川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載1)』

川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載1)』2023年7月29日

 

2023年の『学生アルバイト白書』づくりが始まる

 

2023年の『北海学園大学 学生アルバイト白書』(以下、『白書』)作りが始まりました。

今年は、調査活動はもちろん実施しますが、そこにとどまることなく、調査でせっかく明らかになった結果をエビデンスにしながら、学生アルバイト問題の解決に貢献するような具体的な活動に取り組んでみたい──この台詞はおそらく、この数年、繰り返し述べていることですが、今年こそは、なんとか1歩を踏み出してみたいと思います。

そこで今年は、最終ゴールをまず決めた上で、それを実現するための活動をみんなで考えてみました。

結果、最終ゴールは、いわゆるブラックバイトをなくし、学生が働きやすいアルバイト環境をつくるのに貢献すること、となりました。

では、そのために何をすればよいでしょうか。

実現可能性は踏まえなければなりません。一方で、諸団体にはできない(学生にしかできない)よい仕事をして欲しいところです。

インターネット・SNSでの情報配信!とはよく出される案ですが、そういうのはすでに行われておりますし、しかも我々がそれらを超えたものを作り出すのは、かなり難しいでしょう。あーだこーだの議論と混乱と教員による「誘導」などを経て、次のような活動に集約されてきました。

 

(1)いわゆるブラックバイト問題をなくすための取り組みをしている団体・機関(以下、団体等)から聞き取り調査を行い、当該団体等の存在やその取り組みを広く知らせる。

団体等の候補として具体的には、学生アルバイト問題など扱っている労働組合や、労働行政機関(北海道労働局、労働基準監督署)、自治体(札幌市、北海道)を想定しています。

なお、これらの団体等を訪問する際には、私たちが調べた調査の結果もお届けしたいと考えています。

準備作業として、団体等の情報を整理したほか、ブラックバイトをなくすために役立つウェブサイトやアプリの情報も整理をしているところです。

 

(2)私たちがこれまでに取り組んできた調査の結果や自分たちのアルバイト経験を整理して、配信する。

これまでの調査結果は、下記のとおり『白書』等で配信をしていますが、読みやすいものには必ずしもなっていません。そこで、学生アルバイトはどんな問題・トラブルを経験しがちなのか、また、そうした問題・トラブルは労働法的にどう問題なのか、などを「学生目線」で整理をしてみようと思います。

■地域研修報告書(『白書』の要約)
川村雅則ゼミナール「コロナ下3年目における学生アルバイト等(地域研修報告書2022)」
https://roudou-navi.org/2023/04/05/20230331_kawamuramasanori/
川村雅則ゼミナール「新型コロナウイルス禍の下での学生アルバイト等(地域研修報告書2021)」
https://roudou-navi.org/2022/04/03/202203_kawamuramasanori/
川村雅則ゼミナール「新型コロナウイルス禍の学生生活等をめぐる問題(地域研修報告書2020)」
https://roudou-navi.org/2023/04/05/20210331_kawamuramasanori/ 

■もとの『白書』
川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2022(連載10)』
https://roudou-navi.org/2022/10/24/20221024_kawamuramasanori/
川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2021』
https://roudou-navi.org/2021/12/06/20211003_kawamuramasanori/
川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2020』
http://www.econ.hokkai-s-u.ac.jp/~masanori/20.12labour
川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2019』
http://www.econ.hokkai-s-u.ac.jp/~masanori/20.01labour

 

(3)もちろん、今年も、学生アルバイト調査に取り組みます。

今年は、労働条件や働き方など学生アルバイトの基本的な情報のほか、アルバイト先での問題・トラブル経験の有無やそのときの対応、学生たちのワークルールの認知状況などの把握に力を入れます。そのことによって、関係する団体等がこの学生アルバイト問題にあらためて目を向ける/関心を持つような「資料」を作成できればと考えています。

 

(4)条例づくりに取り組んでみます。

アルバイトは、働くということに生徒・学生・若者が最初に出会う機会です。長い職業人生の「入口」での経験はとても重要だと思います。そう考えると、教育機関・大学関係者だけでなく、もっと広く、社会全体でアルバイト問題の解決に向けた取り組みが必要ではないでしょうか。

