川村雅則ゼミナール「(学校で労働法・労働組合を学ぶ)さっぽろ青年ユニオンに聞いてみよう 労働組合ってどうすごいんですか?」

学校で労働法・労働組合を学ぶ

さっぽろ青年ユニオンに聞いてみよう

労働組合ってどうすごいんですか?


文責:川村雅則ゼミナール

 

 

Ⅰ.はじめに──私たちの問題意識

私たち川村ゼミナールでは、調査活動を通じた学生アルバイトの現状把握や、調査で明らかとなった学生アルバイト問題に対する解決策の研究活動などを行っています。

今年度は、いわゆるブラックバイト問題を解決し、学生にとって働きやすい労働環境を整備するにはどうしたらよいか、という問題意識で調査活動を開始しました。

学生アルバイトは非正規雇用に分類され、柔軟な働き方が可能であるとされる一方で、職場での立場が弱い働き手です。そのため学生アルバイトは、企業・使用者との間で発生するトラブルに遭いやすいことが考えられます。また、仕事や法律に関する知識や経験がほとんどないため、トラブルに遭遇してもその解決が難しい存在であると思います。

では、どうすればそういったトラブルを回避したり、不幸にして遭遇してしまったトラブルを解決することができるのか──いろいろと勉強した結果、私たちは、労働組合という方法にたどり着きました。

しかし、私たち学生には労働組合という組織は遠い存在であって、論文などを読んでもピンとこないというのが正直なところです。そこで、ブラックバイト問題をはじめとする労働問題の解決に実際に取り組んでいる労働組合から話をお聞きしよう、ということになりました。そしてインターネットで調べた中で、「さっぽろ青年ユニオン」[1]が私たちの問題意識に近いと考え、今回、聞き取り調査のお願いをしました[2]

本稿では、労働組合がどのような活動をしているのか、どのような力をもっているのかなど、私たちの調査結果を取りまとめて、ブラックバイト問題に困っている学生や問題の解決策を探している学生に役立ててもらうことを目指します。

なお、聞き取りの結果やご提供いただいた資料は、私たち川村ゼミで整理・再構成をしています。もしも誤りなどがあった場合の文責は私たちにあります。

 

[1] さっぽろ青年ユニオンのウェブサイトのトップページには次のように書かれています。「さっぽろ青年ユニオンは、若い人の労働環境をよりよいものに変えていくことを目的としてつくられました。/パワハラ、セクハラ、残業代・賃金未払い、長時間労働、最低賃金、辞めさせてもらえない、ブラック企業、学生バイトなどの労働問題の解決を目指しています。/相談員も20代、30代の若者ですので、お気軽にお問合せください。」

[2] 札幌には、「さっぽろ青年ユニオン」以外にも、「札幌ローカルユニオン『結』」「札幌地域労組」など、一人から入れる労働組合が他にもあります。

 

 

 

Ⅱ.調査の概要

さっぽろ青年ユニオンに私たちが尋ねたい項目を整理し、調査の依頼文書とあわせて事前にお送りしました。事前にお送りした質問は以下のとおりです。

 

  1. まず、さっぽろ青年ユニオン様はどのような目標を持ち、その達成のためにどのような意識を持って動いているかということをお聞きしたいです。
  2. さっぽろ青年ユニオン様は多くのアルバイトに関するトラブルの相談を受けていると思いますが、どのような内容の相談が多いですか。また、その相談内容の解決のために具体的にどのような働きをしていますか。
  3. 数多くの相談を受けていると思いますが、年間でどのくらいの相談を受けて、平均1つの相談に対してどのくらい時間をかけて対応しますか。また、解決できないトラブルなどはありますか。
  4. たくさんの相談を受けている中で学生が働きやすいアルバイト環境を作るために何が必要だと考えていますか。
  5. ほとんどがアルバイト側からの相談だと思いますが、使用者側のアルバイトトラブルに関する認識などを調査したことはありますか。
  6. さっぽろ青年ユニオン様の具体的な活動内容を知りたいので実際にあった相談の内容と問題解決までに行ったことを具体的に教えてください。
  7. 最後に、具体的にアルバイトトラブルの解決に向けて学生達ができることはありますでしょうか。

 

聞き取り調査を行った日時は、2023年10月27日(金)16時~18時過ぎで、調査を実施した場所は、北海学園大学豊平キャンパス2号館2階22番教室です。

さっぽろ青年ユニオンからは、委員長の岩﨑唯さんのほか、組合員の方1名が参加されました。

 

