川村雅則「道内建設季節労働者はいま──2019年度アンケート・聞き取り調査の結果より」

「公契約条例」という条例(自治体のルール)をご存じでしょうか。建設工事、委託業務、指定管理など、自治体が発注する仕事で働く人たちの適正な労働条件の確保を目指すものです。私たち「札幌市公契約条例の制定を求める会」では、この公契約条例の制定を求めて取り組みを続けています(公契約条例が求められている背景や公契約条例の意義などについては、「連合」作成のパンフレットをご参照ください)。2012年に、当時の札幌市長が条例案を札幌市議会に上程してから(条例案は翌13年に否決)、今年(2021年)でかれこれ10年目を迎えました。公契約条例を必要な状況に変化はなく、むしろ、必要性は増している、と私たちは考えていますので、取り組みをさらに強めていくつもりです。なお、北海道内では、旭川市が唯一の条例(理念型条例)制定自治体となっています

さて、条例制定に必要な作業の一つが、自治体が発注している仕事で働く人たちの現状把握だと思います。本稿では、道内建設季節労働者の現状を報告します。前半はアンケート調査の結果、後半は聞き取り調査の結果です。なお本稿は、NPO法人建設政策研究所が隔月で発行している雑誌『建設政策』第196号(2021年3月号)、第197号(2021年5月号)からの転載原稿です。

 

 

 

1.はじめに──問題意識と季節労働者の動向

(1)進む担い手確保策

厳しい労働条件を背景に若年層の入職が減少する建設業では、公共工事設計労務単価(以下、設計労務単価)の大幅な引き上げ[1]と、いわゆる「担い手三法(公共工事の品質確保の促進に関する法律、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律、建設業法)」の改定(2014年に第一次改定、2019年に第二次改定)など、労働力確保を目指す政策転換が進められてきた。

ただ、こうした政策転換の効果は現場にまで果たして行き渡っているのだろうかという問題意識で、北海道センターでは調査・研究活動を続けてきた。本稿はその一環で、センターが2019年度に行った、建設業で働く労働者の調査結果を示す。

(2)北海道における季節労働者の動向

積雪寒冷地である北海道で働く季節労働者は、厚生労働省による牧歌的な定義[2]と異なり、冬になると失業を余儀なくされる存在である。冬の間は、雇用保険(短期雇用特例被保険者)の特例一時金(2007年度から40日分に減額)でしのぐか、出稼ぎに出るなどして対応せざるを得ない。

冬期技能講習制度[3]が維持されているときには、彼らのこうした状況を大規模に把握することができたのも、制度廃止にともないそれは困難になっている。有効回答1千人を超える規模で調査をセンターが行えたのも、北海道から受託した調査が最後である[4]

北海道労働局は、季節労働者が属する短期雇用特例被保険者のうちの特例一時金の受給資格決定者数を季節労働者としてカウントしている。

図表1 北海道及び全国における建設労働者、北海道における季節労働者(全産業、建設業)の推移

図表1のとおり、ピーク時(1980年)には30万人に達したこの人数も、現在は5万人にまで減少している。同じくピーク時に20万人だった建設業で働く季節労働者数は24,591人にまで減少し、全体に占める割合も5割を切った(建設労働者数そのものも、1990年代後半をピークにその数は大きく減少している)。

ただ、短期雇用特例被保険者が減少する一方で、一般被保険者は増加している(図表2)。

図表2 北海道の建設業における雇用保険月末被保険者(短期雇用特例被保険者、一般被保険者)及び一般被保険者が合計に占める割合の推移

人手不足下で通年雇用化が進んでいるのだろうか。また、高齢化で就労機会・一時金の受給資格を失い統計上から漏れた者の生活はどうなっているだろうか。道内建設季節労働全体の把握が必要である。

