川村雅則「札幌市で働く会計年度任用職員の今年度末(2022年度末)の雇い止め人数は何人か?」

タイトルにあるとおり、札幌市で働く会計年度任用職員の今年度末(2022年度末)の雇い止め人数は果たして何人なのかという問題意識に基づいて本稿をまとめました。本文に示したとおり、一部の数値が確定できなかったことや、あらためて調査を行う必要があることを先に述べておきます。

なお、誤字脱字や内容上の誤りなどをみつけましたらその都度訂正をしていきます。大きな訂正を行いましたら注記します。(2023年2月4日記)

札幌市からのヒアリングを2023年3月24日に行い、ご提供いただいた数値のあらためてのご説明や、公募制、同一部3年ルール及び実際の離職状況などの情報をご提供いただきました。それらをレポートにまとめ、現在、内容を札幌市にご確認いただいているところです(本稿に書いた内容には、一部誤りがありました)。レポートは、内容の確認が取れ次第、公開をします。いましばらくお待ちください。(2023年4月4日記)

調査結果を取りまとめました。(2023年8月9日記)
■川村雅則「札幌市非正規公務員(会計年度任用職員)調査報告──公募制と離職に関する情報の整理──」『北海学園大学経済論集』第71巻第1号(2023年6月号)pp.17-37

 

 

出所:札幌市『広報さっぽろ』2023年2月号p20より転載。「札幌市からのお知らせ」の「職員募集」のページです(連絡先等は消去)。毎月、真っ先に目を通すページです。採用期間に「最長3年」などと書かれているのがわかるでしょうか。会計年度任用職員という公共サービスの担い手の雇用(任用)のあり方に市民の関心が向かうことを願います。/写真と本文は関係ありません。

 

問題関心、課題の設定

2023年1月20日、「職員3千人超 雇い止め/道と主要市「会計年度任用」更新上限/雇用不安、サービス低下懸念」というタイトルの記事が『北海道新聞』朝刊に掲載されました[1]。以下は、記事に掲載されていた表の転載です。

表 道と主要市の会計年度任用職員の雇い止め状況

自治体名 雇用年限 雇い止め人数(会計年度任用職員全体に占める割合)
3年 不明
札幌市 不明
旭川市 1200(68%)
苫小牧市 1年 465(100%)
帯広市 3年または5年 63(7%)
釧路市 3年 339(54%)
小樽市 579(69%)
室蘭市 290(75%)
岩見沢市 310(70%)

※道と札幌市は雇い止め人数を未調査。職種によって年限は例外もある。
出所:※を含め、当該記事『北海道新聞』朝刊2023年1月20日付より転載。

 

新たな非正規公務員制度である会計年度任用職員制度(以下、新制度とも呼ぶ)では、職員の能力実証のために、一定期間ごとに公募を行うことが総務省により助言されました(総務省は3年を助言)。上記の記事は、その年数上限でこの年度末(2022年度末)に発生する雇い止め人数を報じたものです。

もちろん、現在働いている職員も、公募に応じて合格すれば働き続けることは可能です。そして、仕事に習熟していることから経験者が再度任用される可能性は高いとは思います。

しかし、一定期間ごとのこうした雇い止めが、公募制を導入していない自治体を除き、会計年度任用職員の人数分だけ、必ず発生することになったこの状況を──雇用の安定・ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現が目指される今日において──私たちはどう考えたらよいのでしょうか[2]

上記の記事には、北海道と8市のケースが掲載されていますが、北海道と35市の公募制の導入状況や会計年度任用職員の人数規模は拙稿[3]をご参照ください。また全国の公募制導入状況は安田(2022)[4]をご覧ください。

 

 

ところで、この記事をみたときに、「あれ?ほんとだ」と思った箇所があります。

記事に掲載された表の札幌市や北海道の数値が「不明」となっていたことです。表の注(「※」)には、「道と札幌市は雇い止め人数を未調査」と記載されています。

じつはこのことは、この記事に関連して記者氏から取材をうけた際に、どうも調べられていないようなんです、となんとなく伺ってはいました。それで、「ほんとだ」と思ったのです。

しかしそのことを取材で伺った際に疑問が2点生じました。

1つは、雇い止めで公共サービスに支障が生じるおそれなどを踏まえるなら、該当する職員の人数把握は必要ではないか、ということです。

とくに札幌市の場合には、後で述べるとおり、原則として、同じ部で働き続けることができるのは3年までとするというルール(以下、同一部3年ルール)が設けられていることから考えても、人数の把握の必要性は、他の自治体よりも高いのではないかと思いました(もちろん、ここに書いた「おそれ」自体、実証的に明らかにされるべき課題であって、そのような懸念はあたらない、という反論もありうるのですが)。

