川村雅則「旭川市における公契約条例の経験(1)聞き取り調査等に基づき」

NPO法人建設政策研究所が隔月で発行している雑誌『建設政策』第199号(2021年9月号、特集:外国人労働者受け入れの実態と課題)に掲載された「公契約条例」に関する拙稿の転載です。北海道内で公契約条例が制定されている自治体は、唯一旭川市のみです。その旭川市にお邪魔して公契約条例の経験などをお聞きしました。ご笑覧ください。

なお、第一に、公契約条例がいかなるものであり、なぜいま公契約条例なのかにつきましては、「連合」が作成したリーフレット(「公契約条例で地域の活性化!」2016年2月発行)「日弁連」によるリーフレット(「公契約法・公契約条例の制定を」2017年2月発行)をご参照ください。第二に、旭川市における公契約条例制定の経緯や私たちの取り組みにつきましては、末尾に掲載した参考文献をお読みください。

 

 

 

はじめに

 

全国でまだ50超にとどまる公契約条例の制定自治体を増やすためにも、当該自治体の実績や経験などを広める必要があるのではないかと考え、今回は、2016年12月に理念型条例を制定した旭川市[1]を訪問し、2019~2020年度の2回にわたる、市発注工事に従事する労働者の賃金等調査(以下、賃金等調査)[2]のご経験や条例に対する評価などを率直に聞かせていただいた。

現地での聞き取り調査は、2021年5月13日に行った。対応してくださったのは、旭川市総務部契約課の課長1名、係長2名の計3名である。こちらからの参加は、旭川公契約条例研究会(「旭川ワーキングプア研究会」を改称)のメンバーである小林史人(代表)、須貝卓也(事務局長)と筆者の計3名である。

今号では、2回の賃金等調査の結果と、関連する聞き取り結果を中心に報告する。なお、本稿の誤りに関する一切の責任は筆者にある。

 

賃金等調査の概要

 

公契約に関する業務は、契約課が担当している。契約課には課長以下12名の職員が配置されており、賃金等調査は工事担当の6名が主に担当している。

旭川市の説明(注釈2)によれば、賃金等調査の概要は次のとおりである(2020年度の実績で説明する)。

第一に、目的は、公契約に係る業務に従事する者の適正な労働環境の確保を図るため、市が発注する工事に従事する労働者の賃金等を調査し、労働者賃金等を把握すること、である。

第二に、実施期間は、2020年10月6日から同年11月27日まで(前年度調査では、2019年11月8日から12月27日まで)。

第三に、調査内容は、調査対象工事に直接従事する労働者に対する2020年4月~同年9月(前年度は2019年4月~同年10月)のいずれかの月での支払い賃金である。なお、賃金を経費(材料費、機械経費、燃料代など)込みで受け取っている労働者、すなわち一人親方は対象にならない。

第四に、調査対象工事は、設計金額500万円以上の建設工事で2020年4月1日から同年9月30日まで(前年度は2019年4月1日から同年10月31日まで)の間に1日以上施工期間が含まれるもの、である。聞き取りでも話題になったが、調査対象となっている工事の範囲は広いと評価できるだろう。

第五に、支払賃金等は、調査対象工事の受注者(元請事業者)及びその受注者と下請契約する受注者(下請事業者)が支払う賃金である。

把握されている支払賃金等の詳細は、調査票(資料)を参照されたい。「記入方法」も市によって準備されている。聞き取りによれば、最初の年度には事業者からの問い合わせもあったが、2回目には、経験済みの事業者が多かったため、支障はとくになかったという。

第六に調査方法は、調査対象工事の受注者に対し、調査票提出の協力を依頼し、提出された調査票のうち、直接従事した労働者を雇用した回答を集計。調査票の労働賃金単価は、国が実施している公共事業労務費調査の算出方法に準じて算出されている。

なお、回答があった事業者から、任意で抽出した事業者に架電し(前年度は「事業者を訪問し」)、提出された調査票の内容の確認及び聞き取り調査が行われている(聞き取り調査は、19事業者に対して、2020年12月25日から2021年1月20日までのうち8日間で実施)。

最後に、集計数であるが、元請事業者131社(契約課から直接依頼。うち未回答14社、対象労働者なし26社)、下請事業者137社(元請事業者から調査を依頼し、回答を得た数。共同企業体構成員を含む)。提出があった254社のうち対象労働者がいない業者26社を除く228社、労働者数811人の結果が集計された(前年度は205社、888人)。

 

資料 旭川市労働者賃金等の実態調査(工事)調査票

出所:旭川市ウェブサイトより。

 

賃金等調査の結果

 

