川村雅則「コロナ禍における大学生の状況──2020年アンケート調査より」

日本子どもを守る会編(2021)『子ども白書2021(特集:コロナ禍から未来へ)』かもがわ出版に掲載された原稿の転載です。お読みください。

なお、この『子ども白書』には、はじめて投稿の機会をいただきましたが、関連するテーマが網羅された、民間(団体)による貴重な実践だと思いました。関心ある方は手に取ってみてください。

 

 

はじめに

シフトが減った、ゼロになった!休業手当が支払われない!生活費の捻出に困っている!オンライン授業についていくのに大変!授業料はなぜ安くならないのか?!──コロナ禍にあって学生たちから聞かれたことです。

2011年から毎年、学生のアルバイトの実態をゼミで調査して、『白書』にまとめています[1]。もともとは、学生生活で大きなウエートを占めるアルバイトの現状把握のために始めた調査ですが、関連する学費負担の問題や多額の奨学金利用にまで調査範囲を広げ、さらに2020年には、パンデミックに襲われた中での遠隔授業の実態まで調べました(以下、2020調査)。冒頭に示したのはそこであげられた声です。限界ある調査ですが、結果の一部を使いながらコロナ禍の大学生の現状をお伝えします[2]

 

奨学金やアルバイト収入への依存

あらためて把握できたのは、学費や生活費がアルバイト収入や奨学金でまかなわれているという構造です。

たとえば、学費の原資で主なもの1つをあげてもらったところ、「親の収入」が70.6%で、「奨学金」が24.1%です(夜間部ではそれぞれ48.6%、35.3%のほか、「アルバイト収入」も11.0%でした)。あるいは、アルバイト収入の使途(複数回答可)で最多は「趣味娯楽・交際費・飲食代」ですが、同時に、「通学費」38.1%、「生活費」35.2%、「教材費・書籍代」30.8%などがあがっています。「授業料」も19.5%です。わずかの開講となった対面授業のために交通費をかけて通学するのを忌避するのにはやはり理由があるのです。

 

休業手当の不支給、生活費の捻出困難

こうしたバイト収入依存の中で、コロナ禍により勤務シフト・労働時間が減った、ゼロになった、バイト先が休業したという事態が起きました。これら3つのいずれかを経験した者は(重複を除く)、56.7%でした。

しかし休業手当が部分的にでも支給されたのは半分もおらず、45.7%が「全く支給されなかった」と回答しています。営業自粛要請が国や自治体からあったのだから仕方がないとか、シフト制勤務だから手当は支給されない、などとバイト先から説明されている者もいました。学生アルバイトなど雇用保険被保険者以外への休業手当も助成対象にするなどの特例措置が政府によりとられたのに利用はされなかったのでしょう。結果、「遊興費や趣味に使えるお金が減って困った」(48.6%)を筆頭に、「生活に必要なお金が減って困った」(27.1%)、「教科書や通学に必要なお金が減って困った」(18.6%)、「授業料の支払いが困難になり困った」(9.3%)などの事態が起きていました(複数回答可)。

 

授業や学費負担でも置き去りに

授業も混乱の中で開始されました。授業準備の時間や大学での組織的な対応が十分に確保されなかったため、「課題が多い」(60.3%)のほか、「評価方法や単位取得に対して不安がある」(44.5%)の声が学生からあがりました。学生間でも学生と教員との間でもリアルな交流がなくなりましたので、とりわけ1年生が「大学で友人ができない」(64.5%)事態になったことには胸が痛みます。遠隔授業自体は否定されるものではありませんが、交流機会そのものに置き換えるのは難しいと思います。なお、全国的には、遠隔授業の環境が整っておらず置き去りにされた学生も少なくなかったと思われます。

こうした状況なのに授業料負担は例年通りであったことに対して強い不満が寄せられていました。「非常に納得ができない」だけで45.2%で、「納得ができない」(33.7%)まで含めると約8割です。当初、無償化法などと喧伝されていた高等教育の修学支援新制度(住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯とに限定された、授業料等の減免と給付型奨学金の支給制度)を「利用している」のは2割にとどまりました。

 

食糧支援への多くの来場

学生への食糧支援の取り組みが全国の大学や地域で始まっています。年越しや春休みを少しでも支援できたらという思いで、本学でも2回の食糧支援を2020年度に開催。2回とも予想を上回る来場で、とくに2回目は、1回目の情報が伝わってか1000人近く(976人)が来場しました。

 


第2回食糧支援会場のようす(2021年1月26日)

 

なお、2020調査当時ですでに、親など学費負担者の就労収入に変化が出ています。コロナの影響かどうかはさておき「仕事・収入が減った」が合計で28.0%、「これから仕事・収入が減るおそれがある」が12.8%でした。コロナ禍が長期化しており、事態の悪化が懸念されます。

 

意思決定からの排除

自戒をこめてあらためて今思うのは、アルバイト生活に限らず、大学生活の各場面においても、学生たちが意思決定から排除されているという問題です。前者については、労働条件決定における労使対等原則とそれを可能にするための労働基本権を普及する教育実践(「学校で労働法・労働組合を学ぶ」)を行ってきました。ただそれは、日々の生活(とくに大学生活)の中で、自分たちの意見や考えが尊重され実際に意思決定に反映される経験があってこそ具体的にイメージされるものだと思います。それは、大学に入ってからでは遅く、もっと早い義務教育段階から経験される必要があります。主権者教育実践における問題意識とも重なるこのことが、コロナ禍で大事にされる必要があるとひしと感じました[3]

 

まとめに代えて

ウイズコロナの2年目が始まりました。学費減免など学生たちの関心が政治に向かう中で、大学人はそれにどうこたえるのか。今後の大学を構想しながら実践していきたいと思います。

 

【追記】2021年4,5月にも2回の食糧支援を開催。事前申込制を採用し、より多くの学生を支援するため、どちらか1回のみの参加に制限しましたが、計900人の学生が来場。生活困窮という重たいテーマですが、学生たち(学生自治会)と教職員が共同で企画を開催・運営するようになっている点は救いです。

 

 

 

 

[1] 研究室のウェブサイトでご覧ください。なお、本学には夜間部が設置されており、夜間部には経済的困難を抱えた学生が少なくありませんが、本稿では昼間部の調査データを使います(有効回答数は昼間部が436人、夜間部は173人)。

[2] 調査は2020年10月にウェブを使って実施しました。ウェブ環境が整備された学生からの回答に偏っている可能性と、コロナの長期化で事態は悪化しているおそれがあります。

[3] 「今回のパンデミックに関する意思決定プロセスにおいて子どもたちの意見が聴かれかつ考慮される機会を提供すること」(国連・子どもの権利委員会新型コロナ感染症(COVID-19)に関する声明より。日本語訳:平野裕二。)日本子どもを守る会編『子ども白書2020』p57。

 

 

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