川村雅則「雇用問題が浮き彫りに/人間らしい働き方の実現を公務部門から」

コロナ後の北海道の展望という特集が組まれた『月刊ISM』2020年7月号に寄稿した原稿「雇用問題が浮き彫りに/人間らしい働き方の実現を公務部門から」(タイトルは編集部による)を転載しました。

 

 

コロナ禍は平時からみられた雇用の問題、格差・不平等を浮き彫りにした。北海学園大学経済学部教授の川村雅則さんは、特に自治体で今年度から始まった非正規公務員制度(会計年度任用職員制度)のことが知られていないと指摘。「公務部門の削減、非正規化政策を転換し、働きがいのある人間らしい仕事を実現し、民間部門へと波及させていくことがポストコロナの雇用や社会にとって重要」と述べる。

 

 

コロナ対処力に経済格差が反映

ポストコロナを展望する本誌の特集で本稿に求められているのは、北海道における雇用のあり方である。リーマンショック超えとも予測されている経済危機がもたらす雇用情勢の帰結をみる前にポストコロナを論じるのは早計かもしれないが、コロナは平時からみられた雇用の問題──4割にも達しようとする非正規雇用労働者を中心とする生活困窮、生存権保障の制度にも組み込まれた格差、エッセンシャルワーカーの厳しい労働条件などを鮮明にした。コロナは人を選んで襲うわけではなく、感染には貴賎や貧富の差がないと言われるが、現実には、回避や対処の力には経済的な格差・不平等が反映している。コロナ以前への単なる回帰であってはならず、働く人が大事にされる仕組み作りが不可欠である。そのことを、緊縮財政によるスリム化(削減)・非正規化の弊害がコロナ禍であらわになった公務部門とりわけ自治体の非正規雇用を中心にみていく。

 

 

公務部門で進む雇用の非正規化

あらゆる分野で雇用の非正規化が進んでいる。安定的と思われている公務部門もその一つである(公務の場合には民間化も進んでいる)。

自治体の非正規公務員数は、総務省の調査(2016年4月1日時点)によれば、短期間・短時間勤務者を除いても、全国でおよそ64万人とされている。4分の3は女性である。北海道及び道内各市町村の人数を抜き出したところ、全体で2万9000人で、道や政令市である札幌市を除く市町村群では、平均で3割超が非正規という計算になった。ちなみにカウント方法を変えて(年度内の延べ人数が)照会された2018年の総務省調査では、倍の人数が回答されている。

非正規が多数派であったり非正規しかいないという部署や職種もある。コロナ禍で人びとの生活を支えた保育・学童保育の分野や、要支援者の支援にあたる各種の相談業務もその一つだ。国の行政機関だが、失業者の支援や雇用調整助成金の支給など労働行政を進めるハローワークも非正規化が進んだ職場であるのは周知の通りである。支援者が支援を必要とする皮肉な事態が日常化していた。

 

 

民間からも乖離する新たな非正規公務員制度

およそ民間ではありえない──公務員制度の設計や慣行を揶揄する際に使われる言葉であるが、非正規制度に関しては、逆である。民間に追いついていない。部分的には逆行しているかに見える。

コロナ禍で大きな話題にはなっていないが、新たな非正規公務員制度である会計年度任用職員制度がこの2020年4月から始まっている。一時金の支給が可能になるというプラス面が喧伝されたが、いざふたを開けてみたら、(建前上ではあっても)掲げられていた法改定の趣旨に反する事態が生じている。そもそも、国が設計した制度には、数多くの問題が指摘されていた(詳細は拙稿を参照)。

例えば第一には、不安定な任用(雇用)である。任用の期間が一会計年度内に限定されており、繰り返し働くことは可能だが、新たな職に就くと解釈されているために、毎年の条件付採用期間(試用期間)が設けられる。しかもほぼ100%の自治体で、総務省の助言通り3年ごとか、もう少し長めの期間ごとに、既存の労働者を含め公募が行われる。雇用安定の実現のために民間で始まっている無期雇用転換制度はない。経験・勤続を軽視し、現場労働者の尊厳を傷つける制度設計である。

第二には、低水準、かつ、不公正な賃金・処遇制度である。民間部門では、パートタイム労働法と労働契約法第20条を引き継ぐかたちで2020年4月からパートタイム・有期雇用労働法が導入され、雇用形態の相違による不合理な格差是正の流れが強化された。ところが新たな非正規公務員制度では、勤務時間数の違いによって(フルタイムとパートタイムとで)処遇体系の違いが容認された。さらに、法改定の「目玉」とされた一時金支給でさえも、その分だけ基本給が減額される事態が報告されている。

そして労働基本権の制約である。公務員制度全体に共通するこの点は、賃金・労働条件が著しく低く、しかも実効性ある代償措置もない非正規公務員の場合には、理不尽さが際立つ。抑制された賃金・労働条件を改善するその手も縛られているのだから。

なお、政令市である札幌市では、新制度の導入で、非正規公務員には原則として、3年ごとの公募制に加えて、部の異動が必要とされた。理由は、「職場の緊張感を維持し、マンネリ化による意欲の減退やモラールの低下を防ぐため」、「雇用機会の均等付与及び客観的な能力の実証のため」というのが市からの回答である。当事者の雇用・生活の安定性や公務労働の質への影響は十分に検証された上での制度設計なのか。また仮に、マンネリ化による意欲の減退やモラールの低下があるならば、それは非正規公務員の人材育成システムに問題があることを図らずも露呈しているのではないか。

 

 

雇用をどうするか、岐路に立つ我々

国際労働機関(ILO)は、ディーセントワークを提唱している。ディーセントはまっとうな、適切な、という意味で、働きがいのある人間らしい仕事と訳されている。安定した雇用、十分な所得保障・社会的保護、ジェンダー不平等の是正、そして労働者の権利保障など、ポストコロナの雇用で実現されるべき方向性が示されている。雇用の非正規化が著しく、使用者の専制、使用者責任の空洞化とも言える事態さえ起きている日本では、労働条件決定における労働者の参加・発言の仕組みが不可欠である。

とくに公務部門では、労働基本権を制約された非正規公務員に加えて、自らの賃金・労働条件を自治体からの仕事の発注条件によって強く縛られながらもそこへのアクセスが封じられた公共民間労働者など、不利な立場に置かれた労働者が数多く働いているが、そのことの自覚は、行政内でも議会内でも乏しいように感じる。既存の労働組合にも目立った動きは見られない。

冒頭に述べたとおり、コロナで浮き彫りになったのは平時における雇用の問題、格差・不平等である。コロナ以前への回帰か新しい社会作りを始めるかの岐路に我々は立っている。

 

 

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