もう1つの疑問は、調査が実施されていなくても、雇い止めとなる職員のおおよその人数は計算ができるのではないか、ということでした。

というのは、会計年度任用職員に支給される賃金は勤続年数によって変わる(上がる)わけですから、賃金支給のために職員の勤続年数情報は把握されているのではないか、そうであれば、その情報を使えば、この年度末の雇い止めの人数は類推することはできるのではないか、と考えたのです。

ともかく、疑問に思ったので札幌市にメールで問い合わせをしてみました[5]

質問は2つです。

一つは、札幌市では、この年度末(2022年度末)に公募の対象になる会計年度任用職員の人数はどの位になるのか、ということ。もう一つは、上記の数値をとくに調べていない場合、会計年度任用職員の「勤続年数」のデータをご提供いただくことは可能か、ということです。勤続年数データが前者の代替になると考えたことも、お伝えしました。

結論から言えば、まず前者については、調査はしていないとのことでした。

しかし、後者については、どのようなデータが提供できるかも確認しながら、資料を準備させていただく、という回答が得られました。そして、その検討作業や具体的な集計作業を経たおよそ2週間後(2023年1月25日)に、「令和4〔2022〕年度末に任用期間が3年に到達する会計年度任用職員」などの数値情報を提供していただくことができました。以下の表がそれです。

 

表 令和4(2022)年度末に任用期間が3年に到達する会計年度任用職員

令和4年度末時点の会計年度任用職員数(注1)
令和4年度末で任用期間が3年に到達する職員数(注2)
うち任用限度の例外職種の職員数(注3) うち同一部の例外職場の職員数(注4)
A B C D
4172人 1620人 186人 710人

注1:札幌市で任用した全ての会計年度任用職員のうち、令和4年度末に在職予定の会計年度任用職員数(令和5年1月時点の見込み数)。同一の会計年度任用職員が複数の職を兼務した場合には、1つの任用につき1人として計上。
注2:会計年度任用職員として任用された期間が令和4年度末時点で3年に到達する職員数(旧非常勤職員・臨時的任用職員の期間も通算すると3年を超える職員を含む)。
注3:CはBの職員のうち、同一部における再度任用の上限が適用されない職に任用されている職員数。
注4:DはBの職員のうち、同一部の考え方の例外としている職場(保育所や学校等、同一部内でも勤務箇所が変われば任用限度を超えて任用が可能な職場)で任用されている職員数(Cに該当する職員を除く)。
出所:札幌市からの提供資料。

 

札幌市からいただいたこの情報とその後のメールでのやりとりで得られた情報(筆者の質問への札幌市からのご回答)を本稿では整理します。

但し、先にも述べたとおり、札幌市の会計年度任用職員制度は、他の自治体と異なり、少し複雑な制度設計になっています。

例えば、会計年度任用職員が導入される前の制度(以下、旧制度)下で「採用困難職」として働いていた者で継続任用されている者の取扱いが異なること、同じ部で働き続けることができるのは原則として3年までとなっていること(同一部3年ルール)、しかし同一部3年ルールには例外も設けられている(例外の根拠は複数ある)こと、などです。それらについても、本文中でふれていきたいと思います。詳しくは以下の2点の拙稿をご参照ください。

札幌市の会計年度任用職員制度について詳しくは、川村雅則「札幌市の会計年度任用職員制度の現状──二〇二一年調査に基づき」『北海道自治研究』第634号(2021年11月号)(以下、拙稿(2021))や、川村雅則「札幌市会計年度任用職員制度における「同一部3年ルール」の例外について」『NAVI』2022年1月7日配信(以下、拙稿(2022a))をご参照ください。

 

なお、集計された数値情報をいただくことはできたのですが、そもそも、雇われている会計年度任用職員のどのような情報がどこの部署で収集・整理されているのか、今回の照会では把握することができませんでした。そもそもこのことを明らかにした上で情報の照会をしていれば、今回、もっとすっきりした文章が書けたかもしれません。反省し、今後の調査・研究の課題とします。

