佐々木潤「安全配慮義務とは何か? 綾さんの職場の実態」(KKR札幌医療センター新人看護師過労自死事件)

2021年3月27(土)に行われた「新卒看護師の過労死裁判を支援する会総会」で、弁護団の佐々木 潤 弁護士が「安全配慮義務違反とは何か、綾さんの職場の実態」をテーマに講演しました。その記録です。杉本綾さんの事件をはじめ、過労死事件で問われる使用者の安全配慮義務とはいかなるものか知ることができます。お読みください。

 

 

杉本綾さん事件の経過

まずは、事件の内容について、その概略を説明します。

杉本綾さんは、1989年(平成元年)生まれで、ご逝去された際は23歳でした。

勤務先はKKR札幌医療センターであり、呼吸器科に所属されていました。

KKR札幌医療センターの特徴としては、急性期の患者を対象とする450病床の病院であり、入院患者数は平均すると1日に387名、外来患者数は平均で1日に1025名でした。

杉本綾さんは、大学を卒業されて、新卒看護師としてKKRに就職されました。

KKR札幌医療センターでは、新人看護師に対する教育として、「プリセクター」という先輩看護師が実務の指導をする制度があります。そのほかに、新人向けの「チェックリスト」もあり、どの科に所属したかには関係なく、すべての新人看護師が行っていました。

綾さんが就職されて亡くなるまでの経過を時系列で確認したいと思います。

2012年4月から6階西病棟呼吸器センターで勤務を開始され、タイムカード上の記録でも、4月の段階で47時間48分の時間外勤務がありました。そして、引き続く5月には91時間40分、6月にも95時間30分の時間外勤務を行っていました。

なお、皆さんご存じかもしれませんが、業務に起因して脳や心臓血管に障害が発生したとして労災が認められるためには、時間外勤務が月80時間~100時間を超えていることが必要とされています。

そして、2012年6月の時間外勤務も85時間30分でした。この6月は就職後3カ月目に入ったということで、受け持ち患者が前の月までは3~5名であったのが7~8名に増えました。また、6月には勤務中の事故もありました。

7月に入っても相変わらず時間外労働が発生しており、具体的には73時間06分でした。この月には初夜勤もありました。その当時のmixiを利用した日記には、「この前の初夜勤でどん底におちた。本気でどうやって病院にこなくていいか、存在消せるか、死ぬか?と考えました」と記載されていました。7月には勤務中の事故が2回ありました。そして、8月の時間外労働は85時間26分でした。

その後も、9月の時間外勤務は70時間、10月の時間外労働は69時間、11月の時間外労働は65時間であったほか、最後の夜勤後の振り返りで突然泣き出し、mixiの日記にも「看護師むいていないかもー! 他に出来そうな仕事があるわけでもないし あー 自分 消えればいいのに なんてねー!」と記載していました。

そして、2012年12月2日に自宅で自死されました。

次に、本件についての行政段階や裁判所段階の時系列の経過は次のとおりです。

2014年1月に労災申請をしましたが認められず、審査請求や再審査請求も認められなかったため、2016年12月15日に労災不支給処分の取消を求めて札幌地方裁判所に行政訴訟を提起したところ、証人尋問前に、国側が自庁取消を行い、2018年10月26日に労災が認められました。

その後、KKRを被告として、札幌地方裁判所に対し、2019年7月に損害賠償請求訴訟を提起し、現在に至ります。

以上の経過を念頭に置いた上でお話をお聴きいただければと思います。

 

損害賠償請求をめぐる考え方

今回の訴訟で採用した、損害賠償請求における法律構成

日本の法律では、相手に対して損害賠償を請求するという場合、何種類かの法律構成があります。

今回の訴訟では、「不法行為責任」と「債務不履行責任」の法律構成をしていますが、簡単に言いますと、債務不履行責任とは、KKRは綾さんを看護師として雇った、そして雇ったということはKKRと綾さんとの間には労働契約が成立していますので、この労働契約に基づいて損害賠償請求を行うということになります。

