安田真幸「非正規公務員にこそ労働基本権を~4労組によるILO取組の報告~」

日本労働弁護団が発行している『季刊・労働者の権利』第338号(2020年10月号)の「特集2:国際労働基準の国内での活用」に掲載された原稿の転載です。お読みください。


『季刊・労働者の権利』第338号(目次)

 

2020年2月13日、「専門家委員会(条約勧告適用専門家委員会)」の報告書がILO本部のホームページ上で公開された[1]。私たち申立4労組(連帯・杉並、ユニオンらくだ、連帯・板橋区パート、あぱけん神戸)は、「非正規自治体公務員の労働基本権剥奪問題」にどのような見解が示されたのか、固唾を飲みつつ、慣れない英文を読み解いた。(翻訳を確定させるにあたっては、C先生の多大なご協力をいただいた。改めてお礼申し上げたい。)

①「自治体の労働組合が、これらの法改正の導入を通じて彼らが長年保持してきた労働組合の権利を奪われないようにするために」、②「自律的労使関係システムのすみやかなる検討を政府に要請する」、③「この点に関してとられた、または想定される措置に関する詳細情報を提供するよう政府に要請する。」とする見解が示されていた。

ILOが初めて、正面から非正規公務員の労働基本権問題を取り上げた点で画期的なものだ。(4労組申し立てに対する)政府報告書での「任用の適正化と処遇改善」などとの言い逃れは退けられている。

私たちはこの成果を大いに喜ぶとともに、政府に実行を迫る取組を進めていきたい。

 

 

目次

1 非正規自治体公務員の状況

(1) 労働基本権を活用した闘い

① 非正規自治体公務員の労働基本権

「自治体公務員に労働基本権があるの?」と多くの方が疑問を持つように思う。しかし法改定以前は、自治体公務員の労働基本権が認められる場合が二つあった。ひとつは「現業職員(地方公営企業職員と技能・労務系職員)」であり、もうひとつが「特別職非常勤職員」である。

現業職員にはスト権こそないものの、労組法の「団結自由原則」が適用され、「労働協約締結権」があり、労働委員会に不当労働行為救済申立ができる。

一方、特別職非常勤職員には地公法が適用されないため、労基法や労組法などが全面的に適用される。かつての「失対労働者」と全く同じ法的地位にある(失対労働者は、特別職非常勤職員と同様に、地公法3条3項に位置付けられていた)。これら「特別職非常勤職員」は、自治体非正規公務員65万人中、22万人と1/3を占める。

②  非正規自治体公務員を組織する労組などの闘い

1990年前後から、これら「特別職非常勤職員」の労働基本権を活用した取組が活発に展開される。私の所属する連帯・杉並やユニオンらくだなどは、労働委員会を活用して団交権を確立し、ストライキを配置して非正規自治体労働者の雇用安定・均等待遇実現に向けて闘ってきた。

特筆すべきは、東京公務公共一般労組と大阪教育合同労組の闘いである。東京都や大阪府の「任用論による団交拒否」を労働委員会に申し立てにより打ち破り、混合労組としての団交権を確立させ、「雇用継続要求は義務的団交事項」であることを認めさせたのである(これらの中労委命令の取り消しを求めた東京都・大阪府による取消訴訟はいずれも棄却され、確定している)。

 

a)  東京都は、消費生活相談員に関する東京公務公共一般労働組合との団交を「(相談員は、次年度の任用が確定していないから)次年度の賃金・労働条件は団交事項ではない」、「任用は行政行為であり、東京都は次年度の使用者には当たらない」などの理由で拒否してきた。しかし中央労働委員会は「相談員は、次年度に任用される可能性が高く、次年度の組合員に都の任用する相談員が存在する可能性は現実かつ具体的に存するということができる」として、次年度の労働条件は義務的団体交渉事項であり、東京都が労働組合法上の使用者に該当することを認めた[2]

b)  大阪教育合同労働組合は「組合員の次年度の継続雇用」を求めて大阪府に団交を申し入れた。大阪府は「会計年度を超えた継続的な任用、更新は法律上も認められておらず、常に新たな任用である」として団交を拒否した。大阪府労働委員会は府の主張を認めてしまったが、中央労働委員会はこれを退けた。中央労働委員会では「(組合員は)任用が繰り返されて実質的に勤務が継続することに対する合理的な期待を有する」として「本件団交事項は義務的団体交渉事項である」と組合の主張を認めた[3]