では、提供いただいた情報の説明をしていきます(A~Dは、上記の表中のそれです)。

その前に、本稿で行う作業内容を紹介しながら、それぞれの人数を以下の表に最初に整理してみます。注釈は省略しています。詳細は各項をご覧ください。

令和4(2022)年度末時点の札幌市の会計年度任用職員数は4172人(A)です。

このうち、令和4(2022)年度末で任用期間が3年に到達する職員数は1620人(B)です。

この1620人から、公募の例外となっている240人と57人を除くと1323人です。この1323人が、今年度末に雇い止めとなる人数の近似値となります。

他の自治体であれば、公募に応募して試験に受かれば同じ仕事に再び就くことができますが、札幌市では、同じ部で働き続けることができるのは3年までという同一部3年ルールが設けられています。

しかし、同一部3年ルールには例外もあります。1323人のうち同一部3年ルールの例外が適用されるのは、186人(C)と710人(D)です。

1323人から、186人と710人を除くと427人です。この427人が、今年度末に雇い止めとなり、なおかつ、その後1年の期間をおかなければ同じ部では働くことができない(公募に受かれば他の部で働くことはできる)人数の近似値となります。

以上の人数には重複している部分もあるのでご注意ください。詳細は各項でご確認を

 

 

 

 

[1] インターネット版の記事では下記のとおり。「非正規公務員3200人超雇い止め 旭川など7市で22年度末 雇用不安、サービス低下の恐れ」2023年1月19日 20:53(1月20日 00:23更新)

[2] その問題性については、NPO法人官製ワーキングプア研究会による総務大臣等宛ての要請などを参照。NPO法人官製ワーキングプア研究会「会計年度任用職員に対する「3年目公募」の中止を通知してください」2022年10月24日。当事者団体である公務非正規女性全国ネットワーク(通称:はむねっと)のウェブサイトに掲載された「3年目公募問題」特集ページも参照。

[3] 川村雅則「会計年度任用職員制度の公募制問題と、総務省調査にみる北海道及び道内35市の公募制導入状況(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」『NAVI』2022年11月23日配信

[4]安田真幸「会計年度任用職員を『毎回公募を行わず再度任用する』自治体一覧」『NAVI』2022年9月14日配信

[5] 今回ご対応いただいたのは総務局職員部勤労課の方々です。情報のご提供とその後のご説明でお世話になりました。記して感謝申し上げます。

 

 

A.令和4(2022)年度末時点の会計年度任用職員数 4172人

 

4172人というこの数値は、札幌市で任用した全ての会計年度任用職員のうち、令和4(2022)年度末に在職予定の会計年度任用職員数です。令和5(2023)年1月時点の見込み数とのことです。

なお、同一の会計年度任用職員が複数の職を兼務した場合には、1つの任用につき1人として計上している、という説明もいただきました。

 

B.令和4(2022)年度末時点で任用期間が3年に到達する職員数 1620人

 

次に、1620人というこの数値は、会計年度任用職員として任用された期間が令和4(2022)年度末時点で3年に到達する職員数です。

但し、旧非常勤職員・臨時的任用職員の期間も通算すると3年を超える職員を含む、とのことです(この点は後でふれます)。

Aの人数に対してBの人数が少ないのでは? 割合で4割程度(38.8%)? と疑問に思われるかもしれませんが、次の説明をご覧ください。

すなわち、札幌市では令和元(2019)年度以前の旧非常勤職員又は臨時的任用職員から会計年度任用職員に継続任用された場合、旧非常勤職員又は臨時的任用職員としての任用期間も通算して、同一部における再度任用の上限(当初任用日から3年に達する日の属する年度の末日)が適用されているため、令和2(2020)年度末や令和3(2021)年度末にも一定数の職員が再度任用の上限を迎えていること、とのことです。

つまり、この年度末を待たずにすでに再度任用の上限を迎え、公募にかかった職員が発生しているということになります。それでこの差になったというわけです。

なお、1年など短期で終了する職が数多く存在したり、3年に達するより前に離職する職員が数多く存在すれば、その分だけAとBの差は大きくなります。ただ、規模からすればやはり、上記の市の説明のとおり、旧制度からの勤続年数も通算されていることがAとBの差の主たる原因である、と理解するのが適切かと思います。

念のため、そのことも市に確認しましたが、見込みのとおり、という回答をいただきました。

 

公募の例外となっている職員は何人か?