そこで、アルバイト経験が学生たちにとってよりよい機会になるような条例の制定に取り組むことを考えました(ワークルール教育推進条例、学生アルバイト保護条例といった感じでしょうか)。現在動きが止まっている「ワークルール教育推進法(案)」が念頭にあります。この取り組みの構想については、詳細を別の機会に書きたいと思います。

今年も調査だけで力尽きてしまうかもしれませんが、行けるところまで行ってみたいと思います。成果はまとまり次第、随時配信していきます。

 

 

アルバイト問題・トラブルにご用心──学生アルバイトはこんな経験をしている

 

 

まずは、私たちがこれまでに取り組んできた調査(アンケート、聞き取り)の結果から、伝えたい内容を整理してみました。こんな問題・トラブルにご用心、という内容です。せっかくだから最新情報(?)も掲載しようということで、周囲の学生に対して聞き取り調査も行い、そこでの結果も盛り込みました。

過去の調査の結果は、2019年度*までさかのぼってみました。有効回答数は以下のとおりです。

*調査は「年」単位で行っている(4月からのゼミで作業をし、基本的には12月までに終了している)が、「年度」表記にしました。

2022年度調査 431件(1部289人、2部142人)
2021年度調査 696人(1部500人、2部196人)
2020年度調査 609人(1部436人、2部173人)
2019年度調査 1184人(1部910人、2部274人)

なお、2020年度からは、アンケート調査は、いわゆるウェブアンケートで行っています。

 

労働条件通知書や雇用契約書などがもらえない

アルバイトを始める際には、自分がどんな条件で働くのかの確認をきちんとすることが非常に重要なポイントです。約束していたのと違う!ということが、働き始めてから結構あるのです。

ところが、2019年度の調査結果(対象は1部の学生)によれば、労働条件や待遇の提示方法は、「契約書などの書面で示され、書面(コピーも含む)も渡された」が58.1%にとどまり、「契約書などの書面で示されたが、書面は渡されていない」(14.2%)を含めても、書面で示されているのは、全体の7割程度にとどまっています。残りは、労働条件が口頭だけで済まされていたり、どう提示されたか覚えていない、などの回答が続きます。

労働基準法第15条第1項では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と規定されています。労使間で労働条件の認識に違いが生じたりするのを防ぐため、労働条件通知書の交付はもちろん、雇用契約書の交付が必要です。これらは、労働者が安心して働くために必要なだけでなく、使用者を訴訟等から守るためのものでもあります。

なお、労働条件通知書と雇用契約書との違いを調べてみたので説明します。労働条件通知書とは、雇用契約を結ぶ際に、使用者から労働者に対して交付される書面であり、署名や捺印等は必要なく、一方的に通知する書類です。法律で交付する義務が定められており、2019年4月からは、電子化することが可能となりました。

労働契約法第4条(労働契約の内容の理解の促進)では、「①使用者は、労働者に掲示する労働条件及び労働契約の内容について、理解を深めるようにするものとする。」「②労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする」と定められています。雇用契約書は、なくても法的には問題ではありません(但し、労働条件が明示された書類は必要です)。そもそも、口約束のみであっても、双方が合意していれば雇用契約は成立します。

ちなみに私の職場では、労働条件通知書と雇用契約書が同一の書類となっており、かつ、電子化されています。

 

■厚生労働省「よくある質問:採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_4.html

■あなたの弁護士(弁護士の総合検索サイト)「雇用契約書と労働条件通知書の違い|知っておくべき労働条件通知の必要性」
https://yourbengo.jp/houmu/9/

 

実際の労働条件が求人票に記載された内容と異なる

関連して、次のような調査結果もあります。

2022年度の結果によれば、「求人情報に書かれていたのと仕事内容や労働条件が異なる」という経験をしたことがあるという学生が、1部では、244人中23人(9.3%)で、2部では、119人中17人(14.3%)いました。

私自身、過去にスーパーでアルバイトを始めたときに、次のような経験をしました。

当時、最低賃金は889円だったところ、求人票には、時給920円と明示されていました。研修期間などが存在することや、その期間に賃金が低くなることはとくに明示されていませんでした。

ところが、実際に働くとそのような研修制度があることを伝えられ、その上に、時給は、求人票に示されていた920円ではなく、889円であることが部門リーダーである正社員からさらっと伝えられました。正直、不満に思いましたが、急なことだったので、とくに反論はできませんでした。求人票以外には労働条件を明示はとくにされていません。

