佐賀達也「会計年度任用職員制度の改善は急務●全国実態調査から」

佐賀達也「会計年度任用職員制度の改善は急務──全国実態調査から」『議会と自治体』第295号(2022年11月号)pp.41-49

 

日本共産党中央委員会が発行する『議会と自治体』第295号(2022年11月号)に掲載された佐賀達也さん(日本自治体労働組合総連合中央執行委員)による原稿の転載です。どうぞお読みください。

 

 

目次

急増する非正規公務員

住民の生活を支える自治体の業務は、正規の常勤職員によって自治体が直接執行すべきものです。総務省みずからが「公務の運営においては、任期の定めのない常勤職員を中心とするという原則を前提とすべき」としています(「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第1版)」)。

しかし、政府が推し進めた新自由主義的な施策により、官から民への掛け声のもと、自治体では公務公共部門の民間化がすすみ、「公共」の役割が歪められていきました。

 

図表1 増え続ける非正規公務員

 

同時に、自治体には総務省からの総人件費削減・定員管理計画が押し付けられ、正規職員は1980年代の320万人から2020年には270万人余りへと削減されました。その代わりに調整弁のごとく置き換えがすすめられたのが自治体の非正規職員でした。とりわけ、2005年以降の増加はすさまじく、2020年には69万人(会計年度任用職員は62万人)に達するに至っています。(図表1)

 

図表2 自治体版「非正規公務員」の制度移行図

 

一方、非正規公務員の劣悪な処遇は、「官製ワーキングプア」と揶揄され、国と自治体による無責任な雇用のあり方が社会問題化しました。それらの指摘を受け、2020年4月からその処遇改善を目的のひとつとする地方公務員法および地方自治法改正による会計年度任用職員制度の運用が全国の自治体で始まりました。(図表2)

ただし、法改正の目玉とされた「期末手当」の支給は過少に限定され、そればかりか処遇(月給や休暇など)が運用前より切り下げられる不適切なケースや、8割近くを女性が占めるジェンダーギャップ、経験が反映されない給料格付けのあり方など、自治体による脱法的な運用や制度的欠陥が次々と明らかになっています。とりわけ、「会計年度ごとの任用」という雇用不安の現実を前に、「安心して住民のために働きつづけたい」が「声を上げたくても上げられない」との切実な声が全国から寄せられました。

制度運用から3年目を迎える2022年度末は、公募によらない再度の任用の上限回数を国にならって2回とした自治体が多いことから公募による不当な「雇止め」(いわゆる「3年目の壁」)の集中が危惧される状況であること、労契法やパート・有期労働法、最低賃金法などが適用除外となっていることによる不合理な格差の実態を把握するため、自治労連では、全国の自治体で働く約62万人の会計年度任用職員を対象とする「いまだから聴きたい!2022アンケート」にとりくみました。

 

アンケート(中間報告)の概要について

■実施方法と調査期間

アンケート調査は2022年5月末から9月にかけておこないました。調査については、アンケート用紙方式とGoogleFormsを活用したオンライン方式を併用して実施しました。

 

■調査対象およびサンプル数

調査対象は全国の自治体で働く会計年度任用職員としました。中間報告では、8月3日までに全国から集約されたアンケート用紙回答(9,586サンプル)とオンライン回答(4,176サンプル)を合計した、13,762サンプルについて単純集計及び分析をおこないました。なお、自由記述回答のオンライン回答率は57%に上りました。

 

■質問項目の設定

直近の「会計年度任用職員制度」のリアルな実態を把握できる項目に特化したうえで、調査対象となる会計年度任用職員がストレスなく記入できることに留意しました。なお、制度に対する“不安”や“不満”の把握については、自由記述回答を重視して抽出・分析できるよう設定しました。

 

■傾向と特徴(概要)

①  13,762サンプルに占める女性割合は86%に達しており、「会計年度任用職員制度」が女性労働に依存する制度となっていることが裏付けられました。

② 地方自治体では、正規職員が担うべき「専門性と持続性」が求められる職種にまで会計年度任用職員制度が用いられており、多くの会計年度任用職員が「正規職員の補助的でない業務」に従事しています。

③ 勤続年数5年以上が全体の57%を占めるも、年収200万円未満が59%に達しています。すすまない処遇改善と、専門性や経験が反映されない制度の“欠陥”が明らかになりました。

