桃井希生「コロナ禍での休業補償格差──コロナ禍での労働相談より」

勤務シフトが削減された、ゼロになったなど、コロナ禍では学生たちもアルバイト先で様々な問題に直面しましたその一つが休業時の所得補償をめぐる問題です。このことは、非正規雇用者を中心に社会的にも広く問題になりました(今なお、問題は継続しています)。

私は、労働法とあわせて、職場における問題解決の主体である労働組合(集団的労使関係)を就職前の若者たちに伝えることが必要であると考え、「学校で労働法・労働組合を学ぶ」機会を学生に提供しています。2020年8月、学生を引率して札幌地域労組事務所を訪問し、この休業補償をめぐる問題について、桃井希生さんからお伺いしたお話をまとめました。『学校で労働法・労働組合を学ぶ2020』等からの転載です。(川村雅則)

 

 

2020年4月より札幌地域労組でオルガナイザーとして働く桃井希生さん。さっそく組合活動で学んだことなどを話してもらった。

 

 

休業時の所得補償をめぐる問題

 

今年の4月から札幌地域労組で働き始めた桃井と言います。勤めてまだ数か月なのですが、労働相談に対応したり団体交渉に参加しています。

ここで取り上げるのは、コロナ禍での休業手当格差です。休業手当の支払いは労働基準法第26条で定められた会社の義務ですが、非正規雇用者は、休業手当が支給されなかったり、支給金額が非常に低い場合があります。とくに固定給が採用されている正規雇用者と比べると、シフト自体が安定していない非正規雇用者の場合には休業手当の面で不利になります。休業時の所得補償をめぐる問題について、札幌地域労組で経験した様々な事例に基づき整理してみました。

 

(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 

休業手当が支給されない

 

今回のコロナでは多くの企業が休業に追い込まれましたが、飲食店はとくに大変だったと思います。そんな中でも、先ほどのX百貨店での雇い止め〔講義で伺った別の事件〕にも共通することですが、正規雇用者には休業手当が支払われる一方で、非正規雇用者には支払われないという相談がきました。中には、休業手当の代わりに有給休暇を使って対応するよう言われたという相談もありました。

言うまでもなく、有給休暇は労働者が自由に使えるものであって、企業が勝手にどうこうできるものではありません。しかし、休業手当が支払われない中、収入がなければ生活できないので、旅行のために貯めていた有給休暇を切り崩したというケースもありました。

 

休業手当の計算方法とそこにみられる問題

 

皆さん、休業手当の計算方法はご存じでしょうか。

札幌地域労組で相談にのった事例のうち、皆さんたちと同じ学生アルバイトの事例で具体的に紹介しましょう。

彼の場合、2月からシフトが減り始めたということで、組合としては直近3か月の給料の合計として1月、12月、11月の平均賃金を算出しました。

彼は、この3か月をならすと、平均して月に16万円ほど稼いでいました(図表1)。1日の平均賃金は、直近3か月の賃金を足したものをその期間の日数で割って計算します。労働基準法で支給が義務づけられているのは、その一日当たりの平均賃金の6割×労働日数です。

彼は、月平均22日働いていたので、22日をかけました。そうすると、月に16万を稼いでいた人でも、6割補償の休業手当では、約7万となりました(図表2)。

 

図表1 相談者の過去6か月の月収

1月 12月 11月 10月 9月 8月
16万円 18万円 14万円 15万円 18万円 20万円

 

図表2 休業手当の計算(労働基準法第26条に基づく)

〇(直近3か月の給料合計÷3か月の日数=平均賃金)×60%×休業日数

例:平均22日出勤の彼の場合、2月から1か月間休業を命じられると……

(16万+18万+14万)÷90日×60%×22日=約7万円

労働基準法で定められた最低の休業手当は約7万円。この金額でどうやって暮らすのか。

出所:桃井さん作成。

 

 

どう言うことか分かりますか?

単純に、16万円の6割で9万6千円じゃないの、と思いませんでしたか?

