是村高市「出版文化を支える地場産業、中小印刷業をどう発展させるか ――経営者・業界団体などとの議論を通して」

光陽メディア本社ビル5階にて開催された「新宿・出版印刷九条の会トークPart5」(2018年7月19日開催)での報告です。お読みください。

 

 

はじめに

2018年7月7日に全印総連(全国印刷出版産業労働組合総連合会)の委員長を退任しました。7月21日に東京地連の委員長も退任になります。これからは、側面からバックアップするということで、MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)と全労連を担当する役割をそのまま引き継ぐ特別中央執行委員となります。

本日のお題「出版文化を支える地場産業、中小印刷企業をどう発展させるか――経営者・業界団体などとの議論を通して――」は、新宿・出版印刷九条の会の世話人のみなさんからいただいたものですが、このことが一産別の労働組合でできるのならば、こんな簡単なことはないのです。

いずれにして労働組合としては、労働条件の改善などが主なテーマですが、中小企業に組織している全印総連ならではの産業政策を先輩たちがつくってきましたので、それにもとづいて印刷出版関連産業をどう発展させるかということにも、賃上げと同じくらい一生懸命取り組んでいます。

今日は、全印総連の方以外に、出版労連の関係者や地域の方々も参加されています。全印総連の中では、官公需印刷物の適正単価や入札制度、公契約条例については一定程度認識されていますが、あらためて、そうした言葉についても説明しながら、お話させていただきます。

 

全印総連の産業政策方針

 

<中小企業における労働組合運動から提起―中小印刷出版産業の育成>

なぜ全印総連という労働組合が、こういう産業政策・提言をもって活動しているのか。

大手印刷ではなく、中小企業の中にある労働組合の産業別組織なので、大手のように経営責任を追及して賃上げだけを要求して、労働条件の改善をはかるだけで事が済むとはならないわけです。

中小の経営者は目の前にいます。特に民主的な労使関係を確立している企業では、それこそ経営者の年収まで承知しています。ある印刷会社の社長がイギリスのガーディアン紙の取材を受けました。“そこで働いている残業の多い労働者よりも、その社長の年収が低い。日本には、こういう経営者がいる、産業も経営も率先して頑張っているんだ”ということが報道されました。実態は、こういうことなんですね。

ただ、オーナー経営のところは違います。私の出身の印刷会社は、社屋がいま更地になっていて、2年後にビルができて戻ってくることになっています。オーナー経営で3代目です。目白に社長宅があり、目白の高額所得者の10位内に社長と子息が入っています。

このようにオーナー経営者と、多くの中小企業では雲泥の差があります。そこでは、おのずと労働組合の交渉は当然違ったものになります。しかし基本は、中小企業の中で何とか経営も維持発展させ、労働条件の改善をしていく、その全体の器である印刷出版関連産業そのものも振興させていく、そういう運動方針を全印総連はもっています。

 

<全印総連が出した「産業政策提言」>

全印総連が出した「産業政策提言」というのがあります。初めに発行したのが2010年です。その後、2012年と2015年に改定しています。なぜ私たちがこの産業政策提言を出したかというと、簡単です。「文字活字文化を支えるのにふさわしい賃金と労働条件を実現し、印刷出版関連産業の発展と産業民主主義を確立するため」ということに凝縮しました。

この産業政策は5つの提言からなっています。

1つは、印刷の適正単価を確立すること。民間単価と官公庁、政府・自治体が発行する印刷物の単価を適正なものにしていくこと。

2つ目は公契約条例をつくっていくこと。

3つ目が入札制度改善と官公需の適正化。

4つ目は印刷出版関連産業の育成と振興。

最後が、「文字・活字文化振興法」が2005年に制定されましたが、この法律を活用して新聞・雑誌・書籍、文字活字文化を冷えさせないで発展させていくことです。

こういう趣旨で提言をつくり、全印総連の産業課題の方針では、この産業政策で活動しています。

 

