坂本勇治「根室市の会計年度任用職員制度と労働組合の取り組み(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」

本稿は、2022年11月21日(月)に開催された、反貧困ネット北海道・主催(札幌市公契約条例の制定を求める会・後援)で開催された第4回目の学習会で講師を務められた、坂本勇治さん(ねむろ・くしろ地域自治体関連ユニオン)のご報告です。当日の報告を事務局の責任でまとめました。講師による加筆なども行っています。どうぞお読みください。

なお、企画の趣旨は、同日に報告された川村雅則「会計年度任用職員制度の公募制問題と、総務省調査にみる北海道及び道内35市の公募制導入状況」の記録をご覧ください。

(反貧困ネット北海道事務局)

 

 

 

■はじめに

ただいまご紹介いただきました坂本です。

本日はこのような機会を与えていただいて、大変ありがとうございます。職場集会などで組合員を相手に話すくらいしか経験がありませんので、このような場で講師として話すことに非常に緊張しています。どうぞよろしくお願いいたします。

本題に入る前に自己紹介をさせていただきます。

1954年生まれ、もう68歳です。北海道自治労連の「ねむろ・くしろ地域自治体関連ユニオン」という、公務・公共職場に働いている労働者であれば、正規も非正規も関係なく、1人でも加入できる労働組合の書記長をしています。北海道自治労連では副委員長の任務にもついています。

根室市役所に1969年4月に就職をして、先輩に誘われ、根室市職員労働組合連合会──略称、根室市労連という正規職員の労働組合に加入しました。若いときには、青年部の役員であるとか──支部が6つあるんですが──本庁支部の役員も経験しました。その後、本体の根室市労連の執行委員となりまして、2003年度以降は書記長や副委員長の任務につき、2012年からは、地域労連の事務局長なども経験をしてきました。

2014年3月に市役所は定年となりましたけれども、1年だけ再任用職員として勤務し、2015年にねむろ・くしろ地域自治体関連ユニオンの旗揚げに携わり、現在に至っています。それでは根室市の会計年度任用職員制度の現状についてお話しをします。最初に制度の概要、その後、こうした成果を得ることができたのはなぜなのかについてお話を進めていきます。

根室市の制度が今後の皆さんの自治体の取り組みの一助になれば幸いですし、逆に、根室市よりも進んだ経験がもしあれば、ぜひ教えていただき、私たちも取り組みにも生かしていきたいと思います。

 

■根室市に働く職員数など

全職員数       872人(100.0%)
・    正規職員数    550人( 63.1%)
・    会計年度任用職員 322人( 36.9%) 

会計年度任用職員の内訳
(1)勤務時間数別
・    フルタイム   203人(63.0%)
・    パートタイム  119人(37.0%)
(2)男女別
・    男性        94人(29.2%) フル 68人、パート26人
・    女性      228人(70.8%) フル135人、パート93人

出所:根室市調べ(2022年4月1日現在)。

 

まず、根室市の職員構成がどうなっているのかを図表にまとめました。

病院や消防などを含めた職員総数は872人です。そのうち、会計年度任用職員は322人、その内訳は、フルタイム職員が203人、パートタイム職員が119人です。

男女比は記載の通りで、男性94人に対し、女性が228人と、全国の状況と同じように、女性が7割を占めています。

職員総数の4割近くの人数が会計年度任用職員ですから、皆さんの自治体と同じく、会計年度任用職員がいなければ行政の仕事が回らない実態にあります。

なお、皆さんの自治体と比較したときに、皆さんの自治体では、パートタイム職員が主体だと思いますけれども、根室市では、フルタイム職員が非常に多いことに驚かれるのではないでしょうか。

では、具体的な条件面に入っていきましょう。

 

■任用について

最初に任用の問題です。

この任用の問題では、制度が始まる際の雇用の継続と、今後の更新回数という大きな二つの課題があります。

(1)雇用の継続

まず雇用の継続ということでは、2020年4月から始まる新しい制度で、それまで働いていた職員が働き続けられないことになっては大変です。

本日ご参加の皆さんの自治体でも、労働組合の皆さんが、今いる臨時・非常勤職員は全員を継続雇用しなさい、という要求を掲げて頑張ったのではないでしょうか。

根室市でも、当局は、原則は公募である、競争試験または選考による採用を行うと主張してきましたので、それに対して労働組合は、今働いている臨時・嘱託職員のうち、希望する職員は全員を4月以降も継続雇用をしなさい、公募は欠員部分だけとしなさい、と反論をしてきました。そしてようやく当局も、嘱託職員の希望者については渋々認めたものの、臨時職員については、当初は継続の対象外という扱いになるおそれがありました。