労働契約とは、本来、労働者に働いてもらったことに対する対価として使用者が賃金を支払うというのが中心となる契約ですが、現在では、労働契約の内容として、「労働者に安全に働いてもらう」という内容が含まれており、そのため、使用者は労働者に安全に働いてもらうことができる環境を作り上げなければならないとされています。

本件では、KKRが、この内容をきちんと実行せず、綾さんがお亡くなりになってしまったので損害賠償を請求するということになります。これが労働契約に基づいて債務不履行責任を追及するということです。

もう一つは、不法行為責任に基づく損害賠償請求というものであり、当事者間に契約関係が無くとも、違法行為、すなわち、不法行為があるため損害賠償を請求するというものです。交通事故の被害者から加害者に対する損害賠償請求が典型例です。

これら2つの法律構成は、同時に使用して請求しても構わないとされていますので、裁判でもこれら2つの法律構成を使用してKKRに損害賠償請求をしているのです。

不法行為責任と債務不履行責任の成立要件

本件における損害賠償請求に関してもう少し説明しますと、不法行為責任・債務不履行責任の成立要件としては、大きく分けて3つが必要とされています。

一つ目は、加害行為ないし債務不履行の事実及び違法性があることが必要となります。

これは、先ほど述べたKKRには、「労働者に安全に働いてもらうことができる環境を作り上げるという義務」があるのにこれを怠ったというものであり、これが、本日の主題であるKKRによる「安全配慮義務違反」ということとなります。

二つ目は、加害行為ないし債務不履行と損害との間に因果関係のあることが必要となり、これが「因果関係」というものです。

KKRによる安全配慮義務違反と綾さんが健康を害してお亡くなりになられたこととの間に法律上の関係性のあることが必要という意味です。

そして、三つ目として、加害行為ないし債務不履行について故意または過失があることが必要となり、これが「故意・過失」というものです。

KKRが安全な労働環境を作り上げなかったことについて、本当ならば作り上げることができたのに落ち度があって作り上げなかったということが必要という意味です。

一つ目の要件に関して、当方は、KKRが綾さんとの労働契約による労働環境を作り上げる義務を負っているのにそれを履行していなかったと主張していますが、KKRは、安全配慮義務違反はないとしています。

このKKRの言い分とは、「やるべきことはちゃんとやっている」、「労働者に安全に働いてもらうことができる環境を作り上げており、何らの問題もなかった。」という言い分です。

二つ目の要件に関して、KKRは、そもそも一つ目の要件である安全配慮義務違反という事実がない以上、損害との間に因果関係もないとしています。

そして、三つ目の要件に関しても、同じような話ではありますが、KKRには安全配慮義務違反はがないため、何らの落ち度もないとしています。

これらのKKRの言い分を見ていただくと、加害行為ないし債務不履行の違法性があること、すなわち、KKRに安全配慮義務違反があるかないかが本訴訟のポイントであることがお分かりいただけると思います。

ですから、当方も、KKRも、安全配慮義務違反があったかなかったかということをいろいろな角度や側面から、繰り返し主張・立証しているのです。

 

安全配慮義務を考える

安全配慮義務に関する基本的な考え方

ここで、話を変えて、安全配慮義務違反の中身について説明させていただきます。

職場の安全を守る法律のなかで1番目に来るのが労働安全衛生法です。この法律の特徴としては、労働災害や職業病など労働により発生する怪我や病気を予防するために事業者が講ずべき処置が定められており、この法律に違反をすると罰則が与えられることがあるため、その強制力は非常に強いということが挙げられます。

そして、罰則が課せられるということは、どういう場合に罰則を課せられて、どういう場合には罰則を科せられないのかが事前に判らなければ行動ができません。

そのため、この法律では、罰則が課せられる場合を、明文で規定して明確化を図っています。

では、安全配慮義務の中身とは何かというと、使用者と労働者の間で結ばれた労働契約に基づく職場の安全を守るための内容となります。

労働安全衛生法は国が作った法律ですが、安全配慮義務は、使用者と労働者との間で締結された労働契約によるもの、本件では、綾さんとKKR側とが締結した労働契約から導かれるものとなります。