<ポスター「公契約条例を制定させよう」を会社に貼ってもらう活動>

最近、「公契約条例を制定させよう」というポスターを作りました。「印刷単価を適正にしよう」という文言をアピールしています。全国の業界団体や印刷業に持ち込んで貼っていただきたいという活動をやっています。

私も、今日の会場のある、印刷・製本関連の工場が多い牛込・神楽坂の地域を歩いてみて、ここは絶対貼ってくれないだろうと思っていたところの印刷会社の正面玄関に、このポスターが貼ってありました。Sさんから、そういう報告と写真を送ってもらって、ちゃんと回って話をすれば貼ってくれるんだなと思いました。

もちろん断るところもありました。すぐ近くに大日本印刷の榎町工場があるのですが、ここはポスターの受け取りさえ拒否しました。私は、板橋の凸版印刷にも行きましたが、ここもポスターの受け取りを拒否しました。大企業は門前払いというか、そもそも労働組合の活動に対して敵対的な意識をもつ組織なんだとあらためて思いました。

ただ大企業の中でも、凸版印刷のすぐ近くにあった、アルバム・手帳・カレンダーなどを出している「ナカバヤシ」は大手なのですが、ここはきちっと総務部の方が対応してくれました。点検はしていないので貼ったかどうかは確認していいませんが、きちっと話を聞いてくれました。

隣の農協関係の雑誌・書籍を出版して出している「家の光協会」では、なんと専務が長いこと対応してくれました。たぶんそこは貼ってくれたと思います。この方は元全農協労連の組合員ですと言ってましたから。ですから、一概に大企業だからといってダメだということではないんだとあらためて思いました。

 

<適正な単価をつくっていこうという活動>

産業政策提言に沿って、秋年末闘争とか春闘の時期に、いろいろな業界団体や業者訪問をしてアンケートとともに訴えをし、労働組合と業界団体・経営者が一緒になって適正な単価をつくっていこうという活動をしています。

単価の問題を業界が言うと独禁法に引っ掛かりますので、業界団体は内々には話をしていますが、公けには何の声明もコメントも出せないのです。唯一出せるのが労働組合です。公正取引委員会に労働組合が行って単価の問題を話しても、公取は「違反だ」とは絶対言えない。業界団体が言えないことを労働組合が代弁しています。

下落を続けている印刷単価の問題、出版で言えば教科書定価の問題が同じ問題だと位置付けて、私はこの間、教科書協会へ出版労連の教科書共闘と一緒に8年くらい要請に行っています。参加するたびに奥が深いなと思います

特に教科書では、いま「道徳の教科化」が問題になっていますが、そうしたなかで、あらたに「自虐史観」だと言って民主的な教科書を批判している出版社が――ここはヘイト本を出している出版社ですが――、教科書出版に参入してきています。非常に怖いと思います。一教科書会社だけの問題ではなく、安倍政権下での教育に対する根深い問題だと思います。教科書協会に行ったときは、単価の問題だけでなく、全印総連の立場で、そういうことも指摘してきています。

 

<印刷出版関連産業の育成と紙メディアの振興>

印刷物には、チラシ、雑誌・書籍、パッケージなどがあり、大きくは商業用印刷物と出版印刷物に分けられると思います。今日は、印刷関係の方とともに出版関係の方が多く参加されていますが、新聞も書籍も雑誌も本当に読まれなくなってきていますね。なぜかというと、それらが電子メディアにシフトしているということがあります。特に若い人たちですね。若い人たちは本当に新聞を購読していないですね。知識は、どこから得ているかといえば、スマホ、パソコンなどのウェブサイトで見ている。私は、あえてその点は構わないと思います。

私のところには、琉球新報が沖縄から送られてくるのですが、1回で3日分届きます。休みが入ると5日分くらいまとめて届くので、全部は読めない、一面しか読まないことが多くなります。琉球新報のウエブ版も同時にとっていますので、リアルタイムに読めることもあります。

