川村雅則「議員の力で、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を(番外編)」『NAVI』2024年7月1日配信
文章や図表を加筆しました(2024年7月2日記)。
下記の連載の続き(番外編)です。お読みください。
・川村雅則「議員の力で、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を(1)」『NAVI』2024年5月25日配信
・川村雅則「議員の力で、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を(2)」『NAVI』2024年5月26日配信
・川村雅則「議員の力で、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を(3)」『NAVI』2024年5月27日配信
2024年6月28日、いわゆる3年公募に関わる通知(「「期間業務職員の適切な採用について」の一部改正について」)[1]が人事院から各省庁に対して出されました。「趣旨及び概要」は下記のとおりです。
期間業務職員を再採用する場合も最初の採用の際と同様に公募を行うことが原則であるが、面接及び従前の勤務実績に基づき能力の実証を行うことができるときは公募によらない再採用を行うことができる。この公募によらない再採用について、局長通知ではその上限回数を原則2回までとするよう努めることと記載していたが、今回この部分を削除する。
出所:人事院「「期間業務職員の適切な採用について」の一部改正について」2024年6月28日より。
この人事院通知をうけて、総務省は、いわゆる総務省マニュアルを改正しました(以下、2024改正マニュアル)[2]。改正内容を画像で貼り付けます。
出所: 総務省「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)」の改正について(通知)(令和6年6月28日付総行公第49号)より。
3年公募に関する国の取り扱い部分が削除されています。
会計年度任用職員の安定雇用の実現に向けた一歩であり、この問題に取り組んできた関係者による成果である、と認識しています[3]。そのことを強調した上で、次のことは確認しておく必要があると考えます。
(1)各自治体で公募が廃止されるに至るかは予断を許しません
「国の取扱いは例示として示していたものであり」と今回の2024改正マニュアルで書かれているように、各自治体の会計年度任用職員制度において公募(再度任用時における公募。以下、同様)を導入・実施することは、そもそも義務ではありませんでした。
ゆえに、新制度(会計年度任用職員制度)が2020年度から始まる際に公募を導入しなかったり、制度が始まってから途中で公募の実施をやめる自治体もありました。
新制度が導入された当初こそ、制度の大きな変化のなかで、状況がよく分からずに、総務省のマニュアルどおりに制度設計をしてしまった自治体もあったかもしれません。
しかし、現場からの批判をうけて、2022年12月に、公募は義務ではないことを示す通知と改正マニュアルが総務省から出されて[4]もなお、多くの自治体は公募に固執してきました。総務省による2023年の調査(「令和5年度会計年度任用職員制度の施行状況等に関する調査」。以下、2023総務省調査)に対して公募を導入していないと回答した自治体は、14.6%にとどまります(表1)。
そのような事実を踏まえると、今回の2024改正マニュアルによって自治体が公募を廃止するかは予断を許しません。
表1 団体区分別にみた公募の実施状況(公募の実施に関する基準の設定状況)
単位:件、%
回答団体数 | いずれかの部門・職種において、公募の実施に関する基準がある団体 | 公募の実施に関する基準がない団体 | (参考)2021年調査における、公募の実施に関する基準がない団体 | ||||||||
毎回公募を行い再度任用する部門・職種がある | 公募を行わない回数等の基準を設けている部門・職種がある | ||||||||||
都道府県 | 47 | 47 | 100.0% | 19 | 40.4% | 47 | 100.0% | 0 | 0.0% | 0 | 0.0% |
指定都市 | 20 | 19 | 95.0% | 7 | 35.0% | 19 | 95.0% | 1 | 5.0% | 1 | 5.0% |
市区 | 795 | 702 | 88.3% | 220 | 27.7% | 520 | 65.4% | 93 | 11.7% | 90 | 11.3% |
町村 | 926 | 759 | 82.0% | 441 | 47.6% | 324 | 35.0% | 167 | 18.0% | 134 | 14.5% |
合計 | 1788 | 1527 | 85.4% | 687 | 38.4% | 910 | 50.9% | 261 | 14.6% | 225 | 12.6% |
(参考)2021年調査の合計 | 1788 | 1563 | 87.4% | 723 | 40.4% | 899 | 50.3% | 225 | 12.6% |
注1:一部事務組合等は除いて計算。
注2:同一自治体で「毎回公募を行い再度任用する部門・職種」と「公募を行わない回答数等の基準を設けている部門・職種」の両方を有するケースもあるため、合計で100%にはならない。
注3:回答団体の数(合計、団体区分別)は、2023年調査も2021年調査も同じ。
出所:2023総務省調査より作成。
(2)関係者の説明責任が問われます
今回の人事院通知・2024改正マニュアルをうけてもなお公募を継続するのであれば、いよいよ、各自治体の見識なり説明責任が問われます。
