川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載5)』

川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載5)』2023年12月29日

 

『北海学園大学 学生アルバイト白書2023』の連載5では、ゼミナールでの調査の結果の一部を使って、ワークルール教育とその環境整備の必要性を提起したいと思います。連載1~4を含めてどうぞお読みください。

連載1連載2連載3連載4

 

はじめに

本稿は、筆者のゼミナールで2023年に行った、学生アルバイト実態やワークルールの認知・理解に関するアンケート調査(以下、本調査)[1]結果の一部を紹介し、もって、ワークルール教育[2]とその環境整備の必要性が理解されることを目指すものです。

筆者は、労働法と労働組合を学校で教えることを実践してきました。しかし、個々の教員や学校任せでは限界があります。こうした教育実践を後押しする環境の整備が必要です。そう考え、日本労働弁護団が中心になって制定に取り組んでいる「ワークルール教育推進法(案)」[3]に注目をし、その「条例」版を制定することができないか、と考えています。条例ですから、制定される「場」は自治体です。アルバイトを通じて仕事の世界に入っていく学生・若者たちに、ワークルールがしっかり教えられるよう、国はもちろんのこと、自治体もまた必要なことをなすべきではないでしょうか[4]

本稿は、あくまでもゼミでの今年の調査結果の一部を紹介するにとどまるものですが、ワークルール教育とその環境整備が必要であると感じてくださる方の輪が広がることを期待します。

 

 

[1] 本調査結果の詳細は、川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載4)』『NAVI』2023年12月11日配信を参照ください。あわせて、過去の調査結果などは、川村雅則「【教材庫】学生アルバイト、奨学金・学費負担、労働教育等(2023年12月27日)」をご参照ください。

[2] ワークルール教育については、この取り組みに力を注がれた北海道大学名誉教授の道幸哲也氏の各種論考を参照。さしあたりインターネット上で読めるものとして、道幸(2015)を参考文献にあげておきます。

[3] 同法(案)の詳細は、小島(2018)や日本労働弁護団のウェブサイト(のうちワークルールのページなど)を参照。

[4] 過労死等防止対策推進法では、第9条で「国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じて、過労死等を防止することの重要性について国民の自覚を促し、これに対する国民の関心と理解を深めるよう必要な施策を講ずるものとする。」とうたわれており(下線は筆者)、教育活動などを通じた啓発事業が行われています(厚生労働省「過労死等防止対策等労働条件に関する啓発事業」)。北海道では、筆者も幹事として参加する過労死防止北海道センターが同事業の受け皿となり、過労死家族の会や弁護士の方々が講師として各校に派遣され、授業を実施しています。なお、小島(2018)で言及されているとおり、青少年の雇用の促進等に関する法律の第26条(労働に関する法令に関する知識の付与)では、「国は、学校と協力して、その学生又は生徒に対し、職業生活において必要な労働に関する法令に関する知識を付与するように努めなければならない。」とうたわれています。

 

 

調査の結果

北海学園大学に在籍する全ての学生を対象にして2023年11月にウェブアンケート調査を実施しました。得られた有効回答410人のうち「現在アルバイトをしている」368人(1部生280人、2部生88人)を対象に集計・分析を行いました。以下では、1部生280人の結果を中心に報告します。

 

○ワークルールを知らぬままに働き始めている

第一に、回答者の多くは、最初のアルバイトを高校生か大学1年生で経験しています。

表は省略しますが、最初のアルバイトを始めたのがいつであったかを尋ねたところ、「大学1年生」が62.5%と最も多く、「高校生」も27.9%を占めました。なお、2部生では、「高校生」が47.7%に及びます(「大学1年生」も47.7%)。

 

表1 最初のアルバイトを始めた際のワークルールの認知状況及び現在のワークルールの認知状況/単位:人、%

最初 現在
280 100.0 280 100.0
よく知っていた/いる 8 2.9 30 10.7
まあ知っていた/いる 53 18.9 143 51.1
あまり知らなかった/ない 143 51.1 67 23.9
全く知らなかった/ない 76 27.1 39 13.9
無回答 1 0.4
(再掲)知っていた/いる計 21.8 61.8

注:対象は1部生(以下、同様)。

 

