2024年1月15日

最終更新○○月○○日

官製ワーキングプア研究会 2023年度連続講座レジュメ

 

川村雅則(北海学園大学)

本稿は、NPO法人官製ワーキングプア研究会主催の連続講座のレジュメです。

お伝えしたいことの詳細は、様々な論文等にまとめていますのでそちらをご参照ください。

まずは本日(1月15日)の発言に関連することをまとめておきます。連続講座の第4回(2月13日)までの間に完成させる予定です。

自治体の臨時・非常勤職員のうち、「会計年度任用職員」に焦点をあてます。適宜、非正規公務員と置き換えて読んでいただいても構いません。

自治体議員に活かしていただくことを念頭にまとめたつもりです。

 

 

SDGsばやりの自治体だけれども

自治体では、国連サミットで採択されたSDGs、ILOの提唱するディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)、ジェンダー平等・女性活躍などなどの言葉が掲げられている。会計年度任用職員「制度」はそれと真っ向から対立する。そのことが自治体内でなぜ問題視されないのか。

基本的な制度設計の責任は総務省にあるが、首長・行政、議員・議会、労働組合はこの問題にどう向き合っているか。民間の非正規制度以下である点が、報道機関を含め、必ずしも十分に理解されていないのではないか。

 

■川村雅則「自治体議員になったつもりで非正規公務員問題を市長に質問してみました(思考実験)」『NPO法人官製ワーキングプア研究会レポート』第44号(2023年12月号)

川村雅則「自治体議員になったつもりで非正規公務員問題を市長に質問してみました(思考実験)」

■川村雅則「(学習会)会計年度任用職員制度 総ざらい」での報告レジュメ(加筆修正版)」『NAVI』2023年10月26日配信(2023年10月29日に開催された、第11回 なくそう!官製ワーキングプア大阪集会 第1分科会での報告レジュメに加筆修正)

https://roudou-navi.org/2023/10/26/20231029_kawamuramasanori/

 

注:厚生労働省「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)について」

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kokusai/ilo/decent_work.html

 

わがマチの制度、現状を整理しよう

自分のマチの会計年度任用職員「制度」と任用の状況、賃金・労働条件などを把握・整理することから始めよう。担当部署に依頼をしてまとめてもらうとよい。

 

■川村雅則「札幌市の会計年度任用職員制度の現状を調べてまとめました」『Report(レポート)』第37号(2022年2月号)

川村雅則「札幌市の会計年度任用職員制度の現状を調べてまとめました」

■川村雅則「なくそう!官製ワーキングプア──あなたのマチの非正規公務員問題を調べる」『雇用構築学研究所ニューズレター』第67号(2023年5月号)

https://roudou-navi.org/2023/06/18/20230531_kawamuramasanori/

■神代知花子「石狩市の非正規公務員問題と問題解決に向けた議員活動(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」『NAVI』2022年7月31日配信

神代知花子「石狩市の非正規公務員問題と問題解決に向けた議員活動(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」

(質問例)

  • わがマチの会計年度任用職員はなぜ女性に偏っているのか。〔男女共同参画基本計画法等に基づき策定された基本計画も念頭におきながら〕
  • この賃金・労働条件はどのような考えに基づいて設定されているのか。〔総務省からの助言が回答されるおそれはある〕〔賃金に関する質問等は後日に整理予定〕
  • 夫の扶養を前提にしていないか。ジェンダー平等という発想はあるか。

 

 

 

自治体・行政の情報は一体誰のもの?

関連してこのところ強く思うのは、この手の情報は一体誰のものなのか、ということ。筆者は調査・研究活動で情報公開制度を活用したり「情報提供」というかたちで情報を受け取ることが多い。しかし、率直に言って、(関係者の皆さんと同様に)苦労することが非常に多い。

たしかに行政内には様々な情報があり、一つ一つの整理は手間がかかる。しかし、会計年度任用職員は、公共サービスの担い手である。その情報は優先的に整理されるべきものではないか。

多くの自治体で「自治基本条例」なるものが制定されている。同条例は、「市民が主役のまちづくり」を進めるものであって、ポイントは「情報共有」と「市民参加」にあるとされる。公共サービスの担い手である会計年度任用職員の制度等に関する情報もぜひ求めたい。

筆者の住む札幌市の条例を参考までにあげておく。なお、議会のあるべき姿や議会の役割などがまとめられた、議会基本条例も大変素晴らしいことが書かれているので参照。

 

■札幌市「自治基本条例」

https://www.city.sapporo.jp/shimin/jichi/kihon/index.html

■札幌市議会「札幌市議会基本条例」

https://www.city.sapporo.jp/gikai/html/gikaikihonjyorei.html

 

情報公開に関する参考文献

日下部聡(2018)『武器としての情報公開──権力の「手の内」を見抜く』筑摩書房(新書)

日野行介(2023)『情報公開が社会を変える──調査報道記者の公文書道』筑摩書房

松村享(2021)『(改訂版)自治体職員のための情報公開事務ハンドブック』第一法規出版

 

 

総務省による調査データを活用しよう

各自治体における会計年度任用職員の制度や任用等の情報については、総務省による調査データも活用しよう。わがマチの「位置」がわかる。近隣自治体との比較もできる。

総務省による最新の調査(「令和5〔2023〕年度会計年度任用職員制度の施行状況等に関する調査」(以下、2023総務省調査))結果には元気になるデータも掲載されている。

 