④ 「単独で主たる生計を維持している」と回答した25%のうち、年収200万円未満(世帯収入200万円未満)が49%を占めました。「会計年度任用職員制度」が「官製ワーキングプア」の労働者および家庭をうみだす役割を果たしています。

⑤  9割が「やりがいと誇り」を感じて働いているものの、具体的な要求項目では上位4位を賃金に関する要求が占めています。「会計年度任用職員制度」が、「やりがいと誇り」に見合わない「低すぎる賃金」をつくりだしています。まさに、行政による「やりがい搾取」の状況が浮き彫りとなりました。

⑥ 自由記述回答には、3年目の公募による不当な雇止め(いわゆる「3年目の壁」)の集中への危惧など、脆弱な雇用を前に弱い立場に立たされ、“不安”や“怯え”を感じている記述が数多く見られました。

 

回答の単純集計および分析

(1)あなたの年代はどの年代ですか?

図表3 年齢構成(n=13,686)

40代以上が全体の84.8%、50代以上に絞っても全体の63.6%を占めています。また、もっとも多い年齢階層は50代で全体の3割を占めています。一方、30代未満は15.3%に留まっており、総じて会計年度任用職員の年齢階層が高いことがわかりました。

 

(2)性別を教えてください

図表4 性別構成(n=13,616)

総務省の公表では、会計年度任用職員に占める女性割合は約8割です。今調査(中間集計)では回答者の86.3%を女性が占めています。地方自治体における「会計年度任用職員制度」が女性労働のうえに成り立っている制度であることが浮き彫りとなりました。

 

(3)勤続年数を教えてください

図表5 勤続年数(n=13,688)

勤続年数については、5年以上が57%を占めており、1年未満(初年度)は約1割に留まっています。したがって、回答者の約9割が複数年以上、6割近くの会計年度任用職員が5年以上の長期にわたり同一自治体で働きつづけていることがわかりました。この結果から、会計年度任用職員の多くが恒常的な業務に従事していることがわかりました。

 

(4)勤務時間について教えてください

図表6 勤続年数(n=13,471)

 

勤務時間が正規職員よりも短いパートタイムの割合が約8割を占めていますが、自由記述回答には、制度移行時に合理的理由もないままフルタイムからパートタイムに変更され不利益を被っている旨の書き込みが見られました。中間報告結果が実態を照らしたデータか否かについては、クロス集計などで明らかにしていく必要があります。

 

(5)仕事について

①  職種構成

図表7 職種構成(n=13,364)

一般事務等を中心に、多岐にわたる職種に会計年度任用職員が分布していることがわかります。特徴は、経験や資格が求められるような専門性及び持続性が高い業務にまで、会計年度任用職員が任用されていることです。このことは、経団連のシンクタンクである21世紀政策研究所が2022年6月に公表した「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」の中で触れられている「趨勢的に地方公務員数が削減される中、臨時・非常勤職員の割合が急激に上昇している。さらに、職種についても多岐に渡っており、保育所保育士や教員・講師といった有資格者の職種も相当数が雇用されている」を見事に表しています。

 

②仕事の内容や性質、責任の程度

図表8 仕事の内容や性質、責任の程度(n=13,515)

「補助」ではない「正規職員とほぼ同じ仕事」(25.8%)と「正規職員の指示を受けない専門的な仕事」(13.0%)が38.8%を占め、約4割の会計年度任用職員が「正規職員の補助的業務ではない仕事」に従事しています。正規職員が担うべき業務を会計年度任用職員に代替させている地方自治体の実態が明らかになりました。

 

(6)仕事にやりがい・誇りを持っていますか?

図表9 仕事のやりがい・誇り(n=13,600)

仕事にやりがい・誇りを「持っている」または「少しある」と答えた方は合計86.2%に達しています。ほとんどの会計年度職員が十分とは言えない処遇に置かれていても、住民のいのちとくらしを支える仕事に、「やりがい・誇り」を持って取りくんでいることがわかりました。

 

(7)だれの収入でおもに家計を支えていますか

①  主な家計維持者

図表10 主な家計維持者(n=13,673)

主な家計維持者が自分と答えた割合が全体の4分の1を占めています。また、「自分」と「自分を含む複数」の24.2%と合わせると、約半数の会計年度任用職員が自らの収入によって、家計を支えていることがわかりました。

 

②  主な家計維持者が「自分」であると回答した者の年収(2021年1月~12月)