情報メディアのウェブ版には無償のライン版もあるので、それで読めば情報のツールとしては、あえて紙でなくてもいいのかなと思います。印刷会社からすると、やはり紙で読んでほしいというのが基本にあります。特に書籍とか雑誌は、ウェブ版でも読めますが、やはり私は紙で読んでほしいと思います。

私は孫が2人います。読み聞かせというほどでもないですが、うちに泊まるときは寝かしつけるのに、ほるぷとか童心社の絵本を読んでやるんです。ま、すぐ寝かせたいから読むんですが、そのあと、ちょっと一杯やりたい(笑い)。孫たちも慣れてきているので、絵本を持ってくるんです。自分で平仮名は読めるんですけれど。書いてないことまでアドリブで読んでしまうこともあります。

このように、紙媒体はツールとして使えます。スマホでもできるのでしょうが、やはり紙に接してもらいたいと思うのは私の世代では根強いです。

今後どうなるか分かりませんが、10数年前に出た『新聞がなくなる日』という本が結構読まれていまして、新聞労連もそれに危機感をもって議論をしました。そのあたりから新聞のウェブ版がすごく出てきました。産経新聞がいち早く無料のウェブ版を出したので、反面教師として産経新聞のウェブ版を読みましたが、読むたびに腹が立つんですね。こんなひどい新聞があるのかと。いままで産経新聞とは全く接点がなかったので、あらためてウェブ版で読んだら本当にひどい。産経は夕刊を廃刊しましたので、そういう意味では紙メディアは疲弊してきているなと思います。

 

<文字活字シンポジウムのとりくみ>

この紙メディアを何とか振興させようと、「文字活字シンポジウム」というのを、新聞労連、出版労連、全印総連の三者で、2010年から2016年まで7回やってきました。残念なことに、諸事情から2017年は中止になってしまいました。全印総連としては何とかやっていきたいと思いましたが、単独ではやれないことが分かりました。

第1回は、「ことばが開く未来 読もう、本と新聞を」というサブタイトルで、日本青年館を会場に260名が参加しました。ゲストに落合恵子さんを呼びました。このとき、落合さんから苦言をいただきました。“文字活字文化、メディアが大変なときに、あなたたちは「振興させよう」などと悠長なことを言っているんですか”と。ただ、落合さんとの事前の打ち合わせでは、事務局としての立ち位置を伝えて賛同していただき、ゲストとして参加していただくことになりました。

2回目のゲストは椎名誠さん。4回目の2013年には、『舟を編む』の著者の三浦しをんさんをお呼びしました。三浦しをんさんには、この小説のモデルにもなった岩波書店の平木靖成さん(全印総連書記次長)が声をかけてくれて来てくれました。200名の参加でした。

毎回200名近く集めるのは大変な労力なので、そのあと2014年からは少しトーンダウンして規模を小さくしました。そのため参加者が70名、80名となりました。文字活字に携わる新聞労連、出版労連、全印総連の労働組合が、新聞を読もう、本を読もうという運動をやっていくことは重要です。しかし、実際には、この規模すら維持できなくなってきています。

ここでいうのは適切ではないですが、やはり労働組合の力量が落ちているということをあらためて感じました。全印総連で言えば本部の役員専従がゼロなんです。新聞労連、出版労連も少なくなった。本来力を入れなければならない文字・活字シンポジウムができなくなってしまった。ぜひ次の委員長には再開してほしいと思います。呼びかければそれなりのパネリストや講演の人が来てくれますので、ここに参加するたびに新聞・紙のメディアが必要なんだ、ということをあらためて思いましたので、ぜひ次の役員体制の中でやってもらいたいなと思っています。出版労連にもぜひもう一度、さらに新聞労連にも声をかけてほしいですね。

 

さまざまある産業政策課題の中で、なぜ公契約の適正化・入札制度改善か

 

産業政策ですが、漠然と抽象論で「本を読みましょう、新聞を読みましょう」と言ったって、経営側の営業戦略的に言っていることと同じで、精神論とあまり変わらないですね。

 