先述のとおり、仕事の内容、賃金・労働時間その他の労働条件を労働者に対して明示するのは使用者に義務付けられたことです。アルバイトを確保するために好条件を示して採用したその後に実際には不利な条件で働かせるようなことは、求人詐欺のようなものではないでしょうか。

下記のサイトにも記載のとおり、厚生労働省では、ハローワークにおける求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に係る申出等の件数を公表しています。令和3(2021)年度の申し出件数は、3870件でした。新規求人件数は、5,593,951件とありますから、そう多くはない数字のようにも思えますが、私自身が当時どこにも相談などできなかったように、実際には申し出をしなかった労働者も多数いるのではないでしょうか。

示されていた条件と違うのでは?と思ったときには、まずは、そのアルバイト先に直接言ってみたり、それが難しい場合には、「ハローワーク求人ホットライン」や周囲に相談をしてみるとよいと思います。

 

■厚生労働省「ハローワークの求人票と実際が異なる旨の申出等」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/hellowork/hellowork_kyuujinnaiyou.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/R3.pdf

■厚生労働省「ハローワーク求人ホットライン」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11601200-Shokugyouanteikyoku-ShusekishokugyouShidoukanshitsu/0000040698.pdf

 

 

準備作業にも賃金は支払われる/賃金は1分単位で計算される必要がある

 

学生がアルバイトをする上で最も関心の高いのが賃金であると思いますが、その賃金がきちんと支払われていない状況がみられます。一つは、開店準備作業などに賃金が支給されていないこと。もう一つは、賃金が1分単位で計算されていないことです。後者については、そもそもそれが違反であることを知らない学生も多いように思います。

紹介した厚生労働省のサイトでまずは確認をして欲しいのですが、労働基準法第24条では、賃金は「(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められており、これは「賃金支払の五原則」と言われます。ですから、働いた分がちゃんと支給されなければならないのです。

私たちの調査(2022年度)結果を紹介すると、まず、あなたの職場の「賃金(時間外労働、残業)の支払い単位は何分か」という問いに対して、1分単位と回答したのは全体の40.8%でした(1部・2部の合計)。全体の約3分の1は、5分単位から30分単位で処理をされており、なおかつ、「わからない」もおよそ2割を占めました。つまり、賃金は1分単位で計算される必要がある、という法律を半数以上の学生が知らずにいる状況にあります。

続いて、開店準備等の仕事に賃金が支払われないという問題をみていきます。ただ、この数年、この問題をアンケート調査では直接尋ねてはいないので、友人からの聞き取り結果がメインになります。

今回お話しを聞いたAさんの職場は、10時30分に出勤をして開店に向けた業務をしているにもかかわらずタイムカードには11時から出勤したように記入することをお店から要求されていました。30分早くに出ているだから給料をちゃんと払って欲しいと社員さんに言っても、社風がゆるいのをモットーに経営しているからなどと説明されて、要求を拒否されてしまいました(ちなみにAさんの職場では、残業も、30分単位で計算されています)。

1日に30分とはいえ、積み重なると大きな金額になります。あるときその計算をしてみると、10万円を超えていました。やはりこれはおかしいと思ったAさんは、その分の支払いを求めて労働基準監督署に申告をしたところです。

もう1人のBさんの職場は、10時の開店にあわせて、9時から10時までの間に、基本2人体制で開店準備作業を行います。具体的な作業内容は、玄関・部屋の清掃、レジの立ち上げ、厨房の立ち上げ、ドリンクバーの立ち上げなどです。

しかし、1時間で開店作業を終えることはできないので、Bさんは20分ほど早くお店に出勤をしているそうです。相方となるもう1人の方は、40分ほど早くに出勤しているそうです。

ここで問題なのが、タイムカード上は9時からの出勤で処理をされていて、9時までの賃金は支払われていないことです。時給は北海道の最低賃金額である920円ですから、Bさんの場合、1日307円ほどの未払い賃金があり(相方は613円)、1か月の出勤日数である18日前後をかけると月におよそ5,520円の未払い賃金が発生していることになります。1年(12か月)では6万6240円になります。

このような賃金の不払いは社会的にも大きな問題になっています。

例えば、昨年(2022年)10月には、アルバイト労働者が加入する労働組合(首都圏青年ユニオン)がスシローに対して、「手洗いや着替えなどの時間分の給料を払っていない」と未払い分の支払いを求めるなどの事件が報じられました。