ちなみに、ご承知の通り、臨時職員は、6か月+6か月の最大1年までしか雇用できないことになっています。根室市の場合には、12か月経ったら1か月を休ませて、また同じ人を12か月使う、という国のマニュアルでいう「空白期間」を使いながら継続雇用をしていました。

組合は、1か月を強制的に休ませてもまた同じ人を雇用しているのだから、これは継続雇用である、と訴え、最終的に、臨時職員も嘱託職員も、本人からの雇用希望を確認して継続雇用ができることになりました。

具体的には、雇用希望が確認された上で、書類提出と面接を経て、臨時・嘱託職員としてのこれまでの勤務実績が簡易に評価され、会計年度任用職員として雇用される場合には、公募は行わない、となりました。継続して働き続けたい臨時・嘱託職員全員の雇用を守ることができました。

 

(2)回数制限なく65歳まで働き続けられる

公募によらない再度の任用回数ですが、当局は、事務的協議では、総務省のマニュアル通り、公募によらない再度の任用が認められるのは、国の基幹業務員と同じく、2回・3年に始まり、3回・4年、4回・5年と修正提案をしてきましたが、現状などを訴えて、最終的には交渉で、65歳までは原則公募によらず、再度の任用を行うことができるものとする、という組合の要求通りになりました。

このことは、「根室市会計年度任用職員の任用等に関する規則」に明記をされています。

第3条 会計年度任用職員の任用期間は1会計年度を超えない範囲内において任命権者が定めるものとする。

2 任命権者は、前項の任用期間における勤務実績が良好であり、かつ、前条に掲げる要件を満たす会計年度任用職員について、引き続き任用する必要があると認めたときは、再度の任用を行うことができる。

3 前項の規定による会計年度任用職員の任用期間の末日は、当該職員が65歳に達した日の属する年度の末日を超えることができない。ただし、公務の運営上、特に必要があると任命権者が認める場合は、このかぎりでない。

4 第2項の規定による会計年度任用職員の再度の任用を行わないときは、当該職員にかかる任用期間の末日を持って、当該職員にかかる任用が解かれたものとする。ただし、任用の初日において、この旨を当該職員に通知しなければならない。

出所:「根室市会計年度任用職員の任用等に関する規則」より。

 

第3条の任用期間の箇所では、「1会計年度を超えない範囲内」ということがまず規定をされていますが、2では、「引き続き任用する必要があると認めたときは、再度の任用を行うことができる」となっていて、3では、「当該職員が65歳に達した日の属する年度の末日を超えることができない」となっています。

しかしこの点も、但し書きで、「公務の運営上、特に必要があると任命権者が認める場合は、このかぎりでない。」と規定をされています。

これは当初、病院の医者だとか看護師などを想定してものでしたが、実際には、相談員業務や学童保育などを含めて、専門的な分野で募集をしても応募がない職種では、何人もが継続雇用をされています。また、65歳を超えても毎年応募して任用が継続している人もいます。

 

■給与について

給与についてみていきます。

(1)職種別学歴別基準号俸に正規職員初任給を適用

給与につきましては、根室市でも、学歴別基準号俸が職種別に設けられました。基本は行政職一表の適用ですが、保健師や看護師、医療技術者などは医療職給与表が適用になっています。

今日は、行政職給与表についてお話をしますが、職種別では、単純労務職や資格を有しないもので一つ、それから有資格者で一つ、という二つの区分けになりました。

これに基づき、学歴別基準号俸が定められました。

職  種 学歴免許等 基準号俸 金  額 上限号俸 金  額
一般事務職

技能労務職

その他市長が別に定めるもの

中学卒 1級 1号俸 135,900円 1級57号俸 211,300円
高校卒 1級17号俸 150,600円 1級73号俸 226,800円
短大卒 1級27号俸 163,100円 1級83号俸 234,500円
大学卒 1級37号俸 182,200円 1級93号俸 240,800円
技術職