では、第二に、最初のアルバイトを始めた際に彼らはワークルールを知っていたでしょうか。

尋ねてみたところ(表1)、合計で約8割が知らなかった(あまり+全く)と回答しています。多くは、ワークルールを知らぬまま働き始めていることになります。

ちなみに、「現在」ワークルールを知っているかを尋ねると、合計で約6割が知っている(よく+まあ)状況にまで改善されました[5]

もっとも、学生たちがワークルールを実際にどこまで知っているかは、後でみるとおり検証が必要です(本調査のこの設問では、おおまかな状況の把握につとめました)。

では、ワークルールはどこで学ばれているでしょうか。

 

表2 ワークルールを知った手法・契機(複数回答可)/単位:人、%

173 100.0
高校の授業を通じて 14 8.1
大学の授業を通じて 100 57.8
インターネットや本など自分で調べて 54 31.2
アルバイト経験を通じて 75 43.4
メディアを通じて 19 11.0
イベントや講演会を通じて 3 1.7
友人や家族を通じて 22 12.7
その他 1 0.6
無回答 4 2.3

注:対象は、現在ワークルールを知っているもの(よく知っている+まあ知っている)。

 

第三に、現在ワークルールを知っていると回答した者に対して、どこで/どのように知ったかを複数回答可で尋ねたところ(表2)、「高校の授業を通じて」は8.1%に過ぎません。多いのは、「大学の授業を通じて」[6]が57.8%で、その他は、「アルバイト経験を通じて」が43.4%、「インターネットや本など自分で調べて」が31.2%と続きます。

なお、表は省略しますが、三点補足します。

(1)現在のアルバイトで働き始める際に労働条件や雇用契約書などの書面を受け取ったか(インターネット上で確認できる場合も含む)は、「受け取った」が74.3%を占めるものの、「受け取っていない」が9.6%、「わからない、覚えていない」が15.4%を占めました[7]

(2)過去のアルバイトを含め、求人情報と実際が違った経験を尋ねたところ、「ある」と回答したのが27.5%(2部生では38.6%)でした。上記(1)の結果をふまえても、契約・入職時に労働条件をチェックするという姿勢を育てるが必要です。

(3)もっとも、重要な労働条件は書面での明示義務が使用者にあるのを「知っている」のは80.0%でした。

 

 

[5] 筆者の授業(労働経済論)の履修生からの回答が一定数を占めることや、経済学部のほか法学部の学生からの回答が相対的に多いことが本調査の結果にどのような影響を与えたか/与えていないか、可能な範囲で検証したいと思っています。

[6] 注釈5を参照。

[7] さらに言うと、書面を受け取ったことと書面を理解していることとは必ずしもイコールとは言えないかもしれません。本調査ではこの点の確認をし損ねました。そこで後日に、この点を補う追加の調査を行いました。結果は、次の「連載」で紹介します。

 

 

○有給休暇制度への回答にみる、ルールを知っていることと使えることとの乖離

 

表3 有給休暇制度の認知状況と、現在のアルバイト先で使用可能か/単位:人、%

280 100.0
学生アルバイトも条件を満たせば有給休暇を取得出来ることを知っているか よく知っている 118 42.1
まあ知っている 106 37.9
あまり知らない 32 11.4
全く知らない 24 8.6
無回答
280 100.0
現在のアルバイト先では学生アルバイトは有給休暇が使用できるか 使用できる 108 38.6
使用できない 42 15.0
わからない 129 46.1
無回答 1 0.4

 

有給休暇制度を例に次のような結果を明らかにしました(表3)。

すなわち、第一に、条件を満たせば学生アルバイトも有給休暇を取得出来ることを知っているか尋ねました。結果は、おおむね知られていると評価できるもので、「よく知っている」と「まあ知っている」をあわせると約8割に及びました。

しかし第二に、自分のアルバイト先で、学生アルバイトが有給休暇を使用できるかは、「わからない」が46.1%で、「使用できない」という回答も15.0%となり、「使用できる」は38.6%にとどまりました。

ここ数年、同様の結果が把握されていますが、ワークルールを知ることと職場で使える/守らせることとの間に乖離がみられます。

 