(2) 2017年の地公法改定

① 地公法改定の狙い

これらの労組にとって、労組法の活用はその活動の生命線ともいうべきものであるが、政府は地公法の改定を打ち出した。期末手当の支給など「処遇改善」を行う一方で、特別職非常勤職員を会計年度任用職員(改定地公法22条の2)に移行させることとなる結果、労組法を活用する闘いが極めて困難になる[4]

② 非正規公務員にこそ労働基本権が必要

言うまでもないことだが、非正規公務員にとって最大の課題は雇用の安定である。毎年毎年、年度末に向け、「雇止め」の不安を抱えたまま働かなければならない現実は改善されなければならない。

私たちはこれまで、特別職非常勤職員の労働基本権を背景に、「事前協議約款」を締結し、労働委員会への申し立てや斡旋に取り組み、ストライキを構え、雇止めを阻止するために闘い続けてきた。

③ 職員団体制度の問題点

しかしながら、特別職非常勤職員が会計年度任用職員に移行される結果、非正規自治体公務員を組織した労働組合は、その多くが職員団体への移行を強いられることとなる。そして、a)労働協約締結権のはく奪により、これまで締結してきた「事前協議約款」は効力を失うこととなり、b)ストライキは禁止され、c)労働委員会の活用ができなくなる。

職員団体は登録することによって初めて、当局が「(交渉申し入れに)応ずべき地位に立つ」(地公法55条1項)とされているが、登録されるためには「同一の自治体の職員のみによって構成」しなければならない。つまり、私たちのような合同労組は、職員団体として組織変更をしない限り、交渉をすることも叶わない。ここには「団結権制限」という重大な問題もあることが強調されるべきである。

 

2 ILOへの取組の開始

(1) ILOへの取組の準備

2017年が明け、地公法改定のあらましが明らかになると同時に、私たちはILOへの申立の準備に入った。法改定に対抗するにはILOを活用するしかないと判断したためである。2002年以降、連合と全労連がILOに申し立て、相次ぐ勧告を獲得していることが私たちを勇気づけた。「今持っている労働基本権を奪う法改定に、勧告が出ないはずはない」という一途な思いがそこにはあった。

私たちにとっては未経験の取り組みのため、ILO関係者の方々との相談を開始した。

(2) 結社の自由委員会への申立

2月から結社の自由委員会への申立書の作成に入る。連名団体を募る中で、連帯・杉並、ユニオンらくだ、連帯・板橋区パート、あぱけん神戸の4労組で申し立てることを決め、K弁護士さんに翻訳をお願いした。改定地公法の国会通過直後に、申し立てと記者会見を行うこととした。

2017年5月24日、申立書をILO駐日事務所に提出、その後に記者会見。会見の内容は、朝日新聞などのマスコミが取り上げてくれた。

 


2017.5.24申立後の記者会見

(3) 団体署名の取組

① 届かぬ受理通知

5月の申立後、夏休みを過ぎても受理通知が届かなかった。法施行まで間がない中、気が急く思いであったところ、10月になり、ILO事務局から問い合わせがあった。本申立にあたり、全国規模の労働団体の支援を得ているのか、得ていない場合にはその理由を示されたい、という内容のものであった。

結社の自由委員会への申立は、労働組合であればどんなに小さくても可能であると理解していた。しかし、上記問い合わせにより、全国規模の労働団体の支援がなければ、容易には受理されない状況にあることを理解した。しかし全国規模の労働団体の支援を受けることは困難であった。そこで私たちは、上記照会に対しする回答として報告書を作成し、ILOに送る一方で、全国の労組を対象として、申立を早急に受理し、勧告を求める団体署名に取り組むこととした。

② 団体署名の取組

2018年の年明け早々から、団体署名の取り組みを開始した。東京と大阪の主要な労働団体を訪問し、全国の非正規関連労組には郵送で要請した。1か月半の取り組みは、当初目標とした200団体を大きく超え、326団体に上った。連合や全労連加盟の労組からも署名が寄せられた。これは本当にありがたいことであった。3月のILO理事会に間に合うよう、2月末にILOに送った。