図表11 主な家計維持者が「自分」であると回答した者の年収(n=2,936)

主な家計維持者が「自分」と答えた方のうち、年収250万円未満の割合が3分の2以上を占め、年収200万円未満の割合に絞っても約半数に達しています。自治体が運用する「会計年度任用職員制度」が世帯収入で200万円に満たない「官製ワーキングプア」の労働者と家族を地域にうみだしている深刻な実態が明らかになりました。

 

(8)勤務年数1年以上の方、昨年(2021年1月~12月)の年収について教えてください

図表12 主な家計維持者が「自分」であると回答した者の年収(n=12,178)

年収200万円未満が全体の約6割を占めており、多くの会計年度任用職員が低所得で雇用されていることがわかりました。

 

(9)一時金(ボーナス)はもらっていますか(もらえますか)。

図表13 一時金(ボーナス)について(n=13,503)

水準はさておき、回答者の88.2%が、一時金(ボーナス)をもらっていると答えています。会計年度任用職員制度の運用により、地方自治体でも会計年度任用職員に対する一時金(ボーナス)支給が一定定着しつつあることが伺えます。一方、今回の調査では水準を聞き取ることを見送ったため、自治体ごとの支給月数(水準)の凸凹をはかることはできておりません。

 

(10)あなたが改善して欲しいことは何ですか(3つまで複数回答可)

図表14 あなたが改善して欲しいこと(n=13,635)

「あなたが改善してほしいことは何ですか」に対し、①「賃金を上げて欲しい」59.1%、②「一時金がほしい、増やしてほしい」37.3%、③「定期昇給」36.7%、④「退職金が欲しい」35.1%と、そもそも低すぎる賃金水準の改善を求める項目が上位4位までを占めています。調査をおこなった時期に、多くの自治体で会計年度任用職員の夏期一時金の引き下げが強行されたことや、消費者物価指数が急激に高まりはじめた時期が重なったことが回答に反映されていると考えられます。

他方、生計の維持の前提となる雇用の維持、「継続雇用」を34.1%が求めています。自由記述回答にも、再度の公募の撤廃など安定した雇用を求める記述が数多く見られました。

 

(11) 労働組合について

図表15 労働組合について(n=12,619)

2割近くの回答者がすでに労働組合に加入していると答えていますが、8割は労働組合に組織されていないことが伺えます。一方、自由記述回答にはオンライン回答者の6割近くが書き込みをおこなうなど、「声をあげられる場所」に対する期待と関心が寄せられていることがわかりました。引き続き、労働組合が会計年度任用職員制度の抜本的な見直しにとりくむことをアピールし、回答を寄せていただいた8割の会計年度任用職員とつながりをつくっていくことが求められています。

いずれにしても、中間報告の時点において、13,762サンプルを集約することができた最大の要因は、今調査の対象を自治労連の組織内にとどめることなく、幅広く協力を呼びかけたこと、GoogleFormsを活用したオンライン方式と併用したことなどが反映された結果と分析しています。

 

 

悲痛な声あふれる自由記述回答

①賃金・手当の改善、均等待遇に関する記述

  • 仕事は好きだが、賃金の面で悩み、離職を考えることがあります。せっかく働く世代を支え、日本の未来を担う子どもたちの命を預かり育てているのに、それに見合った給料が支払われないのは不当です。さらに仕事内容も多岐にわたり、保育に真剣に取り組みたいのに、人手が足りない、事務作業に追われる等、理想の保育はとてもじゃないけど出来ません。これでは離職率も高く、復職もしたいと思いません。(20代・女性・保育士)
  • 仕事は正職並み、労働時間も同じ。なのに3年毎に試験の受け直し、給料・ボーナスは低い、病気休暇が無給など待遇が悪い。さらに保育園が民営化されることで職が無くなりクビになるのではと不安ばかりです。(50代・女性・一般事務、学校事務等)
  • 時給は低くはないが、全く昇給がない。せめて勤続年数に応じて増えている有給休暇を取得したいが、仕事量が多くて休めない。経験を積んでも評価されていないようで残念だ(50代・女性・外国籍児童生徒生活支援助手)
  • 仕事にはやりがいを感じて働けているが、勤続年数に見合う賃金でないため、年々、先のことを考えると不安が大きくなり、仕事のやりがいだけではいけないなーと考えさせられます……。正規と同じ仕事内容で頑張って働いている非正規にも期末手当での”勤勉手当”をつけてもらいたいし、経験加算することで仕事のやりがいもプラスになると思います‼(50代・女性・保育士)
  • 会計年度任用職員に改められた後も、夏季休暇数、特別休暇、報酬、健康診断など、正規職員との格差は縮まらず、やりがいがない。(50代・女性・一般事務、学校事務等)
  • 仕事に対してのやりがいはものすごく感じているが、就労人数が少なすぎて、1人分の仕事量がものすごく多い。その為、有給休暇もとりづらく身体をゆっくり休めることが出来ない。(40代・女性・調理員)