保育士(有資格)

学校教諭

その他市長が別に定めるもの

中学卒 1級21号俸 154,900円 1級77号俸 230,100円
高校卒 1級37号俸 182,200円 1級93号俸 240,800円
短大3卒 1級47号俸 198,400円 1級103号俸 246,900円
大学卒 1級57号俸 211,300円 2級44号俸 258,800円

出所:「会計年度任用職員の給与の決定及び支給等に関する規則」より抜粋(金額は2020年4月1日現在)。

 

初任給につきまして、ほとんどの自治体では、国のマニュアル通り、国家公務員の初号俸である1級1号俸から始まっていると思いますが、皆さんの自治体ではどうでしょうか。根室市では、単純労務職や資格を有しない職に働く職員は、中卒者の初任給こそ根室市給与表の1級1号俸、独自級の13万5900円ですけれども、高卒、短大卒、大卒は正規職員の初任給から始まっています。当時の金額は記載の通りです。

さらに、有資格者の職については、これらの20号俸上位から始まっています。その上で昇給上限は15回の区切りで合意しました。他の自治体では、7回とか8回、9回の区切りだと思いますので、約2倍近い昇給上限を勝ち取れたことは大変大きな成果です。このような成果をあげられた理由については、後で述べます。

 

(2)臨時・嘱託期間、民間同種業務従事など前歴換算措置と現給保障

次に前歴換算措置について述べます。 

 

▶前歴換算(経験加算) 臨時・嘱託職員の前歴換算については、これまでの臨時・嘱託職員としての期間を経験年数として考慮するほか、民間等で会計年度任用職員として担う業務と類似する業務経験があると認められる場合は、その経験年数も基準号俸に加算し、号俸の決定を行う。ただし、上限号俸を超える場合は上限までとする。(職務年数1年につき4号俸×経験年数を加算)

▶現給保障 令和2年3月31日の報酬額と会計年度任用職員として受けるべき給料又は報酬(月額に限る)の額に差がある時は、調整措置(現給保障)を行う。

 

職務内容に変更がない場合に限定して、ということになりますが、臨時・嘱託職員の職務経験を会計年度任用職員の職務経験とみなして、基準号俸に、1年につき4号俸ずつ、経験年数分を加算する。ただし上限号俸を超える場合は上限までとする、となりました。

また、民間において、会計年度任用職員として担う業務と類似する業務経験があると認められる場合には、この経験年数も考慮するということで、新しく採用される人にも、経験加算措置が講じられることになりました。

このことによって、会計年度任用職員制度が始まっても、基準号俸の初任給から始まるのではなくて、この間の勤務年数分が経験加算をされて、昇給上限を超える場合は、現給保障ということになりました。

 

(3)勤務に応じた手当(報酬)の支給

各種手当の支給についてお話しします。

後で話をしますが、会計年度任用職員制度ができる以前から、労使協議による嘱託職員制度が作られていました。そのため、通勤手当や特殊勤務手当など既存要綱に基づいて支給をされている手当は引き続き支給をされることになりました。

▶通勤手当(通勤相当報酬)
▶特殊勤務手当(特殊勤務相当報酬)
▶宿日直手当(宿日直勤務相当報酬)
▶時間外勤務手当(時間外勤務相当報酬)
▶夜間勤務手当(夜間勤務相当報酬)
▶寒冷地手当(寒冷地手当相当報酬)

出所:「会計年度任用職員の手引き」より抜粋(病院等除く)。

 

例えば、国の通知では、パートタイム職員への「特殊勤務手当」の支給はありません。しかしこれを、税など徴収員への加算割増、野犬掃討やカラス駆除、犬猫死骸処理、消防の火災出動などが該当しますが、これをパートタイムにも支給されることにしました。

また、会計年度任用職員への「寒冷地手当」支給も、国ではありませんけれども、引き続き支給するというものです。

 

(4)現状維持と一部改善の期末手当(報酬)支給

期末手当についてです。

正規職員同様に、期末勤勉手当支給を求めてきましたが、さすがに、全道規模で調べても、勤勉手当を支給する市はないということだったので、要求はかないませんでした。

 旧嘱託職員制度 会計年度任用職員制度
週30時間以上勤務者  年3.0月   年3.0月
週29時間以上30時間未満勤務者  年2.5月   年2.6月

 