(4)  結社の自由委員会のカレン・カーチス事務局長と面談

2018年3月3日、結社の自由委員会事務局長のカレン・カーチスさんからメールが届いた。訪日をするので、4月9日に面談をしたいとの内容であった。私たちは、この動きを団体署名の成果と受け止め、署名各団体への感謝とともに大いに喜んだ。

① カーチスさんから状況説明

カーチスさんとの面談には、東京公務公共一般労組の組合員にも参加してもらった。冒頭、カーチスさんから以下の説明があった。

a)  「国内の労働団体」との受理要件に変更はないが、最近の動きとして

・ 申立件数の累計は3400件にも及び、近年ますます増える傾向にある

・ このため、2002年から「影響の大きいもの」に限るようにしてきた

・ 2015年から、政・労・使の理事各1名で「小委員会」を設置して、事前の「絞り込み」を行うようになった

b)  私たちの申立の状況について

・ 3月の小委員会に4団体の申立書を提出した

・ 小委員会から事務局に、「日本政府に申立書を送って面談し意見を求める」、「申立団体と面談し意見を聴取する」ことについて調査するよう委託された

② カーチスさんの法改定の受け止め

日本政府との面談を経たカーチスさんの受け止めは驚くべきものだった。

質疑の中でカーチスさんから、「今回の法改正は『非常勤を常勤化し、雇用を安定化する手段』と政府から説明を受けた」との発言があった。この発言を受けて質疑は一気に沸騰した。出席者からは「非常勤が常勤になるわけではない」、「雇用を1年に法定し、更新ではなく毎年の選考で試用期間がついて回る。雇用を不安定化する結果となる」などとの反論もなされた。「そのような非正規職員に、労働基本権は欠かせない」、「(東京公務公共一般労組の)委員長はストを打って職場復帰できた。スト権のあるグループをスト権のないグループに移行させられることが問題である」、「多くの合同労組が労働基本権を行使して非正規の雇用を守り、処遇改善を獲得してきた」等の発言が相次いだ。

③ ナショナルセンターの支持が必要?

当初のカーチスさんの説明では「ナショナルセンターの支持の有無」に関しては直接触れられなかった。そのため、あえてこちらから質問したところ「ナショナルセンターなど全国組織のものでないと扱わない、と決定することもあるし、扱うこともある」との回答であった。幅を持った慎重な言い回しであったが、その後の質疑を踏まえると「ナショナルセンターの支持がなければ、受理されるのは極めて困難」と判断せざるを得なかった。

そこで、私たちは直ちに受理要望書をILOに送るとともに、結社の自由委員会への申立とは別に、専門家委員会への「情報提供」の検討を開始した。

また、総務省・厚労省に対して情報公開請求を行い、カーチスさんへの説明内容の解明を求めた話し合いにも取り組んだ。

2018.4.9カレンさんと面談

(5) 2018年6月ILO総会で、画期的な見解が!

① 結社の自由員会の「結論」

結社の自由委員会の報告書に、下記の画期的な一文が書き込まれた。

「委員会は特に、恒久的な職務のパートタイム職員の使用を制限することを目的とした2017年5月11日の地方公務員法および地方自治法の一部改正法案が、労働者の基本的権利を剥奪された労働者の増加をもたらし、この問題に対処する緊急性を高めていることに留意する。」

私たちは、ILOが法改定の目的を「恒久的職務のパートタイム職員の使用を制限(有期雇用を強制することによる雇用の不安定化)」と捉えており、非正規公務員の労働基本権の剥奪に対して警鐘を鳴らしたものと理解した。

② 「総会委員会(基準適用委員会)」の議長集約

10年ぶりに、総会委員会で日本の労働基本権問題が取り上げられ、「自律的労使関係の確立に向け」、「労使協議の上」、「期限を区切った行動計画を策定すること」との議長集約がなされた。この行動計画は11月の専門家委員会に間に合うように提出することが求められていた。

