川村雅則「会計年度任用職員の雇用安定に向けた取り組みの強化を──北海道での調査・研究から」

NPO法人官製ワーキングプア研究会が発行する『レポート』第41号(2023年3月号)への投稿原稿です。取り組みが急がれるテーマであることから、研究会の了解を得まして、先行して配信します。どうぞお読みください。/校正作業を行うことになるかと思いますが、骨子には変更ありません。

 

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出所:厚生労働省「(国または地方公共団体の方へ)離職する職員の再就職のために~「大量離職通知書」について~」より。

■はじめに

年が明けて、3年公募制の問題が間近に迫ってきました。同時に、状況を大きく変えるものではないものの関係者の運動による成果がこの間獲得されてもいます。

具体的には、(1)公募制に対する総務省の姿勢が柔軟化したこと(2022年12月23日に通知された「『会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)』の修正等について」)、(2)会計年度任用職員の任用が、「更新」ではなく1年ごとに切れている(新たな職に就く)と解される制度設計であるならば、再就職援助計画の作成や大量離職届・大量離職通知書の提出が自治体側に必要である(「労働施策総合推進法」第24条、第27条による)と確認されたこと、です。

詳しくは、北海道労働情報NAVI(以下、NAVI)に掲載された、山下弘之「(緊急レポート)総務省『新通知』、厚生労働省『大量離職通知書』を活かす」安田真幸「(緊急レポート:第2弾)会計年度任用職員全員が対象!!-ほとんどの自治体に「大量離職通知書」の提出義務!」をご参照ください。

こうした状況下で、労働組合や自治体議員には、この3年公募制・有期雇用の濫用問題にどう対応するのかがあらためて問われています。本稿では、各地の今後の取り組みが進むことを願い、筆者の2つの調査・研究成果の一部を紹介するものです。

一つは、昨年(2022年)の11月下旬から実施した、いわゆるウェブアンケートによる非正規公務員調査の結果で、中間報告を2023年1月5日に発表しました(「北海道及び道内市町村で働く624人の会計年度任用職員の声(2022年度 北海道・非正規公務員調査 中間報告)」。以下、「中間報告」)。

もう一つは、札幌市からの提供資料に基づき、「札幌市で働く会計年度任用職員の今年度末(2022年度末)の雇い止め人数は何人か?」を調べた結果です(以下、拙稿(2023))。

どちらも、詳細はNAVIに掲載した拙稿をご覧ください。

 

■本調査にみる会計年度任用職員の雇用不安

「中間報告」は、タイトルどおり、北海道及び道内市町村で働く会計年度任用職員624人の回答をまとめたものです。

624人のうち、「女性」が81.6%と多数を占めます。年齢は、「50歳代」が32.7%、「40歳代」が26.1%、「60歳以上」が20.8%と、この3つで全体の8割を占めました。そして、今の自治体での今の仕事の勤続年数は、5年以上が半数を超えています(54.5%)。10年以上に限定しても、3割(29.6%)を占めます。

さて、本稿で紹介したいのは、会計年度任用職員の、雇い止めに対する不安と無期雇用への転換希望の結果ですが、その前に、民間の非正規制度との違いをあらためて簡単に確認しておきましょう(図表1)。

 

図表1 民間非正規と公務非正規の制度設計の違い

注:公務におけるaの墨塗箇所は、条件付採用期間(試用期間)。bの点線は勤務実績に基づく能力実証が認められた箇所。cの実線は、公募制による能力実証が必要とされる箇所。
出所:筆者作成。

 

 

民間でいう雇用更新とは異なり、会計年度ごとに「新たな職」に就くと解された制度であること、ゆえに、条件付採用期間の設定が毎回必ず設けられていること(図中の「a」)、勤務実績に基づく能力実証(同「b」)だけでなく、公募制による能力実証(同「c」)を一定期間ごとに行うことが総務省により助言されていること(総務省が助言しているのは、公募によらず勤務実績に基づく能力実証で再度の任用を行うことができるのは原則2回・3年)、などが会計年度任用職員制度の特徴です。

 

図表2 雇い止めに対する不安(左)及び無期雇用への転換希望(右)

単位:人、% 単位:人、%
624 100.0 624 100.0
非常に不安がある 195 31.3 希望する 406 65.1
不安がある 247 39.6 とくに希望しない 106 17.0
あまり不安はない 153 24.5 わからない 107 17.1
まったく不安はない 24 3.8 無回答 5 0.8
無回答 5 0.8

 