ただ、年3.0か月支給だったのを、当初は国並みの年2.6か月支給に引き下げる提案がなされていましたので、30時間以上勤務者の支給率である3.0か月を維持して、29時間以上勤務者は、年2.5か月から年2.6か月に改善させた、という点は成果であると思います。

 

(5)退職手当は既存要綱の存続ならずも一部前進

退職手当についてみていきます。

▶フルタイム職員は、北海道市町村退職手当組合より退職金が支給されるが、その額が既存要綱に基づき積算した額より低い額となった場合は、既存嘱託職員に限り、その差額を支給する。

▶パートタイム職員は、北海道市町村退職手当組合へ加入できないことから、既存嘱託職員が引き続き、令和2年4月1日においてパートタイム会計年度任用職員となった場合には、既存要綱(週30時間以上の者)に基づき、「退職時特別加算」を支給する。

・3年以上5年未満の期間については   100/100
・5年以上10年未満の期間については  200/100
・10年以上15年未満の期間については 300/100
・15年以上20年未満の期間については 400/100
・20年以上の期間については      500/100

出所:「嘱託職員の退職時特別加算報酬支給要綱」から抜粋(要綱は廃止)。

 

フルタイム職員には北海道市町村退職手当組合から支給をされることになりましたが、根室市では、以前から、週30時間以上の勤務者を対象に退職時特別加算報酬という形で退職金を支給する制度がありました。

最高で5か月分の支給しかありませんが、会計年度任用職員制度ができたことから、廃止を余儀なくされました。

ただし、フルタイム職員が継続をして会計年度任用職員になって退職するときには、退職手当組合の支給額と比較をして、加算報酬の支給額の方が多い場合には、差額を支払うということになりました。

また、週30時間以上勤務者のパートタイム職員が継続して会計年度任用職員になって退職する場合には、これまであったこの退職時特別加算報酬を支給するということとなりました。そのようなことで、やむなく合意をしました。

本来はパートタイム職員のためにも、組合は既存の退職時特別加算報酬制度を残したかったんですが、残念ながらかないませんでした。

 

■休暇について──改善乏しく、継続して改善要求を

休暇関係については、ほとんど改善させることができませんでした。

 

 名    称 国の非常勤職員 現行の嘱託職員 会計年度任用職員
 内   容 給与 内   容 給与 内  容
年次有給休暇 週所定勤務日数による(10日以内) 有給 国と同様 有給 現行どおり
育児時間休暇 1日2回、各30分 無給 1日2回、各30分(勤務時間4時間以内は1回) 有給 現行どおり
生理休暇 必要と認められる期間 有給 3日以内 有給 現行どおり
子の看護休暇 5日以内(2人以上は10日以内) 無給 国と同様 有給 現行どおり
忌引休暇 配偶者7日、父母7日、子5日、祖父母3日 有給 配偶者7日、1親等5日、2親等3日 有給 現行どおり
結婚休暇 5日以内 有給 国と同様 有給 現行どおり
妊娠通院の休暇 義務免 23週:4週1回、24~35週:2週1回、36週~:週1回 有給 現行どおり
夏季休暇 特別休暇なし、採用6月未満職員に年次休暇3日間前倒し付与(夏季年次休暇) 7月~9月の期間内に3日 有給 現行どおり
病気休暇(私傷病) 勤務日数に応じ10日の範囲内 無給 30日以内 有給 現行どおり
産前産後休暇 産前6週(多胎14週)産後8週 無給 国と同様 無給 現行どおり
介護休暇 通算93日以内(3回まで分割可) 無給 国と同様 無給 現行どおり

 

もちろん、正規職員との同じ待遇を求めて要求していたわけですけれども、既存の嘱託職員制度のもとですでに、一定程度、国よりも良い内容になっていたこともあって、わずかな前進にとどまりました。

その前進面では、一つ目に、この表に記載はしていませんが、再任用職員から会計年度任用職員となった場合、継続勤務とみなして、年次有給休暇を計算する勤続年数を通算すること、となりました。これは、同じ市役所に勤務しているのに再任用職員から嘱託職員になった途端に、これまで休暇残日数はゼロとなり、1年目で10日しか付与されなかったという経緯があったんです。