③ この絶好の機会を活かすべく、要請に廻る

私たちは、ILO議連を中心とした国会議員、弁護士団体、連合、全労連への要請行動に取り組んだ。「消防・刑事施設職員への団結権と同様に、非正規公務員への労働基本権確保を」と訴えて廻った。

(6) ジュネーブ訪問

① ジュネーブ訪問を思い立つ

「ナショナルセンターの支援がないと受理は困難」という壁を打ち破るための方策を探る中で、貧乏組合ではあっても、「ILOに直接訴えに行こう!」と決断したのが2018年8月だった。

当初は、各理事がジュネーブに集まる11月理事会直前の訪問を考えていた。しかしある方から「理事会直前に行っても手遅れ。受理を検討する小委員会前に、労働者理事の居住地に行ってでも会わなければ意味がない」と叱咤激励を受けた。

急遽10月初旬の訪問へと大幅な計画変更。直ちにILO関係者と相談を重ね、ILO理事・事務局と何回もメールでやりとり。様々な困難を関係者のアドバイスとサポートのおかげで10月13日〜20日の訪問計画を確定することができた。

② パリ、コペンハーゲン、そしてジュネーブへ

私たちは「申立を受理し、非正規公務員に労働基本権確保の勧告を!」との要請メモを用意した。

パリとコペンハーゲンで労働者理事に面会。その後のジュネーブではまず、ITUC:国際労働組合総連合のジュネーブ事務所長と面会。最後に訪問したILO事務局では、労働者活動局のアンナ・ビオンディ次長が共同会議を設定してくれていた。労働者活動局からはアジア太平洋担当と法規担当、国際労働基準局のカレン次長、PSI:国際公務労連の方も出席し、要請を受けてくれた。

③ 訪問の成果は?

結論的には「(ナショナルセンターの支援のない事例の受理は)非常に難しい、しかし不可能ではない」という状況は変わっていない。しかし、直接の面会を通して、重要な問題として認識を深めてもらうことはできたと思っている。

様々な関係者の助力をいただいて、簡単には会えない方々と面会できたことだけでも有難いことで、感謝!感謝!の訪問だった。

2018.10.17ILO事務局要請

 

 3 不受理通知から専門家委員会へ

(1) 不受理通知が・・・・・

全く残念なことに2019年明け早々にILOから「不受理通知」が送られてきた。理由は「全国的地位を有する組織からのものでない」とのことだった。私たちは全く納得できず、ILOの大原則や最新の取扱を踏まえて「なぜ受理されないのか?」質問書を送ったものの、返事はなかった。

(2) 専門家委員会へ

そこで、次善の策としてあった「専門家委員会」への「情報提供(申立)」の本格的な準備に入った。様々な関係者の方に会ってアドバイスをいただき、4団体の会議を持ち、情報提供文書を共同作成し、翻訳をお願いして、なんとか7/19にILOに送ることができた。

具体的に求めた勧告内容は以下の通りである。

 

1 非正規公務員の労働基本権を確保することは喫緊の課題であり、直ちに「非正規公務員に労働基本権を確保すべき」旨の勧告をしていただきたい。

2 消防職員・刑事施設職員の団結権問題と同様に、非正規地方公務員の労働基本権問題を優先して取り上げていただきたい。そして「非正規地方公務員には、最低限、地方公営企業労働関係法を適用して、団交権と労働委員会活用とを確保すべき」旨の勧告をしていただきたい。

 

幸いなことに、8/26にILO労働基準局から受理した旨のメールを受け取ることができた。

 

4 専門家委員会の見解

(1) 示された見解

私たちの申し立てに対し、2月13日にILOホームページ上で公開された専門家委員会の見解は以下の通りである。

 

 したがって、委員会は、自治体の労働組合が、これらの法改正の導入を通じて彼らが長年保持してきた労働組合の権利を奪われないようにするために、自律的労使関係システムのすみやかなる検討を政府に要請する。この点に関して取られたまたは想定される措置に関する詳細情報を提供するよう政府に要請する。

自律的労使関係システムに関する必要な措置を講じる上で有意義な進展がないことを含む総会委員会の結論を想起し、委員会は政府に対し、関係する社会的パートナーと協議して、上記の勧告を実施するための「期限を区切った行動計画」を緻密化し、とるべきあるいは想定されるあらゆる方策について示すこと、及びこの点で行われた進展を報告すること、を強く促す。