(さっぽろ青年ユニオンからの聞き取り調査)

 

 

 

Ⅲ.調査の結果

調査当日にさっぽろ青年ユニオンから伺ったお話や、提供いただいた資料などに基づきまとめていきます。

 

1.さっぽろ青年ユニオン設立の経緯

青年ユニオンはどのような経緯で設立されたのでしょうか。10年以上前になりますが、学生だった岩﨑さん自身がブラックバイト問題を経験したことがきっかけの一つになっているそうです。当時の岩﨑さんのアルバイト状況などをまとめました。

 

2010年から2014年、岩﨑さんが天使大学の大学生だったときに、今はもうなくなってしまった、札幌駅付近にあったカフェで岩﨑さんは働いていました。初めてのバイトでした。大学に入って、親にあまり迷惑かけたくないというのと遊ぶお金が欲しさに、1年生の5月頃からアルバイトを始めたとのことです。

最初は緊張して、覚えることもたくさんありました。ただ、お金が稼げたし、先輩も優しいし、とても楽しく働いていました。大学3年生ぐらいになったときに、自動車の免許を取るのにもう少し稼ぎたいと思って、近所の居酒屋でもダブルワークを始め、学校とバイトだけの生活になりました。そして、ちょうどその頃から、アルバイト先のカフェで、ちょっとおかしいなと思うような出来事が色々と出てきたそうです。

例えば、(1)締めの作業を22時までに行うのに対して、22時を過ぎたら店長がタイムカードを勝手に切ること。(2)当初はシフトも結構融通が利いたのですが、学生バイト主体のところだったので、みんなが希望休を出し過ぎてしまい、希望休は学校の用事か本当に大事な用事しか書かないでくださいと言われて、素直にそのようにしたら、他の日は全部にシフトを入れられるようになったこと。(3)最低賃金が徐々に上がってきていて、働き始めた当初は最賃と時給に50円以上の差があったのが、もうあと10円ほどにまで追いつかれる状況になったこと(「こんなに大変なことをしているのになんでこんな低い時給で働かされているんだろうって」)などです。

ダブルワークがもうしんどくなって、岩﨑さんは、結局、居酒屋のバイトを辞めることになりました。

ちょうどそんなときに首都圏青年ユニオンという労働組合の人たちの話を聞く機会がありました。そのときに、(1)タイムカードを勝手に切るのは違法であること、(2)シフトも、自分が希望する以上に勝手に入れられるのはおかしいこと、(3)アルバイト先の店長がパワハラ気質でその日の気分次第の対応だったのも、問題であることを知って、「すごい雷を落とされたような衝撃」があったそうです。

岩﨑さんは、それまで、「本当に無知で、自分では何もできない」と思っていたのを、職場の問題を労働組合で変えた学生がいると聞いて、すごく希望が湧きました。ただ、見たこともないのに、何となく、労働組合というのは、おじさんたちがやっているものだと思っていました。それで、「若い子が入れる労働組合が札幌にあったらいいな」と思い、友人・知人たちと「さっぽろ青年ユニオン」の結成に至りました。組合は現在8年目になります。

そのような感じなので、逆に、私たちが大学で今勉強しているようなワークルールなどは、岩﨑さんは何も知らなかったとのことです。それでも労働組合って作れるんですよ、というところから調査当日は話を始めてくださいました。

 

 

2.さっぽろ青年ユニオンは何を目指して活動しているのか

さっぽろ青年ユニオンはどのような組織で、何を目指して活動しているのでしょうか。伺った話を以下にまとめます。

 

ユニベア(さっぽろ青年ユニオンのマスコットキャラクター)

 

首都圏青年ユニオンをはじめとする様々な青年ユニオンが全国には存在します。

その中でも私たちが話を聞いたさっぽろ青年ユニオンは、2015年12月22日に結成された、北海道札幌市近郊を活動地域とする労働組合で、パート、アルバイト、フリーター、派遣、正社員といった雇用形態や、働き方、職業などに制限がなく、労働者であれば一人でも加入することができる、若者のための労働組合です。若者のための組合なので、対象年齢は、15歳から30歳代までを目安としているとのことです。

普段私たちが報道などで見聞きする、同じ会社の労働者で組織される「企業別組合」とは異なり、さっぽろ青年ユニオンは、全ての労働者が企業の垣根を越えて組織される労働組合となります。

 

次に、さっぽろ青年ユニオンの活動目的・目標などをまとめます。これは、さっぽろ青年ユニオンに限らず、労働組合の目的・目標となります。

労働組合の目的・目標は主に3つあります。

 