また、後で紹介している「連合」という労働組合の調査によれば、対象の学生224名のうち2割近くの学生が未払い賃金などに関するトラブルにあっていました。およそ5人に1人の割合です。

仕事の準備にも賃金は支払われること、そして、賃金は1分単位で計算される必要があることを確認する必要があります。また、そもそも、「使用者には労働時間を適正に把握する責務」があります。そのための具体的な手法も示されています。後で紹介している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を参照してください。

いずれにせよ、もし不払いがあるようでしたらお店の側に伝えてみること、それでも問題が解決されないようでしたら、不払い分をちゃんと記録しながら、労働基準監督署や労働組合など専門機関に早めに相談することが必要です。

 

■厚生労働省「賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei05.html

■厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html

■日本労働連合組合総連合会(略称、連合)「学生を対象とした労働に関する調査」2023年1月13日
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20230113.pdf?15

■「手洗いなど準備時間の賃金、スシローに要求 アルバイト加入の労組」『朝日新聞デジタル記事』2022年10月27日 17時49分
https://www.asahi.com/articles/ASQBW5QQRQBWULFA002.html

 

 

給与明細をきちんと読めるようになること

賃金に関連してCさんから、給与明細に関する次のような話を聞きました。

先日、給料明細を確認したところ、労働組合費となんとか会費(以下、○○会費)なるものが徴収されていることに気がついたそうです。後で述べるとおり、どうやら半年ほど前から引かれていたようで、一体これはなんなのだろうかと思い、さっそく店長に話を伺ったところ、以下のように説明されました。

結論から言うと、Cさんは労働組合に加入していたようです。店長曰く、組合に入っていることにCさんが気付かなかったのは、「ユニオンショップ」という全員強制加入の協定を労使で結んでいたからで、学生アルバイト以外の従業員、つまり、正社員やパート社員などは必ず組合に加入し、組合費などが引かれているとのことでした。

Cさんは学生ではあるのですが、手当がついたり給料が少しupするなどの理由で、半年ほど前に学生アルバイトという身分からパート社員に雇用形態を変更したそうで、その際に、労働組合費と○○会費が(計1000円少々)毎月引かれるようになったのでした。

組合費が引かれているのなら何かしらのメリットがあるはずだろうと思い、労働組合に入ることのメリットについて店長に伺ってみたところ、組合に入ることで、格安ツアーに行けたり、会員特典を使って映画を安く見ることができたりするそうです。つまり、組合に入ることで、(選択肢は限られるけれども)他の人よりも安い金額で旅行や映画などの娯楽を楽しめるようになる──これが店長からの説明でした。

ただCさん自身は、正直言うとそんなのは要らないから、せっかく稼いだお金から徴収をしないで欲しいと思い、その旨を店長に伝えてみたそうです。しかし、こうして集めた労働組合費等で、様々な組合活動を行ったり、従業員の余暇を充実させることができて、そのことで仕事の質が向上されることになるのだから、必要な徴収である、といったニュアンスの説明がされたそうです。

それで納得したのかCさんに聞いてみたところ、正直、納得していない。余暇は、会社とは関係なく自分自身で充実させたいと考えているから、とのことでした。

この話をまわりの学生にしてみたところ、労働組合に加入させられて組合費をひかれているという学生がほかにもいました。でもその意味は分かっていないようでした。

給与明細は内容をきちんと確認すること、そして、疑問をもったらCさんのようにまずは店長さんや社員さんに聞いてみることが大事です。

ところで、給与明細について補足します。

給与明細がもらえないという学生からの相談が時々ありますが、これは違法です。給与明細は、給与を受け取るすべての労働者への交付が義務付けられており、所得税法第231条では、給与を支払う者は給与の支払いを受ける者に支払明細書を交付しなくてはならないと定められています。紙かデータで交付され、不交付の場合は1年以下の懲役または50万円以下の罰金が課されます(所得税法242条7号)。給与明細がもらえないのは違法なのだという知識をもつことが大切です。

 

■厚生労働省「労働条件・職場環境に関するルール」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/joken_kankyou_rule.html

■所得税法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000033

 

 