この点について長年改善を求めてきて、ようやく継続勤務とみなし、勤続年数を通算させることができました。

二つ目に、繰り越した年次有給休暇の費消の問題で、正規職員と同様の取り扱いとするとなりました。

これは、既存の嘱託職員制度の中では、現年分から費消するということで、現年分を使ってしまってから残った分に手をつけなさいということになっていたんですが、正規職員の場合、現年度分か前年度分かなど関係なく取得していますので、正規職員と同様の扱いとさせた点は改善だったと思っています。

忌引き休暇については、他市よりも良い内容になっていたことから、さらなる改善を勝ち取るということはできませんでした。

なお、この表には主な休暇しか記載をしていませんが、他にも短期介護休暇などは、国の場合には、1任用期間で5日取得できるけれども無給扱いでした。根室の場合は、有給で取得ができるようになっています。

いずれにしても、改めて、正規職員との均等待遇を求めて継続して要求をしていくことが必要です。以上、ここまで、根室市の制度概要についてざっとお話をしてきました。

ではここからは、どうしてここまで労働組合は頑張れたのかということについて考えてみたいと思います。

 

■なぜここまで頑張れた?──運動の歴史と実績、基本に立った主張

(1)三つの要因

振り返ってみると、三つほどの大きな要因が考えられます。

一つ目には、正規職員の労働組合が、昔から、自分たちの賃金労働条件を改善させるためには、非正規職員の賃金労働条件の改善が重要だという方向性をきちんと確立をして、正規職員の要求とともに、非正規職員の待遇改善を要求して、改善をさせてきたという歴史と実績があるということです。

二つ目に、そういう市労連運動の中で、非正規職員自身が、自分たちの要求を実現するためにはやっぱり自分たちが声を上げていかなければならないということを訴え、市労連もそれを後押ししながら労働組合を立ち上げて、交渉などは、正規と非正規が共同して取り組んで要求の前進を図ってきたということです。

三つ目は、こうした制度の問題についてはやはりきちんと基本に立ち返って、自分たちの実態を明らかにしながら、法改正の趣旨であるとか、国会審議、付帯決議などに基づき、事務的協議や交渉の中で、繰り返し主張し、訴え続けてきたことにある、と思っています。

 

(2)歴史と実績

では、市労連は非正規職員のどんな要求を取り上げて改善してきたのか。一つ目の歴史と実績について少しご紹介します。

例えば根室市では、入札や委託業務などの発注に際して、業者に、中小企業退職者退職金共済、略称、中退共への加入を条件にしました。そのときに市労連は、民間には中退共に加入を義務付けさせて従業員の待遇改善をさせながら、一方で、お膝元の市で働く非正規職員には退職金は何もなかったのです。そこで、雇用主の責任として退職金支給制度をつくるべきである、と要求し、1990年4月から、先ほどお話をした嘱託職員の退職時特別加算報酬の支給要綱が作られました。

また、2002年度から十数年間、市立病院の経営健全化、三位一体改革の影響や、単年度の収支不足、予算が組めないなどを理由に、職員給与の独自削減が行われてきました。

その際に市労連は、市民サービスにも影響を与える厳しい状況の中で自分たちの賃金・労働条件さえ守れればよいという立場には立たない、という方針を堅持していました。ですから、その都度、自分たちができる範囲内で市民サービスの確保に協力するその一方で、独自削減は嘱託職員も同様に行う、という当局提案に対しては、毎回、嘱託職員は削減の対象としないことで合意をしてきました。

また、2008年の人事院勧告で国の非常勤職員の待遇改善に向けた指針が出されました。これを契機に、定年退職後に嘱託職員として雇用された職員の待遇改善や、国の指針に基づいた全ての嘱託職員の報酬改善とルール作りを行うよう要求をします。その結果、翌年4月から、嘱託職員任用等に関する要綱、嘱託職員報酬決定指針などを整備させるとともに、原課の担当者や嘱託職員本人が、賃金・労働条件がわかるようにと『嘱託職員任用の手引き』を作成させてきました。また、このときから65歳までの任用継続も確定をしています。

