川村雅則ゼミナール「2021年度学生アルバイト調査・研究報告その1」

 

 

2021年度の学生アルバイト調査・研究活動を開始

今年度の『北海学園大学学生アルバイト白書(以下、白書)』作りが始まりました。

今年度は、例年よりも早いスタートです。例年は、聞き取り調査の練習をしながら前期に知識を身につけて、メインのアンケート調査を後期に行い、年末に向けて『白書』作りに励むといった感じで作業を進めてきましたが、それでは、『白書』を作ってそれでおしまいになってしまい、調査結果に基づく取り組みができない、今年度は作業を早めませんか、という声がとくに2部ゼミから強く出されました[1]

確かに、例年、『白書』を取りまとめるので手一杯で、その後の取り組みにつなげられていません。過去には、調査結果の発表を市政記者クラブでしてみたり、議員要請などを実施してみたこともありますが、コロナ下の今だからこそ、もっと地に足着いた取り組みが求められていると言えるでしょう。そのような問題意識で、今年は各種の調査の開始を早めました(アンケート調査は7月9日に開始し、すでに回収を終え、現在、集計・分析作業中)。

また今年度は、調査結果の発表の仕方も変えてみます。調査で明らかになったことや、調査・研究活動そのものを、このプラットフォームを通じて小出しでお伝えしていこうと思います。教材に使いたいという意図もあります。

小出しの報告は、最終的には、加筆修正などをして『白書』として取りまとめたいと考えています。ゼミ生たちとの試行錯誤しながらの取り組みです。あたたかく見守っていただければ幸いです。

なお、調査・研究のテーマは、当初はアルバイトをメインにしてきましたが、アルバイトと切り離せない、学費負担・奨学金利用の状況や経済・生活の状況などのウェイトも年々大きくなってきました。またコロナ下にあった2020年度の『白書』では、オンライン授業の問題も扱いました。行きがかり上、『学生アルバイト白書』と名乗っていますが、実際の内容は広いことをご了承ください。

 

 

聞き取り調査をしてみよう

以下は、2018年4月に発行した『学生アルバイト白書の作り方』に加筆修正しました。

我々の調査活動は主に3つの方法からなります。聞き取り調査、アンケート調査、資料調査です。どの方法を用いるにせよ、調べようとすることに対する基本的な知識がなければそもそも調査はできませんから、調査活動を行うということは、この分野の勉強をする動機付けになります。

さて、本稿で扱う聞き取り調査では、聞きたいことがしっかり聞けて、聞いた内容をしっかりまとめられることが大事です。そのためには、何をそもそも聞きたいのか、何を聞けばよいのかを整理、理解できていなければなりません。

文章のまとめ方についても、一定程度、練習が必要だと思います(この『白書』作りはそういう訓練にもなります)。

ちなみに、「ルポ(ルタージュ)のように書けばいいですよ」と学生に指示をしても、「ルポって何ですか?」という返答が少なくありません。もっとも彼らは、インターネット上で文章を読む機会は少なくないわけですし、SNSで文章を書くことも日常的だと思いますので、参考例を示せば問題なく進められると思います[2]

なお、聞き取りは、職場の「問題」状況の把握が目的ではありません。まずはしっかりとした聞き取りができるようになることに主眼があるわけですから、職場の働きやすさの実態やそれを支える条件などが明らかになっても、課題は達成されたことになります。

聞き取りの例を、「学校で労働法・労働組合を学ぶ(アルバイトを始める前の心構え)」の「労働条件は労使で決めるもの。アルバイトで働く皆さんにも日本国憲法や労働法はそのことを要請している。」に記載しています。ご参照ください。

 

 

ある2部生のキャンパスライフ(2018年度『白書』より)

2018年度の『白書』に掲載した櫻井さん(仮名)の例を転載します。日中に働き夜に学ぶ2部生の生活がよく調べられており、また、本人の意識・思いなども把握されています。そして、北海学園大学「2017年度学生生活実態調査」結果(以下、「2017年度調査結果」)の一部が、聞き取りの補強として使われているなど、参考になります。

