川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載3)』

川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載3)』2023年10月26日

 

■川村雅則ゼミナール「北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載1)」『NAVI』2023年7月29日配信

■川村雅則ゼミナール「北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載2)」『NAVI』2023年9月30日配信

 

上記の連載2(2023年9月30日配信)では、アルバイトの事例調査の結果をまとめました。

本稿(連載3)では、事例調査にみられた問題点を抽出し、法律の条文をひきながら、法的に何が問題なのかの解説を試みました。

作成の過程で、問題やワークルールをより掘り下げて理解することを試みましたが、そもそも、問題をうまく見つけられていなかったり、説明がうまくできていない部分もあります。発展途上の学生たちによる作品だということで見ていただければ幸いです。指導教員からも「ここで一言」などの補足をしました。

なお、本学で入学時に学生たちに配布されている『学生のためのワークルール入門』(以下、『ワークルール入門』)が活用されるよう、本稿の随所で紹介をしました。第4版を使っています。

 

働き始める際にはご用心

労働条件通知書が交付されていない(担当:しちゅー)

・事例9 短期の建設工事バイトで、労働条件通知書が交付されていないようであること。

『ワークルール入門』pp.6-7を参照。

 

■ワークルール解説

・労働基準法第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

 

・解説:賃金などの重要な労働条件については、書面での明示が使用者に義務付けられています。働く側も、契約内容は書面で確認して、トラブルにならないように心がけることが必要です。

 

■感じたこと:労働条件通知書が交付されていないという問題は、自分の経験からも、非常によく起こっている問題ではないかと思います。また、学生バイトの側も、通知書が交付されたとしても、内容をよく確認せずに、捨てるか無くしてしまうことが多いのではないでしょうか。労働条件の認識の差を労使間でなくすことが必要です。使用者は、労働条件通知書を交付すること、労働者は内容をしっかり確認することが必要だと思いました。

 

ここで一言

労働条件通知書を交付されていないことが明記されていた(「労働条件通知書はありません」)のは事例9だけのようですが、自分がどんな仕事をしたらよいのか分かっていなかったり、終業時刻が決まっておらずいつ帰れるのか分からないなど、締結した契約の内容を理解していないような事例は他にもあるようです(例えば、事例22や23)。

『ワークルール入門』pp.6-7に示されているとおり、賃金などの主要な労働条件については、書面での明示が使用者に義務づけられています。具体的には、以下の内容です。

  • 契約はいつまでか
  • 契約期間が決められている場合、更新の基準はどうなっているか
  • どこでどのような仕事をするか
  • 労働時間、休憩、休日などがどうなっているか
  • 賃金がどのように支払われるか
  • 辞めるときどうなるのか

 

自分が担当する仕事や勤務時間が分からずに困ることなど、働き始める際には想定されていないかもしれませんが、上記のようなことは珍しくありませんので、ご注意を。

 

 

昇給の基準が分からない(担当:たけのこ)

・事例12 昇給自体はありますが、基準が明確ではありません。アルバイトで代々噂話程度で伝わっている程度とのことです。

・事例29 4月と10月に行われる契約更新の際、次の時給の話がされますが、どのような基準で賃金があがっているかは分からないようです。

『ワークルール入門』pp.6-9を参照。

 

■ワークルール解説

・労働基準法第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。〔略〕

・労働基準法施行規則第5条 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。〔略〕

3 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 〔略〕

 

・解説:民法上では、雇い手と労働者の合意さえあれば契約は成立するとはされていますが、労働基準法では労働者に対して労働条件通知書を発布することが求められています。労働基準法第15条では、口頭の説明だけでは不十分で、「絶対的明示事項」を書面で明示することが使用者に義務づけられています。その中には昇給に関する事項も記載されており、昇給の基準が分からない事例12と事例29は上記のワークルールに違反していると思われます。

 

■感じたこと:雇用契約書を書く際、労働条件通知書も一緒に書いた経験がありますが、その当時はサインをするだけで雇用契約書ほど詳しくは読み込みませんでした。昇給は存在するものの昇給基準が明確になっていないアルバイトは多いと思います。労働者自身も書類を読み込むべきだし、雇い手側ももう少し分かりやすく伝えれば、働き手のモチベーションの向上にもつながるのではないかと考えました。