では、本調査の結果をみてみましょう(図表2)。

まず雇い止めに対する回答者の不安(左)については、「非常に不安がある」だけで31.3%を占めます。「不安がある」も39.6%です。これらの強い不安に分類される結果だけで、7割を占めます。

次に無期の雇用への転換希望を尋ねたところ(右)、「希望する」が全体の3分の2弱を占めます。残りは、「とくに希望しない」と「わからない」です 。

自由記述で寄せられた声を紹介します。

 

  • 制度が変わっても書面を渡されるだけで常に不安がつきまとう。こんな所に10年以上も勤務した事を後悔しています。職員は護られても非正規は今後更新もないと突然言い渡されました。自立も困難な状況で他にバイトを掛け持ちし精神的にも一杯一杯。市役所はこんな人の使い方しか出来ないのだと残念な気持ちです。
  • 経験による専門性〔が〕必要な職であるにも関わらず、会計年度任用職員制度になってから雇用期間が3年上限となり、公募により継続できる可能性もあるが、確定ではないため、本人も周囲も不安定さを感じている。
  • 毎年来年度の雇用の心配をしなければいけないのが辛いです。シングルマザーで大変なので、せめてその不安だけでもなくしてほしいです。
  • 来年も雇ってもらえるかが心配です。何年も一生懸命働いていても、非正規職員というだけで、自分の意志とは関係なく退職させられるかもしれない不安はいつもあります。
  • 雇用期間が切れる前に教えてもらえないのが困る。一度更新があったが、1ヶ月前に告知とあるが、到底そうはならず、更新日に初めて知らされた。先の見通しがつかなくて困っている。
  • 病気になった時が不安。病休を使って治らなければ、やめるしかなくなる。正職員なら病休も長期間とれるのに。非正規の割合の方が多いので、使い捨ての雇用だと感じている。

 

労働契約法第18条に基づく無期雇用転換制度は、有期雇用の濫用を解消し、非正規雇用者の雇用の安定と権利擁護を実現することを目的に設けられました。同法・同制度は、公務職場には適用されないことがことさらに強調されますが、会計年度任用職員制度がもたらしている問題(有期雇用の濫用)も、解決の方向性(無期転換)も、民間職場と同じである、ということを確認したいと思います。

 

今般の改正は、有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消し、また、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を是正することにより、有期労働契約で働く労働者が安心して働き続けることができる社会を実現するため、有期労働契約の適正な利用のためのルールとして改正法による改正後の労働契約法(平成19年法律第128号。以下「法」という。)第18条から第20条までの規定を追加するものである。

出所:厚生労働省「労働契約法の施行について」2012年8月10日(基発0810第2号)。

 

■新制度の導入は回答者にどう評価されているか

関連して、新制度になって状況はよくなったか、それとも、悪くなったかを尋ねたうち、「雇用の安定」に関する結果を中心に紹介します(詳細は「中間報告」を参照)。

本調査で尋ねたのは「変化」であって、「水準」ではない、という点などにご留意ください。分析の対象は、旧制度と新制度を経験している者、すなわち、勤続年数が「3年~5年未満」以上の回答者に限定しました。

 

図表3 新制度導入による状況の変化(回答者の評価)

①雇用の安定 ②賃金(給与)・収入 ③仕事内容 ④働き方・勤務時間 ⑤休暇制度 ⑥人事評価 ⑦上司や正職員との人間関係 ⑧非正規職員同士の人間関係
440 100.0 440 100.0 440 100.0 440 100.0 440 100.0 440 100.0 440 100.0 440 100.0
よくなった 70 15.9 108 24.5 14 3.2 31 7.0 76 17.3 15 3.4 19 4.3 28 6.4
悪くなった 75 17.0 119 27.0 65 14.8 50 11.4 27 6.1 21 4.8 39 8.9 34 7.7
変わらない 267 60.7 194 44.1 348 79.1 343 78.0 324 73.6 286 65.0 359 81.6 349 79.3
わからない 25 5.7 16 3.6 10 2.3 13 3.0 10 2.3 115 26.1 20 4.5 26 5.9
無回答 3 0.7 3 0.7 3 0.7 3 0.7 3 0.7 3 0.7 3 0.7 3 0.7
(再掲)悪くなった+変わらない 77.7 71.1 93.9 89.3 79.8 69.8 90.5 87.0

注:対象は、勤続年数「3年~5年未満」以上の回答者。

 

 