こうした問題意識で、建設業で働く季節労働者と彼らを雇う事業者に対しアンケートと聞き取りを併用した2年がかりの調査を行うことを企画し、2019年度に作業を開始した。ところが、労働者調査が思うように進まず、また2020年に入ってからは、新型コロナウイルスで調査活動が完全に止まってしまった。そこで企画を一度中断して、これまでに行った調査結果を示すことにした。

 

2.アンケート調査の概要

全日本建設交運一般労働組合(略称、建交労)北海道本部及び各地方支部の協力を得て、彼らの保有する名簿情報に基づき、調査票を2019年3月末に発送し、半月の間に回収を行った。名簿に偏りがあり、「十勝振興局」[5]に在住する労働者への配付が半数強を占めた。841部を配布したが有効回答は83部にとどまった。以下では、この83人のうち昨年(2018年)に公共工事現場で働く機会が多かった者(具体的には、「全て・ほぼ全て公共工事だった」28人と「半分ほど公共工事だった」18人の)合計46人(以下、公共工事従事者群)の結果を中心にみていく。紙幅の都合で原則として実数のみを示す。

(1)性別、属性、住まい

46人のうち、44人が「男性」で、残り2人が「女性」である。

年齢は、「20歳代」2人、「30歳代」4人、「40歳代」7人、「50歳代」13人、「60歳代」17人、「70歳以上」3人である。そして住まいは、「十勝振興局」が31人と全体の3分の2を占める。

(2)勤め先の規模、職種、建設業の経験年数など

第一に彼らの勤め先の従業員規模は、「1~4人」7人、「5~15人」17人、「16~29人」15人、「30人以上」7人である。

第二に職種で多いのは、「普通作業員(土木・雑役)」が22人(47.8%)、「重機・オペレーター」と「その他」が各9人(19.6%)である。

そして第三に、建設業での経験年数は、「10年未満」3人、「10年台」7人、「20年台」13人、「30年台」12人、「40年以上」11人である。

(3)就業形態等、雇用保険加入状況

第一に、就業形態等は、「季節雇用」よりも「正社員」が多かった。前者が16人(34.8%)であるのに対して後者が26人(56.5%)である。なお、ほかは、「一人親方」1人、「アルバイト・パート」2人、「その他」1人である。

第二に、就業形態等に関連して雇用保険の加入状況をみると(一人親方1人と無回答1人を除く44人が有効回答)、「一般被保険者」27人、「短期雇用特例被保険者」14人、その他3人である。

「正社員」の24人、「季節雇用」の2人、「その他」の1人が「一般被保険者」と回答していた。なお、昨年の雇い入れ通知書の交付状況を季節雇用者16人に限定してみたところ、「もらった」11人、「もらわなかった」3人、「わからない」2人という結果だった。

(4)働き方と休日制度

さて、回答者たちの働き方はどうか。まず、昨年の仕事の元請/下請状況をみると、「全て元請け」6人、「元請が多かった」11人、「元請けと下請けが半々ぐらい」4人、「下請けが多かった」10人、「全て下請け」13人、「わからない」が2人である。

次に、昨年の就労日数をみると(図表3〔略〕)、無回答がやや多いが、全体として長い日数が確保されている。すなわち、単純計算で1か月20日以上となる240日以上働くことができているのが30人である。

そして、休日制度は、「毎週日曜日」が36人でおよそ8割を占める。有給休暇制度についても、「とった」が19人である一方で、「そもそも有給休暇制度がない」も19人と同数である(この2項目では、未回答が1人おり有効回答数は45人)。

最後に、最近の仕事・働き方に関する現場の変化(図表4〔略〕)でも、「人手が足りていない」が半数を占めている。

なお、昨年(2018年)から今年(2019年)にかけて本州への出稼ぎを行ったのは、7人(15.2%)のみであった。

(5)賃金①──賃金支払い形態及び昨年の賃金総収入等

第一に、昨年の賃金の支払い形態は、「日給(日給月給)制」32人、「完全月給(固定給)制」が14人である。正社員でも「完全月給制」は14人で残り12人は「日給制」である。