1日の生活パターン

櫻井さんは朝6時に起きて朝食をとり、バイトと学校の支度を済ませ朝7時過ぎに家を出て、自転車とJRで市内のアルバイト先に向かう。9時から17時まで働いた後、学校に向かい21時まで講義を受ける。帰宅後は大学のレポートなどに深夜まで取り組む。睡眠時間を十分に確保できない日も多い。

櫻井さんの1週間の履修コマ数は12コマである。アルバイトに追われながらも努力して、すべての単位を彼は取得したが、友人のAさんはアルバイトで定期試験の勉強時間を確保できず、単位をいくつか落としてしまった。

櫻井さん自身、普段の週あたりの勤務時間は20~25時間だが、繁忙期になると30時間を超える。そのため定期試験前や期間中に休みが取れない、授業やゼミに出られないといった問題も生じている*。

*「2017年度調査結果」によると、学業面での否定的な影響や経験は、定期試験の勉強が十分にできない、定期試験前でも休みが取れない、定期試験期間中でも休みが取れない、などの項目で、1部生に比べ2部生の割合が高い。また、週あたりの勤務時間が25時間以上である割合は、1部生では13.8%であるのに対して、2部生では3割に及ぶ。

仕事内容や勤務状況など

櫻井さんは飲食店(ハンバーガーショップ)で週3~5日、1日5~7時間程度働いている。

仕事内容は主にキッチンの仕事で、具体的には、ハンバーガーを作ったり、冷凍されている肉パティ(半製品)を調理しストックしたり、冷凍されているポテトを調理しお客様に提供している。

他にも、正午にはお店から出たゴミを回収業者のゴミステーションに運ぶ仕事や、夕方になると、倉庫に保管されている原材料や半製品をお店の冷凍庫に移す搬入作業など幅広い業務をこなしている。

櫻井さんの勤務は朝から夕方なので、一緒に働くのは、パートタイムで働く主婦や年齢が30~50代の社員である。他のアルバイト学生とは、ほぼ入れ替わりのシフトになっている。同じ時間帯に働く従業員とはとても仲が良く、従業員に対しての不満はないが、同じ年齢層の従業員が少ないので気を遣う場面が多い。

大学の友人・ゼミ

大学での友人は、高校時代の同級生や大学のゼミで知り合った友人など、多くはない。

ゼミのメンバーとは休日に遊んだり、合宿にも行くなど、充実した友人関係なのだが、それ以外に大学内で友人と呼べる仲は少ない。なぜか。大学は様々な個性、考えをもつ学生であふれていて、友人づくりには本来とても魅力的な場所なのだが、2部は基本的に1日2コマしか講義を受けられず、1部に比べ大学での滞在時間が短い。また、サークル活動に参加しようにも、翌朝にはアルバイトを控えている彼にとってそれは、体力的に難しい。アルバイトと勉学をこなすだけで精一杯である。

奨学金の利用

櫻井さんの家庭は裕福ではなく、大学に進学させる資金は蓄えていなかったため、日本学生支援機構の第2種の奨学金・月5万円を借り、入学金も授業料も1部の半額で済む2部に進学した。もし奨学金の援助やアルバイト収入がないと修学が困難である

将来安定した収入を得られるかも不安であるため、借りた奨学金を卒業と同時にほぼ全額返済できるよう、アルバイト収入の一部を貯金している。もし奨学金が貸与型ではなく、給付型になれば、アルバイトに割く時間を勉学やサークル活動に使うことができる。大学生活はより有意義なものになるだろう。

彼のアルバイト収入と使途は、月の給料が平均8万円で、4万円を奨学金返済の貯金とし、通学の定期代と、社会人になったときの蓄えとして各1万ずつ貯金している。残りを衣服や、友人との外食や娯楽に使っている。

一方、同じ2部に通う友人のBさんは、家庭が裕福で大学進学のための資金も十分に用意できていた。そのためBさんはアルバイトはしておらず、昼は1部のサークル活動に参加して夜に講義を受けている。定期試験(準備)期間中は満足に勉強することができ、単位も全て取得している。親の経済状況で子どもの大学生活が左右されてしまうことに割り切れない思いを櫻井さんは感じることがある。