 

 

 

賃金問題にはご用心

給与が全額(完全に)支払われていない(担当:きのこ、しばいぬ)

・事例16 着替えの時間を業務とせず、給与未払いが発生していると考えられます。

・事例22、32 休憩中に電話対応を任せられるのは手待ち時間といい、これも労働時間として数えられます。

・事例5、12、14、15、16、17、19、20、22、24、27、30、31、32 いずれの事案でも給与の支払い単位時間が15分、30分などとなっていて、1分単位での記録がされていません。また、タイムカードを自分で切ることができず、店長が切っているという事例もあります。

『ワークルール入門』pp.16-17、pp.19-20を参照。

 

■ワークルール解説

労働基準法第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

 

・解説:事例16のような場合、使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為は労働時間にあたります。

事例22、32では、労働者は休憩時間中に仕事を命じられても、これに従う義務はありません。

事例5~32は、例えば、16時47分に始業のタイムカードを打刻して店の開店準備をしていたにもかかわらず、賃金計算上の始業時刻は17時とされてしまうケースです。

これは15分単位、30分単位で労働時間が処理されていて、それに満たない労働時間は切り捨てるという労働時間の管理方法です。しかし、原則として、賃金は1分単位で把握し賃金を支払わなければなりませんので、不適正な取り扱いです。

 

■感じたこと:

(きのこ)今回あげた事例では、全て給与の未払い分が発生しています。特に気になったのは給与の支払い単位時間の例です。本来1分単位で支払われなければならない給与が15分、30分単位で処理されているなど多くの問題事例があげられました。最近ではSNSが普及し、動画のネタなどで支払い単位についての言及をよく見かけます。学生アルバイターの多くは目にしたことがあると思います。しかし、それを問題だと思っていても解決に動くことは、僕の周りではあまり多くないと感じます。まず、企業側が支払い単位時間について正確に理解する必要があると思います。

 

(しばいぬ)私は特に給料の支払い単位時間について調べたのですが、おそらく全てのワークルール上の問題の中で最も上がった問題であると感じました。またそのような事態になっているのは労働基準法に「給与の支払い単位時間は1分単位にしなくてはならない」という明確な記載がないため、経営者自身もこのワークルールを把握していないのではないか、と考えました。

 

 

 

休業手当が支払われていない(担当:みかん)

・事例2 社内で決められた業務を終えると、所定の労働時間よりも早くに帰宅させられることになっていること、そして、その分の給与が支払われていないことが問題です。

『ワークルール入門』pp.59-60を参照。

 

 

■ワークルール解説

・労働基準法第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 

・解説:「使用者の責に帰すべき事由による休業」とは、従業員本人が働ける状態であるにもかかわらず会社の都合で休ませることです。つまり、会社の都合による休業又は、勤務時間の短縮(早上がり)には賃金の補償が必要ということです。

 

■感じたこと:一見すると、バイトを早く上がることができたのだから、その分働いていない、そのため、賃金は支払われるわけがない、と思っている人が多いのではないでしょうか。でも、早上がりが多くなると自分が想定していた金額を大幅に下回る給与しかもらえず、困ってしまいます。実際にシフト通りに働けば得ることのできた給料から、使用者側の都合で早上がりさせられた分だけ稼げずに、損害が出ている、という認識が必要です。

所定の勤務時間よりも長く働くことは意識されやすいのに対して、予定されていた勤務より時間が短くなることは軽く扱われがちかもしれません。自分の意思とは関係なく使用者側に言われたから仕方なく、といった実態はないでしょうか。身に覚えがあれば確認をしてみてください。

 

ここで一言

休業手当に関する説明は、『ワークルール入門』Q&Aページでは記載されていないようです。コロナ下における休業だけでなく、日常のアルバイトにおいても、早上がりをさせられたなどの話は学生からよく聞きます。労働基準法上の扱いのほか、民法上の扱いはどうなっているか、また両者の違いは何かなど、『ワークルール入門』の「学生アルバイトの実態」におけるpp.59-60のほか、下記のサイトなどで勉強してください。

 

■厚生労働省「知って役立つ労働法~働くときに必要な基礎知識~」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouzenpan/roudouhou/index.html