図表5  昨年一年間の賃金総収入

第二に、年間の賃金総収入(一人親方や請負の場合には経費を除いた所得)は(図表5)、200万円台・300万円台・400万円以上がそれぞれおよそ3割を占めている。83人全体の状況も参考までに示したが、公共事業で働いているからといって収入水準に大きな違いはみられない。

第三に、一昨年に比べての昨年の年収の増減は(2人が無回答)、「同じ」が24人と半数強である一方で、「減った」が12人、「増えた」が8人である。「減った」のが仕事の減少によるのか、賃率の減少によるのかは不明である。

(6)賃金②──設計労務単価との比較

次に個別データを使って、設計労務単価との比較を行ってみる。賃金データがそろっていた日給制労働者21人と月給制労働者5人のそれを図表6に整理し、基本賃金(日額/月額)と当該職種の公共工事設計労務単価(2018年)を比較した。

なお、(1)賞与(夏期、冬期)や諸手当が支給されている労働者については図表7にそれを示しているので留意されたい。(2)複数の職種が回答されていた3件には、最も低い設計労務単価を採用した。(3)月給制労働者については、便宜上、25日を乗じて計算をした(no.22~25は、休日制度が「毎週日曜日」と回答し、no.26は「その他」と回答)。

図表6  昨年の基本賃金と公共工事設計労務単価(201 8年)の比較

 

さて、結論から言うと、基本賃金だけでは設計労務単価に達しているケースはない。技術員の2人を除く24人の設計労務単価比を平均すると7割(68.7%)となる。

但し4人の普通作業員(1人は複数職種)の設計労務単価比は90%台と高い数値である。しかも、そのうちno.9は20万円の賞与を日割りで追加すれば設計労務単価を上回る。no.10も通勤手当を足せば同様である。彼らを含む9人(図表7掲載)については、1日あたりどの位を上乗せできるかに差はあるが、このように、賞与や諸手当を足すことで数値は改善される。

図表7  賞与(夏期・冬期)及び諸手当の支給金

最も大きく改善されるのは、1回1,500円の現場手当が支給されているトビのno.17(20歳代)である。彼は設計労務単価比が37%と極端に低いが、年間で40万円の賞与と1回1,500円の現場手当を上乗せすると50%近くになる(この事例は聞き取りを行っており、次号にその結果を載せる)。

なお、手当の支給がない16人の設計労務単価比(平均値)は70.6%である。

(7)社会保険の加入状況

社会保険の加入状況をみると(無回答が2人)、医療保険では、「通年で建設国保(国保組合)に加入」が20人、「通年で協会健保(36.4%)に加入」16人で全体の8割近くを占める。

公的年金の種類については、すでに受給している者などを除く38人の回答をみると、「通年で厚生年金(保険料を引かれている)」が28人である。ほかは、「夏場は厚生年金、失業期間は国民年金」7人、「夏場は厚生年金、失業期間は国民年金免除申請」2人、「わからない」1人である。

(8)退職金制度

退職金制度は、41人が「建退共」と回答しており、そのうち37人が手帳を「会社に預けてある」と回答している。証紙は(有効回答39人)、「公共工事で働いた分だけ貼ってもらっている」が17人、「公共・民間どちらも貼ってもらっている」が15人、そして「わからない」が7人である。

 

 

3.小括

以上のとおり、駆け足でアンケート調査の結果をみてきた。回収された回答数が少なかったので全体状況を反映しているかは分からない。

但し、センターで行ったこれまでの労働者調査と異なり、季節労働者(短期雇用特例被保険者)ではなく、正社員(一般被保険者、通年雇用者)が多かった。就労日数も収入水準も比較的多かった(高かった)。もちろん、正社員とはいえ、日給制が半数弱であることなどはみておく必要はある。

担い手確保政策の導入や公共工事設計労務単価の上昇によって、現場の労働条件にも改善がみられるのだろうか、若手の定着を可能にするような条件が整備されてきているのだろうか。

次に聞き取り調査の結果で、詳細をみていこう。

 

 

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