 

私たちは、二つの大きな成果を獲得できたと考えている。第1に「非正規公務員の労働基本権問題」が初めて取り上げられたこと、第2にこの非正規公務員労働基本権問題が「期限を区切った行動計画の緻密化と行われた進展の報告」に含まれたこと、である。

2018年のILO総会の「基準適用委員会」で、日本政府は「(労働基本権保障に向けた)期限を区切った行動計画」の策定を促された。11回にも及ぶ勧告を無視し続ける日本政府に対して、ILOが業を煮やした(?)形である。しかしその後も2年間にわたり、政府は計画策定をサボリ続けてきている。今回さらに「強く」「非正規公務員の労働基本権問題」を含めた「行動計画」提出を促され、政府をさらに追い込むことができた、と考えている。

 

(2)  ILOの三つの委員会から日本政府への「3本の矢」

① 11次の労働基本権勧告

・ 2002年の2月に連合、3月に全労連、と相次いで「結社の自由委員会」に提訴。その契機は2001年に閣議決定された「公務員制度改革大綱」(人事院の役割を大幅に縮小し、内閣の人事管理権限のみを強化する)にあった。

・ 002年の秋には早くも第1次の勧告が出され、以降、2003年、2006年、2008年、2009年、2010年、2012年、2013年、2014年、2016年、2018年と11次の勧告が出されてきた。

② 「期限を区切った行動計画」の策定を勧告

・ 2018年6月総会の「基準適用委員会」で、政府に対して「期限を区切った行動計画」策定を促し、その年の11月の「専門家委員会」に計画書の提出を求めた。

・「 基準適用委員会」での論議の焦点は、消防職員と刑事施設職員への団結権保障にあった。労働者側のみならず、ノルウェー政府代表からも団結権保障を強く求められた。

・ しかし政府は、2018年、2019年ともに計画書の提出を行わず、従来の主張を繰り返すのみである。

③ 非正規公務員の労働基本権勧告

・ 私たちの申し立てに基づき、2019年の「専門家委員会」で、初めて非正規自治体公務員の労働基本権問題が取り上げられ、「期限を区切った行動計画」に盛り込むことが求められている。

・2020年6月総会「基準適用委員会」での論議に注目していたが、全く残念なことにコロナ問題で1年延期となってしまった。11月の「専門家委員会」の開催も危ぶまれる現状にある。

 

5 勧告実現のために

私たちは専門家委員会の見解を生かして、「非正規公務員に労働基本権を!」をスローガンとした取り組みを開始するための報告集会の準備に入った。

そこにコロナの感染拡大である。集会場は使用中止となり、集まること自体や地域を越えた移動などが大きく制限され、集会開催は事実上不可能となった。職場自体もコロナ問題への対応に追われ、非正規公務員の就労確保・休業補償や感染防止対策、雇用確保が組合の緊急課題となった。

コロナが落ち着きを見せ始めた6月に入り、私たちは8月30日に集会を開催、翌日に関係三省(総務省・厚労省・外務省)への申し入れを行うことを決め、準備に入った。集会内容のあらましが確定した7月、第2波の感染拡大である。ドタバタしながらも、何とかオンライン集会に切り替えて開催することができた。集会を契機として、以下の取り組みを進めることとした。

 

(1) 専門家委員会への追加報告

① 8月25日に専門家委員会へ追加報告書を提出

2020年11月開催予定の専門家委員会に向けて、追加報告書を提出し、4月に施行された改定地公法による「雇用の不安定化」の問題点を指摘した。具体的にはa)「1年任用を理由に毎年雇用を打ち切り、改めて公募により任用する」というシステムであること、b)「毎年、1か月の条件付き採用期間がついて廻ること」、などである。このような雇用不安定化に対抗するためにも、労働基本権が欠かせないことを再度訴えた。

② 自由権規約委員会勧告の活用を!

