川村雅則「同じ場所で長く働き続けるとマンネリ化や士気の低下のおそれあり、は事実なのか」

非正規公務員制度の問題を報じる記事が『北海道新聞』朝刊に掲載されました(2023年4月5日。電子版は4月4日配信)。

 

非正規公務員、相次ぐ雇い止め 自治の現場で変わらぬ処遇<現場から 統一地方選2023>会員限定記事 2023年4月4日 17:29(4月4日 18:25更新)

 

記事でご紹介いただいた、筆者によるアンケート調査報告はこちらです。

 

川村雅則「北海道及び道内市町村で働く624人の会計年度任用職員の声(2022年度 北海道・非正規公務員調査 中間報告)」『北海道労働情報NAVI(以下、NAVI)』2023年1月5日配信

 

貴重なこの記事によって、深刻なこの非正規公務員問題が広く道民に知られる機会になったことをまずは嬉しく思います。その上で、少しの補足を本稿では行いたいと思います。

タイトルは、川村雅則「同じ場所で長く働き続けるとマンネリ化や士気の低下のおそれあり、は事実なのか──札幌市会計年度任用職員制度「同一部3年ルール」への疑問(再)」です。

 

※             ※             ※

 

さて、新たな非正規公務員制度である会計年度任用職員制度をめぐる問題については、これまでにも多くを書いてきましたので詳細はそちらをご覧いただきたいのですが、記事にもあるとおり、雇用が非常に不安定であることが、制度の特徴としてあげられます。

民間の非正規雇用では、通算の労働契約期間が5年を超えたら、本人の申し出により無期雇用に転換できる制度が設けられたのに対して、会計年度任用職員では、逆に、雇用安定に逆行する制度設計になっています。1年・1会計年度ごとの雇用であることが強調された制度設計──雇用更新ではなく再度の任用(新たな職に就く)という扱われ方をしていること、ゆえに毎年の試用期間(条件付採用期間)が設けられていることのほか、記事にもあるとおり、一定期間ごとの公募制が多くの自治体で導入されていることです。

 

こうした事実を確認した上で、今回の記事に補足しなければならないのは、札幌市の独自ルールの存在です[1]

記事中のヤマダさんの離職の背景には、他の自治体にはない札幌市の独自ルールの存在があります。この点が、同じく記事中の、道東の自治体で働く会計年度任用職員さんとの大きな違いです。

札幌市では、同じ部での再度の任用は「原則」として3年までとされています。同じ部で働き続けることを希望する場合には、原則として、3年の後に1年の間を置くことが必要になります(同一部3年ルール)。具体的な規定は下記のとおりです。

 

(再度の任用)

第6条 部長は、会計年度任用職員の任用期間の満了後、引き続き当該会計年度任用職員を任用する必要があり、かつ、当該会計年度任用職員の勤務成績が良好な場合は、再度の任用をすることができる。

2 前項に基づく同一部での再度の任用は、当初任用日から三年に達する日の属する年度の末日を限度とする。ただし、人材の確保が困難であるとして設置要綱に特別の定めがある職についてはこの限りではない。

3 前項の規定により任用の限度に達した者は、その後一年間同一部で任用できないものとする。

資料:札幌市「札幌市会計年度任用職員の任用に関する要綱」。
出所:川村(2022)より転載。下線は引用者。

 

補足すれば、部を変えての公募で合格すれば、札幌市の会計年度任用職員として働き続けることは可能です。その場合、仕事の内容や職種が変わる場合もあれば、同じ場合もあります。また、この同一部3年ルールには、例外もあります。詳細は拙稿(2022)をご覧ください。

 

さて、札幌市にはなぜこのようなルールが設けられているのか。

拙稿(2022)にも書いたとおり、同じ職場で長く働き続けると、どうしてもマンネリ化や士気の低下がもたらされるおそれがあることや、応募者に広く門戸を開くためであることがあげられています。

応募者に広く門戸を開くためであれば、他の自治体と同じく、一定期間ごとの公募の実施だけでことは足りるのではないかと思われますので、同一部3年ルールを公募制に加えて設けているのは、マンネリ化や士気の低下を防ぐことが目的ではないかとここでは推察します。

しかしながら、幾つもの疑問がわいてきます。

まず、同じ職場で長く働き続けるとマンネリ化や士気の低下がもたらされるという前提は果たして事実なのかどうか。

また、仮にそれが事実だとすれば、(現在のように公募にかけるのとは違うかたちで)勤務場所の移動・変更制度を設ければよいのではないか、あるいは、マンネリ化や士気の低下がもたらされるというのであれば、賃金・労働条件を含む人材育成の仕組みが本市の会計年度任用職員制度には欠けているのであって、その検証・対応こそが必要なのではないか、などなど。

ほかにも、公共サービスの担い手である会計年度任用職員がこうした扱いを受けることは、人の頻繁な入れ替わりをもたらし、サービスの受け手である私たちにとっても無益ではないのか。また、同じ職場で働く職員・正規職員にとって、仕事を進める上での支障は生じないのだろうか、などの疑問もわきます。

とりわけ札幌市では、同一部3年ルールが存在する分だけ、他の自治体と異なり、実際の離職が数多く毎年発生することになります。ヤマダさんのように、不本意な離職も少なくないのではないでしょうか。

