川村雅則「(お詫び)札幌市の会計年度任用職員の離職者数の訂正」

札幌市の会計年度任用職員制度について調査・研究をし、その成果を取りまとめてきました。この間、以下の4本の拙稿において、2022年度末における札幌市の会計年度任用職員の離職者数を、大量離職通知書に記載された数値に基づき「570人」と報告してきました。しかし、正確には同市における2022年度末の離職者数は「561人」でした。

570人と561人。偶然にも両者は似た数値ですが、後述のとおり、数え方や対象は全く異なるものであります。今回、別件の情報照会を札幌市に行った際にそのことが明らかになりました*。お詫びして訂正をします。

*札幌市への情報照会を2023年11月30日に行い、12月28日に札幌市からの回答を得ました。札幌市からのこの回答で筆者の誤りに気づき、照会をそく行い、その回答を2024年1月10日に得て、本稿をまとめました。

 

 

 

その上で、この件について説明をします。

 

(1)札幌市の会計年度任用職員の2022年度末の離職者数が561人であることは、札幌市への聞き取り調査(2023年3月24日に実施)で明らかになっています。調査結果をまとめた川村(2023)pp.22-23及び下記の表4をご参照ください。

■川村雅則「札幌市非正規公務員(会計年度任用職員)調査報告」『北海学園大学経済論集』第71巻第1号(2023年6月号)pp.17-37
https://roudou-navi.org/2023/08/09/20230630_kawamuramasanori/

表4 会計年度任用職員として一定期間働いた後に翌年度に同一部の部で継続任用されなかった職員の人数とその内訳

翌年度に同一の部で任用されなかった者 計
他の部で任用された者 離職した者
a 2020年度 1076人 653人 423人
b 2021年度 265人 123人 142人
c 2022年度 301人 145人 156人
d 2020年度 2021年度 710人 393人 317人
e 2021年度 2022年度 193人 83人 110人
f 2020年度 2021年度 2022年度 1091人 796人 295人

注1:対象は、年度を通して働き翌年度の4月1日に同一の部で任用されなかった職員。仮に翌年度の10月に同一部で任用されていたとしても、表中では、翌年度に同一部で任用されなかった者に計上されている。また逆に、年度途中で任用され、年度末で同一の部での任用が終了した者は計上されていない。
注2:(a)(d)(f)には、旧制度下の非常勤職員等から引き続いて会計年度任用職員となった者が含まれる。但し、その人数の特定は困難である(本文の「3.会計年度任用職員に関する情報の管理状況」を参照)。
注3:機構改革によって任用部の名称が変わった場合等には、データ集計上は「同一部」と判断できないことから、仮に同じ職に継続任用されていたとしても、「同一部に任用されなかった者」として計上されるなど、集計方法の関係上、実態を完全には反映できない。

資料:札幌市からの提供資料と説明に基づき筆者作成。
出所:川村(2023)p.22からの転載。

 

なお、拙稿にも記載のとおり、3年単位での離職を想定していたのが、実際には短期での離職が少なからず発生していることが明らかになったのもこの調査の成果でした(156人+110人+295人=561人)。そして、こうした短期での離職の発生にも注意して各地の離職状況を明らかにすることの必要性を主張してきました。

 

 

(2)2023年3月のこの調査(対面調査)の後日に札幌市から大量離職通知書を提供いただきました。

しかし、このときの筆者の確認が不十分で、通知書に記載されていた570人は、上記(1)とは全く異なる数値であることが、今回明らかになりました。

この570人とは、札幌市の独自ルールである「同一部3年ルール」により、2023年3月31日付での離職が「予定されていた」者です。1年間ないし2年間だけ働いて実際に離職した者は含まれておりません。あくまでも、同一部3年ルールによって、離職が予定されていた者が機械的に算出された数値となります。

 

(3)加えて、大量離職通知書は任命権者が提出義務者であることから、(2)の人数は札幌市長が任命権者となっているケースに限定されます。札幌市長以外の任命権者(交通局・水道局・病院局・教育委員会)における離職予定者は含まれていません。

それに対して(1)は、札幌市の全部局の会計年度任用職員の離職者数です。ですから、(1)が実際の離職者数で(2)が予定されていた離職者数である、という点以外でも、(1)と(2)の数値は異なります。

 

(4)なお筆者は、570人と561人の差(9人)は、他の部で任用されるなどして生じた差であると認識していました〔もちろん、誤った認識でした〕。

 

(5)ところで、離職が予定されている会計年度任用職員の人数が(2022年度末の)大量離職者通知書に記載されたのは、全国的にも、多くの自治体でみられた現象です。

安田(2023)にも記載のとおり、大量離職通知書制度に対する厚生労働省の考えが整理されたのが2023年度に入ってのことですから、上記のとおり、予定者数で記載がされたことは理解できます。

関連していうと、第一に、川村(2023)pp.25-26に記載のとおり、大量離職通知書を札幌市が作成するのは今回(2023年3月)が初めてである、とのことでした。

第二に、筆者が2023年8月に北海道労働局に情報照会をしたところ、大量離職通知書を提出していたいずれの自治体(札幌市を含めて5件)も、予定者数で記載をしていました〔この時点では、札幌市については実績値であると筆者は誤って認識していました〕。