いま働いている職員を一定期間ごとに公募にかけて新規求職者と競わせることはどのような理由で正当化されるのか。提供される公共サービスの質向上につながるのでしょうか。公務能率の増進につながるのでしょうか[5]。一般論ではなく、自らのマチの公募や選考の実態、公募による「成果」などとあわせて説明することが求められるのではないでしょうか。
その際、首長独裁の自治体でない限り、当該自治体の労働組合(職員団体)や議会もまた、責任を免れ得るものではない、と考えます。
もちろん、公募の廃止に向けて力を尽くされている労働組合や議員・会派の存在は承知しています。
しかし、例えば、正職員だけで構成された労働組合、とりわけ、会計年度任用職員(非正規職員)の組合加入をまだ認めていない労働組合ではどうでしょうか。団体交渉で公募の廃止は要求されているでしょうか。労働組合自身が公募制を認めている、というようなことはないでしょうか。
議会はどうでしょうか。公共サービスの質にも関わる重要な事柄でありながら、会派をこえた議論はなされているでしょうか。労使自治の尊重を建て前として、行政の監視という役割を放棄しているようなことはないでしょうか。
首長/労働組合/議会における責任の割合は、それぞれの自治体でさまざまであると言えるでしょう。ただ、労働組合も議会も、この問題を変えられる主体であるからこそ、責任は免れ得ない──そう考えられるべきではないでしょうか。
(3)公募以前に大量の離職が発生しています
もう一つ述べておかなければならないことがあります。
大量離職通知書が各自治体で作成されハローワークに提出されているかを調べるなかで、公募にかけられる以前に、少なくない自治体で、「大量」の会計年度任用職員が離職している状況が明らかになりました(2024年の結果は近日中に報告予定)。
公募廃止に向けた取り組みと並行して、そもそも、ご自身のマチでどの位の離職がどのような理由で発生しているのか調べる作業が急務です。
この問題については、大量離職通知書に関する自治体の対応に疑問を感じて行った「大量離職通知制度に関する北海道労働局への質問とご回答」『NAVI』2024年6月15日配信もご参照ください。
(4)国の責任で制度の改善が不可欠です
自治体の判断で公募をなくすことの意義は大きいです。しかし、公募をなくすだけでは十分ではありません。目指すべきは、雇用の安定、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現です。
そう考えると、会計年度ごとの任用を基本設計とした国・総務省の責任は大きいです。
任用の適正化が新制度導入の理由にあげられながら、適切な制度設計が行われなかったことの弊害が、この間の数多くの報道にも示されるとおり、噴出しています(ウェブ上で読める『東京新聞』の記事をあげておきました)。
その一方で、会計年度ごとの任用という条件に加えて、労働基本権が制約され、会計年度任用職員は、問題の是正を図る手を縛られた状況にあります。まったくもって理不尽ではないでしょうか。
国の責任で会計年度任用職員制度の改善が必要です。
以上のことを踏まえつつ、公募になお固執する自治体で議員をつとめておられる皆さまにおかれましては、まずは、2024改正マニュアルを関係部署に持参し、公募制を含め、公共サービスの担い手である会計年度任用職員の任用・人事管理のあり方をどうするのか。9月議会に向けて、首長・行政側とはもちろんのこと、議会内では会派をこえて、早急に協議を進めていきましょう。
[1] 人事院「「期間業務職員の適切な採用について」の一部改正について」2024年6月28日。
[2] 総務省「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)」の改正について(通知)(令和6年6月28日付総行公第49号)。参考。
[3] もっとも、具体的にどのような交渉や議論などがあったかは詳しくは把握できておりません(自治体の労働組合のほか、国の公務員労働組合による粘り強い取り組みがあったことは伺いました)。その把握自体が重要な研究課題であり、引き続き、関係者からの情報収集につとめたいと思います。さしあたり、全労働による「期間業務職員の公募にかかる全労働の見解」、国公労連による「パンフレット『非正規公務員を差別しないで! 国の非常勤職員の手記』を制作しました」など参照。
[4] 総務省「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)の修正等について(令和4年12月23日総行公第148号・総行給第82号・総行福第358号・総行安第49号)」。別紙2。
[5]地方公務員法第1条 「この法律は、地方公共団体の人事機関並びに地方公務員の任用、人事評価、給与、勤務時間その他の勤務条件、休業、分限及び懲戒、服務、退職管理、研修、福祉及び利益の保護並びに団体等人事行政に関する根本基準を確立することにより、地方公共団体の行政の民主的かつ能率的な運営並びに特定地方独立行政法人の事務及び事業の確実な実施を保障し、もつて地方自治の本旨の実現に資することを目的とする。」
(関連記事など)
・総務省「会計年度任用職員制度等」。
・『東京新聞』による、2024年に配信された非正規公務員に関する記事(ネット上で読める記事)。
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・川村雅則「会計年度任用職員の給与等(勤勉手当・給与改定・最低賃金)に関する総務省調査(2023年12月)の北海道及び道内市町村データの集計結果(中間報告)」『NAVI』2024年5月31日配信
・川村雅則「大量離職通知制度に関する北海道労働局への質問とご回答」『NAVI』2024年6月15日配信