安全配慮義務は誰が負うかというと、これは雇った側にある使用者です。すなわち、労働契約に基づき安全な職場で働いてもらうことができるようにするのは誰ですかとなると、それは労働の場を提供している使用者であり、本件ではKKRとなるのです。

それでは、安全配慮義務の具体的な中身はどのように決まるのかといいますと、業種、職種、職場、勤務時間等様々な要素を踏まえ契約内容によって定められます。

工場勤務の方についてはこのような安全配慮義務、運送業の運転手の方はこのような安全配慮義務というように、それぞれ内容が異なることとなります。

この裁判では、綾さんは新人看護師でしたので、新人看護師に対する安全配慮義務の内容を争っています。

あと、安全配慮義務に違反したらどうなるかというと、先ほどの労働安全衛生法では事業者に罰則が与えられますが、安全配慮義務違反については、国が作った取り締まりをするための法律で基づくものではないので罰則はありません。

そのかわりと言う訳ではありませんが、使用者に損害賠償責任が発生することがあり、この裁判でもKKRに対して損害賠償を請求しています。

仮にKKRが労働安全衛生法を遵守して病院の運営を行っているので安全配慮義務違反はないと反論をしてきたとしても、安全配慮義務は労働契約に基づくものであり、労働安全衛生法の対象範囲より広い範囲をカバーしているという関係にあるため、この反論だけでは、安全配慮義務違反はないとの主張は直ちに通らないこととなります。

 

安全配慮義務を構成するもの

安全配慮義務というのは、主に裁判において少しずつ認められてきたものです。

そして、平成12年3月24日の最高裁判決(電通事件)において、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことのないように注意する義務を負う」と示されました。この判決が定着して、労働契約法にも明文化されるようになっていますが、実務的にも、この最高裁判決が出発点となり、また、非常に大きなターニングポイントとなりました。

安全配慮義務については、学者の方々の研究や様々な判決の分析を通じて、次のような①から④により構成されていると言われるようになっています。

①適正労働条件措置義務については、「労働者が過度な労働が原因となって健康を破壊し、過労することのないように労働時間、休憩時間、休日、労働密度、休息場所、人員配置、労働環境等の労働条件を措置する義務」とされています。

②健康管理義務については、「必要に応じ(最低、雇い入れ時及び年1回)血圧測定、貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、尿検査及び心電図検査の診断項目を含む健康診断、メンタルヘルス対策を実施し、労働者の健康状態を把握して健康管理を行い、健康障害を早期に発見する義務」とされています。

③適正労働配置義務については、「健康障害(高血圧症などの基礎疾患、既往歴などによる)を起こしているか、または、その可能のある労働者に対しては、その症状に応じて・・・労働者の健康障害に悪影響を及ぼす可能性のある労働に従事させてはならない義務」とされています。

④看護・治療義務については、「過労により疾病を発症したか、または、発症する可能性のある労働者に対し、適切な看護を行い、適切な治療(救急者で病院に搬送する等)を受けさせる義務」とされています。

 

業務実情と健康状態の把握義務

そして、この①から④に関連して、非常に重要な義務として、⑤業務実情把握義務(使用者が労働者の勤務状況、職場環境等を把握する義務)と⑥健康状態把握義務(労働者の健康状態を常に観察しこれを把握する義務)があります。

何故この⑤及び⑥が重要かというと、これらは、先ほど見てもらった4つの安全配慮義務の大前提として必要不可欠なものだからであり、言い換えると、使用者が労働者の業務の実情や健康状態を常に把握していないと、上記①ないし④の安全配慮義務を適時・適正に履行することができないからです。

より細かく見ていきますと、例えば、使用者が労働者の勤務状態や職場環境を確かに把握していたとします。そうしますと、使用者は、⑤業務実情把握義務はきちんと履行していたということとなります。