■川村雅則「道内の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員の任用実態──総務省2020年調査の集計結果に基づき」『北海道自治研究』第626号(2021年3月号)

https://roudou-navi.org/2021/06/05/20210315_kawamuramasanori/

■川村雅則「北海道及び道内35市における非正規公務員等データ──総務省2020年調査結果に基づき」『NAVI』2023年12月12日配信

川村雅則「北海道及び道内35市における非正規公務員等データ──総務省2020年調査結果に基づき」

■総務省「会計年度任用職員制度の適正な運用等について(通知)(令和5年12月27日総行公第141号・総行給第78号)」

https://www.soumu.go.jp/main_content/000920648.pdf
https://www.soumu.go.jp/main_content/000920652.xlsx
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/koumuin_seido/kaikeinendo_ninyou.html

■川村雅則「(暫定版)総務省・会計年度任用職員制度等の2023調査データの集計」『NAVI』2024年1月15日配信

川村雅則「(暫定版)総務省・会計年度任用職員制度等の2023調査データの集計」

 

公募制問題(有期雇用の濫用問題)にこだわろう

仕事は恒常的であるのに有期の任用(雇用)が新制度下で従来よりも厳格化されていることをどう考えるのか。有期雇用の濫用が是正された民間の政策動向(労働契約法第18条)とも相反する。

 

資料 民間非正規と公務非正規の制度設計の違い

注:公務におけるa の墨塗箇所は、条件付採用期間(試用期間)。b の点線は勤務実績に基づく能力実証が認められた箇所。c の実線は、公募制による能力実証が必要とされる箇所。
出所:筆者作成。

 

総務省による制度設計上の問題が大きいことは踏まえた上で、しかしながら、公募制の導入は義務づけられているわけではない。実際、労使の決定で導入されていない(労働組合の力で導入させていない)自治体もある。

 

■坂本勇治「根室市の会計年度任用職員制度と労働組合の取り組み(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」『NAVI』2022年11月26日配信

坂本勇治「根室市の会計年度任用職員制度と労働組合の取り組み(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」

 

公務職場でも深刻な人手不足であるとの報道などを目にしたが、そのような中でも、相変わらず会計年度任用職員に対しては公募制がもしも活用されているとすれば、何かおかしいのではないか。

定期的な公募・求人の実施に向けて余念がない公務職場。皮肉って言えば、「民間ではあり得ない」状況。公務職場ってもしかして、、、

 

(質問例)

  • わがマチではなぜ公募を導入しているのか/なぜ○年公募なのか。
  • わがマチの会計年度任用職員の離職状況はどうか。勤続〔再度の任用〕何年でどの職種でどの位の人数が離職しているか。理由はいかなるものか。
  • 公募に対する応募・採用状況はどうか。既存の職員の採用状況(継続任用の状況)はどうか。
  • 採用基準、面接や書類選考にあたっての評価ポイントはいかなるものか。
  • 離職や公募に関する手続きでどの位の時間を要しているのか(概算)。各部署で支障は生じていないか。
  • 会計年度任用職員の公募制や離職等でサービスの受け手の側で何か問題は生じていないのか。

 

 

注:「道内人口減 自治体も人手不足深刻 事務職が給食調理/住宅建築確認廃止」『北海道新聞』朝刊2024年1月9日付。関連して、(1)「働きやすいまち 考える/市推進協初会合 人手不足解消探る」(『北海道新聞』朝刊2023年12月15日付)ことや、(2)「道内版政労使会議来月に 道労働局方針持続的賃上げへ協議」(『北海道新聞』朝刊2024年1月14日付)が検討されている、とか。

 

 

大量離職通知書制度を活用しよう

この不安定雇用問題の是正にあたって、労働施策総合推進法第27条に基づく大量離職通知書制度の活用・大量離職通知書の作成を重要な取り組みの一つに位置付けよう。

 

■安田真幸(2023)「(緊急レポート:第5弾(最終))厚労省との7/6第3回懇談会報告 「会計年度任用職員全員が対象人数 ⇒ 公募の対象となる人数 ⇒ 「会計年度任用職員のうち、実際に職を失い再就職先が必要な人が対象」で最終確定しました!!」『NAVI』2023年8月25日配信

安田真幸「(緊急レポート:第5弾(最終))厚労省との7/6第3回懇談会報告 「会計年度任用職員全員が対象人数 ⇒ 公募の対象となる人数 ⇒ 「会計年度任用職員のうち、実際に職を失い再就職先が必要な人が対象」で最終確定しました!!」

■川村雅則「(お詫び)札幌市の会計年度任用職員の離職者数の訂正」『NAVI』2024年1月10日配信

川村雅則「(お詫び)札幌市の会計年度任用職員の離職者数の訂正」

(質問例)

  • わがマチでは2022年度末に大量離職通知書を作成したか。作成する必要がなくて作成しなかったのか、作成する必要があったのに作成しなかったのか。
  • 大量離職通知書の2023年度末の作成の準備は進んでいるのか(1か月前の提出、離職の実績値でのカウント、再就職支援)。

 

 

みんなで一斉に取り組もう!

公募制廃止アクションなどを各地で一斉に取り組めたら大きな力になるのではないか。

取り組みの実施状況や得られた成果などの情報を集約し共有できないものか。

こんなおかしな制度を放置していたら民間非正規にも影響を及ぼしかねない。

制度改定までの工程表を決めてみんなで取り組もう!

(当研究会に結集を!)

 

 

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