表1 合計及び主な職種の労働賃金単価等

注1:「合計」は、9つの職種以外を含む回答者全体のデータ(表2も同様)。
注2:「合計」の「公共工事設計労務単価」は、今回提出のあった30職種の設計労務単価の加重平均額。
注3:「合計」の「労務単価比70%未満の人数割合」及び「同60%未満の人数割合」は、北海道では労務単価が示されていない石工と屋根ふき工(計11人)は除いて計算した。

出所:旭川市2020年度賃金等調査結果より筆者作成。

 

表2 経験年数別にみた合計及び主な職種の平均賃金等

出所:表1と同じ。

 

表1、表2は、2020年度調査の結果からまとめたものである。労働賃金単価とは1日8時間当たりの賃金である。「合計(回答者全体)」のほか、人数・回答数が比較的多い(30人前後以上)9職種を取り上げた。

第一に、2020年度の労働者の平均賃金は、対象労働者全体の加重平均で14,059円/日である(職種別の平均賃金額に同職種の人数を乗じて算出されている)。前年度調査との比較では、平均賃金は13,717円から342円の増額となっており、2.49%の上昇となったことが紹介されている。

第二に、平均賃金を公共工事設計労務単価(の過重平均額)と比較すると70.7%である。10%刻みで示されていた人数分布の結果から算出したところ、設計労務単価比70%未満の者は合計で52.3%である。

以上は、経験年数などを考慮しない全体の結果である。そこで第三に、経験年数別にみると、「合計」では、賃金のピークは「30年以下」群である。同じく9つの職種についてみると、4つの職種では「30年以下」群か「31年以上」群でピークである。人数が最も多い「普通作業員」では「10年以下」群で最も金額が高いが、但し、「10年以下」群の平均賃金額と、「20年以下」群・「30年以下」群・「31年以上」群それぞれの平均賃金額には大きな差はない(10%の範囲内に収まっている)。

なお、人数は少ないが、「交通誘導員A」では「5年以下」群の平均賃金額がピークで、「30年以下」群では4分の1の差がついている。

 

賃金等調査に関わる要点

 

聞き取り調査の結果もまじえながら、賃金等調査で印象に残った点を整理する。

第一に、調査対象が広くカバーされていると思われることである。

500万円以上の市発注工事を請け負った事業者で、4月~9月までの間に施工日が1日でもある業者が対象になる。元請に協力の依頼を行い、下請け業者分も含めて元請から提出してもらうとのことだが、調査の規模は大きいと評価できるだろう(この賃金等調査を踏まえて、事業者からの聞き取り調査も別に行われている)。

公契約条例の制定で焦点の一つになるのが、職員の負担であるが、旭川市では、調査票の提出は、簡易申請システムを使って行っている。集計もそこで同時に行われる。様式は統一されているので、集計自体はさほど負担ではないが、回答ミスの洗い出しなどには苦労するとのことである。

なお、労働者を直接の対象とした調査は実施されていない。また、工事以外の委託業務や指定管理に関する調査も実施はされていない。

第二に、公契約条例制定以前の実績・体制があったから、こうした調査が可能になったという旭川市からの説明である。

すなわち旭川市では、公契約に関する方針(以下、方針)が2008年に策定され、運用されてきた。そこでの経験の蓄積が公契約条例の運用にも活かされているというのが市側の説明である。また旭川市の場合、極力、デジタル化を活かしていること、それまで行っていた下請け調査を一時休止してこの賃金等調査を行っているため、以前に比べて業務量が大きく変化しているわけではないことが紹介された。

筆者は、旭川市のような賃金等調査(現場の把握)が各自治体で行われることを望むものであるが、そのためにも体制の整備や経験の蓄積が必要であると感じた。(続く)

 

 

[1] 詳しくは、旭川市「旭川市における公契約の基本を定める条例について」を参照。

[2] 旭川市「労働者賃金等の実態調査(工事)について」を参照。

 

 

(参考文献)

・川村雅則「旭川市における公契約条例の制定と今後の課題」『北海道自治研究』第576号(2017年1月号)

・川村雅則「旭川ワーキングプア研究会の取り組みと、旭川市発注の公共工事現場における建設労働者の賃金」『北海道自治研究』第570号(2016年7月号)

・旭川ワーキングプア研究会『2015年度旭川ワーキングプア研究会 旭川市の公共工事現場調査報告書』2016年6月発行

 

(関連記事)

・川村雅則「公契約条例と最低賃金引き上げで地域経済活性化を」

・川村雅則「地方自治体における非正規公務員・公共民間労働問題」

・「広がる公契約条例──地域の運動のポイントは?」(日本大学元教授・永山利和さんに聞く)

 

 

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