今回の追加報告書で、私たちが援用し強調したのは、国連の国際人権(自由権)規約委員会の1998年報告書である。報告書では、その「総括的所見32項」で、日本政府に対して以下の勧告を行っている。この点に留意することを求めた。「委員会は、裁判官、検察官や行政官に規約に定められた人権を研修させる法的条項がまったく存在しないことに懸念を有する。委員会は、このような研修が実施されることを強く勧告する。裁判官に関する限りでは、規約の規定に精通するために、司法界において研究集会及びセミナーが開かれるべきである。委員会の一般的意見及び、選択議定書に基づく個人通報に関して委員会によって表明された見解に関する情報は、裁判官に提供されるべきである」。この指摘を受けて、日本政府は法曹界において一定の改善を行ってきた。だが、私たちは特に「行政官」に注目している。日本政府の最大の問題点は、政府関係者がILO条約についての充分な理解がなく、「研修」が欠けていることにある、と訴えた。そして、労働基本権確保を日本政府に実施させるためにも、政府関係者にILO条約の「研修」を強く促すことも含め、さらなる「見解」を求めた。

 

(2) 総務省・厚労省・外務省への申し入れ

報告集会の翌日の8月31日には三省庁への申し入れに取り組んだ。事前に質問書を提出し、その回答文を受けて当日の申し入れに臨んだ。

獲得目標は以下の3点においた。三省庁からの回答要旨は以下の通り。

 

① 政府の意思決定に際しての、三省庁の関わり方を明らかにさせる(詳細は省略する)

② 内閣人事局・総務省が労働基本権制約の理由として挙げる「交渉コストが増加し、混乱を招く恐れ」は、労働基本権制約の理由とはならないことを主張しつつ、その理由を解明すること

・( 労働基本権制約の理由にはならない、という)ご意見があることは承知している

・ 国民の理解が得られない、ということで「慎重に検討」としている

・ コストの比較資料はない。交渉コストの増加という点は、行政機関などのヒアリングで出ていた話である

・ 合意に達するまで団体交渉を重ね、労働協約を締結し、それに基づいて給与を支給しなければならなくなることが「コスト増」の原因となる
※この点に関する「職員団体でも合意を得るために交渉を重ねるのではないか?」という質問には明確な回答がなかった。

・ 交渉が妥結しないことにより、「混乱」や「業務執行に影響」が生ずる
※この点に関する「職員団体でも交渉が妥結しないことはあるのではないか?」という質問には明確な回答がなかった

③ 重要な利害関係者である私たちとの協議の場の設置を求める

・ 今の段階では白紙である

私たちは、この三省庁とのやり取りを踏まえて第2弾の追加報告書を提出し、10月2日に受理された。そのポイントは以下の3点である。

a) 内閣人事局と総務省ではILO研修が全く行われておらず、約2年で異動するシステムの下では研修が喫緊の課題であること

b) 裁判所にlLOからの勧告が送られていないため、判決に反映させる道が閉ざされていること

c) 「交渉コストが増加し、混乱を招く恐れがある」、「労使交渉の長期化により業務執行に影智を及ぼす恐れがある」などの理由を挙げて、「期限を区切った行動計画」を策定しようとしていないこと

今年の専門家委員会の開催は流動的な状況にある。来年に延期される可能性もありうる。しかし私たちは「やるべきこと、できること」は着実に進めていきたい。

(3) 国会議員などへの働きかけ

政府にILO勧告を受け入れさせるには、国会議員への働きかけが欠かせない。また、各省庁への申し入れについても、国会議員の方の協力が必要である。このため、超党派の「ILO活動推進議員連盟」の方々への要請を一層強めていきたい。あわせて、自治体議員の方々にも働きかけていきたい。

(4) 国の非正規職員との連携

会計年度任用職員制度は、先行する国の「期間業務職員制度」を下敷きに創設された。「毎年度ごとの任用」、「原則は公募選考」など、課題は共通である。自治体と国の非正規公務員が力を合わせて労働基本権問題に取り組むことが、運動の前進に欠かせない。国公の組合との交流を強めていきたい。

 

6 取組の中で感じたこと、など

最近とみに、日本の労働法制の改定動向が目まぐるしい。安倍前内閣総理大臣の言う「世界で一番企業が活動しやすい国」づくりに向けた「働き方改革」と称される、様々な法改定が強引に推し進められてきた。