<官公需の印刷物から適正な単価をつくっていこう>

われわれとしては、まず公契約条例をつくって、官公需の印刷物から適正な単価をつくっていこうと言っています。適正な単価にすることによって、本の定価も実は上げていきたいのです。でも、こんなに賃金が下がっているのに、本や新聞の値段だけ上げて、それで増えるわけがない。そこを追求していくと、やはり安倍政権の経済政策に行きつくのです。安倍首相は、アベノミクスで景気が良くなった、トリクルダウンで上が儲かれば下に降りてくると言いますが、私たちの財布の中には全然しずくがたれてこない。実感として明らかです。アベノミクスは失敗しています。

 

<自治体の公契約条例をつくろう>

官公需の適正単価をつくるためには、入札制度の改善だけでなく、公契約条例をきちんとつくっていくことが必要です。

公契約条例をつくるということは、賃金の最低基準、いわゆる最低賃金とは違いますが、賃金に規制をかけます。例えば、公共事業の場合で言えば、土建で一人親方がたくさんいますが、その人の人件費をたとえば1時間1200円にするとかという規制をかけます。

東京で言えば、港区は公契約条例ではなく、要綱みたいな基本条例に近いものです。東京で一番高い賃金最低基準は世田谷区だと思います。港区は、その次に高くて地域別最賃よりもいい賃金になっています。

新宿区は、指針という形で、公契約条例ではないのですが、官公需印刷物(区報、コピー用紙、文房具、便利帳など)を今まで物品扱いだったものを、いま製造物扱いとして最低制限価格制度というのを設けています。これは、あまりにもひどい入札価格があった場合には採用しないシステムです。指針という形ですが、新宿は公契約条例に非常に近くなっていると思います。もう一歩進めて賃金基準をきちんとつくっていけば、言い方は別にして、ほとんど公契約条例と同じだと思います。

安倍自民党政権は、悪法をつくるときに「小さく生んで大きく育てる」とよく言いますが、派遣法がそうです。今回の高プロ(高度プロフェッショナル制度)もそうです。初めは、ごく一部の人が対象だといいますが、何年かしたら、一般労働者にも拡大し、残業代は払わない、残業規制もしないというようになる。安倍首相の手法を反面教師として学んで、突破口を開くとき、このことが必要です。

公契約条例は「小さく生んで大きく育て」ていけばいいと思います。これは私の意見ではなく、公契約条例を追究している、日大名誉教授・永山利和先生だとか北海学園大学教授の川村雅則先生が持論として、そのように言っています。なんでもいいからとにかく作ろう、そこにわれわれの要求を一定の時間がかかってもいいから入れていこうということをやっています。

基本は、組合もナショナルセンターを超えて、業界団体、経営者、住民も巻き込んだ大きな運動で条例をつくっていこうと。中身は、そのあとから少しずつ変えていけばよいと言っています。ある意味ほっとしたというか、逆にやる気が起きた。完璧を目指してやると議会で否決される可能性が高い。自民党の会派をも巻き込んでいかないとなかなか公契約条例は制定できないです。

最初に野田市で公契約条例ができました。野田の市長さんは保守系だと思いますが、公契約条例ができた後、おととしの「赤旗」に戦争法反対のコメントを寄せました。ですから保守系の人でもきちんと話をすれば変わっていくのかなと思います。

このあいだ全労連が最低賃金問題のシンポジウムをやったときに、静岡・湖西市の前市長さんをお呼びしました。まったくの保守系の市長さんです。でも全労連の会議に出てくるんです。少なくとも公契約については、きちっと話をすれば一緒にやれる課題かなと思います。

 