 

②安定した雇用・再度の任用に関する記述

  • やりがいのある自分の好きな仕事を20年続けてきました。定年まで続けられる…と思っていたのが、3年ごとの公募、不安とストレスがつのります。安心して働き続けられるよう、給料も下げないようお願いしたいです!(40代・女性・交通指導員)
  • 公募の条件に容姿、年齢は考慮せず公正に経験値も加味され判断がなされるのかしら、と不安です。派遣社員であれば派遣先が切られても派遣会社が次をフォローしてくれますが、会計年度職員には後ろ盾がありません。不安なく働き続けられる環境を希望します。(50代・女性・一般事務、学校事務等)
  • 会計年度任用職員の制度が始まって最初の年に採用されました。3年を過ぎたら毎年公募をくぐり抜けて、試験に受からないと雇用を継続してもらえないのが一番の悩みです。わたしは特に優秀でもないし、万が一公募に落ちたら、次年度から突然無職です。そんなの耐えられない。だから職場には、自分から「来年は受けない(退職する)」と伝えています。心のなかでは安定して働きたいのに、こんな制度では自分から諦めざるを得ません。上司からは「公募は広く門戸を開くため」と言われました。そのために私は辞めなければいけない。悔しいです。(30代・女性・一般事務、学校事務等)
  • 任期満了になると公募され作文や面接の試験をされるが、所属課の課長が試験官で、その課長の一存で決められてしまうため、常日頃から萎縮しながら接しています。任期が近づいてくると胃の痛む毎日。せめて継続雇用が認められるようにしてほしい。職員から「会計年度なんだから、本来は1年で切られても文句はいえない立場なんだから」などと言われながら働いています。この立場を選んで働いている私の自己責任なのでしょうか。継続雇用、それだけを望んでおります。(50代・女性・一般事務、学校事務等)
  • この仕事は自分はとてもやりがいがあるので好きです。もし合格しなかったらと思うと夜も眠れません。なぜ勤続〇年以上の方は無期雇用にとできないのでしょうか?そしてねぎらいでもある退職金がないのにも、切られた時の不安と重なります。(50代・女性・一般事務、学校事務等)

 

③自治体による不適切な対応及び制度の抜本的な改善に関する記述

  • 子どもの成長する姿にやりがいを感じ、10年以上続けてきましたが、賃金の値上げは仕事の内容に関わらずほとんど無し。おそらく学校側はもう少し長い時間支援を必要としているのではないかと思いますが、予算が無いということで4時間で切られています。教育委員会から期待されていないのではないかと思うことが多く、モチベーションが上がりません。(60代・女性・特別教育支援員)
  • 図書館司書職で、受け入れ資料の選定などにも関わるパート職員です。嘱託員だった頃より夏季休暇や祝日代休が増え、実質の勤務日数は減りましたが、作業量が変わらず処理しきれない案件をかかえています。やむをえず時間外に処理したり、昼休憩中に作業したりしている職員が多く、せめてフルタイム勤務にしてほしいと思い、何度か面談などで掛け合っていますが難しいようです。生計面でも余裕がないです。(30代・女性・図書館司書)
  • 仕事が多く残業になると「予算が無いから残業はしないように」と言われる。昼休みを削ってでも仕事をしないと定時で上がれない。(50代・女性・一般事務、学校事務等)
  • 人手不足で、日々の業務負担が増え、疲労が回復しない。年休や夏期休暇があっても、人手不足で希望日に取得が難しい。時給が上がらず、または上がっても微々たる程、人手不足、新型コロナ感染予防対策で、業務が増した感が大きく、実質的賃下げだと感じている。(60代・女性・放課後児童支援員)

 

