是村高市「公契約の適正化を求めて 札幌公契約条例シンポジウムを開催(2018年6月16日)」

日本印刷新聞社の発行する『印刷界』第777号(2018年8月号)に掲載された、是村高市氏(全印総連顧問)による同タイトルの論文(一部加筆修正)です。お読みください。

 

 

 

■札幌市で再び公契約条例制定の運動を、との思いで開催

去る6月16日、札幌市の北海学園大学で「札幌公契約条例シンポジウム」が開催され、90名を超える参加者があった。このシンポジウムの正式名称は「まともな賃金とまともな仕事を!公契約条例シンポジウムin sapporo」。全印総連北海道地連と全印総連本部が主催し、後援を北海道労働組合総連合と札幌地区労働組合総連合、協賛は㈱北海道機関紙印刷所・アイワード労働組合・北海道機関紙印刷労働組合・須田製版労働組合・北海道マスコミ文化労働組合共闘会議が行い、札幌市公契約条例を求める会が賛同した。

北海道地連では、2012年、経営者などのパネリストで「これで良いのか印刷産業in札幌」を開催した(『印刷界』2012年11,12月号掲載)。これは、東京地連が佐藤操社長(きかんし)・青木宏至社長(精興社)・下中直人社長(東京印書館・平凡社)・浅野健社長(金羊社)・月岡政雄相談役(三省堂印刷) の経営者をパネリストに2011年10月に行ったシンポジウム(『印刷界』2012年1,2月号掲載)の北海道版で、印刷産業の現状と今後を見据えようと具体化されたものだ。あれから6年、北海道地連は、昨年から準備を進め、印刷の労働組合として札幌市で公契約条例制定の運動の声をあげようと今回企画された。

札幌市では、2013年11月、公契約条例制定の運動が盛り上がり、制定間近とされていたが、議会では一票差という僅差で否決された苦い経験を持つ。当時の上田市長は、『財界さっぽろ』(2013年1月号)に公契約条例制定の意義をこう力説していた。

 

「現在の長引く不況などを背景に、売上高や利益の減少による企業体力の低下や雇用環境の悪化など、企業を取り巻く環境は大変厳しい状況であることは、私も十分承知しています。建設業、ビルメンテナンス業、警備業など、札幌市のまちづくりに貢献いただいている業界は、社会インフラの整備・維持や地域社会の安全安心を守る担い手として、地域にとって大きな役割を果たしており、今後も地域の多様なニーズや役割への対応が期待されています。

地方自治法には、最小経費で最大効果を上げろと書いてあります。いいものを安く買うというのは、行政の基本原則ではあると思いますが、それだけでは地元企業、そこで働いている人々、地域の活性化につながっていないということを、私たち行政の側も認識するに至ったのです。

そこで、札幌市は、行政として、安ければよいという状況を改めることにより、税金を使う仕事において、地元企業の経営安定化やそこで働く方々の就労環境の改善を図り、関係業界の魅力の向上や地域を支える地元企業の健全な発展につなげていきたいと考え、公契約条例を提案させていただいているのです。

また、公契約条例により、札幌市の事業を通じ、税金がそこで働く人々に行き渡り消費に回ることで、地域内で循環することとなり、地域経済の発展にも資するものと考えています。関係業界の方々とは、条例に係る協議の場において、条例について幅広く意見交換をおこなってきたところであり、条例に対するさまざまな懸念や不安を解消し、理解が得られるよう努力しています。これまで議論させていただいた成果を共有し、合意を得られる状況にしていくことで、条例を制定し、市民が安心して暮らし、働くことができる地域社会の実現及び市民の福祉の増進を図ってまいりたいと考えています。

市の事業は、税金でおこなわれているものですから、市の入札の発注者は市民なんです。社会全体を潤すためには、適正価格で落札していただき、企業の存続を図り、適正な賃金を保障することによって消費者を育て、きちんと消費活動に向かわせるようにすることも大事なことです。今までのように建物ができればそれでいいということではなく、こういうシステムでおカネが回るというのも、公共事業の新しいあり方だと思います。」

 

前述のように、札幌市の公契約条例は、市議会では残念ながら僅差で否決されてしまったが、その後の全印総連との懇談では、札幌市の担当者が、市長の公契約条例に向けた精神を今後どう生かしていくか、検討したいと答え、今後も条例制定に向けて、意気込みを語っていた。

公共事業や官公需印刷物を発注する自治体も、近年、このような立ち位置になってきている。その先駆けだったのが尼崎市で、これも僅差で否決されたものの、日本で最初に公契約条例制定を議論した。その背景としては、2007年9月、尼崎市議会に提出されていた「市の契約及び労働基準確保に関する条例の制定を求める陳情」が可決されたが、市当局は、条例制定に意欲を見せなかったために、陳情に賛成をした超党派の議員が、議員提案という形で公契約条例の制定を求めたものである。

北海道地連は、札幌市で再び公契約条例制定の契機を作ろうと奮闘し、今回のシンポジウム開催に至った。

 

■SNSで企画を発信、新たな広がりが

 


シンポジウムポスター

 

今回の札幌公契約シンポジウムでは、告知と拡散をSNS(フェイブック)で行った。FB友達が多いわけではないが、北海道地連の橋場輝書記長が、自身のSNSで発信し、様々な「友達」に拡散し、告知された。実際に、初対面のFB友達がシンポジウム会場まで足を運び参加した。

若者は、イベントや学習会、集会などの告知や参加を日常的にSNSでしており、アラブやアフリカの民主化運動にSNSが多大な貢献をし、運動のツールとなっていることが当時話題になった。紙媒体での告知を日常的に行い、また、その紙媒体の印刷を生業にしている企業の労働者であり労働組合である私たちには、若干、自己矛盾したツールであるSNSが、今回は威力を発揮した。