<円卓会議や労使合同研究集会などの共同行動の前進>

その素地づくりが大変です。いきなり業界団体に行って、一緒に対区役所交渉やりましょうと言っても、たぶん門前払いだと思います。

われわれは、2001年から始めて17年になりますが、「印刷出版フォーラム21」という「円卓会議」に取り組んでいます。これを最初に始めるときに、ある業界団体の専務理事と相談しました。その人は正面から行くと断られるよ、きちんと根回しをしないと業界団体は動かない、特に全印総連という名刺を出しても乗ってこないよと言われていた方ですが、この人は今も円卓会議に毎回参加してくれて付き合っています。全印総連ファンなんですね。いろんな細かい情報を全部メールでくれます。

この人から言われて、ある中堅の印刷会社の社長さんのところに行ったんです。ここは全印総連の組合のないところでです。ここに行っても大丈夫かなと思いましたが、根回しをするという頭だったので、ある親しい一般企業の印刷会社の社長に同行してもらいました。

この中堅の印刷会社の社長さんというのは、K社の社長で、当時の全印工連(全印刷工業組合連合会)という業界団体の役員です。第2回目の円卓会議にも参加していただきました。いまはAの社長で業界では有名な方です。それ以降、円卓会議をつくるにあたって、一定の時期まで世話人としてやってくれました。

なんで全印総連の組合に協力して、こうしてやってくれたのか今でも不思議です。意気に感じてくれたのだと思います。全印総連の泊まり込み討論集会に、泊りがけで参加してくれました。皆さんと車座で議論したいという人なんです。考え方が革新的かというと違います。かなり保守的です。一度戦争法の話をしたら全然だめで喧嘩になりそうになりました。ただ戦争法賛成でも産業政策で公契約条例に賛成してくれるんだったら、そこを突破口にして一緒に運動できるのではないかと考えています。そういう意味で経営者団体と接点をもってきたいと思います。

先日、全印総連の新委員長と一緒に全印工連の事務局長に会いに行きました。4月1日から労働契約法18条で有期雇用の人たちが無期転換になる権利が発生したので、そのことで要請文をもって行ったんです。事務局長曰く、上にもう一つある大きい業界団体にもっていたほうが良いと言われました。そのとき驚いたのですが、働き方改革に関連して、業界団体として労働組合と有識者をまぜた検討委員会をつくれと厚労省から言われているというのです。そして労働組合は全印総連から参加してくれませんかと言われたのです。印刷労連という何万人もいる大きな労働組合があるのに、なんであえて全印総連にお願いします、と言われたか分からないのですが。

 

自治体の官公需印刷物の入落札の現状

 

レジメに資料として、足立区が出した便利帳から抜粋したものを入れました(別項参照)。これは入落札価格と業者を調べたものです。以前に、全印総連として、東京23区と大阪の全区、京都市、京都府の入落札価格を調べたものと、経済調査会から出ている積算資料に基づく印刷単価が書かれているものに基づいて適正単価を出したもの(太字で書いたもの)を、資料として冊子にまとめました。これは、区役所の職員とか業界団体からは本当に重宝されて相当部数が出たものです。

 

 

この1998年の足立区の例では、落札業者は凸版印刷、入札額2100万円。あかつき印刷もありますが、残念ながら落札できませんでした。2100万で落札していますが、積算資料に基づく適正単価は5800万円です。半分にも満たないです。なんで、こんなものを落札するのか。印刷大手は、なんでこんな低価格で入札するのか。それは、業界の取引は普通、手形での決済で、しかも6カ月が多い。しかし官公需の場合は納品即現金なのです。運転資金が少なくて済むので、業者は非常に助かるのです。単価的には低いが、こういうことをやっています。こういうことで、すべての印刷会社が参入しています。

例えば、一時金を支払うときに通常は銀行から借りますが、いまは金利が安いので借りても問題ないと思いますが、金利の高いときは官公需で落札したほうが、すぐ一時金を支払える。銀行から借りられる企業はまだいいほうですが、マチ金から借りざるを得ない企業も実はあるのです。そういうところは、なかなか官公需には参入できません。

