか、と言われるかもしれません。しかしながら、若い層ほど、意思決定の場への参加経験が非常に乏しいのではないでしょうか。国際比較データでも、日本の若者の自己肯定感や自己効力感の顕著な低さがよく指摘されます。後者は、自分にはできる、という感覚です。

近年、いわゆるブラック校則なる不条理が社会問題化しています。黒髪や髪型の強制、服装や下着の色の指定、登下校時の禁止行為など。人権問題とも言えることがらが、彼ら生徒のためにという発想で強制、容認されています。ブラック校則の後はブラックバイトの経験。そして、一度失敗すると再挑戦がむずかしい重圧下での就職活動。そうした経験をくぐり抜けてきた若者たちが、職場を変えるためにいっしょに声をあげようと言われても、端的に言って、イメージがわかないのではないでしょうか。

すぐれた取り組みや労働組合の存在意義を否定するつもりは毛頭ないのですが、ただ、2003年に出された連合評価委員会最終報告での提起に、労働界はどれだけ応答し得ているのだろうか、という問題意識がつねにあります。若者の側に原因を探すだけでなく、虚心坦懐に、みずからの活動方針や活動内容など労働組合の側が検証してみることにも意義があるかもしれないと思います。いかがでしょうか。

 

 

労使関係、労働組合をさらに学べる文献

・木下武男(2021)『労働組合とは何か』岩波書店

・濱口桂一郎、海老原嗣生(2020)『働き方改革の世界史』筑摩書房

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