「“働く意味”考えるきっかけに/北海学園大学川村雅則ゼミ 毎年学生とアルバイト白書作成」

「(若者BOXワイド)”働く意味”考えるきっかけに/北海学園大学川村雅則ゼミ 毎年学生とアルバイト白書作成」『しんぶん赤旗』朝刊2024年3月10日付
2023年(年度)のアルバイト調査結果を『しんぶん赤旗』に取り上げていただきました。
記者クラブに投げ込みもしたのですが、どの報道機関からも取材依頼がなく、学生アルバイト問題はもう関心をもたれていないのかな、と少し残念に思っていましたところ、このように、アルバイト調査の結果だけでなく、アルバイト白書づくりにも焦点をあてて非常に大きなスペースを割いて記事を書いていただきました。大変ありがとうございました。
調査で終わらせるのではなく、調査を切り口にして、問題解決に向けた取り組みを進めたり、労働教育や主権者教育に接続していくことを展望しています。こんな感じで進められますよ、という一つのモデルにでもしていただければ幸いです。
アルバイト白書2020の表紙(2021年度以降は冊子化をしていないものですから、残念ながら2023の表紙絵はありません)

 

若者BOXワイド “働く意味”考えるきっかけに

北海学園大学川村雅則ゼミ 毎年学生とアルバイト白書作成

北海学園大学教授で労働経済学を研究する川村雅則さんのゼミでは、2011年度から「学生アルバイト白書」づくりを進めてきました。今年度は、これまでよりも学生主体の取り組みに。調査結果をふまえて、「バイト環境の整備やワークルールの推進に取り組んでほしい」と札幌市議会に陳情しました。(堤由紀子)

 

「アルバイト白書」は今回で13冊目。実態や願いを調査し、まとめてきました。

2020年からの新型コロナの感染拡大で、学生生活は一変。「実は白書づくりは、いったん区切りをつけようと思っていた」と川村さん。コロナ禍の困難を聞くうちに、実態を伝えなければと思い返し、コロナ禍を意識した白書にしました。

今年は学生主体

今年度のゼミ生は夜間部を含め32人。白書づくりを進める「ワークルール・アルバイト」グループと「労働組合」グループに分かれて、昼間部主体で調査・研究を進めました。

白書づくりに携わった2年生の鈴木康太さん(仮名)。「労働経済論」という言葉にひかれてゼミを選びました。それまでは「経済学=お金の流れの学問」と思っていましたが、「労働が経済と関わっていると知り、すごく興味をもちました」。

まずは、メンバー自身のアルバイト経験を互いに聞き取ることから始め、「時給が高い」「福利厚生がいい」などいいところを出し合います。「パワハラやセクハラがある」「働いた分の賃金がちゃんと出ない」と悪いところも交流。どこが法に違反しているか考えました。

「賃金は1分単位で支払わなければいけない」「着替えの時間にも賃金は発生する」など、鈴木さんもさまざまな気づきがありました。設問は先行研究に自分たちの関心も加えて作成。同大学全学生を対象にウェブアンケートを実施しました。

鈴木さんが聞いてみたかったのは「今のバイト環境に満足しているかどうか」でした。「問題があっても人間関係がいいからとか、不満があるけど仕方ないとかで、続ける人が多いので。ワークルールが守られているかどうかだけでは見えてこない、働き方への思いを知りたかった」

選択肢を広げる

苦労したのは、多岐にわたる調査結果のうち、どれが重要でどう読み解くのかを考える作業でした。最初は箇条書きのメモ程度だったものを、川村さんのアドバイスを受けながら文章化しました。

学生にとっては毎回が初めての経験となるため、川村さんの関わりは不可欠です。「スケジュール的な制限があってやきもきするんですが、じっと待とうと。これが結構大変だったかもしれません」と苦笑い。「白書づくりの過程は教育そのものなのですが、やはり研究としてしっかりしたものをまとめたい、という気持ちが強いですね」