 

(3)非正規職員自らが声をあげた

二つ目にあげた、非正規職員の要求を実現していくためには、自分たちがその実態や状況を訴えていくことが必要だということについて補足します。

市労連が後押しをしながら、非正規職員の労働組合結成に向けた取り組みが進みました。児童館労組は1980年2月という早い時期に作られています。関連職員労組は1999年2月結成。もう一つ、学校警備労組という小中学校の夜警さんの組合もありましたが、これは民間委託などの影響から、今はございません。他に、私の所属するねむろ・くしろ地域自治体関連ユニオンの分会もあります。

道内の自治体で、非正規職員だけの労働組合があるというのは、自治労連の自治体関連ユニオンの支部など以外に私は知りませんが、根室では、非正規の労働組合が自分たちの要求前進のために頑張ってきたということが他の地域にはない大きな力になったというふうに思います。

非正規職員が自ら組合を結成して以降、どのような成果を上げてきたかといえば、例えば、児童館や放課後教室に働く指導員は、週28.83時間という、やたらと中途半端な勤務時間数だったのですが、昔の準職員制度を参考にさせながら、正規職員の行政職一表3級まで到達するような給与表を作らせたり、一時金を含めて諸手当や休暇制度などを職員に準ずることも勝ち取っていきました。

2017年には、国の放課後児童支援員キャリアアップ処遇改善事業を活用した報酬改善を要求し、2018年度から、放課後児童支援員認定研修の修了者への月額1万円の手当支給を実現しています。現在も継続してこの手当は支給をされています。

また、関連職員労組は、児童館指導員以外の職場が対象でありまして、様々な施設を中心に組合員が散らばっているため、要求集約には難しさはありますが、それでも、病院職場を中心に、定数や賃金改善、各種手当支給など、多くの要求前進を作り出してきています。

 

(4)制度導入前の正規・非正規職員の賃金・労働条件比較

ここで、会計年度任用職員制度が始まる前は、嘱託職員や臨時職員がどんな賃金・労働条件で働いていたのかをみてみます。数値は2019年4月1日現在のものです。

 

項目 正規職員 嘱託職員 臨時職員
初任給 1級17号俸(高卒) 前歴換算7~8割 時給860円
昇給制度 毎年4号俸昇給 1級13号俸+毎年4号俸又は現給の高い方 賃金改定なければゼロ
期末手当 年間4.45月 30時間以上は年間3.0月
29時間~30時間2.5月
年間61日分
通勤手当 距離別別定額支給 正規職員と同様 正規職員と同様
寒冷地手当 全職員支給 30時間以上勤務者で生計中心者のみ 支給なし
年次休暇 20日と繰り越し20日 労基法どおり、前年残繰り越すも現年分から費消 労基法どおり
夏季休暇 3日間 3日間 3日間
退職金 北海道市町村退職手当組合 退職時特別加算報酬(最大5月) 支給なし

出所:市労連作成(2019年4月1日現在)。

 

まず、初任給ですが、高卒の正規職員は1級17号俸です。嘱託職員は、フルタイムの場合は任用時に、職員の年齢区分による標準賃金の7割から8割換算の金額相当です。臨時職員の時給は860円でした。

次に昇給をみると、例えば、嘱託職員の2年目には、国家公務員の一級1号俸、=根室市の一級13号俸に4号俸を足した一級17号俸の15万600円に普通はなるんですが、この金額とこれまで支給されていた金額とを比較して、高いほうが2年目の報酬額ということになります。3年目にはもう4号俸を足して、同じように計算をして高いほうを取りますので、いずれも、昇給しない場合が多々あります。

もちろん、臨時職員の時間給改善も、毎回要求するものの、北海道最賃や市内企業などの状況をみながら、数年に一度の改善にとどまっていました。

期末手当は、正規職員は、期末勤勉合わせて年間4.45月に対して、嘱託職員は、週30時間以上勤務者が年間3.0か月。週29時間から30時間勤務者は年間2.5か月。そして、臨時職員にも年間で61日分が支給をされていました。

寒冷地手当は正規職員が全職員支給に対して、嘱託職員の場合には、週30時間以上勤務者で生計の中心者だけに支給されていました。

また退職金支給制度は、先ほどお話した通りです。

 