さて、以上の1620人から、公募の対象とならない職員(公募の例外)を除くことになります。これは2種類に分かれます。

第一に、旧制度下で「採用困難職」として働いていて、現在も会計年度任用職員として働いている職員です。

ただ、当該職員を「特定することが困難」[6]というのが市の回答でしたので、古いデータを使っておおよその人数を示したいと思います。

2014年4月に行った調査で札幌市から提供いただいたデータ(2013年8月1日時点)で、240人という数値です[7]

あくまでも参考情報という位置づけで使うつもりではあるものの、2014年の調査の後に「採用困難職」の人数が大きく増加ないし減少などしていたら、逆に、正確な理解の妨げになると考え、240人という数値の妥当性について市に照会したところ、会計年度任用職員制度に移行する直前の人数と大きな差はないことを教えていただきました。

なお、この公募の例外グループⅠは、いずれ全員が退職をしてゼロになります。

続いて、第二の公募の例外を取り上げます。

それは、拙稿(2022a)の「例外の種類③について」にあげられた「「公募によってはその職に適格性を有する者を任用することができないと判断されるため」という考え方に基づいて判断している」職で、調査当時の数でいえば[8]、該当する職種は18職種です。

この公募の例外グループⅡの人数を、追加の質問で尋ねたところ、57人とのことでした。

以上の二つのグループの職員数(240人、57人)を1620人から引いた数値、すなわち1323人が、今年度末に雇い止めとなる札幌市の会計年度任用職員の人数の近似値ではないかと思います。

近似値と書いたのは、240人は2013年当時の数値であること、57人の全てが1620人(B)に含まれているとは限らないことなどによります(後者は、そのように教えていただきました)。

冒頭の記事に書かれた旭川市の雇い止め人数(1200人)よりも大きな数値です。

 

[6] 会計年度任用職員としての勤務開始時期や勤続年数情報、つまり、令和2(2020)年4月1日以降の情報は職員部勤労課で把握されているが、旧制度下でのこれらの情報は同課では把握されていないため、どの職員が旧制度下から引き続き任用されているかを特定することは困難とのことでした。

[7] 参考までに、関連する当時の情報なども記載しておきます。まず、当時の非常勤職員は合計で1810人で、そのうち第1種非常勤職員は882人、第2種非常勤職員は928人です。第2種非常勤職員のうち採用容易職は688人で、採用困難職は240人です。以上は、拙稿「札幌市における臨時・非常勤職員の任用――札幌市からの聞き取りと提供資料にもとづき」『北海道自治研究』第550号(2014年11月号)をご参照ください。

[8] その後、公募の例外の職種が新規で追加されるなど、拙稿(2022a)から数は変化していると伺いました。あらためて調べる必要があります。拙稿(2022a)から引用したほかの箇所についても、同様です。

 

同一部3年ルールという札幌市独自のルールとその例外

さて、作業はこれで終わりではありません。

札幌市の場合には、同一部3年ルールという原則があります。ですから、上記の1323人は、(すぐ後で述べる)例外を除けば、他の自治体のように、公募に合格さえすれば同じ仕事で働き続けられるというわけではありません。(すぐ後で述べる)例外を除けば、部を変えて公募に応募するか、同じ部で働くことを希望する場合には、一年の間をおいてから再度(同じ部に)応募することが必要になります。

この同一部3年ルールについて「札幌市会計年度任用職員の任用に関する要綱」から該当部分を引用すると以下のとおりです(下線は筆者)。

 

(再度の任用)

第6条 部長は、会計年度任用職員の任用期間の満了後、引き続き当該会計年度任用職員を任用する必要があり、かつ、当該会計年度任用職員の勤務成績が良好な場合は、再度の任用をすることができる。

2 前項に基づく同一部での再度の任用は、当初任用日から三年に達する日の属する年度の末日を限度とする。ただし、人材の確保が困難であるとして設置要綱に特別の定めがある職についてはこの限りではない。

3 前項の規定により任用の限度に達した者は、その後一年間同一部で任用できないものとする。

出所:札幌市「札幌市会計年度任用職員の任用に関する要綱」より。

 

このようなルールを導入したのは、「同じ職員が長期間職場にいればノウハウが蓄積できるというメリットがある一方で、どうしてもマンネリ化や士気の低下に繋がる恐れがあることや応募者に広く門戸を開くという趣旨を踏まえ三年を上限とした」と2021年当時の調査では聞いています[9]

さて、上記のとおり、この同一部3年ルールには例外があります。例外は3つあり、以前教わったところ、次のように整理されています。すなわち、①同一部の考え方の例外、②任用限度の例外、③公募の例外です(③は、すでに述べた公募の例外グループⅡを指します)[10]。その具体的内容を拙稿(2021)から転載します