資料 団結による労使対等の実現

出所:さっぽろ青年ユニオン当日配布資料より。

 

一つ目は労働者と使用者が対等の立場に立つということです。現実の職場では労働者と使用者は対等ではありません。これを対等な立場にするために労働組合を作ります。この点は労働組合法に書かれたとおりです。

二つ目は、労働者の地位を向上させることです。弱い立場である労働者が団結し、集団で交渉することで対等な関係を築き、そのことではじめて労働者の地位を保護・向上させることが可能となるのです。

三つ目は、労働協約を結ぶことです。会社には、就業規則といった職場のルールがあります。しかし、この就業規則は、会社の代表である社長など使用者と呼ばれる人たちが自由に作れるものとなっています。そこで、そのような就業規則とは異なり、労働組合と会社が約束した労働協約というものを結ぶことが、労働条件の改善にとって重要になってきます。この労働協約は、就業規則よりも優先されるという効力があります。

 

(参考)

労働組合法

(目的)第一条 この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。

労働基準法

(労働条件の決定)第二条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。

 

 

 

3.さっぽろ青年ユニオンにはどんな相談が寄せられるのか

さっぽろ青年ユニオンに寄せられた労働相談の件数(2016年~2023年)と最近の相談内容などを整理しました。

図 さっぽろ青年ユニオンに寄せられた労働相談件数の推移

出所:さっぽろ青年ユニオン当日配布資料より。

 

2016年からの相談件数の推移は図のとおりで、例年20件に満たなかったのが、2020年に87件にまで急増しています。2020年はコロナによる休業などで4、5月だけで60件以上の相談が寄せられたそうです。

2021年には再び例年のような件数となりましたが、2023年は20件を超える状況です。

 

表 2023年の労働相談内容

内定取り消し 1件 職場内における虐待行為 2件
有給休暇 1件 賃下げ 2件
業務委託トラブル 1件 低賃金(賃上げ) 2件
残業未払い 2件 解雇 4件
長時間労働 2件 ハラスメント 6件

出所:さっぽろ青年ユニオン当日配布資料より。

 

表は2023年の労働相談の内容です。

ハラスメントが最も多く6件です。解雇が4件で2番目に多くなっています。

今年の特徴としては、職場内で発生した(利用者への)虐待行為についての相談が寄せられていることだそうです。類似の事件が報道されたことがきっかけではないかと推測されています。

過去の労働相談も含めると、例えば、雇い止めにあいそうだ/雇い止めにあってしまった、退職勧奨を受けた、内定を取り消された、有給休暇の支給金額はどう計算するのか、残業代が未払いである、時給を下げられる、そもそも賃金が上がっていかないのだけれどもどうすれば賃金は上がるのか、長時間労働である、コロナワクチンの接種証明を拒否したら嫌がらせをされている、業務委託の方が会社とトラブルにあっている、などなどの相談が来ているとのことです。

 

 

4.労働問題の解決方法にはどのようなものがあるのか

アルバイト先や職場で問題に遭遇したときどのような解決方法があるのでしょうか。私たちは今回、労働組合という手法を学んでいるわけですが、他にも幾つかの方法があって、それぞれにメリットとデメリットがある、と岩﨑さんは説明してくれました。以下に整理します。

 

第一に、私たちもイメージしやすい「弁護士」です。

弁護士を使うメリットは、自分の労力がかからずに済むことです。しかし、デメリットとしては、和解後や判決後の職場環境の改善までは実行されないことです。何よりも、金銭的な余裕がないと頼めないことです。

第二に、「労働委員会」[3]という行政機関です。

メリットは、弁護士と違ってお金がかからないことです。公益委員・労働者委員・使用者委員など、大学の先生や弁護士、労働組合、使用者などの専門家が自分と会社の間に入って、お互いを説得しながら折衷案などを出してくれることです。

デメリットは、会社側には労働委員会からの質問に答える義務がなく、無視される可能性もあることです。

第三に、「労働基準監督署」[4]です。私たちも名前を聞いたことがある行政機関です。

メリットは、会社の問題を調査することができて、もしも労働基準法に違反していた場合には、会社を起訴することができる強い権限をもっています。労働者の側には金銭的な負担はありません。

デメリットは、調査の依頼を労基署に行ったことが会社に知られるおそれがあります。また、労働基準法違反以外は対応されない可能性があること、労働環境の改善は会社側に任せられるため、改善されない可能性があることなどがあげられました。