学生が置かれた現状を見れば「問題があれば即、労働組合に相談しよう」というのはハードルが高いと言います。川村さんは「まずは学生にとって取りうる行動をどう広げていくかが、大事だと思うんです。とりあえず職場で聞いてみるというのがその一つ。『大学の授業で課題として出されたので』という切り口でもいい」と。

「おかしいことをおかしいと言わなかった積み重ねが、今の労働者のしんどさにつながってます。社会人になったら、もっと強い同調圧力にさらされる。その前にものを言うトレーニングになれば」。その先に労組への相談などを展望します。

鈴木さんも、バイト先の環境が気になりましたが、声を上げるにはとても勇気がいりました。「バシッとなんか言えないですよ。『ちょっと帰りが遅くないですかねえ』とやんわり言ってみました」

実際に議会陳情

2月半ばの札幌市議会開会日、結果を伝える陳情をしました。多くの議員が登庁しており、時間をとって懇談してくれる会派も。

「自分のつたない説明をこんな熱心に聞いてくれるのかと、驚きました」と鈴木さん。白書づくりをへて「働くことってどういうことなのか」を改めて考えたいと言います。授業で過労死遺族の話を聞く機会もあり、過労死は誰にでも起こりうると知りました。「どうしたら過労死をなくせるのか。そのために労働者は働くこととどう向き合えばいいか。もっと学びたいです」

 「北海学園大学 学生アルバイト白書2023」は、ウェブアンケートで得られた有効回答410人のうち、「現在アルバイトをしている」と答えた368人の回答を集計・分析。QRコードからダウンロードできます。

 

右のパネルで議員の所在を確認し、陳情のために各会派の控え室へ向かう鈴木さん(左)と川村さん=2月14日、札幌市役所
日本共産党市議団に陳情する川村さん(手前)と鈴木さん(その奥)=2月14日、札幌市役所

 

■記事でご紹介いただいた調査結果6点(番号は今回つけました)

表1-1 過去のアルバイトを含め、アルバイト先の労働条件や労働環境を改善したいと思ったことはあるか。その際に、何か改善の行動を起こしたか/単位:人、%

全体
368 100.0
改善したいと思ったことがあり、改善の行動を起こした 72 19.6
改善したいと思ったことはあるが、改善の行動は起こさなかった 154 41.8
改善したいと思ったことはない 137 37.2
無回答 5 1.4

 

表1-2 どのような改善の行動を起こしたか(対象は、「改善の行動を起こした」と回答した者に限定)【複数回答可】/単位:人、%

全体
72 100.0
アルバイトを辞めた 32 44.4
アルバイト先にトラブル改善を訴えた 19 26.4
店長や従業員に相談した 35 48.6
労働基準監督署に相談した 1 1.4
友人や知人に相談した 16 22.2
大学や親に相談した 13 18.1
その他 4 5.6

 

表2-1 最初のアルバイトを始めた際のワークルールの認知状況/単位:人、%

全体
368 100.0
よく知っていた 11 3.0
まあ知っていた 65 17.7
あまり知らなかった 189 51.4
全く知らなかった 103 28.0
(再掲)知っていた計 20.7

 

表2-2 現在の、ワークルールの認知状況/単位:人、%

全体
368 100.0
よく知っている 44 12.0
まあ知っている 179 48.6
あまり知らない 92 25.0
全く知らない 52 14.1
無回答 1 0.3
(再掲)知っている計 60.6

 

表3-1 学生アルバイトも条件を満たせば有給休暇を取得出来ることを知っているか/単位:人、%

全体
368 100.0
よく知っている 167 45.4
まあ知っている 129 35.1
あまり知らない 45 12.2
全く知らない 26 7.1
無回答 1 0.3

 

表3-2 現在のアルバイト先では学生アルバイトは有給休暇が使用できるか/単位:人、%

全体
368 100.0
使用できる 159 43.2
使用できない 51 13.9
わからない 157 42.7
無回答 1 0.3

 

 

■2023年度のゼミの活動関連

 

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