図表3に結果をまとめました。本稿で注目する「①雇用の安定」は、「よくなった」が15.9%ですが、「悪くなった」が17.0%、「変わらない」が60.7%です。

条件付採用期間が設けられ、かつ、公募制が導入されるなど、制度上は雇用安定に逆行していると筆者は評価してきましたが、多くの当事者には、従前と「変わらない」と認識されているようであり、それはなぜか──例えば、空白期間や勤続年数上限の設定など、以前から、新制度と「変わらない」制度設計であったのか、あるいは、制度は新しくなっているのだが、「変わらない」ようなものだと認識されているのか──旧制度下の制度内容や運用を含めて、調べる必要があります。

なお、ここではあわせて、程度に差はあっても、どの項目においても、「変わらない」が多数を占めること、あるいは、「変わらない」と「悪くなった」を足し合わせたものが多数を占めることを述べておきたいと思います(「賃金(給与)・収入」では、「変わらない」が44.1%で最も低く、「よくなった」が24.5%を占めるのですが、一方で、「悪くなった」も27.0%を占めています)。

 

■先行調査にみる会計年度任用職員の雇用不安

会計年度任用職員にみる雇用不安を本調査の結果に基づき確認してきました。先行する調査でも類似の結果が確認されます。

例えば、第一に、公務非正規女性全国ネットワーク(通称、はむねっと)による2022年調査(有効回答705件)では、あなたが伝えたい現状やこれから(最も近いと思われるもの3つ以内)という問いに対して、最大は、「雇用が不安定(有期雇用)」で327件でした(第二位は「給与が低い」308件)。

第二に、回答が2万件を超える、自治労連による大規模調査(同22401件)では、あなたが改善してほしいことは何ですか(3つまで)という問いに対して、「継続雇用にしてほしい」が33.6%を占めています(トップは、「賃金を上げてほしい」の59.5%)。

第三に、自治労によるアンケート(同2493件)でも、職場に対する不安や不満のうち「解雇や雇い止めがある」が26.2%を占めています(最大は、「賃金が低い」49.0%)。

自治労連調査や自治労調査では、雇用よりも賃金に回答者の関心が高く示されているようです。聞き方・設問など調査の設計が異なりますので、どの調査結果が最も正しいというものではないでしょう。ここでは、雇用安定の実現に取り組むことには当事者の多くから支持が得られることを確認したいと思います。そもそも、雇用の安定がなければ、当事者が労働組合・組合活動に主体的に関わるのは容易ではないのですから。

 

■労働者調査の結果は自治体単位で公表を

ところで、労働者(当事者)調査に関わって一点提案があります。こうした調査が今後も引き続き実施されることを願うものですが、同時に、結果を自治体ごとに公表することが必要ではないでしょうか。

というのは、会計年度任用職員制度という大枠は共通しているとはいえ、任用の条件には自治体ごとに異なる部分もあります。筆者調査に回答した方々が任用された自治体を例にいえば、「根室市」では公募制を導入させていません。それに対して「札幌市」では、3年公募制に加えて、原則として、同じ部で働き続けることができるのは3年までとする札幌市独自のルール(以下、同一部3年ルール)が設けられています。

両市のこういう任用条件の違いは、調査結果にも反映されているようです。例えば、雇用不安に関する設問の「非常に不安がある」の割合でみると、根室市では17.4%であるのに対して、札幌市では36.4%です。

調査の実施自体は共通する設問で広く行うにしても、結果については、自治体ごとに集計し、当該自治体の任用条件と紐付けながら分析をしたり、当該自治体と交渉をしていくことが必要ではないでしょうか。

なお、根室市の状況については、坂本勇治「根室市の会計年度任用職員制度と労働組合の取り組み(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」をご参照ください。

 

■札幌市で働く会計年度任用職員の今年度末の雇い止め人数は何人か?

この拙稿(2023)をまとめたきっかけは、地元の新聞記事がきっかけでした。

今年度末に公募制に応じなければならない会計年度任用職員の人数は、北海道と北海道内の主要都市でそれぞれ何人であるかが調べられ発表された同記事で、札幌市と北海道は「雇い止め人数を未調査」と回答し、数値が空欄だったのです。数値が分からない?そんなことはあるのだろうか?と疑問に思い、筆者がこの間調査をしてきた札幌市に照会をかけて、市から提供されたデータに基づきまとめたものです。

札幌市の会計年度任用職員制度は、他の自治体に比べて複雑です。先ほど述べた同一部3年ルールがあり、なおかつ、同一部3年ルールには例外も設けられています。また、旧制度下で採用されていた者のうちの一部(採用困難職として働いていた者で継続任用されている者)にも別ルールが適用されています。

詳しくは拙稿(2023)をご覧いただきたいのですが、ざっと次のような計算になります。一般的には、(B)を明らかにしたところで済む話ですが、札幌市ではさらに別の情報も整理する必要があります。

