佐藤陵一「区役所の清掃業務──建交労組合員の働き方が物語ること」

2016年2月20日、なくそう!官製ワーキングプア第1回北海道集会が北海学園大学にて開催されました。同集会の「記録」に収録された、区役所で働く清掃員の賃金と労働条件に関する二つの報告(建交労札幌合同支部清掃ユニオン組合員「区役所で働く清掃員の賃金と労働条件」、佐藤陵一「区役所の清掃業務──建交労組合員の働き方が物語ること」)を転載します。お読みください。

 

 

区役所で働く清掃員の賃金と労働条件

私は、札幌市の区役所で清掃の業務についております。私の賃金・労働条件はNPO労働相談・組合づくりセンターのレポートにまとめられています。言葉足らずのところは参考にして下さい。

私が皆さんに知ってもらいたい第一は、働いてもうこの3月で12年になりますけれど、ずっと最低賃金です。もちろんボーナスや諸手当はありません。一応、作業責任者という立場です。区役所の担当者は1年で変わりますし、会社自体も入札で1年ごとに変わるため、どちらからも、「これはどうなっているの?これは?」などと聞かれ、その全てに対応せざるを得ません。会社の機材管理なども対応します。

仕事の時間も、8時間のフルタイムで、3時間パートの人とは異なります。ただそういう仕事を任されていますが、手当てなどいっさいいただくことはありません。

そういう状況ですから、札幌市の公契約条例にはものすごく期待をしていました。道新の記事を切り抜いていました。私だけでなく、みんなの賃金が少しでもあがり、生活が助かるからです。当時、灯油が高くて大変でした。それから、市役所の予算単価と私たちに支払われている最賃の賃金の開きを知ってものすごく驚きました。

何人かの記者の方にも取材を受けました。すごく楽しみにしていたんです。でも議会で投票が行われたその日に記者さんから電話がありまして、たった一票差で否決されたことを教わりました。廃案になって本当にガッカリしました。もう、ダメなんでしょうか。

有給休暇は、会社によって全然違います。最初に入った会社では、有休なんて無いと言われました。2社目は、あるけれども使わないでいただきたい、と言われました。そんなこんなで5年ぐらいは取れずにいた。けんかにでもなって翌年に更新、採用されなかったら困りますので。

それでたしか6年目だったか、「有給休暇台帳」というものを会社の方から渡され、有休をとることができるようになりました。あまりにも嬉しくて社長さんにお手紙を書いたひともいるぐらいです。

ただこの有給休暇については、たとえ何年勤めていても、4月に会社が変わると、私たちの勤続はゼロからやり直しになりますので、10月までは取得できないのです。

20日間の有休が欲しいとは言いません。でも10日分を、4月から取りたいです。障害を持つ息子をゴールデンウィークにどこかに連れていってやりたいと思っています。

取りづらい有給休暇について市役所にお願いしたいです。みんなが取りやすくしてもらいたいです。

昼休みは長すぎます。私は1時間半です。白石の仲間は2時間です。家が近いので用事を足したり、ご飯も食べたいと思っていましたが、一歩も庁外には出られませんでした。休憩室にはテレビもありません。

毎日ではありませんが、昼休みでも急ぎの仕事の電話がかかってくればすぐ対応しています。1日中拘束され、いつでも仕事をしなければならないのですから、時給を払ってほしいです。区役所の担当者は、組合に「会社が考えること」といっていますが、責任逃れではないでしょうか。

仕事内容について会社は私たちに任せきりです。トイレ掃除など1日中、気を使い仕事は大変ですが、少しでも気持ちよくとガンバっています。会社が最賃しか払わないなら、仕事はベテランですから、ちゃんとできますから、市が直接雇ってもらいたいです。

それから公契約条例、出来るものならなんとか通してもらえないでしょうか。フルタイムで働いて手取り13万というのは何というか、ちょっと腑に落ちないです。他に働いて増やそうと思っても、私の場合はフルタイムで働いているので、時間も体力もありません。

組合の人が何回もチラシをもって訪ねてくれました。集会で顔を見た人でした。うれしかったです。これからもどうぞよろしくお願いします。

 

 