制度改善を急げ

「本来常勤職員がおこなう」に立ち返れ

今回のアンケート結果からは、常勤職員を配置すべき職に会計年度任用職員を配置している実態が浮かびあがりました。例えば、自治体の戸籍や介護保険、生活保護行政などの窓口業務、保育園の保育士や調理師・看護師、学童保育指導員などの業務は恒常的に存在し本格的な業務の典型であるにもかかわらず、常勤職員とともに多くの会計年度任用職員によって運営されています。常時設置すべき職については常勤職員を配置するべきです。公務の専門性・継続性・公平性・平等性を担保し、全体の奉仕者としての使命を果たすためには、任期の定めのない身分保障された常勤職員の配置が必須です。

さらには、常勤職員が配置されず会計年度任用職員のみの配置で運営しているケースさえ見受けられます。例をあげれば、学校における子どもの相談に当たる児童心理士、子ども家庭センターなどの児童相談員、女性センターなどにおける女性相談員や、消費生活相談員などの各種相談業務に当たる職員、自治体の図書館司書や学校図書館司書、特別支援学級などの支援員などで、これらは常時設置すべき職であり、知識・経験にもとづく専門性が極めて求められる職種のはずです。

住民を支える役割を担う自治体業務は、専門性と経験を持った職員でこそ、安心・安定して、継続した住民サービスを提供できます。継続性を前提としていない「会計年度任用職員制度」では、不十分とならざるを得ません。また、職場への負担も増加し、市民サービスに影響を及ぼすものです。自治体がおこなうべき安定した業務に従事する職員はすべて常勤職員を任用する大前提に立ち返るべきです。

 

「女性労働への依存」や「やりがい搾取」といえる状況の改善を

回答をした会計年度任用職員の4分の1が「主な家計維持者」と答え、その内の4分の3が年収250万円以内、そして、2分の1が世帯年収で200万円以下の「官製ワーキングプア世帯」であることが裏付けられました。さらには、回答者の9割近くを女性が占めていることを勘案すれば、そのほとんどを女性労働者世帯が占めていることが推測されます。このことから、自治体が運用する会計年度任用職員制度の低すぎる処遇が、女性労働者を中心とするワーキングプア世帯を地域に生み出す装置となっていることがわかります。

他方、何らかのやりがいや誇りを9割近くが感じていると答えており、まさに自治体による「やりがい搾取」という状況までもつくりだしていることがわかりました。男女の賃金格差が社会問題化するもと、ジェンダーの視点からも、行政として速やか且つ実効性ある処遇の改善がはかられなければなりません。

ただちに地方自治体で解決すべき問題としてあげられるのは、8月の人事院勧告で示された「国の勤勉手当引き上げ」の会計年度任用職員への反映です。この間の全労連公務部会の運動などにより、国の非常勤である「期間業務職員」のほとんどを勤勉手当の対象とさせてきましたが、会計年度任用職員には、勤勉手当が支給されていません。この状況のままでは下がる時は期末手当で引き下げられ、上がる時は全く反映されないこととなってしまいます。

一般職の勤勉手当引き上げの際、期末手当のみ支給されている特別職も相当額を引き上げていることをふまえ、会計年度任用職員にも反映すべきです。

総務省は会計年度任用職員制度の制度設計に際し、2016年12月27日、「地方公務員の臨時・非常勤職員及び任期付き職員の任用等に関する研究会報告」(以下、研究会報告)を示し、「一般職非常勤職員については」「常勤職員と同様に給料及び手当の支給対象とするよう給付体系を見直すことについて、立法的な対応を検討すべきである。」として、フルタイム・パートタイムとも一般職非常勤職員について、報酬ではなく「給料及び手当の支給対象」とすることを明確に打ち出しました。また時間外勤務手当、通勤手当、退職手当の支給をすることとし、「期末手当」については、「相当長期(6か月以上を想定)にわたって勤務する者に対し支給することを検討すべきである。」としました。さらに「これら以外(時間外勤務手当、退職手当、期末手当)の手当については、(中略)その支給については今後の検討課題とすべきである。」として、勤勉手当等の手当の支給についても今後検討課題とすることを明記しました。

これにもとづいて、総務省は2017年1月13日に「全国都道府県人事担当課長・市町村担当課長・指定都市人事担当課長連絡会議」を開催し、研究会報告に基づいた法改正の内容を報告し、各地方団体の意見の提出を依頼しました。つまり当初総務省は会計年度任用職員に対し、フルタイム・パートタイムとも「給料及び手当の支給対象」とする改正をすすめようとしていたのです。