こうした時間的あるいは経済的な制約は、櫻井さんだけに限らない*。

*「2017年度調査結果」によると、日本学生支援機構の奨学金利用状況は、1部生が44.5%に対し2部生は53.4%である。また、アルバイト収入や奨学金がないと学業の継続が困難になる割合は、1部生でも高いが、2部生はさらに高い。すなわち、1部生では27.5%であるのに対して、2部生では40.6%である。

 

コロナ下における学生の働き方──飲食店で働く学生3人からの聞き取り調査結果

2021年度も聞き取り調査のトレーニングを始めています。ここでは、そのうち、飲食店で働く学生3人の結果を紹介します。いずれも1部の学生で、2021年6月に聞き取ったものです。

2020年度の調査では、コロナでアルバイト・勤務が減った(よって収入も減った)ということや、勤務が削られたにもかかわらず休業手当が支給されなかった、ということが明らかになっていました。それら(勤務の増減や休業手当の支給状況)を詳しく正確に聞き取ることができるようになることを一つの目標に聞き取りのトレーニングを重ねているところです[3]

なお、あらかじめ言うと、いずれの学生も、学費や生活費は親が負担しています(自分のアルバイト収入で賄っているというケースではありません)。

 

その1

現在大学3年生のAさんは、カフェでアルバイトをしている。大学1年(2019年)の夏に始めた仕事だ。

仕事の内容は、ホール、キッチンの業務だ。ホールの場合は主に接客や食事の提供、キッチンの場合は、小鉢の盛り付けや食器洗いなどの業務を行っている。

コロナ以前は、週3,4日×1日に4,5時間の勤務をしており、混み具合によって残業をすることもあった。半月または一か月ごとのシフト制で、賃金は時給870円で月の収入は5,6万であった。交通費は、月に5000円までが支給される。

2020年3月に北海道で独自に出された緊急事態宣言下では、ホールを一人で回せるほどにお店の客数が減ったため、仕事に出るのは、週1,2日程度で、時間も1日に3時間勤務にまで大きく減ってしまった。時には早上がりをさせられてしまうこともあり、月の収入は2,3万円にまで減った。このとき、1万円ほどの手当が支給されたが、労働基準法で定められた休業手当(平均賃金の6割)は支給されていない。

その後、宣言が解除され、以前ほどではないにせよ、客足は回復した。およそ1年後となった2021年5月に緊急事態宣言が再び出された。同宣言下でお店は夜の営業が20時までの時短営業となったため、Aさんが出勤するのは、昼のことが多くなった。また、時短営業になったこともあり、出勤はまた週2,3日に減った。ただ今回は、休業手当が出るようだ。5月に働いた分と同等程度の時間数で計算をして、休業手当が支給されると説明を受けている。

Aさんは実家暮らしで、学費は親が支払っているため、アルバイト収入は趣味などに使える状況だ。ただ、通学費は自分のアルバイト代から払っている。

 

その2

現在3年生のMさん(女子)は昨年の4月から、飲食店で働いている。家の近くで新店がオープンするということで応募をした。

主な仕事内容はホール全般である。お客さんのご案内、料理の提供、片付け、お会計等を研修期間に学び、今では基本的に全ての業務を行えるようになっている。

2020年度の働き方は、週に3,4日、一日4,5時間の勤務が多く、混んでいるときには残業もあった。日によって変動はあるものの、平日は17時~22時、土日は12時~21時(休憩1時間)の勤務であった。1か月ごとのシフト制で、前の月にまとめてシフト希望を出している。

コロナの影響をみるため、今年の緊急事態宣言下(5,6月)の状況を聞くと、やはり仕事が減って、週2日、一日3時間程度の勤務になった。土日も短時間の勤務になり、残業はなくなった。ランチで働いている主婦はシフトにさほど変動はないのに対して、ディナーの時間帯にあたる学生たちはシフトが大きく削られている。基本的には3人、混むときは4人から5人で回していたホールは、平日の客数の減少で基本的には2人で回るようになってしまい、シフトに入れる回数そのものが激減している。

賃金は、アルバイトを始めたときは時給が900円で、10円ずつ上がっていて、今は920円である。月の収入は6,7万円、多い月は8万円だった(徒歩で通っているため交通費支給はない)。これが、緊急事態宣言下では、2,3万円にまで減少した。