一つめは同一部の考え方の例外。同一部内での引き続いた任用は三年が原則であるところ、各保育所や各学校、各図書館は同一部内でも同一資格が必要な勤務場所が複数存在するため、別の保育所や学校、図書館へ配置替えとなれば、マンネリ化や士気の低下に繋がる恐れが小さいことから、同一部を「同一保育所」等と読み替える運用を認めている。

二つめは任用限度の例外。希少な資格要件を必要とする心理職や特殊な経験を要件とする児童相談所における警察OB職など、人材確保が困難である職について、同一部での引き続いた任用を三年とする原則の例外を認めている。

三つめは公募の例外。同一部三年ルールの例外ではないが、公募によっては必要な人材が確保できないと認められる場合に、公募によらない任用手続きを例外的に認めている。

出所:拙稿(2021)より転載。

これらの例外の一つめと二つめに該当する職員の人数が、札幌市から提供いただいた、冒頭の表に掲載されたC、Dです。その説明をします。

 

 

[9] 拙稿(2021)より転載。「3.会計年度任用職員を中心とする臨時・非常勤職員の任用等」を参照。

[10] 拙稿(2022a)に記載のとおり、一部の職には、例外の考え方が複数適用されているとのことです。

 

C.Bのうち任用限度の例外職種の職員数 186人

この186人とは、「Bの職員のうち、同一部における再度任用の上限が適用されない職に任用されている職員数」です。

拙稿(2022a)の「例外の種類②について」をご参照ください。

該当部分を転載すると、当時の「該当する職種は50職種で、例外とする考え方の分類は、多い順に、「人材確保が困難であると認められるため」が32件、「週当たり勤務時間が15時間30分未満の職であるため」が12件、「全国一律の取扱いを求められている職であるため」が4件、「条例等で委嘱を受けている職であるため」が2件となってい」ます。

 

D.Bのうち同一部の例外職場の職員数 710人

この710人とは、「Bの職員のうち、同一部の考え方の例外としている職場(保育所や学校等、同一部内でも勤務箇所が変われば任用限度を超えて任用が可能な職場)で任用されている職員数(Cに該当する職員を除く)」です。

拙稿(2022a)の「例外の種類①について」をご参照ください。

上記のとおり、この710人は、勤務箇所が変われば同一部内で働き続けることは可能ですが、言い換えれば、同一部内で働き続けるためには勤務箇所の変更を必要とするわけです。

公共サービスの仕事に従事する上で、こうした勤務箇所の変更は、当事者や現場にはどう評価されているのか、仕事の質に何か影響などは生じていないかなど、実証的に明らかにする必要があります。

 

さて、以上をふまえると、旧制度下で採用困難職であった240人(公募の例外グループⅠ)、「公募の例外」職に従事する57人(公募の例外グループⅡ)、「任用限度の例外」職に従事する186人(C)、「同一部の例外職場」で働く710人(D)の合計を、1620人(B)から引いた人数が、この年度末をもって公募に応じることが必要であり、なおかつ、公募に合格しても同じ部で働くことができない職員の人数の近似値になるかと思います。その数は427人です。

但し、旧制度下の採用困難職の一定数は、CやDにも移行している(重複している)とのことですから、上記は、おおまかな人数として理解する必要があります。

 

まとめに代えて

今年度末で雇い止めになる会計年度任用職員の人数が札幌市ではどうも調べられていないようである、という情報に疑問をもって、札幌市に照会を行い、本稿をまとめることになりました(北海道の数値を明らかにすることは今後の課題です)。幸い、札幌市から情報をいろいろとご提供いただけたので、一定程度のことが明らかにできたと思います。なお、確定できていない部分もあることはご了承ください。

さて、そもそもの筆者の問題意識は、会計年度任用職員は、なぜ、1年以内(1会計年度内)を単位とした任用なのか、なぜ、一定期間毎の公募に応じなければ働き続けることができないのか(札幌市の場合にはさらに、例外を除き、なぜ、同じ勤務場所で働き続けることができないのか)という点にあります。

労働契約法第18条を根拠とする無期雇用転換制度は、有期雇用の濫用を解消し、非正規雇用者の雇用の安定と権利擁護を実現することを目的に設けられました。

 

今般の改正は、有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消し、また、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を是正することにより、有期労働契約で働く労働者が安心して働き続けることができる社会を実現するため、有期労働契約の適正な利用のためのルールとして改正法による改正後の労働契約法(平成19年法律第128号。以下「法」という。)第18条から第20条までの規定を追加するものである。