しかし、全国の自治体からの意見集約の結果として、パートタイムの会計年度任用職員について「報酬・費用弁償の対象」としつつ「期末手当を支給できる」とし、フルタイムの会計年度任用職員については「給料・手当の対象にする」としました。そして一時金については期末手当を支給できることとし、「支給すべき手当の範囲については、各団体における定着状況、国・民間の制度・運用状況を踏まえて「今後必要な見直しを行う」としました。

この結果、パート勤務職員がより安あがりの職員となり、制度移行に伴い、フルタイム勤務職員が、業務量や業務内容が変わらないにもかかわらず、パートとして位置づけること自体を目的として勤務時間をフルタイムよりわずかに短く設定するケースが相次ぎました。

この法改正に至る経過を正し、研究会報告が示した会計年度任用職員の法的位置づけを常勤職員と同様の法体系西、フルタイム・パートタイムともに給料・手当が支給できるようにし、国の期間業務職員に支給されている勤勉手当を会計年度任用職員にも支給できるようにすべきです。

 

継続的任用の保障が急務

会計年度任用職員制度の運用開始から3年目、多くの地方自治体では公募によらない任用の最終年度を迎えています。記述式回答にも、いわゆる「3年目の壁」に対する怯えや不安の声が数多く寄せられました。

当面、会計年度任用職員の再度の任用においては、本人の継続の意思確認の上、公募によらず勤務実績にもとづく能力実証による任用とすべきです。また、継続して働き続けられるよう法整備が必要です。民間労働者の場合、労働契約法第18条で、有期労働契約の契約した期間が5年を超える労働者が、当該使用者に対して期間の定めのない労働契約の締結の申し込みをした場合には、期間の定めのない労働者として承諾したことと見なすとしています。しかし、労契法は、会計年度任用職員は適用除外とされています。会計年度任用職員においても、一定期間、継続して任用してきた場合には、任期の定めのない職員として位置付ける法整備を確立すべきです。

あわせて、「パートタイム・有期雇用労働法」や「最低賃金法」といった労働法制が適用除外とされていることも問題です。

 

雇用保障と処遇改善求める署名

自治労連が厚労省記者クラブでおこなった「中間報告」の記者会見(9月5日)には、NHK、共同通信、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、しんぶん赤旗など、8社から10人の記者が取材に集いました。会見と取材にもとづく記事は、共同通信社によって即日配信され、リアルタイムで各ネットメディアと地方各紙によってオンライン配信されました。また、政治部と経済部から二人の記者が参加した東京新聞は、9月6日の朝刊で「非正規公務員6割年収200万円未満」と報じ、はむねっと(公務非正規女性全国ネットワーク)への追加取材を付してアンケートの中間報告を紹介しました。東京新聞の取材に対し、はむねっとの瀬山紀子副代表は「全国組織を持つ労組の調査は画期的だ。自治労連は1万人以上の声を受け止めて改善を政府に働きかけて欲しい」と述べ、自治労連のとりくみに期待が寄せられました。

その後も、ラジオ番組や海外メディアなどでも紹介されるなど、マスコミからの問い合わせは、会見から1か月を経てもなお続いています。そして、9月末のアンケートの最終締め切り時点では、22,000サンプルにまで集約数が達しました。

この大きな反響は、脆弱な雇用と劣悪な処遇を生み出している「会計年度任用職員制度」の不備のうえにあり、その犠牲になっている会計年度任用職員の皆さんが全国にいることのあかしでもあります。

自治労連では現在、総務省に働きかける「『会計年度任用職員』の雇用保障と抜本的な処遇の改善を求める要求署名」に全国でとりくんでいます。もちろん、幅広いつながりを大切にするため、筆記式の署名とオンライン署名を併用してひとりでも多くの声を紡ぎ、会計年度任用職員の皆さんが抱く「この仕事をこの職場で続けたいから。」の思いの実現に向けた努力をこれからも続けていきます。

地方議会と労働組合が連携して、地域から「官製ワーキングプア」を生み出さないため、不当な雇い止めをやめさせ、安心して働き続けられるようにするため、そして、何より質の高い行政サービスを提供し続けられるようにするため、一緒に頑張っていきましょう。

 

 

 

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