■連合「労働相談Q&A 8.休業中の賃金」

https://www.jtuc-rengo.or.jp/soudan/qa/data/QA_08.html

 

 

 

仕事上のミスに対して弁償金を支払わされている(担当:なまず)

・事例6 ガソリンスタンドのバイトで給油を頼まれた際、頼まれた分を誤って満タンに入れてしまい、その差額分を支払わされている。

『ワークルール入門』pp.28-30を参照。

 

◼ワークルール解説

・労働基準法第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

・労働基準法第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

 

・解説 労働者の賃金から弁償金が差し引かれています。労働基準法24条1項では、賃金はその金額が支払わなければならないという、賃金全額払いの原則が規定されています。また16条でも労働契約の不履行について違約金を定めまたは損害賠償額を予定する契約は無効とされています。

加えて、『ワークルール入門』p.29で紹介されているとおり、使用者が労働者に賠償を求めることができる範囲は、制限があって、「その損害の賠償する責任を負うことはあるが、その際に労働者が賠償すべき金額は、損害の公平な分担という見地から、信義則を根拠として減額される」となっています(昭和51年7月8日の最高裁判決)。

 

◼感じたこと:注意して仕事をしていても、仕事上のミスなどは一定の確率で発生するものではないでしょうか。使用者は、そのことを前提に労働者を雇って欲しいと思います。もちろん、そういうミスが発生しないような工夫は必要です。上記の事例でも、日頃から注意喚起をしたり、確認を怠らないように行動すべきと思いました。

 

 

 

働き方にはご用心

タイムカードを自分で切ることができない(担当:らむ)

・事例30:賃金の支払いが30分単位であるほか、タイムカードを自分で切ることができないという問題が発生しています。

『ワークルール入門』pp.16-17を参照。

 

■ワークルール解説:

・労働基準法上第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。〔略〕

 

・解説:アルバイト学生本人ではなく、店長がタイムカードを切っています。時間通りに切られるなら問題はないかもしれませんが、そもそも30分単位で処理されているようです(割増賃金は支給されているようです)。労働基準法第24条で言う、本来払うべき賃金が支払われていないことになります。

 

■感じたこと:タイムカードを自分で打刻させてもらえないということは、自分で働いた時間の確認もできずに、常に不安を抱えたまま働くことになってしまうのではないでしょうか。たとえ店長が実際の労働時間を偽ろうなどと考えてはいなくても、学生自身でタイムカードを打刻させるべきです。

 

 

ここで一言

『ワークルール入門』p.16に記載のとおり、厚生労働省は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定して、使用者に労働時間の適正管理を求めています。

ガイドラインの「労働時間の考え方」では、そもそも「労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」という説明と、その例示が記載されています。また、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」では、「始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法」など重要な内容が記載されています。ぜひ一読をしてみてください。

 

■厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29〔2017〕年1月20日策定)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html

 

 

 

休憩時間が確保されていない(担当:しか)

・事例23 飲食店のホールでの勤務は、基本18時開始。終わりの時間が決まっておらず、忙しいときは閉店の25時までの勤務になるのですが、その間休憩がないとのことです。

・事例27 過去のアルバイト経験(飲食店のホール勤務)。16時30分から23時30分までの勤務でその間、休憩はなかったとのことです。

『ワークルール入門』pp.19-20を参照。

 

■ワークルール解説

・労働基準法第34条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

② 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。〔略〕

③ 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

 

・解説:二つの事例ともに、労働時間が6時間を超えているにも関わらず休憩時間が与えられていないことが問題点としてあげられます。事例23も事例27も、最低でも45分は休憩を与えなければなりません。その場合、労働時間の途中で与えることが必要で、業務開始前や業務終了後に休息を与えるのは適当ではありません。

なお、休憩時間は、原則として一斉に与えることが必要ですが、休憩の特例により、サービス業(飲食店)などでは、この「一斉付与の原則」を排除することが可能です(第40条)。

 

■感じたこと:労働基準法において使用者は、正社員だけでなくパート・アルバイトなどにも休憩時間を付与しなければなりません。事例27では、休憩がないだけでなく、残業をさせられ終電を逃してもタクシー代など出なかったとのことです(幸い、自ら辞めたようですが)。