(5)基本に立ち返り訴えを続ける

ここまで頑張ることができた三つ目の要因です。

事務折衝や交渉にあたって、これまで紹介してきた内容が、当局によって最初から提案されていたわけではありません。

これまで紹介してきたのは、あくまでも、当局との間の最終合意の内容です。つまり、当初は皆さんの自治体と同じように、ほとんどが国並みの内容が当局からは提示されてきたのです。

それを覆すことができたのは、非正規職員が、自らの実態などを生の声で当局に訴え、正規職員と共同して、ここまで到達していた賃金・労働条件を改悪させない、少しでも前進を図ろうと頑張った結果です。

事務的協議や交渉には、北海道自治労連の代表として私も入りましたし、正規・非正規労組の役員を中心とする交渉団で挑んで、自治労連の方針に学びながら、当局が根拠にしている国の自治体マニュアルというのは、あくまでも技術的な助言であること。それから、法改正の趣旨は、あくまでも正規職員の処遇改善にあるのであって、国会答弁では、担当者も処遇の引き下げは法改正の趣旨に沿わないと発言していることや、そして何より、付帯決議では、新制度への移行にあたっては不利益が生じることなく、適正な勤務条件の確保がされなければならないと規定されているということ──これらを繰り返し主張してきました。

これを言われたら国の言う通り改悪なんてできないよ、というのが当局の本音かもしれませんし、この間、全ての交渉において、条件変更などは「労使の合意なく一方的に実施しない」ということを、労使で確認し合ってきていますから、そのことが、当局が思い通りにできない壁になっていると思います。

 

■職場集会を開催

(1)「5つの頑張ります」を提起

組合は、当局から提案交渉のめども示されないもとで、早期に交渉を行うよう当局に求めながら、2019年7月に、臨時・嘱託職員に呼びかけて職場集会を開催したところ、100人を超える非正規職員が集まりました。集会では、制度の問題点などとともに、雇用と暮らしを守るための「5つの頑張ります」を提起しました。 

➀ 2020年4月以降も継続雇用を希望する職員は、勤務経験を考慮し、試験免除や特別選考により全員が働き続けられるよう頑張る。

➁ 2020年以降の雇用継続も、公募試験によらない自動更新で、年金が万度に支給される65歳まで働き続けられるよう頑張る。

③ 賃下げをさせない、現在の賃金水準を引き下げさせないよう頑張る。

④ ボーナスは正規職員との均等待遇で支給させるために頑張る。

⑤ 休暇制度は、均等待遇の立場から正規職と同様にするため頑張る。

 

ここに示したとおりで、一つ目に、会計年度任用職員制度になっても働き続けたいという職員全員が働き続けられるように頑張ります、ということ。

二つ目に、それ以降の雇用継続についても、最低でも、これまで通り、年金が満度に支給される65歳まで働き続けられるよう頑張ります、ということ。

三つ目に、賃下げをさせない、現在の賃金水準を絶対に引き下げさせないように頑張ります。

四つ目は、ボーナスは正規職員との均等待遇。

五つ目に、休暇制度も正規職員との均等待遇を目指して頑張ります──以上を提起しました。

8月にようやく第1回目の交渉が行われ、その後、当局流に言えば「勉強会」ということで労使の事務的協議も始まり、組合は「5つの頑張ります」の前進に向けて、非正規職員の実態も協議の場で伝えながら改善を求めていきました。

この「5つの頑張ります」の結果が、これまでご報告をしてきた内容となるわけですが、もうちょっと補足をしたいと思います。

 

(2)個人別の賃金等情報を提出させる

賃金水準の引き下げを許さないという点については、組合では、給料の張り付けや前歴換算後の水準などを確認できるように、個人別の資料全員分の提供をしなさいということを求め、当局も了承しました。

職名や週当たり勤務時間、現行の報酬額と年間収入、学歴や経験加算年数、当局の決定号俸とその給与額及び年間収入、現行との比較増減などが網羅された資料です。これが給料水準改善のための大きな武器になったんです。