しかしながら、これで終わりであり、使用者は、⑥健康状態把握義務、すなわち、労働者の健康状況を観察し把握する義務を負わないとするならば、労働者の健康被害を防止するためにはあまりに不十分であることがお分かりになると思います。

繰り返しとなりますが、使用者が⑤業務実情把握義務と⑥健康状態把握義務を相俟ってきちんと履行しないと、効果的な安全配義務の履行、すなわち、職場での健康被害の発生を防止する対策が取れないのです。

また、⑤業務実情把握義務や⑥健康状態把握義務は、労働者を雇用中に1回だけ行えばよいとか、1年間に1回だけ行えばよいというものではなく、雇用中には繰り返し、回数制限なく行わなければなりません。

これは、労働者が勤務をしている職場環境や労働環境とは、固定的なものではなく、例えば、繁忙期のように時間外労働が発生・増加したり、業務量が増加したりなど、常に動きのあるものだからです。

さらに、使用者に⑤業務実情把握義務と⑥健康状態把握義務が要求されないとどうなるかについて、④看護・治療義務を例に取り説明したいと思います。

④看護・治療義務とは、上記のとおり過労により疾病を発症したか、または、発症する可能性のある労働者に対し、適切な看護を行い、適切な治療(救急車で病院に搬送する等)を受けさせる義務とされています。

そのため、仮に労働者が職場で脳卒中を発症し倒れてしまった際に、使用者は直ちに救急車を呼び医療機関で治療を受けられるように対応したとします。

そうすると、使用者は、④看護・治療義務をきちんと果たしたのだから安全配慮義務を果たしたと言いそうですが、この言い分は直感的におかしいと思われるでしょう。そもそも使用者は、倒れた労働者の方が長時間労働を繰り返していて脳や心臓に負荷がかかっていたという根本原因を排除しなければならなかったのにこれをしていなかった点に皆さんお気づきだからなのです。

このように、労働者の健康被害を防止するための根本原因に行き着かず終わりになるということでは、意味がありません。

言い換えると、⑤業務実情把握義務と⑥健康状態把握義務が不要とされるのであれば、①適正労働条件措置義務、②健康管理義務、③適正労働配置義務、④看護・治療義務による構成される安全配慮義務が「絵にかいた餅」になってしまいかねないのです。

 

新人、看護師、シャドーワークという論点

 

 

綾さんの訴訟で重視すべき特徴は複数ありますが、今日お話をさせていただく中では、「新人」、「看護師」、「シャドーワーク」の点を取り上げたいと思います。

先ほど、①から⑥の義務をお伝えしましたが、これを綾さんに当てはめますと、まず、KKRは、新人として配置される段階で、①適正労働条件措置義務の履行をしなければなりませんでした。

綾さんは新規採用ですので、これまで勤務経験はない、そうなりますと、綾さんが過重な労働が原因となって健康を害しないように、労働時間、休憩時間、休日、労働密度、休息場所、人員配置、労働環境等の労働条件を適正に措置する義務がKKRにはあります。 そして、KKRとしては、4月1日前の段階では綾さんはまだ働き始めていませんので労働の実情を把握するとはできませんが、4月1日以降ならば労働の実情を把握することができるようになります。

綾さんは、4月には40時間以上、5月には91時間以上、その後にも上記のとおりの時間外労働が発生していましたが、KKR側は、このような働かせ方をしたことに対して、まさに最初の段階から、⑤業務実情把握義務を履行しておりませんでした。

また、綾さんが新規採用された段階では健康診断のかたちで②健康管理義務が履行されたでしょうが、勤務開始後、KKRは、⑥健康状態把握義務を履行し、綾さんは休憩を取ることができているかや、勤務時間内で仕事が終わっているか等を把握しなければなりませんでした。