 

令和4(2022)年度末時点の札幌市の会計年度任用職員数は4172人(A)です。

このうち、令和4(2022)年度末で任用期間が3年に到達する職員数は1620人(B)です。

この1620人から、公募の例外となっている240人と57人を除くと1323人です。この1323人が、今年度末に雇い止めとなる人数の近似値となります。

他の自治体であれば、公募に応募して試験に受かれば同じ仕事に再び就くことができますが、札幌市では、同じ部で働き続けることができるのは3年までという同一部3年ルールが設けられています。

しかし、同一部3年ルールには例外もあります。1323人のうち同一部3年ルールの例外が適用されるのは、186人(C)と710人(D)です。

1323人から、186人と710人を除くと427人です。この427人が、今年度末に雇い止めとなり、なおかつ、その後1年の期間をおかなければ同じ部では働くことができない(公募に受かれば他の部で働くことはできる)人数の近似値となります。

以上の人数には重複している部分もあるのでご注意ください。詳細は各項でご確認を。

出所:拙稿(2023)から転載。

 

つまり400人強の職員は、部を変えなければ、たとえ公募に受かっても働き続けられない、と考えられるのです。

冒頭で紹介した山下(2023)が示すとおり、総務省の姿勢が柔軟化され、公募制を採用するかどうかは各自治体にゆだねるという見解が前面に出てきました。そもそも、労働組合が頑張って公募制を入れさせなかった自治体も存在するのですから、公募制の導入は制度上避けられないものではありません。

また、安田(2023)が示すとおり、会計年度任用職員の制度には、再就職援助計画の作成や大量離職届・大量離職通知書の提出が必要になってきます。これらの手続きは、雇い止めそのものを撤回させるものではありませんが、「自治体が何の痛みも感じずに、非正規公務員を使い捨てにする現実〔略〕に対して、雇用主としての責任(=再就職先の斡旋など)を自覚してもらう手立てとして活用」することが考えられます。

とくに同一部3年ルールを設けている札幌市の場合には、上記のとおり、他の自治体と異なり、公募で受かっても同じ部では働き続けられないからと離職を余儀なくされる者が相当数存在すると思われます。公募制や同一部3年ルールそのものもそうですが、手続きをとらずに大量に雇い止めをしているのであれば、この点でも、民間の模範とはなり得ません(追記を参照)。

 

■関係者に求められていること

以上のとおり本稿では、雇用安定の実現が会計年度任用職員に待たれていることについて、筆者の調査・研究結果の一部も使いながらあらためて問題提起してみました。

総務省による会計年度任用職員制度の設計に問題があるのは言うまでもありません。このような制度を作った政治の責任がまずは問われます。

同時に、どのような任用条件を準備するのかについて、裁量が全く与えられていないわけではないのですから、地方政府(行政、議会)もまた、責任を免れるものではないでしょう。公共サービスの担い手にどのような条件を準備するのか。行政だけでなく、行政の監視機能を果たすべき議会の存在意義も問われるでしょう。

そして最後に、労働組合です。同じ職場で働く非正規公務員に有期雇用の濫用がこうして制度化されていることに労働組合はどう向き合っているのか。より具体的には、この問題について、労働組合としてどのような要求を掲げ当局と交渉をしているのかが問われます。

 

民間職場でも、労働契約法第18条を潜脱する(法の網をくぐる)行為=無期転換逃れが広がっており、その撤回を求めた取り組みが始まっています。安心して働き続けられる社会の実現に向けて、公務職場の労働組合と民間職場の労働組合の共同が実現することを切望しています。

 

 

 

(追記)再就職援助計画の作成や大量離職届・大量離職通知書の提出という手続きを、会計年度任用職員の公募の時期、あるいは、毎年の再度任用の際にとっているのかどうかの照会を札幌市に対して2月17日にメールで行いました。同月22日に返ってきた回答によれば、札幌市では当該手続きへの認識がなかったようで、手続きは何もとられていませんでした。厚生労働省からのヒアリングに参加した安田氏によれば、こうした手続きはほとんどの自治体で採用されていないようですから、札幌市だけがことさらに問題であるわけではない、という見方もできるでしょう。しかしながら、繰り返しになりますが、同一部3年ルールを設けている札幌市の場合には、他の自治体と異なり、同じ部で働き続けることができず、相当数の離職者が発生しているおそれがあります。議会や労働組合もこれを黙認するのならば、「自治体が何の痛みも感じずに、非正規公務員を使い捨てにする現実」が続くことになります。

 

 

 

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