表4 有給休暇制度の認知状況 × 現在のアルバイト先で使用可能か/単位:人、%

よく知っている まあ知っている あまり+全く知らない
118 100.0 106 100.0 56 100.0
使用できる 70 59.3 35 33.0 3 5.4
使用できない 16 13.6 19 17.9 7 12.5
わからない 32 27.1 52 49.1 45 80.4
無回答 0 0.0 0 0.0 1 1.8

注:「あまり+全く知らない」は、「あまり知らない」と「全く知らない」の合計。

 

この結果(アルバイト先での使用可能かどうか)について、有給休暇制度の認知状況別にみたところ、予想どおり、知っているほど、「使用できる」という回答が増加し、逆に、知らないほど、「わからない」が増加する結果でした。

ただ一方で、「よく知っている」群でも、「使用できる」が6割(59.3%)にとどまり、「わからない」が27.1%、「使用できない」という回答も1割を超えた(13.6%)点には留意が必要です。

なお、以上で確認された、知っていることと実際との乖離については、例えば、次の設問でも確認されました。

(1)給料の支払い単位時間が1分単位でなければならないことを「知っている」が全体の3分の2に及ぶ(66.8%)ものの、実際に「1分単位」で処理されているものは46.9%にとどまります。

(2)制服への着替え時間にも賃金が支払われる必要があることを「知っている」のは65.4%であるものの、制服への着替えに賃金が支払われていないという訴えが50.7%に及んでいました。

 

○まだよく知られていない制度・ルールもある

まだ十分に知られていない制度・ルールもあります。例えば休業手当制度です。コロナ禍とりわけコロナ禍の初期では、学生たちも、休業手当が支給されずに困ったという経験をしていました(過去の調査結果を参照)。

今回の調査では、「休業手当とは、会社側の都合(使用者の責に帰すべき事由)により、労働者を休ませた場合に支払わなければならない、平均賃金の6割以上の額の手当です」という説明もつけて、休業手当制度を知っているかどうか尋ねてみました。

 

表5 休業手当制度について知っているか/単位:人、%

280 100.0
よく知っている 43 15.4
まあ知っている 66 23.6
あまり知らない 94 33.6
全く知らない 74 26.4
無回答 3 1.1

 

結果は(表5)、「あまり知らない」が33.6%、「全く知らない」が26.4%でした。

同制度は、シフトカットや早上がりにも適用されるものですが、別の設問(表は省略)では、それぞれ4分の3(75.4%、75.0%)が、適用されることを「知らない」と回答していました。

ゆえに、普段にシフトカットあるいは早上がりの経験があるかどうかと、その際に休業手当は支払われているかどうかを尋ねた設問(表は省略)では、「シフトカットの経験があり、なおかつ、休業手当は支払われていない」ものが26.6%を、「早上がりの経験があり、なおかつ、休業手当は支払われていない」が32.2%を、占めていました(全体に占める割合が少なく感じるかもしれませんが、多くは、そもそも、「シフトカットの経験がない」、「早上がりの経験がない」です)。

さらにこの調査結果を、飲食店で働いているものに限定すると、それぞれ32.0%、51.0%に達します。飲食店では、客の入り具合で(休業手当が不支給の)シフトカットや早上がりの発生することが少なくないようです。

学生の多くはシフト制で働いています。本調査でも回答者の91.4%が「シフト制」と回答しています。

上記のとおり、シフト制労働者への休業手当をめぐる問題がコロナ禍で浮き彫りになりました[8]。コロナ禍で学生の就業機会が失われるという状況は脱したとはいえ、全額請求が可能な民法上のルール(民法第536条第2項)も含めて、休業時にはどのような所得補償ルールが存在するのか知られる必要があります。すでに決まったシフトがカットされる場合や(支給賃金が60%に満たない)早上がりに休業手当制度が適用されることも──これらは今でも少なからずみられるのですから──然りです。

なお、本調査では、次のようなことも尋ねました。

(1)「残業の手当についての質問です。法定労働時間である8時間を超えて働く場合、通常の賃金の1.25倍の残業(割増)手当が支給されることを知っていますか。」

(2)「1日の労働時間が6時間を超えた場合、少なくとも45分の休憩時間が必要であること、8時間を超える場合であれば少なくとも1時間の休憩時間が必要であることを知っていますか。」