第三に、その後、北海道及び道内の主要な自治体に筆者が照会をしたところ、大量離職通知書の提出の必要がありながらそもそも提出していない自治体もあるような状況でした。

 

■安田真幸(2023)「(緊急レポート:第5弾(最終))厚労省との7/6第3回懇談会報告 「会計年度任用職員全員が対象人数 ⇒ 公募の対象となる人数 ⇒ 「会計年度任用職員のうち、実際に職を失い再就職先が必要な人が対象」で最終確定しました!!」『NAVI』2023年8月25日配信
https://roudou-navi.org/2023/08/25/20230825_yasudamasaki/

 

(6)いずれにせよ、札幌市の大量離職者通知書に記載された情報を筆者は誤って認識し、情報を発信してしまいました。あらためてお詫びすると同時に、提供された情報について様々な可能性を想定して確認作業を行っていくことを肝に銘じたいと思います。

なお、札幌市の会計年度任用職員制度に関する調査・研究結果ないし提供された情報に対する認識の誤りは、川村(2019)でも生じています(川村(2021)を参照)。このときの誤りは、札幌市の会計年度任用職員制度全体の評価に関わる大きな誤りでした。

なぜこのような誤りが生じてしまうのか。誤りを無くしていくための研究者側の努力の必要性はもちろんですが、問題発生の原因を多角的に検証し、情報提供・収集のより良いあり方につなげていくこと。それは、各自治体が制定する「自治基本条例」にも関わる重要な課題ではないかと、対自治体の調査・研究活動/会計年度任用職員制度に関する調査・研究活動の中で思うに至っています。

 

■川村雅則(2021)「札幌市の会計年度任用職員制度の現状──2021年調査に基づき」『北海道自治研究』第634号(2021年11月号)pp.2-21
https://roudou-navi.org/2021/12/01/202111_kawamuramasanori/

■川村雅則(2019)「札幌市における臨時・非常勤職員制度の現状と会計年度任用職員制度の現時点での構想案」『北海道自治研究』第606号(2019年7月号)pp.16-32
http://www.hokkaido-jichiken.jp/pdf/hiseiki/kawamura1907.pdf

■札幌市「自治基本条例」
https://www.city.sapporo.jp/shimin/jichi/kihon/index.html

 

(7)なお、冒頭でもふれましたが、本稿に示した筆者の誤りが明らかになったのは、年齢や性別など、離職をした会計年度任用職員に関する情報の提供を札幌市に対して求めたことがきっかけでした。この取り組みを最後にご紹介しておきます。

離職者に関する情報、とりわけ離職者の職種情報と経験年数情報の収集が重要であると筆者は考えています。筆者はそもそも公募制の導入に反対の立場ですが、何年の経験(勤続)で離職が発生しているのか、なおかつ、どの職種で離職が発生しているのかを明らかにすることは、会計年度任用職員の任用のあり方を検討する上でも必要な情報であると考えています。

札幌市にこの点を説明し、あらためて、2022年度末に実際に離職した会計年度任用職員561人の情報提供を求めました。情報が札幌市から提供されましたら、NAVIでも配信をしていきたいと思います。

※     ※     ※

本稿は、筆者の誤りを報告するものでありますが、期せずして、公募にかけられる会計年度任用職員の人数規模の大きさや、会計年度任用職員の離職者数の多さを、あらためて確認する機会となりました。

あらゆる職域で人手不足が叫ばれています。先日は、「人手不足 自治体も深刻/事務職が給食調理/住宅建築確認廃止」というタイトルで、公務職場においても人手不足が深刻であることが大きく報じられました(『北海道新聞』朝刊2024年1月9日付)。そのような中でも、札幌市を含む多くの自治体では、この年度末にもまた、会計年度任用職員の公募が実施されることになります。なにか違和感をもたれないでしょうか。

各地におかれましても、会計年度任用職員の離職に関する基礎情報の収集作業を進めて、公募制の是非の検討や任用のあり方の議論に活かしていくことを提起します。

 

(追記)

安田(2023)に示されたとおり、大量離職通知書に記載される「離職者」の範囲は「実際に職を失い再就職先が必要な人」として確定されました。会計年度任用職員に限っていえば、公募に再応募し不合格となった人に加え、期間満了で退職した人が対象となります。また、通知書の提出時期は、1か月前で確定されました。各自治体において今後、このルールが遵守されるかどうか──そもそも大量離職通知書が作成されるかどうかも含めて──注視していく/働きかけていく必要があります。

 

(参考)

調査の基準日は2020年4月1日と若干古いですが、総務省が行った2つの調査──「地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査」及び「会計年度任用職員制度の施行状況等に関する調査」の集計結果に基づいてまとめた拙稿などをご覧ください。前者では、各自治体(北海道及び道内35市)における職種別の会計年度任用職員数が、後者では、各自治体(同)における公募制の導入状況が、わかります。

■川村雅則「北海道及び道内35市における非正規公務員等データ──総務省2020年調査結果に基づき」『NAVI』2021年12月12日配信

川村雅則「北海道及び道内35市における非正規公務員等データ──総務省2020年調査結果に基づき」

■川村雅則「会計年度任用職員制度の公募制問題と、総務省調査にみる北海道及び道内35市の公募制導入状況(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」『NAVI』2022年11月23日配信

川村雅則「会計年度任用職員制度の公募制問題と、総務省調査にみる北海道及び道内35市の公募制導入状況(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」

 

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