ポイントは、一日当たりの平均賃金の算出の際には、全日数で割っているけれども、かけるのは労働日数なので、こんなに少なくなるのです。なので、労働基準法で6割が補償されていると言っても、単純に給料の6割ではないのです。給料の3分の2の約6割なので約7万になります。この場合、会社は、約7万さえ払えば労働基準法をクリア出来るということですが、働いている側としては、月7万でどう暮らせばいいのかということになります。

 

新制度にみられる休業手当の算出方法こそが本来あるべき姿

話が逸れるのですが、現在、新しい休業補償制度が設けられました。

 

新設された休業補償制度は、労働者自らが申請をできるだけでなく、休業手当の算出方法が改善されている(サイトの表示は当時のもの)。

 

休業手当を受け取ることができないという労働者がとくに中小企業で数多く発生したために、そういう労働者向けに、労働者が自ら申請できる休業手当制度が作られました。これは6月12日に施行されて、7月中旬から運用が始まっています。

この制度の特長は、第一に、平均賃金の8割が支給されることです。

第二に、労働基準法上の休業手当は直近3か月の賃金を使って計算するのに対して、過去6か月間の中から任意の3か月間を選ぶことができます。そうすると、シフトが減らされた期間を使って平均賃金を計算するのではなく、過去で一番稼いだ期間を使うことができるわけです。

第三に、何日分をかけるかというと、1か月の日数から働いた日と労働者の事情で休んだ日数を引いて計算します。つまり月の日数が30日だとして、1か月が会社の都合上休業となった場合には、丸々30日分の休業手当が支給されることになります。日数で割って平均賃金を出しているのですから、乗じるほうもそのように対応させている、ということだと思います(図表3)。

 

図表3 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金による休業手当の計算

〇(過去6か月のうちの任意の3か月の給料合計÷90=平均賃金)×80%×(月の日数マイナス就労した又は労働者の事情で休んだ日数)

例:3か月より前の月に多く稼いでいた彼の場合、1か月の休業を命じられると

(18万+18万+20万)÷90日×80%×30日=約14.9万円

労働基準法で定められた休業手当よりはるかに多い。

出所:桃井さん作成。

 

これが本来の休業手当だと私は思います。国もそう思っているからこういう計算式にしたのだと思います。彼の場合で計算をすると、労基法上は7万のところを、国が定めた新しい休業手当では、14万9千円となります。

 

シフト制労働者の場合には、休業手当を支給させることが非常に困難

 

話を戻します。勤務シフトが定まっていない労働者のケースでは、企業側の対応も頑なでした。

どういうことかというと、雇用契約上勤務日数や勤務シフトを固定で決めているわけではないから、休業手当を支払う義務はないと主張されるのです。例えば、仮にこれまで、月160時間で1年間続けて働いていた場合、労働者の側からすれば、これからも160時間を働けると思うのは当然ですよね。でも会社の側は、160時間という労働時間はその月々に、その都度決めているのであって、労働時間が保障されているわけでない、という考えなのです。

しかも、どの会社もコロナで先行きが不透明な状況になって、シフト決めの期間も短期間化する傾向にあったと思います。労働者の側からすれば、勤務に入れるかどうか分からなくても収入のために予定は空けておかなければなりませんよね。

結局こうしたやり方では、解雇はされていなくても、シフト表がゼロにされると、解雇されたようなものですし、会社側は、勤務日は発生しなかったのだからと休業手当を支払う義務からも逃れようとしているわけです。

皆さんはどうですか。勤務日数や勤務時間数などが雇用契約書上、「シフト表による」と書いてありませんか。会社側はそこを「抜け穴」として使ってきます。もちろん、組合としては、「雇用契約書に「シフト表による」と書いてあったとしても、勤務時間は黙示の合意があったでしょ!」という立場で交渉にのぞみます。

 

まとめ

学生アルバイトやシフト制労働者であっても休業手当を受けられる

 

休業手当の計算方法を知っておくのはアルバイトの皆さんにも必要なことです。

 

最後に、皆さんに伝えたいことを整理すると、第一に、学生アルバイトやシフト制労働者であっても、休業手当を受ける権利がある、ということです。

雇用調整助成金も、今回は特例措置によって、雇用保険に未加入の労働者も対象になっていますので、学生だから休業手当を受け取れないということにはなりません。休業手当は出ませんと言われたとき、なんかおかしいなぁと思えるかどうか。おかしいと思ったときには声を上げたり、誰かに相談できるかどうかがとても大事になります。

実際私たちが受けた案件でも、組合に入ったのは少数で、残りの従業員は、結果として、自分が本来受け取れるはずの権利を放棄して、会社の言いなりになってしまうようなケースもありました。

もちろん、会社にしたがっていればコロナが収束したときにシフトに入れてもらえるかも、という思いに傾いてしまうのは仕方ないかもしれません。

 

現行の法制度の水準は著しく低い──法制度改定の必要性と労働組合の意義

 

第二に、休業手当の算出方法の説明で分かったと思いますが、法律制度があっても、水準が低かったり内容に問題があったりします。

さきほども言ったように、月16万を支給されていた労働者が、半分以下の収入で家賃や食費などを払うことができるのか。でもそれが法律で定められた水準なのです。

シフト制労働者に休業手当は支給されるか、という点も、結局組合でなければ対応ができないのです。労働法に詳しい弁護士さんに聞いても、過去の判例があまりないから本当に請求できるか分からないと言います。法律に不備があるから今回のようなことが起こります。