以上の手段・機関に対して、労働組合にはどのようなよさがあるのでしょうか。まず、労働組合による労働相談解決の流れを以下に示します。

 

図 労働組合による労働相談解決の流れ

出所:さっぽろ青年ユニオン当日配布資料より。

 

労働組合のメリットは、会社側が無視をすることができないことです。そして、誰か代理を立てるわけではなく、交渉の場で自分の意見を言うことができることです。

流れは、まず、労働者がユニオンに相談して、ユニオンに加入します。ここまでのあいだで、ユニオンは、相談者から話を聞いたり、集めた証拠を整理します。

次に、ユニオンは、相談者からの相談や要求に基づいて要求書を作成し、会社に対して団体交渉を申し入れます。

ユニオンから団体交渉を要求された会社は、誠実に対応する義務が生じます。無視することは法律違反となりますから(後述の労働組合法第7条を参照)、よほどのケースを除いて、確実に交渉ができます。交渉の場で労働者は、会社に対して自分の主張や要求などを言うことができます。その際には、ユニオンのメンバーも一緒に交渉にのぞみます。団体交渉では、会社と対等に話し合い、会社を辞めずに環境の改善ができます。

問題が解決するまで団体交渉を繰り返したり、ストライキを行ったり、社会にPRなどをします。途中で会社と和解(妥結)することもあります。

では、労働組合という手法のデメリットはどのようなものでしょうか。

それは、労働組合のメリットそのものがデメリットにもなることです。つまり、ユニオンが全面的にバックアップするとはいえ、相談者・労働者は、自分自身が動かなければなりません。それが自分には無理だという人にとっては、労働組合という手段は選ばれないようです。他には、労働組合への加入で組合費を必要とすることがデメリットととられることもあるそうです(但し、さっぽろ青年ユニオンは、組合費は月500円という低額に抑えています)。

なお、さっぽろ青年ユニオンの経験による、労働組合で問題を解決するのに要する、おおよその期間は以下のとおりです。

 

資料 労働組合で問題を解決するのに要するおおよその期間

労働相談で話を聞く→解決(当日)

証拠を集める(数日~1ヶ月)

要求書を作り、会社に要求する→解決(1ヶ月程度)

団体交渉を申し入れる(待機期間2週~4週)

団体交渉を行う→解決(2ヶ月以内)

団体交渉を繰り返す→解決(~6ヶ月程度)

妥結(和解)する→できない場合は別の手段

出所:さっぽろ青年ユニオン当日配布資料より。

 

(参考)

労働組合法

(不当労働行為)第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

一 〔略〕

二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。

 

[3] 詳しくは、北海道労働委員会のウェブサイトX(旧Twitter)などを参照。

[4] 詳しくは、北海道労働局「労働基準監督署について」を参照。

 

 

5.労働組合にはどれだけの力があるのか──問題解決事例より

労働組合による問題解決方法などを聞いてきましたが、労働組合にはどれだけの力があるのでしょうか。実際の問題解決事例を例にして話を聞きました。現在組合員であるAさんの事例です。

 

Aさんは、高校卒業後、18歳で札幌市にある建築資材の卸売りの会社(以下、B社)に就職をしました。

B社ではタイムカードが無くて、出勤時刻・退勤時刻は手書きで記録することになっていました。仕事は朝が早く、本来は8時半の出勤となっていたところを、勤務前の職場の清掃などを上司に命じられていたため、会社には7時半くらいには着いていました。つまり、1時間の「前残業」があったことになります。終わりは、定時で上がれる日もありましたが、遅い日は23時頃でした。

残業は、1時間以上をしてはじめて残業代が発生するような状況で、なおかつ、1時間を超える部分でも、30分未満は切り捨てられていました。ですから、1時間と28分で退勤した場合は、28分のぶんは切り捨てられることになります。切り捨てられた分がいっぱいありました。昼の休憩も、電話番をしなければならなかったので、完全な自由時間という意味での休憩にはなっていませんでした。

そういう状況で働き不満もたまっていたAさんは、ちょうどその頃、さっぽろ青年ユニオンによる、発足前のアンケート調査活動をSNSで見かけたのがきっかけで、そのまま、さっぽろ青年ユニオンの準備会に参加。その後、全国のユニオンの集会などで、学生・青年たちによる労働組合の実践などを見聞きする中で、自分の問題で会社と団体交渉することを決めました(「例えば、着替えの時間には賃金が支払われていないケースがほとんどだと思いますが、当時、同世代の人たちが自ら行動をして、交渉をした結果、全ての店舗で解決をしたとかの事例を聞いて衝撃を受けて、私もやってみたいと思ったのがきっかけです。」)。