10年間、仕事は同じ、変ったのは会社の名前だけ

雇用契約期間 会社 時給は10月改定
2006(平成18)8.30~2007.3.31 S社 638→644 up6円
2007(平成19)4.1~2008.3.31 S社 644→654 10円
2008(平成20)4.1~2009.3.31 W社 654→667 13円
2009(平成21)4.1~2010.3.31 W社 667→678 11円
2010(平成22)4.1~2011.3.31 S社 678→691 13円
2011(平成23)4.1~2012.3.31 TR社 691→705 14円
2012(平成24)4.1~2013.3.31 T社 705→719 14円
2013(平成25)4.1~2014.3.31 I社 719→734 15円
2014(平成26)4.1~2015.3.31 TB社 734→748 14円
2015(平成27)4.1~2016.3.31 NS社 748→764 16円

・「賃上げ」とは最賃改定のこと。10年間で時給が126円上がったことになる。

 

1年契約の繰り返し。有給休暇は6ヶ月後からの付与

 

■契約はずっと1年契約だった

・会社が次年度の入札に失敗すると雇用主が変わる。新しい会社は「慣れている人」を継続雇用するが、新採用扱いとなる。札幌市は「継続雇用が望ましい」としているが、再雇用される保障(※1)はない。

(※1)白石区役所で「2時間の昼休み長すぎる。自由利用」でモノを言った清掃員が再雇用を拒否された。建交労が本庁の課長交渉を行い、新しい会社とも交渉し、雇用継続を実現した。論点は「本人が継続雇用を希望している」「市は落札会社に継続雇用を求めよ」という交渉だった。

■「前倒し付与」は切実な要求

・有給休暇は、「6ヶ月後から10日間」なので毎年10月からである。

S社― 1年目は部長が「ない」といい、2年目は担当者から「あるけど使わないで」と言われた。

W社―「有給休暇どうなっている」と聞くと担当者は「ウーン、ない」と言った。

TR社― 有給が取得できた。残日数が台帳で知らされる。うれしくて社長にお礼の手紙を書いた。

T社―「使って下さい。個人の権利ですから」と良かった。

I社―「有給消化するのかな」とけん制された。

T社―「使って」というが、代替が手配されず、実際は休めない。

・平成24年6日間、平成25年4日間、平成26年は2日間の有給をとった。

・使わないで6日分をお金でくれた会社がある。

・代替のやりくりがつかず、残った人で仕事を行い、その分を「つけてくれる」会社もあった。

 

〔A子さんの労働契約書の内容〕

○契約期間:平成27.4.1~平成28.3.31

○仕事内容:庁舎清掃

○就業時間:7:30 ~ 17:00

○休憩時間:勤務中に90分の休憩を与える

○休日:土、日、祝祭日、年末年始

○時間外労働:法定内

○休日労働:ある

○賃金:時間給750円(現在は764円)

○賃金の支払:毎月20日締め、翌月5日支払い

 

長い拘束時間。休憩時間にも急な仕事が出てくる

○休憩時間にも急な仕事に対応する。飲み物がこぼれた。トイレが汚れているなど。担当者からの電話や職員から控室へ知らされる。「偽装請負」と言っていては仕事が回らない。

○「仕様書」は組合の人から見せてもらった。会社からは「今までと同じようにやって下さい」で終わっている。区役所の方は、「作業日誌」で業務をチェックしていると思う。

 

A子さんの1日の仕事の流れ

午前中は3人体制。2人は7:00~10:00 午後17:00~20:00は3人。
7:30

10:00
7:15には出勤。A子さんは日勤、あと5人は3時間パート。
8:45(職員の業務開始)までにトイレと廊下清掃を終える。
3時間パートの2人が帰る。
休憩
10:30

12:00
庁内を見回りながら拭いて回る。トイレット・ペーパー補充。洗面台清掃。段ボールの片づけ。外へのゴミ出し。
昼食
13:00

14:30
各階から弁当ガラ、ペットポトル、生ごみを分別する。(食堂がない)階段の汚いところ拭いてまわる。冬は、水・泥・塩カリがひどいトイレット・ペーパー補充。洗面台清掃。
休憩
15:00

17:00
庁内見回り清掃。
夏は外まわり。草取り。家庭ゴミが投げられていたりする。
作業日誌をつける。夜番の人と引継ぎ帰る。
17:00

20:00
夜の3時間パートの人は、執務室のゴミ投げ。シュレッターゴミ投げ。拭き掃除、業務用の茶碗洗いなど。最初の頃は4人でやっていた。

 