だからといって諦めるのは早いです。法律をこえて話し合うことができるのが団体交渉であり、組合のすごいところだと思います。

 

 

コロナ禍での休業手当問題は学生アルバイトからもよく聞かれた

 

川村 桃井さん、非常に貴重な話をありがとうございました。

学生から聞いた話を補足で紹介しますと、休業手当は出ることになったけれども、その前のシフトがすでにだいぶ減らされていたので、そこの期間を平均賃金の算出に使われ、手当が支給されたと言っても非常に低い額だったと聞きました。

もう一つは、休業手当が出なかったという話が学生からよく聞かれましたが、たんに学生アルバイトだから支給しないというのではなく、もしかしたら、桃井さんが指摘されたロジック、つまり、シフトはその都度発生するのであって予定されたものでないのだから、休業手当を払う必要はないというロジックが使われていた可能性がありますね。月に20日間を働いていたとしても将来的に20日間が保障されていたわけではないのだ、ということになるでしょうか。

弁護士のコメントが紹介されていましたが、法的にも微妙な扱いなのですね。

 

法律の想定外のところが悪用されるが、労働組合はそれを許さない

 

鈴木* 判例がないというのは、法律にとって想定外のことなのだと思うのです。つまり、法律はそんな事態を考えていないということです。〔*札幌地域労組副委員長の鈴木一さん〕

例えば、労働基準法上、賃金の支払は、月に一回払えとなっていますが、今日働いたとして、それを6か月後に払います、などというケースがある。6か月後なんていうのはおかしいと思うのですが、監督署は判断できないと言います。つまり、1年後に払うとか、10年後に払うとかまでのケースを法律上は想定してないのです。そういう法律が考えていない隙間を悪徳連中は利用します。

ですから今のシフト表の話も、シフトが出ていないのだから休業手当を払う必要はないのだと強弁されると対応は難しい。仕事を与えず、しかも休業手当も支払わずに、事実上解雇の扱いが可能になる。

もっとも組合の観点からすれば、やはりこれはあり得ない。会社の理屈は通りません。そこは、企業の社会的な評価が低下するぞ、というプレッシャーをかけながら、追いつめて、休業手当を支払わせることが労働組合として可能だと思います。

 

川村 とりわけグレーゾーンの問題に関しては、法律制度が自動的に自分たちを守ってくれるわけではなく、労働者の主体性が、問題解決にとって不可欠だと今のお話しを聞いていて感じました。

ところで桃井さんは、本日参加の学生たちと年齢が近く、労働組合の凄さを間近に見てこられた。そこでの新鮮な感想を聞かせていただけますか。

 

労働組合のすごいところ

その①──法を上回る水準での交渉、妥結

桃井 札幌地域労組に就職してから団体交渉などにも参加して、まず思った労働組合のすごいところは、労働法の場合には、法律で定められた内容や水準でしか交渉ができないのに対して、労働組合はそれを超える水準で交渉をして成果を得られる点です。

休業手当は、労働基準法上は平均賃金の6割を支給すれば、使用者はそれで義務を免れます。でも東京の労働組合では、全額を支給させたところもある。自分たちの生活の苦しさを訴えたり、6割を超えて支払わないならデモを行うといったプレッシャーを会社側にかけて法律を上回る水準を支給させることができます。

 

川村 たしかに、法律で定めている水準というのはよくよく考えてみるとそう高くはありませんからね。休業手当も、算出方法上の問題点によって、6割を下回る水準になってしまいますし、賃金も、最低賃金である861円以上が払われていれば、法律上は問題になりません。法律はまずもって非常に大事ではあるけれども、それを超える成果を労働組合は得られる。

 

その②──誠実交渉義務が使用者に課されている

桃井 二つ目は、労働組合法では、団体交渉において使用者側に誠実交渉義務が課されている点です。

(不当労働行為)
第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。

 

これはとても感動した点で、会社は、団体交渉にただ応じればよいというだけではなくて、誠実に応じる義務があることです。例えば嘘をついたりしてはならない。ちゃんとそれをチェックする労働委員会という機関もあることです。

このことを知ったときには、それこそ国会では、政府による誠実な答弁が聞かれないことが多いのに対して、労使交渉の場では、そういうのは成り立たないんだと感動しました。言ってしまえば、労使交渉は国会の場より厳格に保たれているのではないかと思いました。

 

 

 

(参考資料)

『北海学園大学学生アルバイト白書2020』2020年12月発行

 

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