また、看護師業務の経験則や、新人教育の場面で、綾さんによる「シャドーワーク」の存在に気が付くこともできたはずです。

そして、KKRとしては、これらの把握した内容に基づき、①適正労働条件措置義務に関して検証や修正をしていなければなりませんでした。

さらに、KKRは、ご本人からネガティブな発言があったこと等をきちんと捉えて、⑥健康状態把握義務を履行しなければならず、健康状態が阻害されていることが見受けられたならば、休暇を取得させる、勤務内容を軽減させる等、今一度かかる労働条件や労働環境下で働いてもらうのかを見直すといった①適正労働条件措置義務や③適正労働配置義務を履行することができたはずでした。

 

綾さんの働き方と健康状態は把握されていたのか

繰り返しではありますが、より明示的に⑤業務実情把握義務及び⑥健康状態把握義務の点に絞って検討したいと思います。

綾さんについては、4月47時間、5月91時間、6月85時間、7月8月85時間 、9月70時間、10月69時間、11月65時間といった時間外労働の恒常化がタイムカードという客観的な資料から明らかとなっています。

そのため、KKRとしては、この点からだけでも、⑤業務実情把握義務の履行は容易であったはずです。

次に、受持患者数については、3~4名だったのが7~8名となりましたが、この増加については正当な理由があるのか、新人である綾さんに7~8名を担当してもらうことに問題がないのかという視点があったのでしょうか。

さらに、初回の事故があったことについても、KKRは把握しています。

新人の看護師が3カ月目で事故を出していますが、KKRはこの点をどのように理解したのでしょうか。

加えて、振り返りシート記載内容に関しても、綾さんは何ができておらず、何をしなければならなかったのか、何を学習しなければならなかったのか等本人の認識が記載されていますし、「シャドーワーク」の存在も少なくとも経験則的に理解できたはずですので、KKR側では業務実情の把握が容易にできたのではないでしょうか。

そして、事故報告を契機としても、業務実情の把握ができたのではないでしょうか。

KKRが常に把握しておかなければならない⑥健康状態把握義務に関しても、新人看護師が4カ月目で勤務中に号泣するようなことが起きましたが、これは、異例のことではないでしょうか。そうすると、健康状態に影響あることが起きているのではないかと把握することが可能だったはずです。

その後においても、注意力が低下していたり、表情が暗くなっていたりして、ご本人の外側に現れる注意するべきことが出てきていたのではないか、健康状態に影響があることが起きてきているのではないか、などが把握できたのではないでしょうか。

 

国との取消訴訟では、勤医協病院の田村修先生に、綾さんの自死が過重労働によるものであるとの意見書を作成していただきました。

そして、この意見書には、次の記載があります。

「職場では大きく分けると、先輩と上司の一グループがあり、自分より上位にある方々。もう一グループは、同期で一緒に入職した人とプラス他の医療機関に勤めて転職される形でKKRに入って来た既卒で同期の方」

がいるとしたうえで、

「①同期グループ

・眠れないことが多くなり、次の日仕事だと思うと仕事を考えてしまい、2~3時間しか眠られないと言っていたことがあります。そのような時は目の下にクマができていてすぐ分かりました。

・いつの頃か分かりませんが、頭痛と肩こりがすると鎮痛剤を飲むようなことがありました。11月ごろから勤務中ボーっとすることが多くなり、先輩方からも注意しても聞いていない気がする、分かっているのだろうか。と言う言葉を聞くようになりました。

②既卒でKKRに同時期に採用になったグループ

・最初のころは明るい感じでしたが8月過ぎから笑わなくなり、表情が乏しいとの印象を受けていました。ある時、患者対応で杉本さんと一緒になったとき、患者さんが冗談を言って皆、笑っていたのに杉本さんだけ笑わない場面があり、既卒の同期の間で「心配だね」と出ていたことがありました。後半はずっとそのような感じだったと思います。」

