川村雅則ゼミナール「新型コロナウイルス禍の学生生活等をめぐる問題(地域研修報告書2020)」

北海学園大学経済学部で取りまとめられている『地域研修報告書2020』に掲載された、ゼミで実施している2020年度の調査結果の要約版です。

2020年度は、『北海学園大学 学生アルバイト白書』づくりを始めて10年目となる記念の年でしたが、パンデミックに直面して大変でした。例年は学生アルバイトの現状を中心に設計している調査内容を、コロナ禍における遠隔授業、アルバイト経験、学費負担・奨学金利用の状況、生活状況全般にまで拡張して、いわば学生生活の現状を多面的に調べました(但し、『白書』の名称は例年通りとしました)。どうぞお読みください。

 

調査の概要

今年はウェブでアンケート調査を実施した。本学に在籍する学生およそ8千人近くに配信を行い、609人(1部436人、2部173人)から有効回答を得た。ウェブ環境が整備された者に回答が偏っている可能性も念頭におきながら調査結果をみていく(詳細は『白書』を参照されたい)。

 

 

遠隔授業等

図表1 授業全体の課題の量に対する評価 全体=609人   図表2 今後の授業の開講形態に対する希望 全体=609人

       

 

最も多い授業開講形態は、録画した授業動画を配信するオンデマンド配信型であった。

遠隔授業の課題は多岐にわたるが、学生からは、何よりも、授業課題の負担が強く訴えられた(図表1)。

また意外であったのは、遠隔授業と対面授業に関して学生は冷静にそれぞれの利点を評価し、今後の授業についても、必ずしも対面授業に固執されていないことである(図表2)。

もちろんそれは、コロナ感染が懸念される状況にあることが反映している。また、繰り返すとおり、現行の遠隔授業に問題なしであることを意味しない。学生の受講環境・通信環境を整備・保障することに加えて、授業内容・教材や課題のあり方、そして、評価方法などの改良に加えて、対面でしか得がたいものを遠隔授業にどう盛り込んでいくかなどが課題である。

 

 

アルバイト

図表3 2020年3月から現在までのアルバイトの「量」に関する経験 【複数回答可】

合計[単位:人・%] 382 100.0
①とくにない 123 32.2
②勤務シフト・労働時間が減った 175 45.8
③勤務シフト・労働時間がゼロになった 70 18.3
④バイト先を解雇された 12 3.1
⑤バイト先が休業した 106 27.7
⑥バイト先が閉店した 19 5.0
⑦コロナ感染予防のためにバイトをやめた 15 3.9
⑧労働条件や人間関係を理由にバイトをやめた 17 4.5
⑨その他の自己都合でバイトをやめた 26 6.8
⑩バイトのかけもちを始めた 33 8.6
⑪その他 13 3.4
〔無回答〕 4 1.0

 

コロナ禍で多くの学生が勤務シフト・労働時間数の減少を経験していた。ゼロになった者も少なくなかった(図表3)。

「②勤務シフト、労働時間が減った」、「③勤務シフト、労働時間がゼロになった」、「⑤バイト先が休業した」の経験者は、重複を除くと計212人(55.5%)に達する。

 

図表4 勤務シフト・労働時間が減ったことに対する休業手当の支給状況 全体=203人

にも関わらず、休業手当が支給されていない。「全く支給されなかった」が半数弱に及ぶ(図表4)。

コロナ禍を意識したワークルール教育が課題である。なお、アルバイトの現状については、かけもちで働いている者や求職活動中の者が少なくなかった。

 

 

学費負担、奨学金利用

図表5 主な学費負担者・学費の原資(一つのみ) 全体=609人

主な学費負担者・原資(一つのみ)を尋ねた設問で「奨学金」の割合が少なくない(図表5)。

奨学金を使って進学・修学が可能になったことは望ましいが、一方で、日本の奨学金は貸与型(借金)が中心であり、就職後の返済負担が気がかりである。貸与型奨学金を利用している者のうち、3割(1部生では4割弱)は8万円以上、言い換えると、4年間で400万円弱を借りることになり、返済が懸念される。

 

図表6 経済的な状況や心身の状況 【複数回答可】

合計[単位:人・%] 609 100.0
①とくにない 124 20.4
②学費の支払いが困難になっている 48 7.9
③生活費を稼ぐのに大変である 99 16.3
④大学で友人ができない 192 31.5
⑤サークル活動や部活動に入り損ねた 90 14.8
⑥サークル活動や部活動が制約を受けており不満 103 16.9
⑦目標を見失った 104 17.1
⑧気力がわかない 235 38.6
⑨体調がすぐれない 96 15.8
⑩生活リズムが乱れている 254 41.7
⑪大学生活がつまらない 198 32.5
⑫その他 6 1.0
〔無回答〕 5 0.8

 

図表7 休学や退学を考えたり検討することの有無 全体=609人   図表8 親など学費負担者の就労収入の変化 全体=609人

       

 

経済的な状況や心身の状況(図表6)の中でも、「②学費の支払いが困難になっている」、「③生活費を稼ぐのに大変である」といった点が懸念される。

報道にもあったとおり、本調査でも、休学や退学を検討する学生が確認された(図表7)。とくに、「学費の支払いが困難になっている」と回答した者で(休退学意向者が)多かった。親など学費負担者の就労収入にすでに影響が出ていることも懸念される(図表8)。

こうした状況下で、学費問題に学生たちの関心も高まっている。

 

困窮する学生への緊急的な対応の必要性は言うまでもないが、高等教育の予算を拡充し、学習権を保障する制度設計が中長期的な課題として広く認識される状況にあるのではないか。

 

 

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