前者の結果は、「知っている」は68.6%にとどまりました。後者の結果は、「両方知っている」は79.6%でした。そこそこに知られていると評価すべきでしょうか。この程度しか知られていないと評価すべきでしょうか。

 

 

[8] インターネット上で読めるものとして、この問題の解決に精力的に取り組んできた首都圏青年ユニオン・首都圏青年ユニオン顧問弁護団の「シフト制労働黒書」や、脇田(2021)を参照。

 

 

○学生アルバイトでもハラスメント経験が少なくない

表6 これまでのアルバイト経験の中でのハラスメント経験の有無(複数回答可)/単位:人、%

280 100.0
店長や従業員から暴力や暴言を受けた 22 7.9
自身の性格や人格を否定されるようなことを言われた 29 10.4
店長や従業員に威圧感を感じる 79 28.2
店長や従業員に交際を迫られたりひわいな言動をされる 10 3.6
差別(男女差別、学歴差別)を受ける 5 1.8
無視されたり仲間はずれにされる 7 2.5
達成できないような過大な要求をされる 15 5.4
シフトに入れてもらえなかったり仕事を与えられない 9 3.2
客・利用者から、理不尽なクレームや言動を受ける 91 32.5
客・利用者から、交際を迫られたりひわいな言動をされる 9 3.2
ハラスメント被害を店長やアルバイト先に相談したのに、被害を軽視されたり、自分のせいにされたりした 1 0.4
その他 3 1.1

 

これまでのアルバイト経験の中でのハラスメントの経験を尋ねました(表6)。

アルバイト先の店長や従業員からのハラスメントとしては、「店長や従業員に威圧感を感じる」が28.2%と多いほか、「自身の性格や人格を否定されるようなことを言われた」が10.54%、「暴力や暴言を受けた」が7.9%となっています。

客・利用者からのハラスメントとしては、「理不尽なクレームや言動を受ける」が32.5%でした。なお、表は省略しますが、小売店で働いている者に限定すると、「理不尽なクレームや言動を受ける」は、およそ半数(49.2%)に達しました。

後者、すなわち、カスタマーハラスメントは、深刻な被害をもたらす労働問題として認識されつつあります[9]。学生たちは飲食店(のホール)や小売店など、接客の最前線で働いています。対策が急がれます。

 

 

[9] NHK「クローズアップ現代+」取材班(2019)や桐生(2023)のほか、労働組合による各種調査などを参照。

 

 

○6割弱が、労働条件や労働環境を改善したいと思った経験あり

表7 過去のアルバイトを含め、アルバイト先の労働条件や労働環境を改善したいと思ったことはあるか、その際に、何か改善の行動を起こしたか/単位:人、%

280 100.0
改善したいと思ったことがあり、改善の行動を起こした 49 17.5
改善したいと思ったことはあるが、改善の行動は起こさなかった 112 40.0
改善したいと思ったことはない 114 40.7
無回答 5 1.8

 

過去のアルバイトを含めアルバイト先の労働条件や労働環境を改善したいと思ったことはあるかどうかと、その際に何らかの改善の行動を起こしたかどうかを(一度に)尋ねました(表7)。

まず、改善の行動を起こしたかどうかはともかく、改善したいと思ったことがあるものは約6割に及びました。しかも、全体の17.5%は、「改善の行動を起こした」とも回答しています。

では、改善したいと思ったことがあるもののそれぞれにさらに質問をしていきます。

 

表8 どのような改善の行動を起こしたか(複数回答可)/単位:人、%

49 100.0
アルバイトを辞めた 22 44.9
アルバイト先にトラブル改善を訴えた 14 28.6
店長や従業員に相談した 23 46.9
労働基準監督署に相談した 1 2.0
友人や知人に相談した 13 26.5
大学や親に相談した 10 20.4
その他 4 8.2

注:対象は、「改善の行動を起こした」と回答したもの。

 

まず、全体の2割には満たないとはいえ、「改善の行動を起こした」ものにどんな行動を起こしたか尋ねたところ(表8)、「店長や従業員に相談した」が46.9%、「アルバイト先にトラブル改善を訴えた」が28.6%でした。アルバイト先で行動が起こされています(結果はどうなったかまでは本調査では尋ねませんでした)。