一方、「非正規率37.9%」、「日本の労働時間は週13時間もデンマークより長く働いている」、「OECD35か国で日本だけ時間当たりの賃金が下がっている」、などのデータも示されている[5]

この世界的にもまれな日本の異様な状況を改善させるためには、国際的な労働基準をもとにして議論することを根付かせていく必要がある。

(1) ILO条約は「国際労働基準」

ILO条約は、批准した場合は勿論、批准していなくとも憲法98条2項にいう「確立された国際法規」と言い得ると考えている。条約は「二回討議制」により「出席代表の2/3の多数決」により総会で採択される。つまり、政・労・使の三者構成による総会の意思を反映し、国際的に確立されたものである。憲法原則に抵触しない限り、その適用を求めていきたい。

87号条約批准前の日本の裁判においても、87号条約を「確定された国際法規」とした上で「公労法4条3項は憲法違反」と判示した国労東三条駅事件・新潟地判昭39・10・26判時390号16頁)に注目したい。この判決では「憲法98条2項は、日本国が締結した条約及び確立された国際法規はこれを誠実に遵守することを必要とする旨規定しているから、前記公労法4条3項が憲法に違反しているかどうかについての判断は右98条の法意に基づいてしなければならない」とした上で、「右公労法4条3項は確定された国際法規である結社の自由および団結権の保護に関する条約(1950年7月4日発効ILO第87号条約)2条、3条に抵触することは明らかであり、この意味からも右公労法の規定は、如何なる者を組合員とし、組合役員に如何なる者をあてるかを組合が自主的に決定すると言う団結権の本質的な部分に対する使用者の支配介入を法定するもので、憲法28条に違反すると言わざるを得ない」と判示した。大いに参考とされるべきものである。

(2)  労働法改定に際しては「ILO条約の水準確保」を求めよう

ILO条約は、労働者の課題のほぼすべての範囲にわたっている。労働基本権は勿論、賃金、休暇、労働時間、労災、社会保障、労働行政にまで及んでいる。法改定に当たっては、ILO条約を基準に考えることを基本に据えて検討していく必要があるように思う。

まずは、「中核的労働基準8条約」中、日本政府が未批准のまま据え置いている「第105号強制労働の廃止に関する条約」と「第111号雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」を適用・批准させる取り組みを継続・強化していくことが大切なように思う。

また、雇用不安と闘う私たちが強調したいのは「第158号雇用終了条約」の適用・批准である。この条約は、労働者を正当な理由のない雇用終了から保護する目的で制定されている。同名の勧告(「第166号雇用終了勧告」)では、有期雇用の乱用を防止するための規定を置いている(更新1回〜2回での無期雇用転換の例示もある)。

(3) ILO条約の研修を行政に義務付けよう

三省庁への申し入れの中で、ILO条約の研修がほぼ皆無であることも明らかとなった。これではILOからの勧告を受け入れようとする素地に乏しいのも当然である。少なくとも、関係する省庁での研修実施を強く求めていきたい。

引き続き職場課題に向き合いつつ、「非正規公務員に労働基本権を!」をスローガンとした運動に取り組んでいきたい。

 

 

<脚注>

[1] 「専門家委員会報告書」のリンク先は下記(日本関係はP156〜159)。https://www.ILO.org/ilc/ILCSessions/109/reports/reports-to-the-conference/WCMS_736204/lang–en/index.htm

[2] 中労委命令2011.10.5:https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei/dl/120313_2.pdf

[3] 中労委命令2012.10.17:https://www.mhlw.go.jp/churoi/houdou/futou/dl/shiryou-24-1203-2z.pdf

[4] 詳細は私たちの「2017年 結社の自由委員会への申立書」を参照いただきたい。https://rentai-suginami.wixsite.com/0001

[5] http://editor.fem.jp/blog/?p=3698

 

 

(関連記事)

安田真幸「非正規公務員に無期転換を!均等待遇を!労働基本権を!」

 

(参考)

(連帯・杉並作成)「日本政府による自治体22万非常勤の一方的労働基本権はく奪を許すな!― 非正規公務員の労働基本権確立を求めて ー」

 

 

 

 

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