団体交渉にのぞみ、3,4回交渉を繰り返して、2年間の未払い残業代として100万円が支払われました。昼休みの分は支給されませんでした。そこは交渉ごとなので、ユニオンの側も譲歩する場面もあったそうです(「団体交渉中も、ちょっとタイムといって、別の部屋で相談をして、どこまでだったらよしとするか、など決めていく感じ」)。

こうした成果を勝ち取ったものの、Aさんは退職を前提にして交渉していたので、とりあえずは自分の分だけを勝ち取って会社を後にしました。そのため、その負い目があって、それ以降会社の人たちとは会っていませんでした。しかしながら最近、当時の後輩と会った際に、Aさんが辞めた後に会社で残業代が出るようになったことを教えられ、感謝されて、とても嬉しかったそうです(「私のやったことがその後会社に変化を起こし、それでみんなが喜んでくれているんだ。よかったと思いました。」)。

以上のような自分自身の経験や仕事のことを振り返ってみると、Aさんは、自分が通っていた高校は進学する生徒がほとんどで、自分自身ももともとは進学を考えていたのが、事情があって就職することになり、そのため、他の卒業生たちとは時間も合わない生活になりました。そういう中で、大学進学したわけでもなく高卒で就職をして、自分にもちょっとコンプレックスがあったのかもしれない、ちょっとモヤモヤしていたかも、と言います。

でも、そういう自分でも、労働組合でこんな成果をあげることができるんだ、と自信をもつことができたそうです。

 

 

 

Ⅳ.まとめに代えて

私たちは、冒頭に書いたような問題意識をもって、さっぽろ青年ユニオンから聞き取り調査を行いました。

お話を伺い、提供された資料を読み込む中で、労働組合の強みを具体的に学ぶことができました。さっぽろ青年ユニオンでは、そういった労働組合の強みを活かして、相談者・労働者に寄り添い、ともにたたかうことで、問題の解決、要求の実現に向けて力を尽くされていました。

労働組合の力、団体交渉の効果というのは、私たちが想像していたよりも大きく、さっぽろ青年ユニオン・労働組合という組織が、労働問題で困ったときに信頼をして助けを求めることができる場所であると感じることができました。

今回の調査でとくに印象的だったのが、一人一人が行動することで、個人・自分自身の問題の解決につなげていくのはもちろんなのですが、効果はそこにとどまらず、まわりにも広がっていくことになり、そのことで全ての人が働きやすい環境をつくることができるということです。自分たちの行動次第で未来を変えることができることを知った貴重な機会となりました。

 

さっぽろ青年ユニオンの皆さん、いろいろ教えていただきありがとうございました!

 

 

 

参考文献

岩﨑唯、原田仁希、尾林哲矢(2020)「青年ユニオンに聞く/アルバイト 学生に休業補償──コロナ禍で働く若者の苦境 声上げて制度変える」『経済』第301号(2020年10月号)pp.46-52

上西充子(2016)「権利主張という発想がない若者の現状を出発点に」『季刊労働者の権利』第314号(2016年4月号)pp.61-67

上西充子(2022)「就活の労働問題」『都市問題』第113巻第10号(2022年10月号)pp.17-23

児美川孝一郎(2014)「日本型就職・雇用モデルの崩壊と教育の課題」『DIO(連合総研レポート)』第292号(2014年4月号)pp.4-7

児美川孝一郎(2019)「若者の「自己責任」への呪縛と企業社会への馴化」『月刊全労連』第274号(2019年12月号)pp.1-8

神部紅(2015)「ブラックバイトの実態と首都圏青年ユニオンの取り組み」『季刊労働者の権利』第309号(2015年4月号)pp.69-75

道幸哲也・浅野高宏編著(2021)『学生のためのワークルール入門 アルバイト・インターンシップでトラブルにならないために 第3版』旬報社

濱口桂一郎(2020)「(緊急コラム)労働政策対象としての学生アルバイト」|『労働政策研究・研修機構(JILPT)』2020年5月7日配信

萬井隆令(2004)「使い捨てられる若者たち」『世界』第723号(2004年2月号)pp.154-161

 

 

(関連記事)

川村雅則ゼミナール「北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載1)」『NAVI』2023年7月29日配信

川村雅則「あなたの近くの労働組合──仕事で困ったときには気軽に相談を」『NAVI』2022年3月18日配信

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