学生だってもっと働きたい/働かなければならない──年収の壁問題

学生アルバイトの中にも、現在よりも稼ぎたいと思っている者はいます。稼がなければならない学生や、働くことに意義を感じている学生です。そのような学生たちにとって気になるのが年収の壁問題です(年収の壁問題については、以下で紹介するYouTube動画が非常に分かりやすく、勉強になりました)。

生活費や授業料を自分で支払っている学生も一定数存在します。2022年度の調査によれば、アルバイトをする理由について尋ねたところ、「学費・生活費を稼ぐため」と「どちらかといえば学費・生活費を稼ぐため」の合計は、1部・2部をあわせると28.9%で、さらに、夜間部に限定すると、合計で52.1%でした。夜間部の学生にとってアルバイト収入は、学費や生活費のために欠かせないものとなっていると言えるでしょう。過去の調査ではこの点をまだ調べていませんが、年収の壁を気にすることなく働きたい、というニーズは少なくないのではないでしょうか。

ちなみに私自身は、働くことに意義を感じており、もっと働きたいと思っている学生です。アルバイト経験が、様々なマネジメントを学ぶ機会になっているためです。なので私は、勤労学生控除を用いて、130万円まで上限を上げて働き、住民税も納税しています。

私のアルバイト先では、私のように、アルバイトで学ぶことを目的に働いている学生アルバイトが少なくありません。ただ年収を抑えるために、シフトを減らして働いており、本当はもっと働きたいという声を聞きます。

最低賃金について北海道では、令和4(2022)年10月2日に889円から920円へと改定が行われました。賃金が上がったことで働くことを控えるケースが出ています。しかし今は人手不足の問題が深刻です。こうした問題を背景に、年収の壁問題に注目が集まっています。ただそこで話題になっているのはパート労働者(主婦、女性)であって、学生アルバイトのことは視野に入っていないのではないでしょうか。

人手不足を解消するためにも、また、働きたいのに働くのを控えざるを得ない学生アルバイトを減らして、経済的に困窮する学生を救うためにも、年収の壁について緩和が必要ではないでしょうか。また、現在政府で検討されている「年収の壁対策」について、学生も追加すべきではないでしょうか。

 

■ヨビノリたくみの自習室「学生バイトは要注意!103万の壁ってなに?」
https://www.youtube.com/watch?v=eTTqAct0RBg

■厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html

■「年収の壁、130万円超でも扶養可に 一時的増なら 政府対策原案」『毎日新聞』2023/6/30 20:12(最終更新 7/2 08:06)
https://mainichi.jp/articles/20230630/k00/00m/010/279000c

 

 

学生アルバイトもけっこう大変なんです!

学生アルバイトと聞けば、年配の方には、気楽なイメージをもたれるかもしれません。でも、学生アルバイトは、難しい言葉で言うと基幹的な業務を担っていて、社員さんと同じ仕事をしていたり、人手不足の中で残業があったり、そう簡単に休めなかったり、などの経験をしている者は少なくありません。

例えば、2022年度の調査結果によれば、「慢性的に人手不足である」という回答は、1部で37.7%、2部で52.9%です。「仕事の量が多かったり負担が大きい」という回答もみられます(1部で19.7%、2部で26.1%)。

関連してシフトに関する結果をみると、例えば、「急にシフトに入れられる」が1部で13.4%、2部で13.9%のほか、「入れないことをすでに伝えているのにシフトに入れないかどうか問い合わせの連絡がくる」という回答が1部19.4%、2部で14.8%でした。

飲食店で働いている友人に話を聞いたところ、人手不足で、午前中は、欠員が一人でも出ると「出勤してくれ」という要請の連絡がくるそうです。さらに、シフトを提出する前に、「午前中に出勤ができる3人の間で、休みが被らないよう話し合っておいて」と言われています。つまり、誰かが必ず出られるように調整をした上でシフトを出すということです。以前の職場では、ラストオーダーが無く、お客さんが閉店時間直前に来ると、残業があるのは当たり前だったそうです。

新人の育成もアルバイト任せで、普段の仕事をしながら新人に仕事を教えて、ミスがないよう確認作業までしていました。これって本来は社員がやるべきなのでは?と違和感をもっていたそうです。

今の職場でも、社員と同じ仕事を任されているときもあるのですが、給料はとくに上がらずに仕事量だけが増えているとのことでした。

学生アルバイトもけっこう大変なんです、ということを強調したいです。

 

学生もハラスメント被害を受けています!

