「さっぽろ 子ども・若者白書」をつくる会編集・発行の『さっぽろ 子ども・若者白書2020』(2021年3月25日発行)への投稿の転載です(若干の加筆修正をしました)。大学関係者が向き合っている問題に関心をお持ちいただき、問題解決に一緒に取り組んでいただけると幸いです。お読みください。
大学生のアルバイト実施状況と学費負担──今時大学生の日常
北海学園大学には全国でも数少ない夜間部が設置されています。入学金をあわせると初年度は100万円を超える大学授業料の支払いは容易ではありません。夜間部であればその半分で済みます。もっともそれでも、奨学金や自らのアルバイト収入を学費に充てて大学に通う学生の多いのが現状です。一人の男子学生(4年生)から話を聞きました。
──新型コロナウイルスでアルバイトが大変だったそうですね。
当時、札幌駅構内の飲食店で働いていました。コロナの影響で3月初めころから営業時間を短縮して感染拡大防止に努めていましたが、客足は減る一方で、1日の売り上げは去年の4分の1程度まで落ちていました。シフトも削られ、週に数時間しか働けなくなりました。その後、北海道が「特定警戒都道府県」に指定されたことで店は臨時休業となり、給料は全額補償されたものの、シフト量が減らされた上での全額補償なので、有給休暇を使用しても、コロナ前のような収入は得られませんでした。
──以前の働き方はどのような感じだったのですか?
コロナ前は週3~5日で10時から17時までの1日7時間(実働6.25時間)働いていました。時給は890円で、仕事の内容はキッチンスタッフ(調理・搬入作業・清掃)、ホールスタッフ(会計・配膳・片付け)ですね。この固定のバイトの他に、期間限定の短期バイトを入れることもありました。
──昼に働くことがキャンパスライフの半ば前提だと聞きました。皆さん、労働時間が長く、コロナ禍の今年(2020年)の調査でも、回答者の4割(39.6%)は週に20時間以上働いているそうですね。それで結局、当時のバイト先をやめて、今はどうされているのですか?
当時は就職活動中だったのですが、バイトをしないわけにもいかないので、バイト探しも並行しました。飲食店の求人はかなり減っていましたけれども、代わりにスーパーなどの小売りや倉庫関係の求人が増えていた印象でした。私も今は、物流倉庫でピッキング作業をしています。時給は870円で、月13日×9時から17時30分までの8.5時間(実働7.5時間)勤務です。勤務日数も時間も固定されているので、非常に安定した収入が得られています。
──奨学金は借りられていますか?
日本学生支援機構の貸与型一種で5万円を借りています。卒業後は返済が必要ですから、バイト代から毎月一定額を貯金しています。奨学金やアルバイト収入がないと学校の継続は難しいですね。
──今年の調査でも、4割(41.0%)の学生がそう答えておられましたね。
親の経済状況で子どもの進路や大学生活が左右されてしまうことに割り切れ無さを感じることがあります。
このバイト問題や学費問題に関しては、当事者である学生だけではなく、上の世代にも実情を知って欲しいです。「そんなにバイトが嫌ならしなければいい」「学校に通えないなら就職すればいい」といった的外れな指摘も、現状の認識が不足しているからこそ生まれるのではないでしょうか。事実を正しく認識してもらうことが大事だと思います。
卒業生たちの働き方──労働相談の現場から
若年層の早期離職率が高止まりにあります。北海道労働局の調べによれば、2016年3月に卒業した新規大卒就職者の3年以内離職率は35.9%とのことです(全国平均は32.0%)。離職の背景は様々でしょうけれども、北海道が2014年度に行った調査(「職場定着に向けた離職状況調査」)によれば、「仕事上のストレスが大きい」、「休日・休暇が少ない」、「労働時間が長い」など働き方への辛さを訴える声が多くみられ、私の実感とも符合します。
私は、ゼミや授業の履修生に対して、職場で何か困ったことがあったらいつでも相談してきなさい、と伝えています。労働法や労働組合を大学で学んだからといって、サバイブできるほど日本の企業中心社会はあまいものではありません。
今年も、かつての授業履修者から相談がありました。企業のサポート業務に従事する、就職一年目の卒業生からの相談を例にみていきましょう。
聞けば、どうやら、指導役の上司とうまくいっておらず、怒られてばかりで、自分の仕事の出来なさに落ち込んでいるもようです。
上司に叱られる──新入社員であればそんなことは当然と思われるかもしれません。今の若者はこらえ性がないのではないか、というお叱りを受けそうです。しかし、出勤途中に気持ちが悪くなる、また明日から仕事かと思うと休みの日の夜には涙が出てくる、というのですから、叱咤や精神主義的な助言では何の役にも立ちません。そもそも今の仕事内容、新入社員への支援体制、叱られる場面・理由などなどを彼から聞き取っていきます。
もともと興味があって選んだ仕事で、忙しいのは理解していたし、長時間労働に悩んでいるわけではない、と彼は言うのですが、話を聞いているうちに会社のおかしな状況が色々浮かび上がってきます。例えば、みなし労働時間制が会社では採用されていて、新人はまだそれほどではないけれども、先輩たちは所定の時間を超えていて、超過分を請求することなどできないこと。有給休暇には使途制限があり資格試験の勉強や自己研鑽のために取得するよう指示されていること(お盆休みにも有給休暇をあてるよう指示されたこと)などなど。そのような職場ですから、離職率も高く、また、そういう条件に耐えている社員も、ゆくゆくはスピンアウトして独立していく職場のようです。
しまいには、キミのレベルだと死ぬほど休日に勉強しなければ仕事に就いていけないと上司に言われたとか。「死ぬほど」というのはもちろん言葉のあやでしょうけれども、休日に勉強という発言のおかしさにも批判的になれぬほど、頭がいっぱいで彼は自信を失っている感じです。
いや、もしかしたら彼にも非があるのかもしれません。ただ、一年目に求める水準が高すぎやしないか、そして、支援体制がない──この2点は若者からの労働相談に共通してみられる特徴です。指導役と一緒に企業まわりをすることが多く、同期と愚痴を言ったり先輩に相談する機会もあまりないようです。それこそ、帰っても疲れて寝るだけとか。
社会人の基礎がなっていない自分が悪い、自分の能力がないから、メンタルが弱いばかりに、と自分を追いつめる彼の思考が気になります。最終手段としての離職の意思は彼にもあったものの、ただ、卒後一年も経たずに会社を辞めたとなれば再就職活動で心証を悪くしないかとの不安が離職への一歩を踏み出せずにいるようです。
なんでこんなにまで働かなきゃいけないんでしょうか、まさか自分が3年以内の離職者になるとは考えもしなかった、とは彼の吐露ですが、きっと多くの若者がそんな思いで仕事を去っているのでしょう。
ちなみに、業界ではトップクラスと言われている彼の会社では、希望する6か月前に申請をしなければ退職は認められないと就業規則に定められているそうです。法的に無効ですが、これが、若者の働く現場の一端です。
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