そもそも、マンネリ化や士気の低下を防ぐためにこうした同一部3年ルール(や公募制)の導入が正当化されるなら、それは、同じく非正規雇用者を雇う民間職場においても、導入が不可欠であるという回答が導かれることにならないのでしょうか。

およそ民間ではありえない──公務員制度や公務職場の慣行を「揶揄」する際に使われるこの言葉が、こと非正規雇用制度に関しては、逆の事態が発生しているように思われるのです。

 

私が抱く以上のような悶々とした思いに対して、異なる見解もみられます。

例えば、札幌市会計年度任用職員制度における公募制や同一部3年ルールをどう考えるか、今回の札幌市長選挙及び札幌市議会議員選挙の候補者に尋ねた結果に、それが確認されます。

 

反貧困ネット北海道「公開質問/札幌市長選挙立候補予定者からのご回答」→【12】公共サービスの担い手の雇用

無期転換逃れ阻止プロジェクト「公開質問/札幌市議会議員選挙立候補予定者からのご回答」

 

少なからぬ候補者から、公募制や同一部3年ルールを支持する声がみられます。

現場に近い候補者(現職の首長、議員)からこう言われると、私自身が何か見落としている事実があるのか、という気持ちになります。

(十分だとは思っていませんが)このテーマで調査・研究活動に従事し、上記のとおり、アンケート調査活動によって、新制度下で働く会計年度任用職員からの声を集めてもきましたが、事実の掘り起こしがまだまだ足りない、と自覚する次第です。

加えて、そもそも、こうした制度は労使の間で決めた制度なのだから、外部の者(労使当事者以外の者)が口を挟むことには慎重であるべき、という意見もあるかと思います。労使自治を尊重する立場です。この点でも私は自戒をしたいと思います。

ただ、そこでの「労」が当事者を欠いた「労」であるなら、果たしてその労使の決定は妥当なのか。「労」の代表性が問われるのではないか──これは、民間職場を含めて、非正規雇用問題への対応で今日の労働組合、すなわち、正規雇用者(だけ)で構成された労働組合に鋭く問われている課題ではないでしょうか。この点は問題提起をしておきたいと思います。

 

※             ※             ※

 

本稿の趣旨である、今回の記事への補足から少し脱線をしました。

いずれにせよ、記事の最後でコメントしているように、公共サービスの重要な担い手である非正規公務員・会計年度任用職員に対する、本稿でみてきたような扱い(制度設計)についても、サービスの受け手である私たちの暮らしに関わることとして、今回の統一地方選挙で議論されることを願います。それは、指摘されて久しい非正規雇用問題や働く者の尊厳という問題に対して、首長(候補者)や議員(候補者)が具体的にどう向き合うのか、という問いでもあります[2]

なお、本稿で述べてきたことの詳細は、2023年3月24日に札幌市から聞き取り調査を行い、その結果にまとめました。現在、まとめた内容を札幌市にご確認いただいているところです。追加のご質問も行っていますので、時間を若干要するかもしれませんが、一連の作業を終えましたら、NAVIを通じてご提供(公開)し、この問題の検討を、引き続き、皆さんで深めていけたらと思います[3]。繰り返しになりますが、私自身も、自らの見落としや取り組みの不足には自覚的となり、調査・研究活動を続けるつもりです。

札幌市も掲げるディーセントワークやSDGsの名に恥じないようなまちづくり[4]を皆さんで進めていきましょう。

 

 

[1] 詳細は以下の拙稿をご覧ください。川村雅則「札幌市の会計年度任用職員制度の現状を調べてまとめました」『NPO法人官製ワーキングプア研究会レポート』第37号(2022年2月号)。

[2] 本文中の「中間報告」でも紹介しましたが、杉並区の新区長の考え、新たな試みに注目をしています。区長の就任挨拶を再掲します。「次に職員の方々についてですが、〔略〕選挙活動を通じて、公共の再生を訴えて参りました。コロナパンデミックを世界が同時に経験し、医療や保健といった公共の中枢的な機能が弱体化していること、そこで働く人たち、エッセンシャルワーカーがコストとして切り捨てられたり、圧縮されてきたことが明らかになりました。私は、区立施設と区の職員はコストではなく、杉並の財産ですと訴えて参りました。例えば、会計年度再任用職員〔ママ〕の待遇の改善を含め、積極的に取り組んで参りたいと思います。人を大切にすることが、区民に良いサービスを提供する大前提だと私は考えております。」以上は、令和4(2022)年7月11日 区長記者会見(岸本聡子区長就任記者会見)より(下線は筆者)。

[3] 民間で新たに生じている無期転換逃れ問題については、無期転換逃れ阻止プロジェクト主催・日本労働弁護団北海道ブロック共催によるシンポジウム(2022年3月8日開催)での報告を参照。

[4] 川村雅則「自治体の新たな非正規公務員制度問題(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」『NAVI』2022年7月31日配信の「非正規公務員のおかれた状況から市政を検討してみる」「問題解決の一翼を担う地方議会の実際」など参照。

 

 

(参考文献)

川村雅則「会計年度任用職員の雇用安定に向けた取り組みの強化を──北海道での調査・研究から」『NPO法人官製ワーキングプア研究会レポート』第41号(2023年3月号)

NPO法人官製ワーキングプア研究会「会計年度任用職員に対する「3年目公募」の中止を通知してください」2022年10月4日

 

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