なお、本調査では、アルバイト先に対する抗議の意思表示であると考えて、「アルバイトを辞めた」という選択肢も設けました(結果は、44.9%が選択)。しかし、これを「改善の行動」に含めてよいかどうかは疑義もあるかと思いますので、参考情報として紹介するにとどめます。

 

表9 改善の行動を起こさなかった理由(複数回答可)/単位:人、%

112 100.0
面倒だったため 79 70.5
関わりたくなかったため 31 27.7
何も変えられないと思ったため 47 42.0
店長や従業員が怖かったため 14 12.5
人間関係が悪くなると思ったため 28 25.0
その他 2 1.8

注:対象は、「改善の行動を起こさなかった」と回答したもの。

 

続いて、「改善の行動は起こさなかった」ものにその理由を尋ねました(表9)。

結果は、「面倒だったため」が7割(70.5%)に達し、「何も変えられないと思ったため」が42.0%で続いています。「関わりたくなかったため」、「人間関係が悪くなると思ったため」もそれぞれ4人に1人程度(27.7%、25.0%)が選択しています。

「改善したいと思ったこと」の内容や「改善したいと思った」その程度などは尋ねていませんから、これ以上の検討はできませんが、いずれにせよ、学生のこうした経験や心情をふまえて、ワークルール教育を構想することが課題になると思います。

 

○ワークルールを学ぶ必要性が学生の多くに感じられている

最後に、ワークルールを学ぶ必要性について彼らがどう考えているかをみていきましょう。

 

表10 現在、ワークルールを学ぶ必要性を感じているか/単位:人、%

280 100.0
とても感じている 121 43.2
まあ感じている 133 47.5
あまり感じていない 19 6.8
全く感じていない 2 0.7
無回答 5 1.8

 

結果は(表10)、回答者のほとんどで必要性が感じられています。「とても感じている」に限定しても43.2%で、「まあ感じている」まで含めると全体の9割を占めました。

ざっくりとした尋ね方であることや、そもそもこうした調査に回答しているものの特徴などをふまえる必要はあるとは思いますが、この結果は、筆者には少し意外でした(もう少しばらつくと予想していました)。

 

表11 過去のアルバイトを含め、アルバイト先の労働条件や労働環境を改善したいと思ったことはあるか、その際に、何か改善の行動を起こしたか × 現在、ワークルールを学ぶ必要性を感じているか/単位:人、%

改善したいと思ったことがあり、改善の行動を起こした 改善したいと思ったことはあるが、改善の行動は起こさなかった 改善したいと思ったことはない
49 100.0 112 100.0 114 100.0
とても感じている 28 57.1 48 42.9 45 39.5
まあ感じている 14 28.6 61 54.5 58 50.9
あまり感じていない 7 14.3 3 2.7 9 7.9
全く感じていない 0 0.0 0 0.0 2 1.8
無回答 0 0.0 0 0.0 0 0.0

 

先にみた表7の調査結果との関係を検討してみました。

結果は(表11)、「とても感じている」というウェイトは、表7で「改善の行動を起こした」と回答した群では57.1%、「改善の行動は起こさなかった」群では42.9%、「改善したいと思ったことはない」群では39.5%でした。

改善の意思や改善の行動とワークルールを学ぶ意思とはどのような関係にあるのでしょうか。改善したいと感じたり行動を起こしたりすればするほどにワークルールを学ぶ必要性が感じられるようになるのか、あるいはその逆で、学べば学ぶほどに問題意識が鋭くなり、行動にうつすようになる、という関係でしょうか[10]

もっとも、そうした経験がなくても(「改善したいと思ったことはな」くても)、ワークルールを学ぶ必要性を感じているものは少なくない、という見方もできるかもしれません。

 

 

[10] 人数はさらに少なくなるので参考情報にとどめますが、表8との関係も検討したところ、「アルバイト先にトラブル改善を訴えた」群や「店長や従業員に相談した」群では、ワークルールを学ぶ必要性を「とても感じている」ウェイトが7割前後と高くなっていました(71.4%、69.6%)。

 

 