出所:厚生労働省「労働契約法の施行について」2012年8月10日(基発0810第2号)

 

労働契約法は公務員には適用されないとはいえ、生じている問題も適用されるべき考え方も、民間非正規でも公務非正規でも基本的に同じではないでしょうか。

会計年度任用職員の不安定な雇用(任用)は、当事者の生活に関わる問題であり、なおかつ、公共サービスの質低下につながるおそれもある問題です。そもそも、無期転換とは真逆に、現在働いている者をこうして一定期間ごとに雇い止めし公募にかけることは妥当でしょうか。国の非正規公務員(非常勤職員)で先行するこうした公募制度は、「パワハラ公募」と名付けられジャーナリストや労働組合から批判されてきました[11]

札幌市が掲げるSDGs(とりわけディーセントワークの実現やジェンダー平等の実現)の理念や女性活躍・男女共同参画さっぽろプランの考えは、非正規公務員・会計年度任用職員の任用のあり方にも反映されるべきではないでしょうか。SDGsでは「誰一人取り残さない」という看板が掲げられていたかと思います。

こうした任用のあり方に対する当事者の評価や、現場で起きていることなどを把握したい、と考え、昨年末から非正規公務員(会計年度任用職員)を対象としたアンケート調査を継続して実施しています。当事者の声をぜひ聞かせていただけたら幸いです。

 

川村雅則「地方自治体で働く非正規公務員の皆さんへ ウェブアンケート調査へのご協力のお願い」

 

あわせて、労働組合はこの問題をどう考え、どう交渉してきた(している)のか。そして、議会はどう対応してきた(している)のか、「市長その他の執行機関に対する監視及び評価並びに政策の立案及び提言など議会が果たすべき機能」(「札幌市議会基本条例」)は果たして発揮されているのか[12])──これらも調査・研究上の課題として残されていることも述べておきます。

 

最後になりますが、総務省に助言されているものですから致し方なく、という自治体側の説明は通用しない状況が関係者の取り組みで生まれつつあります[13]

安心して働き続けられる社会の実現を目指して、問題の是正を粘り強く求めていきましょう。

 

[11] 竹信三恵子「「パワハラ公募」に泣くハローワーク非常勤相談員」『SYNODOS』2016年3月14日配信国公労連『非正規公務員を差別しないで!──国の非常勤職員の手記』国公労連、2019年9月発行

[12] 議員の抱える課題は多岐にわたるかと思いますが、公共サービス従事者の任用のされ方は、公共サービスの質に関わることでもあり、優先的な課題ではないでしょうか。行政がもつ情報へのアクセスの有利さを活かしてもらいたいと思います。

[13] このことの詳細は、山下弘之「緊急レポート:総務省『新通知』、厚生労働省『大量離職通知書』を活かす」を参照。

 

 

【付記】

「希望する非正規雇用の方の正規化」「第二百十一回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説」(2023年1月23日)で掲げられたそうです。

本稿で述べてきたとおり、会計年度任用職員は、正規化以前に、そもそも、一定期間ごとに公募に応じて合格しなければ働き続けることさえできない状況にあります。さらには札幌市の会計年度任用職員のように、公募に応じて合格しても同じ場所で働き続けることさえかなわぬ職員もいます。公務職場でのこうした現実に加えて、民間職場では、無期転換逃れ(5年、10年)の問題が発生し続けています。上記の施政方針演説は、これらの問題に対する政治の責任を忘れたかのような内容と言えるでしょう。

もっと低いレベルの願いさえかなわぬ現実に政治は目を向ける必要があります。

 

 

 

 

(関連記事)

川村雅則「自治体の新たな非正規公務員制度問題(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」

川村雅則「北海道及び道内市町村で働く624人の会計年度任用職員の声(2022年度 北海道・非正規公務員調査 中間報告)」

川村雅則「無期転換逃れ問題の整理──安心して働き続けられる社会の実現に向けて」

 

片山知史(東北大学職員組合執行委員長)の投稿記事

金井保之(理化学研究所労働組合執行委員長)の投稿記事

瀬山紀子(はむねっと副代表)の投稿記事

安田真幸(連帯労働者組合・杉並執行委員)の投稿記事

山下弘之(NPO官製ワーキングプア研究会理事)の投稿記事

 

Print Friendly, PDF & Email
>北海道労働情報NAVI

北海道労働情報NAVI

労働情報発信・交流を進めるプラットフォームづくりを始めました。

CTR IMG