当局は最初、単純労務や現業職で一つ、一般事務職他資格を要しない職で一つ、そして、資格を必要とする職で一つ、と合計3区分の学歴別給与を考えていました。そのうち、正規職員の初任給を適用したのは、資格を必要とする職の高卒だけでした。そして、上限号俸の設定を、当初は5回、その後、9回の区切りで合意したいと考えていたようです。

組合は当初から、初任給は職員との均等待遇で、正規職員の初任給を使用しなさい、ということと、あわせて、この個人別資料を精査して、示された初任給や上限号俸の設定の場合、5回とか9回の区切りでは、継続して勤務する嘱託職員の8,9割が、現給保障になってしまうんだ、ということを訴え、2級3級に渡れる給与制度にすべきだと、ここでも強く求めてきました。

最終的には、ほぼ1級どまりという結果でしたが、15回の区切りまで改善させたことで、現給保障者は、ゼロとはなりませんでしたが、その数を大幅に減らすことができて、あわせて、多くの人たちの賃金水準を改善できたことが何よりの成果でした。

 

(3)期末手当の改善と反省点

期末手当についても、少し補足します。

2020年6月の期末手当算出に係る在職期間について、皆さんの自治体でも取り組まれたとは思いますが、継続をして勤務する職員について、2019年12月から2020年3月31日までの間に在職をしていた期間を会計年度任用職員としての在職期間とみなして、6か月以上在職者として6月分の手当を満額支給させることができました。

臨時職員については、この間に1か月の空白期間があった場合でも、その期間も含んで在職期間とみなしてこちらも満額支給させることができています。

ただ、一方で、反省点もあります。多くの自治体では、期末手当支給対象が、週当たり15.5時間以上の勤務者が対象となっていると思いますけれども、根室では、現状を守るほうに目がいってしまい、支給者の拡大を取り上げてこなかったことが大変悔やまれています。

 

(4)児童館指導員でフルタイム勤務を実現

もう一点追加しますと、児童館指導員は、長年の要求であったフルタイム雇用なども含めて改善を求めてきました。教育委員会当局も、学校教育に関わる学習支援員が不足をしている実態があったことから、午前中は学習支援員の業務を担うことでフルタイムへの道が開かれ、現在、指導員の半数以上がフルタイムで働いています。

また、パートタイム勤務では、週28.83時間から週30時間勤務へと改善させることができました。

 

■まとめに代えて

以上、根室の制度概要と、どうしてこのような成果が勝ち取れたのかということについて、大まかに説明をしてきました。

会計年度任用職員の均等待遇の実現や法制度の改正などに向けて、自治労連が春から取り組んでいる「つながる、つづける、たちあがる誇りと怒りの3Tアクション」は、根室でも取り組みを進め、誇りと怒りを略した「ほこイカアンケート」や職場実態レポート、署名集約などを行ってきました。

 

 

「ほこイカアンケート」は根室では152通が集まりまして、現在、集計分析中です。大まかには全国の中間集計の状況とほぼ変わらないようですが、ただ、誰の収入で家計を支えているかという設問で、「自分の収入」と答えた人は、全国の中間集計では24.5%にとどまりましたが、根室では40%にも達しています。

これもよく考えればわかるかと思うのですが、パートタイムが主流のところに対して根室ではフルタイムが主流であることを考えると、やはり「自分の収入」で家計を支えている人が多くなるのではないでしょうか。加えて、「自分を含む複数」まで含めると、7割近い人が、自らの収入によって家計を支えているという実態にあります。

また、あなたが改善してほしいことは何ですか、という設問では、上位三つとも、全国と同じく、賃金を上げてほしい、一時金が欲しい・増やしてほしい、毎年賃金を上げてほしい、などとなっています。勤勉手当の支給を含めて、賃金水準の改善が待ったなしという要求です。

根室では、昇給上限を15回区切りまで引き上げることは実現しましたが、1級どまりでは限度があります。せいぜい、月額で23万から24万程度にしかなりません。

ですから、交渉の確認書でも、根室市の会計年度任用職員制度はこれで完成したものではなく、今後も全道、全国の状況を労使双方で検証しながら、継続交渉していくということを記載しています。

改めて、未解決の課題とあわせて、官製ワーキングプアの解消を目指して、正規労組、非正規労組が一緒になって取り組み、要求の前進を目指していきたい、という決意を述べて、私からの報告を終わります。ありがとうございました。

 

 

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