まとめに代えて

本稿では、ゼミで行った調査の結果の一部を紹介してきました。

アルバイトは、仕事の世界を学生たちが最初に経験する機会となります。早いものでは、高校生からその経験が始まっています。またアルバイトは、時間数だけみても、大学生活の中で小さからぬウェイトを占めています。充実した時間を過ごし、将来の職業生活の糧にもなるような経験を積んで欲しいと思っています[11]

冒頭に紹介した小島(2018)では、ワークルール教育の基本理念が次の3つに整理されています(下線は筆者)。

 

 

資料 ワークルール教育の「基本理念」

①ワークルール教育は、労働者及び使用者がそれぞれの権利・義務について正しく理解するとともに、労働者が自らの権利・利益を守る上で必要な労働関係法制等に関する知識を習得し、これを適切な行動に結び付けることができる実践的な能力が育まれることを旨として行われなければならない。

②ワークルール教育は、学齢期から高齢期までの各段階に応じて、学校、地域、家庭、職場その他の様々な場の特性に応じた適切な方法により行われるとともに、それぞれの段階及び場においてワークルール教育を行う多様な主体の連携を確保して効果的に行われるべきである。

③ワークルール教育の推進にあたっては、労働者の義務や自己責任論が安易に強調されることによって労働者の権利・利益が不当に損なわれることのないよう、特に留意しなければならない。

出所:小島(2018)より転載(日本労働弁護団「ワークルール教育の推進に関する法律(案)」にも反映されている)。下線は筆者。

 

下線を引いた箇所について簡単にコメントします。

下線1(一つ目の下線)について、店長(など使用者)こそワークルールをちゃんと勉強すべきだ、という意見をもつ学生は少なくありません。どのような取り扱いになっているのか分からないという事柄について「アルバイト先で尋ねてごらん」という課題を出しても、「分からないと店長に言われた」というのです。若い/経験の浅い、いわゆる雇われ店長も少なくないのでしょうけれども、使用者側にもワークルールをしっかり学んでもらう必要があります[12]

下線2について、知識の習得はもちろん必要ですが、実践的な能力を育む必要性は、(十分ではありませんが)本調査の結果でも示されたのではないでしょうか。

下線3について、アルバイトに従事する学生たちには、彼らのアルバイト経験を題材に教育実践が行われることが効果的ではないでしょうか。

 

以上、私たちの調査・研究によって、ワークルール教育の必要性やワークルール教育を推進する環境整備の必要性が感じられたなら嬉しく思います。

 

 

[11] 大学生がアルバイト(や奨学金など)に依存しなければならないという経済的な問題については、本稿では割愛しています。

[12] その点で、なるほど、労働者の権利教育ではなく、ワークルール教育というネーミングは適当であると思います。ついでに言えば、雇われ店長自身もワークルールを学んで自らの身を守らなければなりません。

 

 

 

(参考文献)

上西充子(2016)「権利主張という発想がない若者の現状を出発点に」『季刊労働者の権利』第314号(2016年4月号)pp.61-67

NHK「クローズアップ現代+」取材班(2019)『カスハラ──モンスター化する「お客様」たち』文藝春秋

桐生正幸(2023)『カスハラの犯罪心理学(インターナショナル新書 123)』集英社インターナショナル

小島周一(2018)「ワークルール教育推進法制定に向けた日本労働弁護団の活動と到達点及び今後の課題」『季刊労働者の権利』第326号(2018年7月号)pp.43-47

篠田徹、上林陽治(2022)『格差に挑む自治体労働政策──就労支援、地域雇用、公契約、公共調達』日本評論社

筒井美紀(2022)「労働(法)教育の確かな実施におけるリソースの問題──教育行政と学校経営に関する社会学的視点からの検討」『日本労働社会学会年報』第33巻(2022年)pp.37-54

道幸哲也(2015)「ワークルール教育の重要性・難しさ」『日本労働研究雑誌』第57巻第12号(2015年12月号)pp.97-100

本田由紀(2017)「ワークルール教育をいかに進めるか」『季刊労働者の権利』第318号(2017年1月号)pp.49-61

脇田滋「「シフト制労働」の問題点と法・政策的課題」『月刊全労連』第298号(2021年12月号)pp.1-10

 

 

 

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