A子さんの労働条件は「仕様書」に規定されている

・「仕様書」とは、市の管理委託業務において図面だけでは表現できない、業務の内容やその手順、材料の品質などを文章や数値で示したもの。「図書」(文書)で業務受託者に指示される。この具体的な「要求水準」が、働く人たちの業務内容を規定することになる。なお、企業にとっては常に「請け負け」の要素が働いている。

・労働条件は「契約期間」「仕事の体制」「労働時間・休憩」について「仕様書」から見ている。「賃金」については、①最低賃金、②保全業務単価のうちの清掃員賃金、③市のこの間の「入札・契約改革」、④道ビルメン協会の対応からポイントを見ている。

 

労働実態
■A子さん、□他の区役所・区民センター
「仕様書」に見る市の考え方(要求水準)
契約期間 ■A子さんは10年間、すべて1年契約。
□例外なく1年契約である。
・市は必要とする人員数を示していない。「仕様書通りやってもらえばよい」が基本姿勢である。ただし、「履行検査」(※2)で実態をつかんでいる。
業務体制 ■日勤者(A子)と午前、夜の3時間パートの6人体制である。
□他もフルタイム常勤者が1名である。
□本庁・区役所・区民センターの清掃受注企業の清掃員数
A:33人、B:57人、C:18人
(※2の履行検査から。随意契約、指定管理を除く)
・「執務時間内においては1名以上の従業員が庁舎内に常駐していること」
・「業務遂行を指揮監督するため、従業員から1名を責任者として定めること」
■A子さんは会社から「説明」も「任命」もされていない。1人しかいないという現実!
□日勤者が責任者として登録されている。「手当」あるのは南区のみ。
□日勤の1人配置では「休憩は自由時間」とならない。
労働時間・休憩 ■7:30~17:00 実働8時間、休憩90分の労働契約書。拘束時間は9時間30分。
□白石-始業6:30で10時間拘束。実働7時間30分。3回の休憩が計2時間30分。南区-始業7:00で10時間拘束。実働7時間。3回の休憩3時間。(2014.1調査)
□休憩中における急な仕事への対応は同じである。
・10時間拘束の実態について市は「コメント」を避けている。業務上、「90分」「120分」の休憩に「合理性がない」ことは認めている。
・実態は拘束時間中、いつでも突発的な仕事に「対応できる」あるいは「対応する」という「タダ働き」が慣例化している。
・労基法上は長時間拘束とその間の休憩時間、回数など規制はない。労使交渉となる。
賃金 ■時給764円。通勤手当は往復実費×勤務日数。12月分(19日稼働)は総支給額128,692円から16,502円が控除された。
■A子さんは TB社に「1000円ほしい」と口を開き、最賃734円の時に「750円」となった。10月最賃が748円に上がったが、その後は750円のままであった。
・公契約条例は、市の積算している労務単価の「90%」を下限として受託企業に対して賃金支払いを義務付けるものであった。すなわち企業が懐を痛める話ではない。
□清掃員の賃金は限りなく最低賃金水準に張り付いている。

(※2)市は履行検査で委託企業に「報告書」を求めている。2013.4.1から実施。

❶ 業務費内訳書―契約金額の積算内訳書。委託業務が適切に行われるか、賃金分、社会保険料、管理費(利益)など積算内訳の報告。

❷ 従事者賃金支払い計画書―時給いくらで支払うのか、清掃員を「A・B・C」の3技術区分でそれぞれ何人配置するのか、報告を受けている。
A―作業が指導できる。実務経験6年程度以上。(ちなみに、2016.4からの単価日額10,900円)
B―作業内容が判断できる。経験3~6年未満(同、8,800円)
C―経験3年未満。(同、7,900円=時給988円)
全員Aが厚別区、西区、全員Bが南区、白石区など。

❸社会保険事業主負担分調書―社会保険に適正に加入しているか、報告を求めている。

 

かい離が拡大している(C単価―最賃)。2012年度は58円。これを公契約条例が正そうとした。2016年度は224円。

 

※3 毎年、道ビルメン協会は「最賃引上げに反対する意見書」を道労働局に提出。

 

レポートは、区役所・区民センターの清掃員にしぼった報告である。指定管理者の下請けで働くボイラーマンなど事態はより深刻である。「官製ワーキングプアをなくす共同行動・労組共闘」が求められている。総合的な調査と札幌市と関係業界に改善を求める運動である。「格差と貧困」をなくすための市民「総がかり」の新しい運動が期待されている。

 

 

 

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