しかしながら、休業手当は今のところ支給される気配はない。今度お店に聞いてみようと思っているとのことである。ちなみに、有給休暇は給与明細に記載されている。学生でも使うことができると聞いているが、使っている人がいないので、Mさんも使ったことはない。

学費や奨学金の利用状況を尋ねた。Mさんは、奨学金を月に約4万円受給している。但し、親が管理しているため、第一種か第二種かは本人も分からないとのことである。学費は親が負担している。また、コロナの影響で仕事が減ることもなかったため、学費に対して困ることはなかった。

 

その3

カフェで働く女子学生Kさん(3年生)に話を聞いた。

カフェでの仕事は、大学入学後から始めた。仕事の内容は、ホール・キッチン両方こなしている。主にレジ、調理、食事の提供、片付けである。勤務は、週3,4日で、平日であれば4時間、休日であれば7,8時間の時間数だった。

コロナでも客足はとくに変化はなかったが、ただお店が商業施設内にあるため、緊急事態宣言下では、時短営業、さらには、閉館・閉店で労働時間が大きく減った。宣言下では働けたときで週1,2日、1日3,4時間の勤務だった。

月の収入も、以前は6,7万だったが、仕事が減るのに従い収入も4万円位にまで減って、6月分は2,3万になるのではないかという。お店は、昼は社員とフリーター、夜は学生が配置されている(学生は10数人が働いている)。

時給は、10円ずつアップし、今年の4月から890円である。シフトは一週間ごとのシフト制である。毎週、決まった曜日までに希望を提出すると、2日後に翌週のシフトが出されるという。この点は、自由度が高く働き手にとっては良い仕組みだとKさんは評価している。

2020年の緊急事態宣言下では休業手当が支給された。5月に支給された4月分と同じ金額が6月にも振り込まれた。商業施設が閉館になるまでに、そこそこに働いていたため、ある程度の金額がもらえたそうだ。ただ、今年の緊急事態宣言下での休業に対しては、何か支給されるとはまだ聞いていない。

もっとも彼女自身は、休業手当制度のことを詳しくは知らない。平均賃金の6割以上が支給されるということや、お店が休業していなくても(勤務時間数の短縮であっても)手当が支給されることなどを知らなかった。また2020年のときには、休業手当とは別に有給休暇の処理がされていたそうだ。お小遣い程度だけれども給料が増えるから、と店側に説明されたという。彼女自身が自分の意思で有給休暇の取得を申し込んだわけではない。

彼女もまた学費や生活費を自分で支払っているわけではないため、アルバイト収入は全額自分で使える。奨学金は第一種無利子のものを受給し、自分で管理している。

 

聞き取りの課題

以上、学生が聞き取ったうち3人の結果をみてきました。

いずれも、コロナ下でアルバイト時間数が減ったという事例でした。聞かれた本人も覚えていないかもしれませんが、コロナ下の時期ごとの勤務時間数をもう少し詳しく聞き取ることが課題だと思いました。

また、勤務が減った際の、休業手当の支給状況の把握も課題です。

そもそも店側に何と説明されているのか、シフト制労働者だから支給されない、と説明されているのか。また支給されているのも、労働基準法に基づく休業手当なのか、それに代替される何か別の手当なのか、はたまた、Kさんのように、(本人が申請したわけではない)有給休暇の消化も含むのか──一学生アルバイトなどシフト制労働者の休業補償のあり方を考えるためにも、正確な把握が必要であり、そのためには、さらに研鑽を積んだ上で聞き取りにのぞむ必要があるようです。

(続く)

 

 

[1] 私たちの大学は、2部=夜間部が併置されています。4年生は別時間帯に別テーマで作業をすることになる1部と違って、2部では4年生も一緒に『白書』作りをしています。また、2部は経済的に厳しい学生も多く大学に通っています。調査結果をふまえて何かしたい──そのような思いもあって、嬉しい提案が出されたと理解しています。

[2] 上手な(読みやすい)文章を書く上での参考図書として、本多勝一(2015)『【新版】日本語の作文技術』朝日新聞出版社を学生に薦めています。

[3] 首都圏青年ユニオン・首都圏青年ユニオン顧問弁護団が2021年5月に発表した『シフト制労働黒書』も教材としました。

 

 

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