小売店、飲食店などお客さんと直接対応することの多い仕事に従事する学生アルバイトは、カスタマーハラスメントの経験も少なくありません。

2022年度の調査では、「職場内での嫌がらせ・暴言・セクハラがある」よりも「客からの嫌がらせ・暴言・セクハラがある」という回答が多かったです。2部では、前者が7.6%であるのに対して、後者は16.0%に及びました。

私の友人も、客からの理不尽なクレームや言動を受けたことがあり、そのたびに嫌な思いをしています。例えば、提供した食事をすべて食べ終わった後に(!)理不尽な言い訳とともに食事代(食券による前払い制)の返金が要求されたり、仕事とは関係ないような暴言を浴びせられたりすることなどがあります。

ちなみに、クレームやカスハラに対しては社員さんが対応してくれるのですが、ただ、社員さんがいない時間帯もあり、自分で対応しなければならないこともあります。自分の身を守ることまで仕事になっているのです。

ファストフード店で働く友人たちから次のような話も聞きました。注文した商品が提供されていない、とお客さんからクレームが入って商品をあらためて提供しなければならないことが結構あるというのです。例えば、ポテトを3つ頼んだが2つしか受け取っていない、などです。しかも最近は、配達員を利用した商品提供も増えているのですが、そういう購入パターンで商品がないとお客さんから連絡が入ると、いったいどこで商品が消えたのか対応に困る、というのです。

アルバイトによる提供し忘れとか入れ間違えはないのかを尋ねてみたところ、中にはそういうケースもあるかもしれないけれども、ということわり付で、そういうクレーム自体の数が結構あって、対応に苦慮するのだそうです(「あるあるだよね」と友人同士で話していました)。

ところで、順序が逆になりますが、ハラスメントについて調べてみました。ハラスメントとは、ざっくり言うと、職場で受ける嫌がらせやいじめのことを指します。職場で起こるハラスメントの中で最も多いのがいわゆるパワハラです。

厚生労働省の説明によれば、パワハラの定義は、①優越的な関係を利用した言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、これら①~③までの3つの要素をすべて満たすものを指すそうです。

このパワハラは、業務上必要であった言動や対応であって、ハラスメントにあたるものではないと主張されることもあり、その判断が難しいことがあるそうです。

厚生労働省によると、2020年6月1日にハラスメント防止対策が強化され、職場におけるハラスメント対策は事業主の義務であると定められました。私たち学生アルバイトも、理不尽な経験をしたら、我慢することなく、会社の相談窓口や都道府県労働局雇用環境・均等部への相談をすることが必要です。

 

■厚生労働省・明るい職場応援団
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/

 

 

辞めたいのに辞めさせてもらえない/休むなら代わりを見つけろと言われる

2019年度の調査結果では(対象は1部の学生)、「バイトを辞めたいが辞めさせてもらえない」経験をしたものが4.6%みられました。ちょうどこの問題について、ファストフード店で働く友人から話を聞いていたので、以下にまとめました。

友人は、仕事があわないという理由で今のアルバイトを辞めて他のアルバイトを始めたいとお店に申し出ました。しかしお店に止められました。理由は、教育訓練にお金がかかったじゃないか、というものです。そのお店ではアルバイトにも「職位」があって、上の職位に上がるのに座学での研修(有給)などが行われており、そういったコストをかけていることが辞めさせてもらえない理由にあげられたそうです。

結局、その友人は、仕事を辞めることができず、とはいえ、あまり出勤はしたくないからということで、最低限の出勤をしている状況だそうです。

もっとも、こうして辞めづらい状況はあるのですが、お店が忙しいから、などの理由で辞めていくケースは多いらしく、新しく入ったアルバイトの半分ぐらいが1年で辞めているとのことです。

ちなみに、アルバイトなど仕事を辞められないということはありません。厚生労働省のサイトから以下の説明を転載します。

「アルバイトを含む労働者は、原則として会社を退職することをいつでも申し入れることができます。あらかじめ契約期間が定められていないときは、法律では、労働者は退職届を提出するなど退職の申入れをすれば、2週間経てば辞めることができます(民法の規定)。ただし、急に辞めてしまうと、アルバイト先が困ることもあるでしょうから、アルバイト先とよく話し合ってください。」厚生労働省「学生アルバイトのトラブルQ&A」より。