こうした働かされ方では、過労死やノイローゼなどの最悪の場合、命を落とすような原因のもとにもなってきます。労働者が安全に労働していくためにも適切な休憩時間を付与し、働きやすい労働環境にすべきだと感じました。

 

望まぬ残業をさせられるなどしている(担当:にんじん)

・事例1 自分自身の就業時間を越えて他の従業員分の仕事の代わりをさせられています(給料は支払われたようですが)。

・事例23 仕事を終わる時間が決まっておらず、6時間を超えた就業でも休憩時間がないとのことです。

『ワークルール入門』pp.14-17を参照。

 

■ワークルール解説

・労働基準法第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

②使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

 

・労働基準法第37条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。〔略〕

 

・解説:働く時間は契約で決められており、定時を過ぎて働く義務は、原則としてありません。定時を過ぎて働かせるようなことがある場合にはその旨の事前の確認が必要です。

残業には二種類あり、法定労働時間を超えて働く時間、法定労働時間の範囲内であるが所定労働時間を超えた時間です。どちらの場合でも通常の労働時間の賃金の支払いが必要であるほか、前者では、割増賃金が支払われなければなりません。

 

■感じたこと:サービス残業という言葉が広く聞かれるように、様々な業種、職種において、相当量の未払い賃金があるように感じられます。使用者だけでなく、労働者の側も、まずはこれが違法であるということを学び、問題解決につとめることが必要です。

残業のしすぎは心身への負担にもなり、健康状態への影響も懸念されます。つまり残業問題とは、賃金・残業代の支払い/未払いのみが問題なのではなく、生活リズム、健康状態にまで影響を与えるということを理解すること、そして、問題の解決には多角的な考えが必要であるということを感じました。

 

 

 

望まぬシフトに入れられそうになっている(担当:ぶどう)

・事例1 土日に従業員が少なくシフトに無理やり入れられそうになった。また交代の時間になっても交代の人が来ずにその人の時間も働くことになった。

『ワークルール入門』pp.12-15を参照。

 

■ワークルール解説:シフトを組む際にはその時間を働く/働かせることを労働者と使用者が合意することによって決まります。合意することはすなわち契約を結んだ、ということになるため、双方がそのシフトを守る義務が成立します。なので当初予定していなかったシフトを強要するのは労働契約違反に該当するおそれがあります。使用者側の都合によってシフト変更を希望する際には、労働者から合意を得る必要があります。

なお、会社側の都合で労働者を休業させた場合には、労働基準法第26条により、通常の賃金の60%以上の休業手当を使用者は支給しなければなりません。

 

■感じたこと:シフトに関する問題は学生に多く当てはまるのではないかと思いました。私も今アルバイトをしていますが、休み希望を出した日に出勤できないかどうかを尋ねられることがたまにあります。私の場合は強要ではありませんが、周囲から話を聞くと、強要されたとか、断ることができずに出勤せざるをえない状況に追い込まれていったなどのケースもあるようです。また、1度引き受けてしまうと次にまた同じことがあったときに断れなくなってしまいます。そのためにも、このようなシフトの変更や強要は問題であって、なくすべきことだという認識を強めてほしいと感じました。

 

 

ここで一言

シフトに関してはホットイシュー。コロナ以前は、慢性的な人手不足の下で急な出勤や勤務増が要請させられたりしていたのが、コロナ下では、シフトがゼロかごくわずかとなってその間の賃金が補償されないという問題が発生しました。このことに関しては、数多くの労働相談にあたってきた労働組合「首都圏青年ユニオン」が「シフト制労働Q&A」なるものをまとめて配信していますので、参照してください。

厚生労働省でも、「いわゆる「シフト制」について」のページを設けて、「「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」などを整理していますが、定義が実態とかけ離れているのではないか、実効性ある労働者保護になっていないのではないか、などの批判が現場から出されています。

本学の「判例演習室」に配架されている『労働法律旬報』第1992号(2021年9月下旬号)では、「シフト制労働者──新型コロナ禍における実態を通して」が特集されています。どんなことが議論されているか、所収の論文に目を通してみてください。

 

■首都圏青年ユニオン「シフト制労働Q&A」

http://www.seinen-u.org/%E3%82%B7%E3%83%95%E3%83%88%E5%88%B6%E5%8A%B4%E5%83%8Dq-a