昔はブラック企業と言われているところでも、また印刷の設備を持たなくても、企業実態を調査しないで入札に応じていたので、誰でもブローカーでも広告代理店でも参入できた。京都では広告代理店が落札して、それをどこが印刷したかというと、全印総連の組合のある印刷会社でした。広告代理店から現金で支払いがある。本当は、そういうところは排除するようにという要請を今もやっています。印刷機械を持っていない業者が印刷物の落札をする、入札ができるというのは本来的におかしいのです。だいぶ少なくなってきていると思いますが、自治体によっては、まだそういうところがあります。

次の図は、中央区の区報の資料です(別項参照)。これも入落札価格と業者、適正価格を載せています。ここでは、東京のK印刷が毎年のように落札しています。例えば平成13年度の落札価格は2600万円ですが、適正価格は4500万円です。倍以上の差があります。古い資料ですが、今も実態はそう変わりません。多くの印刷会社は適正価格に比べて極めて安い価格で入札しています。

 

 

区の政策としては、落札は価格だけによらないで、プロポーザル方式といって、男女がキチンと均等雇用されているかとか、障害者が雇用されているかという、総合評価で落札するようになっていますが、実際は、やはり基本は価格なんです。われわれは、総合的に決めていくようにと運動しています。

 

官公需・公契約の適正化へ、公契約条例制定の運動

 

東京では、文京区と中央区が公契約条例にかかわって地域と一緒にやっていますが、資料の3つ目は、6月19日の北海道新聞の記事です。全印総連の本部と札幌地連が主催して公契約条例の制定を求めるシンポジウムを開いたことを取材したものです。翌朝すぐ報道してくれました。MICの議長が北海道新聞の出身なんです。

北海道では、2013年に制定を求める市民運動を力に札幌市議会でいち早く公契約条例をつくろうとして、残念ながら1票差で否決されましたが、意識が高いのかなと思います。求める会には地区労連のほか、地区連合の方が中心メンバーになっていて、一所懸命やっていると聞いています。

講演された北海学園大学の川村教授は、雑誌『月刊 全労連』にも執筆していますが、連合系の雑誌にもたくさん書いています。シンポジウムにもたくさん出ています。両方から呼ばれている先生はなかなか珍しいです。

川村先生は、公契約条例制定の運動を印刷の労働組合と一緒にやりたいという熱いメッセージをくれていますが、今後、北海道地連だけでやるのは困難なので、全印総連本部が関与して、札幌市の公契約条例制定の運動にきちんとかんでいくようにしていく必要があると思います。

札幌市長さんも公契約条例に一定賛成しているようです。会派についても、自民党は反対で、以前1票差で否決されています。でも1票差ですから、きちんと運動して根回しすれば、札幌は条例制定が近いなと思います。市長も、そういう方向にあるということですので、一度否決されたものをもう一度制定するというのは困難だと聞きますが、何とか札幌で足掛かりができればいいなと思います。

 

労働組合と業界団体や市民が一緒になった運動を

 

川村先生も言っていますが、ただ単に官公需印刷物の単価を適正にし、業者が生業としてやっていけるようにするだけでなく、まともな賃金や労働環境の仕事が増えることで、労働者の雇用の維持や市民サービスの質の向上など好循環を生み出すことで、地域経済を振興し、人口流出を防ぎ、町おこしに連動させていくために、労働組合と業界団体や市民が一緒になった運動にしていこうと力説しています。

労働組合は最初に賃金、労働条件を声高に言ってしまう癖があるんです。その癖を少しトーンダウンして業者や住民のことを考えて一緒の運動をつくっていこうと今やっています。全印総連の運動の基本はそこです。自らだけが良ければいいという運動はとても産業政策とは言えないのです。

30年ほど以前、新宿民商の印刷・製本部会から、全印総連の産業政策を語れと一度呼ばれたことがあります。やはり業界、業者の人たちと一緒にやらないと大きな運動にはならない、成果もなかなか実現できないと思っています。ぜひ一緒にやっていきたいと思っています。

 

 

 

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