関連して、同じ友人から聞いた、仕事を休めないという問題も紹介します。

アルバイトをしていると発熱や体調不良で休みたいことがあります。しかし休みをとるのも一苦労です。例えば、休みたいと当日に相談をすると、体調管理がなっていない、などとLINEで返され、最終的に、休みをとることを認めてはもらえるのですが、代わりを見つけなければなりません。その場合、まず、お店の全体LINEに、誰か代わってもらえないかお願いの投稿をします。その上で、個々人のアルバイトの友達などにLINEを流してお願いをすることになります。前日など早い段階でお願いをした場合には、代わりを見つけることもできるのですが、当日にお願いをした場合などは、代わりが見つけられないこともあります(さすがに、休むことはできますが)。

なお、代わりをお願いした場合は、個人間でおごったりすることもあり、余計な出費が発生します。また、代わりに出勤をお願いした場合には、今度は逆に、自分自身がお願いをされたときには積極的に対応するようお店からは言われる──友人からの聞き取りをまとめると以上のようになります。

急に休まれると困る、というお店の事情はもちろん分かりますが、しかし、体調不良等であっても、ここまでの対応がアルバイト本人に求められるのは厳しいと思いました。

なお、こうした友人の経験とはちょっと異なりますが、「定期試験期間・試験前など、休みたいときに休みをとらせてもらえない」という経験は、2019年度の調査結果(対象は1部生)では、6.8%の学生が経験していました。

コロナ明けで人手不足が指摘されていること、加えて、ぎりぎりの人員でまわしていることなどを考えると、この問題がどうなっているのか気になります。

 

■厚生労働省「学生アルバイトのトラブルQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000116777.pdf

 

 

仕事による怪我や病気には労災保険制度がある!

仕事をしていると怪我をしたり病気になったりすることがあります。それは学生アルバイトであっても同じです(病気はあまり考えられませんが、怪我のほか、やけどの経験などがよく聞かれます)。

我々の調査(2022年度)によれば、仕事で怪我や火傷などの経験があるかを尋ねたところ、1部では9.4%、2部では14.3%でした。また、少し過去のデータ(2019年度)になりますが、同じく、仕事で怪我や火傷を経験したことがあるかを尋ねた結果では16.7%でした(対象は1部学生のみ)。

身近な例でも、大手スーパーで働いている私の友人が、ダンボールの解体業務をしている際に、左手を誤ってカッターで切ってしまい、4針も縫う怪我をしてしまうということがありました。

ここで皆さんに知って欲しいのが労災保険制度です。労働者は会社負担で労災保険に加入しています。そして、仕事中や通勤中に負傷した場合、労災保険の給付を受けることができるのです。

上記の私の友人も、業務中の怪我だったので、かかった医療費が負担され、休業補償も支払われることになりました。アルバイト先から労災についての説明もしっかりされました。会社の対応に友人も満足していました。

以下に示した厚生労働省のサイトで確認をしておいて欲しいのですが、労災保険は、正社員・契約社員・アルバイト・パートなどの雇用形態とは関係なく加入することになっています。また、私の友人がそうであったように、業務中の怪我であれば、医療費の自己負担はなく、休業補償も支払われることになります。

ただ、アルバイトでも正規雇用者と同様に労災保険給付を受け取れるという事実を知らない学生は少なくないようにも感じます(私たちの調査でも扱ったことはなく、あくまで感覚的なものですが)。上で取り上げた「仕事で怪我や火傷などの経験」をしたという学生たちは、その怪我や火傷をどう処理したのかが気になります。病院での対応を必要とするほどではなかったのでしょうか。

なお、労働基準法19条1項では、「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間〔略〕は、解雇してはならない。」と定めていること、つまり、怪我などを理由に解雇はできないように定められているのは、将来のためにも覚えておくべき大事なポイントだと思いました。

皆さんも以下のサイトをチェックしてみてください。

 

■厚生労働省「労災保険に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/rousaihoken/index.html

 

 

以上、「アルバイト問題・トラブルにご用心」の第1弾でした。

ワークルールを学ぶ上で、厚生労働省「これってあり?~まんが知って役立つ労働法Q&A~」もぜひご覧ください。

 

 

Print Friendly, PDF & Email
>北海道労働情報NAVI

北海道労働情報NAVI

労働情報発信・交流を進めるプラットフォームづくりを始めました。

CTR IMG