■厚生労働省「いわゆる「シフト制」について」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22954.html

 

 

 

有給休暇制度を利用できていない(担当:きゅうり)

・事例15 有給休暇を使用したことがなかったため、店長に確認をしたところ、使えるとのことでした。しかし、これまで有給を使ったアルバイトはいないとも言われたため、以降も有給を使いづらい状況にあります。

・事例26 店長が少し怖い人で、有給休暇の制度があるのかどうかなどを聞けないのでちょっと困っています。

「ワークルール入門」pp.21-22を参照。

 

■ワークルール解説:

・労働基準法39条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

 

・解説:原則として、雇入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に、有給休暇の権利が発生します。それは、正社員だけでなく、学生アルバイトなど非正規社員も同様です。もっとも、付与される日数は労働時間に比例しているので、学生アルバイトの場合、少なくなります(『ワークルール入門』p22をご覧ください)。

なお、有給休暇の権利は、発生から2年間で時効を迎えてしまいます(労働基準法第115条)。事例15の職場では、有給休暇は使えるとのことだったので、時効を迎える前に積極的な使用が必要です。

 

■感じたこと:有給は正社員に限らず、アルバイト、パート、派遣社員等にも当然に与えられます。私は大学2年になるまでいくつかのアルバイトをしてきましたが、有給休暇は一度も使用したことがなく、そもそもアルバイトには有給休暇などないんじゃないかと認識していました。偶然にも、ゼミでワークルールについて学ぶ機会があって、このことを知ることができました。

今回の調査では、有給休暇に関する記述が少なかったように思います。私のように、アルバイトに有給休暇の権利があると認識をしている人が少ないのでないかと感じました。

 

 

 

パワーハラスメントが発生している(担当:ぴーまん)

・事例30:居酒屋のホールアルバイトで、接客、ドリンク提供、洗い物など、料理以外の仕事を行っています。その中で、稀に店長からパワハラまがいの行為を受けること(お店のものを殴る、蹴る、暴言等)があります。

『ワークルール入門』pp.38-39を参照。

 

■ワークルール解説:労働施策総合推進法は、パワーハラスメントを「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義しています。

ミスしたことに対して、指導ではなく、暴言等を加えることはパワーハラスメントに該当します。厚生労働省の指針(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)では、暴行・傷害等(身体的な攻撃)、脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)、隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)など(以下省略)が例示されています。対策としては、各都道府県労働局に設置されている相談窓口に相談することをお勧めします。

 

■感じたこと:ハラスメントに学生アルバイトが対応するのは難しいと思います。アルバイトを辞めるという選択肢もありますが、金銭面・生活面から、簡単には辞められない場合もあるでしょう。

とはいえ、『ワークルール入門』にも書いてあるとおり、働く人を死に追い込むこともあるほど、パワーハラスメントは恐ろしい行為であります。仕事を辞めた後にも後遺症をもたらすこともあると知りました。我慢することなく行政機関などへの相談が必要です。

 

 

 

ここで一言

まず、ハラスメントは許されない行為であること、という認識が必要です。

ただ、労働法上、ハラスメント行為に対する禁止規定がなく罰則もない、という点がやっかいです。そのことを踏まえた上で、現行法を使えるだけ使い切る──これが基本的なスタンスになると思います。

労働者のいのちや健康を守るNPO法人が主催する学習会の記録(「2020年オンライン労働安全衛生学校職場のパワハラ防止をめざして」)が勉強になると思いますので参照してください。とくに、「労働行政の立場からの助言/木村憲一さん(全労働北海道支部)」や「パワハラ防止法の概略と評価/佐々木 潤さん(弁護士)」の発言から、現行法に基づき何がどこまでできるのかを理解できるかと思います。

労働安全衛生活動の歴史と職場での労安衛活動の進め方/職場のパワハラ防止をめざして

 

いずれにせよ、ハラスメントは労働者側が我慢すべき性質のものではありません。指導なのかな?と思って我慢しているうちに正しい判断ができなくなってしまう点が怖いところです。友人でもゼミの先生でも構いません。周囲に話したり相談するよう心がけてください。

 

 

(続く)

 

 

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