SNSをイベントなどの告知や参加要請にどう役立たせるか、セミナーがよく行われているが、ロートルの筆者にとっては、告知は紙媒体、参加要請を直接お願いする、という旧態依然としたスタイルだが、不特定多数に呼びかける場合、紙媒体や直接告知は、やはり限界がある。だから今回は、もちろん紙媒体や直接出向いたり、会議などで要請したり、昔ながらの方法で宣伝をしていたが、SNSで広く拡散した。これによって参加者が殺到する、ということはなかったが、この公契約条例シンポジウムは、広く知られることとなった。

企画立案のときから告知期間も含めて、そして公契約シンポジウムが開催され、終わった以降も、公契約適正化の運動は続いており、全過程が公契約適正化運動だと考えている。まさに継続は力なのであり、決して一過性に終わってはならない。

呼びかけに答えて、全印総連の東京地連、大阪地連、京都地連から参加者があり、全労連の公契約担当者や中立組合からも参加した。また、企業からの参加者や北海学園大学の学生も参加をし、地元の北海道新聞も取材した(翌日朝刊の記事を参照)。大成功の公契約条例シンポジウムだったが、このシンポは今後の運動の起点である。

 

■公契約条例の制定と最低賃金の引き上げで地域経済の活性化を

記念講演する北海学園大学・川村雅則教授

 

北海学園大学の川村雅則教授は、今回のシンポジウムの前段で記念講演を行い、シンポジウムのコーディネータも行った。川村教授の講演は「公契約条例の制定と最低賃金の引き上げで地域経済の活性化を」と題するもので、札幌及び全国に公契約条例を作ろう、という熱い想いのこもった講演となった。

講演は、まずこの集会の問題意識として、「働いているのに貧困になる状況の変革」「地域経済の活性化」「賃金規制、地方自治、反新自由主義の観点から公契約の適正化が必要」「なぜ公契約条例が必要なのかの原点の確認」を挙げ、公契約の現場で起きている悪循環の問題点を明らかにした。

公契約の流れや北海道新聞に掲載された「市の仕事で貧困」「官が生むワーキングプア」などの記事を紹介し、公契約がいかに市民の生活と密着しているかを説き起こした。また、公契約と最低賃金、野田市などの公契約条例の先駆例も紹介、札幌市や旭川市の条例制定の取り組みと課題、業種や労組の違いを超えた多くの仲間で公契約の適正化と公契約条例の制定運動を始めよう、と呼び掛けた。

公契約条例は、本来の条例と理念条例、要綱、指針など、様々な形で生まれているが、まず制定する、という観点が必要だと考える。また、官公需印刷物が適用除外されているケースが多いが、基本は物品購入であれ製造請負であれ、指定管理者であれ、すべての公共調達を網羅した条例を目指すことが大切であると再確認した。

 

■四者によるシンポジウム

 

右から是村高市委員長、渡辺達生弁護士、宮川潤議員、川村雅則教授

 

川村教授の講演後、シンポジウムが行われた。コーディネーターは、北海学園大学の川村教授、パネリストは共産党・北海道議会議員の宮川潤氏、北海道合同法律事務所の渡辺達生弁護士、それと筆者の4人で実施した。

最初に、パネリストが自己紹介を行い、2013年当時、札幌市議会議員だった宮川氏が、当時を振り返り、1票差の僅差で否決され実情と議会内での議論の実態や条例制定に向けての宣伝活動などを報告した。また、札幌市の公契約条例制定に向けて日常的に活動している「札幌市公契約条例の制定を求める会」の北海道合同法律事務所の渡辺弁護士も公契約条例制定に向けての取り組みと再度札幌で条例制定の運動をしていきたいと語った。全印総連からは筆者が、東京での条例制定に向けての共同行動を紹介しながら、官公需印刷物の入札制度、広報などの入落札価格と適正価格の比較を紹介し、下落している官公需印刷物の実態を報告した。

川村教授は、この集会を契機として、全国各地で様々な人たちと一緒に公契約の適正化運動と条例制定に向けて奮闘しようとまとめ、新たに加わった印刷の隊列が、条例制定の運動に共同することの意義を語った。

参加者からは、それぞれの立場から三名が会場発言し、全労連の斎藤常任幹事、全印総連東京地連の田村書記長、㈱北海道機関紙印刷所の川原取締役は、公契約条例、官公需印刷物の入札制度、紙メディアの実情などを話した。

 

■公契約の適正化で元気な地域経済を

前述した上田元札幌市長のコメントや川村教授が指摘したように、公契約の適正化運動は、行政とそのサービスを受ける住民も、公契約で働く者も、それを生業としている業者も、それぞれが好循環するようなシステム作りが大切である。

税金でまかなう公契約―公共調達は、安ければ良いというものではない。また、それを請け負った業者の経営が成り立たない、というのもあり得ない。公契約に携わる労働者が困窮することもあり得ない。しかし、実情は官制ワーキングプアといわれるほど、低賃金で働かざるを得なかったり、請け負った業者の経営が悪化をしたり、最悪倒産するケースすらある。公共事業の労務費や指定管理者の賃金は、人件費だが、ここが大幅に削減されている実態が、全国に広がっている。就労人口の4割が非正規労働者であり、公契約に携わる労働者も非正規労働者の割合が増えている。

このような実態を直視し、公正な働き方による均等待遇を実現し、元気な地域経済作りと公契約の適正化と公契約条例の制定によって、印刷出版産業の発展を目指していきたい。

 

 

 

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