川村雅則「コロナ禍における大学生のアルバイト等の実態」

2011年から毎年、学生のアルバイト実態をゼミ生たちと一緒に調べて、調査結果を『学生アルバイト白書』というかたちでまとめています。

有り難いことに『白書』は毎年、報道機関に取り上げていただいております。2020年は、①「「バイトない」学生困窮/コロナ拡大収入減り節約限界」『北海道新聞』朝刊2020年11月25日付、②「バイト収入減あえぐ学生/生活直結休業手当なく」『毎日新聞(北海道)』2020年12月31日付、③「学生アルバイト白書」10冊目コロナと生活/2割が「休退学考える」」『しんぶん赤旗』2021年1月5日付で報じられました。②はなんとyahooニュースにも転載されまして、多くの方々の目にふれる機会となりました(残念ながら現在はリンク切れ)。

ここでは、インタビュー記事である③を掲載します。『学生アルバイト白書2020』のコンパクト版になっております。

 

 

遠隔授業の課題が多すぎた、バイト先から休業手当が支払われない、休学・退学を考えている―。大学生のアルバイト事情を学生たちと調査して取りまとめる「北海学園大学学生アルバイト白書」。10冊目の今回は、新型コロナによる学生生活全般への影響ももりこまれました。ゼミを主催する、同大学教授の川村雅則さんに聞きました。(堤由紀子)

 

 

今回は「アルバイト白書」の名に収まりきらないものになりました。

まず、学生への影響が大きかった遠隔授業をテーマに加えました。予期せぬ事態に私たち教員も学生も戸惑い、とりわけ初期にはさまざまな混乱が生じました。組織的な検討・調整が不十分で、教員それぞれががんばりすぎた結果、「遠隔授業での不満や悩み、困りごと(複数回答)」で「課題が多かった」と答えた学生が6割強を占めました(グラフ1)。

グラフ1 遠隔授業での不満や悩み、困り事(複数回答可)

文部科学省は「対面」の実施を大学側にせき立てますが、コロナ感染のリスクもあるなか、学生は、「対面」と「遠隔」それぞれの利点を冷静に評価している印象があります。利点を尋ねた設問では、明らかに「対面」に軍配があがったのは「教員への質問、交流」「受講生や友人との交流」。「遠隔」が意外に奮闘したのが「授業内容の理解度」「授業に集中できる」。そして「遠隔」で多く選択されたのは「自分のペースで学べる」「時間を有効に活用できる」でした。

双方向性をどうもりこむかなど「遠隔」の研究を進めながら、「対面」との組み合わせが求められているのではと感じました。今後の希望で「対面」「遠隔」「併用」がほぼ同じであったことも、それを示唆します。

 

〇授業料支払い困難

2月以前にバイトをしていた学生に、3月以降の変化を聞きました。結果は、「解雇された」「バイト先の閉店」など会社都合に分類される契約終了は1割程度にとどまりました。しかし、雇用関係が維持されていても、勤務シフトや労働時間を減らされたり、バイト先そのものが休業となったりすることで、バイト「量」の減少が半数強で経験されていました。

グラフ2 バイトの勤務シフト・労働時間が減ったことに対する休業手当の支給状況

労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由」での休業では、平均賃金の100分の60以上の休業手当の支給を使用者に求めています。また今回は、学生など雇用保険被保険者以外にも、休業手当の原資となる助成金の活用が推奨されています。ところが、休業手当が「全く支給されなかった」は47・3%にも(グラフ2)。毎月のシフトを保障しているわけではないのだから、と手当の不支給を正当化された学生もいます。

バイト減で困った経験・状況では「生活に必要なお金が減った」(37・9%)「教科書代や通学に必要なお金が減った」(23・2%)「授業料の支払いが困難になった」(11・3%)でした。バイト減が彼らの生活に大きな影響を与えることがあらためて確認されると同時に、「奨学金」に依存した学費負担の状況もあらためて浮き彫りになりました。

なお、2020年度から始まった高等教育の就学支援新制度を利用できていたのは、2割に過ぎません。また、休退学を「漠然と考えている」「真剣に検討している」のは計16・3%です。経済的に厳しいと回答した学生では3割弱にまで増加。親など学費負担者の仕事・収入減も4人に1人が経験しています。対策が急がれます。

 

〇学生の声反映して

グラフ3 経済的な状況や心身の状況(複数回答可)

食糧支援を教員有志で行いました。1年生を中心に「友人ができない」「サークルや部活動に入り損ねた」という声が数多く寄せられているほか、「気力がわかない」「大学生活がつまらない」という声もあります(グラフ3)。政府による経済支援はもちろんですが、交流の場や、困り事相談にワンストップで対応する窓口の設置などが大学内に必要です。

コロナ禍を奇貨とし、大学づくりに学生の声を反映させていく必要性を、強く感じています。

 

 

(参考資料)

『北海学園大学学生アルバイト白書2020』2020年12月発行

 

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