としています。

これに対して、職場の先輩や上司が述べた内容についてですが、

「・変化に特に気づくことはありませんでした。変わった状況など思い当たることはありません。

・変化について特に記憶しておりません。

・生前、同期の子から、かなり痩せたと言われていたが私はその話を聞いていても、特に変化は感じませんでした。

・化粧直しを良くていていましたが、それが最後の方まで続いていたかは分かりません。

・言動や表情の変化について、気をつけていない点もあるかとおもいますが、特に思い当たることはありません。

・変化に気づいた点はありませんでした。しかし、最後の面談のとき、泣きづづけていたので何かおかしいと感じました。これは一番最後のとき思いました。

・看護師長さんは、特に気づいたことはありませんでした、周囲からも杉本さんの様子が変だとの報告が上がってきたことはなかったと思います。」

としています。

これらの証言に関して、田村先生は、どのような評価をされているかというと、

「同期、同僚やある程度、心理的距離が近い人たちは、7月から9月にかけて疲れている、夏ごろから楽しみにしていた旅行をキャンセル、あまり笑わず表情が乏しくなった、秋ごろから食欲の低下、集中力の低下、変化が積み重なっているのが見て取っているのに対して、プリセクターから看護師長に至るまで、先輩方は一応に変化には気づかなかった、思い当たることは無いと述べているのは示唆的である。」

とされています。

この点については、弁護団の島田弁護士が、裁判において、属性による分類を行い、その証言の信用性を分析する準備書面を作成し提出しています。

 

結論:安全配慮義務は履行されていなかった

KKRは、綾さんが勤務をしていた期間を通じて、①適正措置義務、②健康管理義務、③適正配置義務、④看護治療義務を履行していたのでしょうか。

また、これらの大前提となる⑤業務実情把握義務や⑥健康状態把握義務を履行していたのでしょうか。

これに対する結論としては、何も行っていなかったというのが当方の主張となります。

新人教育のための振り返りシートやプリセクターは何のために行ったのかといえば、いずれも新人教育のため、より具体的には綾さんに看護業務を習得してもらうためであり、この点には異論はないと思います。新人なので早く業務を覚えて一人前になってもらいたいということです。

しかし、KKRによる⑤業務実情把握や⑥健康状態把握の履行の側面から、新人教育が活用されたかどうかという視点で見てみると、活用されたという事情は見受けられません。

何故というと、先輩や上司の方々は、新人教育の場面で生じた事故報告、綾さんの表情、時間外労働時間等を間近で見ていたにもかかわらず、綾さんの変化に何ら気が付かなかったとしているからです。

結局、この点については、既卒同期の方が述べているとおり綾さんの一人立ちを目指しすぎで何でもさせすぎたということであり、指導をした先輩や上司の方々には、綾さんの業務実情や健康状態を把握するという視点がまったくなかったのだと思います。

実際、師長さんやプリセクターの方は、きちんと新人教育はやっていましたと述べるでしょう。しかし、日々一緒にかかわっていた師長さんやプリセクターの方々に対して、新人教育の中で綾さんの業務実情や健康状態の把握に努められていましたかと尋ねたとしたならは、何と答えるのでしょうか。

これは自分たちの業務範囲外の内容であると言うのでしょうか。

KKRは綾さんに対して新人教育を行っていたものの、同じ対象である綾さんの業務実情や健康状態を把握するということをすっぽり抜け落としていたという事実を裁判所に理解してもらいたいと思っています。

繰り返しとなりますが、この裁判の最大の論点は、労働安全配慮義務違反がKKRに認められるかということであり、そのために、当方は、皆さんのお力をお借りして、様々な角度から主張をしたり、証拠を提出したりしています。

逆に、KKR側はこの論点が認められないように反論を続けています。

この論点に関するにやりとりがすべての裁判期日で行われています。

この裁判では、KKRは、綾さんが健康に働くための安全対策をとっていなかった、問題点があったということを認めないという態度で対応しています。

安全配慮義務違反の有無がこの裁判の最大のポイントであることを改めてご理解いただくことで、原告・被告双方が何故このようなやり取りをしているのかも理解していただけることに繋がるのではと思い、「安全配慮義務とは何か?綾さんの職場の実態」という題目でお話をさせていただきました。

ご静聴ありがとうございました。

 

 

 

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(関連情報)

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